FGOエロ小説まとめ 作:お一
「マスターは死後、どうなさるんですか?」
食堂での昼食のひととき。
生前の関係もあって、多少ぎこちない英霊たちもこの場でだけは諍いを起こしてはいけないという決まりに則って、穏やかな時間が過ぎるはずだった。
が、オルトリンデの迂闊な一言によって一瞬にして緊張が走った。
「その、話題は・・・・・・」
誰かが注意しようとしたがもう遅い。
他の英霊たちは我関せず、平素と変わらず憩いのひとときを楽しんでいるが、特定のサーヴァントは自分のトレイを持って立香の傍へ寄ってきた。
ついでに、巻き込まれたくない者たちが波を引くようにトレイごと去っていった。
「言うまでもないことです。同盟者の永遠は我が国へと導かれ、幸福と安寧の守護を約束されています」
いつもなら、他人と摩擦を起こさないニトクリスがいの一番に、そんなことを言ってしまう。
英霊たちはほんの僅かの例外を除いて既に死後の生を生きる身である。当然、人間がその一生を以て何事を為すかが大切なことは知っている。そして意外とその生を当人が満足してしまえばその後のことはさっぱりしている者が多い。
しかし、ごく一部の、死に関係する英霊は生よりも死後について拘りの強い者が多い。
例えばエレシュキガル。冥界を司る彼女が、おそらく人類史で初めて肩入れした個人。カルデアのマスターの死後には彼女にも意見がある。大抵の話題なら譲るエレシュキガルでさえ、その神気で空気の色が変わるほどに主張する。
「それは、永遠の国たるエジプトの死後には叶わないかもしれないけれど、我が冥界も過ごしやすさを念頭に環境を整えているわ。彼の意思を無視して、もう決まったことのように嘯くのは、いくら貴女でも傲慢ではなくて?」
「まったくでち。ご主人の出身を考えれば、どこに行きつくかは考えるまでもないはずでち。幸い、閻魔亭の勝手はよくご存知のことでち、今度はお客側でたっぷり歓待するでちよ」
紅閻魔が、食後の茶を啜りながら言ってのける。
ニトクリスやエレシュキガルのように、語気は強くもなければ張り合ってもいないが、既に決定事項を述べるような無頓着さがあって、両名の後だけにそれが余計に際立つ。
北欧のワルキューレも、勇士の魂を運ぶ役目を持つだけに立香の死後には思うところがある。が、それは他の者も同様なのだと、新参の類の彼女たちに教えるのが遅れた。
しかしそこは、北欧に謳われる戦乙女である。女神や鬼を前にしても、揺るがない。
「ヴァルハラでの歓待は、勇士たちにも好評です。特にマスターであれば、より楽しんでいただけると思いますが」
ちらり、と一瞬だけ目線を二列後ろのブリュンヒルデにくれてやる。
彼女は賢いうえに最古参である。この話題は荒れるだけでなんの進展もしないことをよく知っているから、関わらないよう遠くで黙々と昼食を摂っている。
が、その視線の意味に気づかない神と鬼ではない。
「・・・・・・」
立香とブリュンヒルデが、男女のもどかしい間柄から一歩踏み出したことは皆がなんとなく察している。
あくまでも集団では古い付き合いの仲間としての関係性を貫いているものの、視線の絡み方やふとした仕草の共通した様子なんかは、隠せるものではない。
「まあ、マスターの魂ならきっとゼウス様も放っておけないと思います。天に召しあげて星座になさりたいのではないかしら」
せっかく収まりそうなところを、いつもののほほんとした調子のエウロペが乱す。
この話題は終着点がないのだ。
周りが騒ぐだけ騒いで、当事者の立香を置き去りにする。
日本人というのは、現代の先進国において最もシビアな死生観を持っていると言って過言でない。三大宗教の死生観は、生きている間よりもむしろ死後の方に幸福を匂わせている。多少仏教が身近とはいえ、日本人の多くはその教えに然程真剣でない。
死後の世界を本心から信じている者はそう多くない。生きている間になにをするのか、それが自分にとって最も大切なことだと思っている。だから、まだ生きているのに死んだ後の話で盛り上がれるのはあまり愉快でない。
そのことは、同郷の赤いアーチャーと古参組しか知らない。
ブリュンヒルデが関わらないのも、立香にとって面白くない話題を広げさせないようにという配慮である。が、妹たちが始めた話題だけにこの場は収める必要がある。おもむろに立ち上がり、ワルキューレたちに言った。
「妹たち、生きている勇士を勧誘してはいけません。そういうルールでしょう?」
ヴァルハラで歓待されるほどの勇士が、死後の名誉を約束されると歪むことがある。生前の栄誉と勇敢な死を汚す恐れとなる事前宣告を、ワルキューレたちは強く禁じている。
彼女らが活躍した時代より、より死と神に近いカルデアにおいて少し気が緩んだのだろう。長姉に窘められて、ワルキューレたちは顔色を変えた。
「申し訳ありません、お姉さま。皆様もお騒がせしました」
スルーズが頭を下げた。オルトリンデもそれに倣い、ヒルドはバツが悪そうに舌を出した。
話題を出した本人が注意を受けたことで、参加した者も静まった。
食堂からの引き上げる時、酒呑童子が頼光を捕まえた。
「なあ、頼光?」
「・・・・・・なんですか、虫」
言うまでもなく、複雑な関係性の二人だ。例えるなら桃太郎と鬼であろう。互いの立場が敵対以外の関係を許さず、そのことを惜しみもしない。宿敵と言えばそうである。
しかし、本人の性格や相性が悪いということでは断じてない。頼光が源氏の棟梁としての側面を意識する必要がなく、坂田金時という存在に出会わなければ、酒呑童子と源頼光は共に肩を並べる未来もあり得た。
鬼としての感性は、その関係の微妙さと儚さを愉しみ、人としての感性は疎ましくも物悲しい。だから、いつか敵対し、互いに殺し合うとしてもカルデアでは仲間でなくとも同志ではある。
言葉を交わすくらいは、別に不快ではない。頼光は、不快であろうとしているだけだ。それを知っている酒呑童子が、態々その神経を逆撫でしなければ何事も起きたりはしない。
「なんや、物騒な話やったなあ。あんさん、ちっと慰めたったら?」
「虫に言われるまでもありません。我々の比ではないほどに苛烈な戦いの日々に身を置くあの子が、食堂でまで煩わしい思いをすることはない。この母の胸で、安らかに眠らないといけません」
「そうやなあ。男は頼光みたいにおっきな乳が好きみたいやし、吸わせてやったら機嫌も治るやろうなあ。ま、求めてんのは頼光のやのうて、氷みたいなあの西洋武者のやろうけど」
ぴく、と頼光の眉が動いた。
悔しいがその通りであろう。頼光は母性の怪物であり、息子認定した者に対する執着が異常だが、当人が自分の行動でどうなるかを考えられないわけではない。
他の者と同様にブリュンヒルデとの仲はある程度察してるし、そうなってしまうと自分のやることは無粋な横槍でしかない。
「あれ、どないしたん、頼光。イノシシみたいに真っすぐいかへんの?」
酒呑童子は、判っていてからかう。
「ああ、あんたは牛やったね。ほんなら飾った車を引っ張って、そこに旦那はんを乗せたったらええんちゃう?」
「・・・・・・よく言いましたね、虫。その車に虫の首を飾りましょう!」
ブリュンヒルデと並んでさっさと引き取った廊下が、にわかに騒がしくなった頃、二人の話を聞いていた者がほくそ笑む。
「うっふふ、そうかそうか、男の子はおっきなお胸が好きなのか。どうれ、ここは好きな人と折角いい感じになったのに気苦労の絶えないマイロードのために、人肌脱ごうじゃないか。淑女を名乗っているんだもの、これくらいの気は利かせなきゃね」
若い恋人というものは、こういうものらしい。
周りが余計な世話を焼いて、要らない騒動の種になり、やたらに当人たちを疲れさせる。レディ・アヴァロンの起こしたちょっとした善意は、少年らしい羞恥心と相まって犬も食わない話に波及していく。
これは夢だ、とすぐに思った。
「お、おお・・・・・・!」
ただの明晰夢ではあるまい。本来、夢の中ならどんな非現実な光景や状況も、それが当たり前だと感じる。夢は覚めるまでは現実なのだから。
それが、なんの拍子にか判らないが夢の中に居ながら夢だと確信するバグがある。明晰夢は上手く頭を使えば夢の中を望むものに出来るというが、おそらくそれではあるまい。
しかし何故夢と確信出来るかといえば、それがあまりに魅惑的で、あり得ないからだろうか。
「うふふ」
立ち並ぶ女性の英霊たち。
右からゼノビア、ブーディカ、バーゲスト、メドゥーサ、ランサー・アルトリア、紫式部、シェヘラザード、ジャンヌ、スカディ、卑弥呼が自分を取り囲んでいる。それも、一糸まとわぬ裸身で。
誰もが優しくも妖しい笑みを浮かべ、自分を見下ろしている。そういえば、自分は彼女ら全員に見下ろされるほど背丈は低くないはずだ。やはり夢に違いない。
しかし、夢と判っていても目が離せない。
なんという光景。この世の贅の限りを尽くしても拝めないであろう。全員が全員、自分の頭ほどもある乳房を隠そうともせず、美しい先端まで露わにして揺らしている。
乳の海である。液体の乳ではなく、肉としての乳。取り囲まれているから、彼女らの体温と甘ったるい雌臭さえ漂ってくる。頭の奥が蕩けるような感覚。女に溺れて痴愚になる感覚など、一生判るまいと思っていたが今はよく判る。
なにもかもを忘れ、永遠にこの肉の海に溺れていられたらどれだけ幸せだろう。
「うふふ」
しかも、彼女たちには拒絶や嫌悪が見られない。妖艶でありながらも、年若の者に向ける優しい微笑を一様に浮かべている。
痴愚となることを望まれているような、男の愚かさと浅ましさを全て受け入れてもらえるような、圧倒的な包容力を感じる。
触りもしないのに下半身が最高潮になる。だというのに、昂奮よりも安心感や肯定感に包まれる。至福の時というのはこのことだろう。
「うふふふ」
回っている。女たちが、自分を中心に時計回りに。花いちもんめをするように、楽しそうに跳ねながら。
ぷるん、と揺れる乳房たち。いや、全員が地球の平均サイズを大きく上回る乳房だから、その擬音は慎まし過ぎるかもしれない。
視点をわざわざ動かさずとも、それぞれに特徴的な乳房とその先端を拝むことが出来る。
自分は、そこに居るだけ。
やすらぎとは、言い換えれば変化に乏しいということであり、更に言えば完成ということでもある。
世界は、ここで完結している。
手を加えることも時で変わることもない。或いは現実であるならば、真実終わることのない幸福であったのかもしれない。
しかし、立香はこれが夢であるが故に判っていた。
目覚めの時が必ず来る。その時がこの幸福の終わりであると。どれだけの時間が過ぎたかは判らない。
ただ、この光景を永遠のように見つめていた。完成された幸福の筈の、ほんの僅か、なにか欠けたような実感を抱きながら。
夢精はしていなかった。
普段の朝勃ちよりも張り詰めた感覚があるものの、なんとか隠れて下着を洗うことはなく済んだ。
「は・・・・・・ああああああ・・・・・・」
あまりにも、深いため息。
ベッドに沈めた上半身をなんとか起き上がらせただけで、それ以上のアクションを起こすことさえ忘れるほど、憂鬱な気分だった。
「あ、あぁ・・・・・・」
良い夢だった。それは間違いない。半生でこれほどの夢見はなかったから、もしかしたら誰かの悪戯かもしれない。が、それはいい。
夢に出てきた英霊を思い浮かべる。そのいずれの顔も、少年から男になってきている自分が、心にさざなみを起こしてしまうほど魅力的なもの。男のバカな妄想が、不意に浮かんできたことも一度や二度ではない。
しかし、こんなにも後ろめたいのは、
「な・・・・・・んで、ブリュンヒルデが出てこなかった・・・・・・」
その一点。あの場に彼女が居たら、それは彼女と英霊を比べてしまうことになってしまい、失礼極まりないかもしれないが浮かびもしなかったというのは、もうそれ以上。まるで不貞を働いた気分である。
「先輩、お目覚めですか?」
マシュが、起こしに来てくれた。
その声で、二十分も自分が起き抜けのままだったことを思い出し、急いで支度する。
朝食へ向かう時、うねった廊下の途中でブリュンヒルデが待っていた。
「・・・・・・おはよう、ございます・・・・・・」
楚々とした仕草で、いつものように頭を下げて挨拶をする。控えめな彼女は、たとえ恋人であっても立香を起こす役目をマシュから奪ったりはしない。朝はいつもここで合流するのだ。
が、いつもとは立香の様子が違う。
「おは、おは、よう・・・・・・」
目が合わない。昨日までのはにかんだ、愛らしい表情が消えて、後ろめたい顔が張り付いている。
「・・・・・・?」
なにか、あったのか。どちらかといえば陰気なブリュンヒルデの想像は、大抵悪い方へ向く。
しかし立香自身やカルデアになにかあったのなら必ずブリュンヒルデに相談する筈だ。最古参の相棒の一人だから、それくらいの確信はある。
となると、昨日自室に引き取る時に別れてから朝までの間に、なにかがあったのだ。
(まさか・・・・・・!)
思いついたのは、立香に対して穏やかでない視線を向ける英霊たちの顔。もし彼女たちが立香の部屋に押しかけて、強引に関係を持ったとしたら。
(・・・・・・でもそれは)
ブリュンヒルデにとっては裏切りではない。妻が一人であるのは当然だが、かといって愛妾も持つべきではないとは思わない。自分がこれほど惹かれる勇士だ、二度目の生を共に生きたいと願う者が現れても不思議でない。
広い意味ではマシュもその一人に違いない。だから、愛を独占するつもりはない。というより、独占したいという気持ちを抑える訓練を自分に課してきた。
自分の中に、愛情と同じほどに滾る殺意の炎を鎮めるためにも、それが最良であろう。だから別に裏切りではないのだ。誰かと関係を持っていても。
むしろ、裏切りであればそれは隠されること。ブリュンヒルデの悋気を恐れて隠ぺいすることこそなによりの裏切りである。
そのことは、一度話し合わねばなるまい。今は何より、この少年にこんな表情をさせる秘密を暴かねば。
重い口を開かせて、わざわざそんな苦しみを強いることはない。ブリュンヒルデには北欧の主神たるオーディン由来のルーンがある。
お節介な連中がルーン対策を立香に施しているが、原初のルーンは別格だ。効果はない。
心を見るなど、普通に考えればこれ以上に人間の尊厳を破壊することはあるまい。が、相手が心を通わせる者ならば、互いの部屋の鍵を渡すようなものだ。自分も見るし見られていい。
認識がその程度なくらいには、ブリュンヒルデも狂っている。
(夢・・・・・・? その程度では・・・・・・)
いくら性を持て余す時期とはいえ、淫らな夢を見たくらいでよそよそしくなるものだろうか。
もっと、詳しく探ってみる。
(ああ・・・・・・この方々は・・・・・・なる、ほど・・・・・・?)
妾にしてみたい女英霊ということだろうか。英雄は色を好むというし、別に不満はない。
もともと北欧神話は世界に存在する神話の中で唯一と言っていいほど滅びを描いた神話だ。その儚さの中には生命への賛美が含まれ、生命への賛美とは繁殖の意があって不思議でない。恋に行き、愛に狂ったブリュンヒルデとて、その感性はある。
だから先述した通り、人理を背負うほどの英雄たる立香が愛妾の一人や二人囲うことに異論はない。おそらく悋気を病むであろうことは間違いないから、愉快でこそないが。
(幸福な夢のようなのに・・・・・・)
少なくとも夢を見ている時の立香が幸せであったことは間違いない。そこまでは遡った。
(・・・・・・?)
首を捻る。得心がいかない。何故、立香はあんな、後ろめたそうな。
(・・・・・・? ああ、そういえば)
自分が居ない。立香の夢の中に自分が登場していないことに気がついて、ようやく思い至った。
(あの方は・・・・・・!)
本当に殺してしまおうか。
ブリュンヒルデが抱える、愛情と殺意が結びついているという特性とは無関係にそう思った。そうでもしない限り、この胸に湧き上がる愛おしさにしてやれる方法がない。
猫が愛おしいものにするように噛みついて、噛んで、噛んで、ついにこの奥歯で嚙み潰して殺してしまいたい。
これほどに危ういマスターが居るだろうか。ただでさえ愛してしまうと殺してしまうのに、そんなことも無関係に噛み殺してしまいたくなる。ぐっと堪えて、独りでに向いてしまう脚に強く拳を入れてやって、発散法を考える。
(どうすれば)
この愛情が、殺意が、薄まってくれるのか。抱くのはダメだ。この状態ですら殺しかねないほど愛おしいのに、抱くのも抱かれるのも、そこに拍車をかけるだけになってしまう。
ううむ、と唸った時に、思い出した。
こんな思いを以前にもしたことがある気がする。シグルドにではない。もっと小さく、弱く、あたたかいなにかに、僅かな時間ではあるがこんな気持ちを・・・・・・。
「あ・・・・・・」
アスラウグ。
北欧神話、およびスノッリのエッダに登場する王女は、シグルドとブリュンヒルデの娘である。彼女は幼児の頃からブリュンヒルデの養父に引き取られ、手を離れて育った。
アスラウグが生まれたばかりの頃に、確か。
「・・・・・・いきます、マスター・・・・・・いま、ゆきます・・・・・・」
決まったら待ち切れない。夜など待っていられない。予定など構ってもいられない。この胸に滾る愛の炎が、自分と夫(つま)を燃やし尽くしてしまう前に、行為を与えて散らさなければ。
ブリュンヒルデは幽鬼のような足取りで、しかしバーサーカーの如き迫力で立香の部屋に向かった。
「はい?」
幸い、部屋には誰も来なかったし予定も入っていなかった。
距離感の近いマスターだから、なにかあると英霊たちが顔を出してちょっかいを掛けたり、訓練やメンタルケアでシミュレーターで予定が埋まるのだが、この時は狙ったように空白の時間だった。
ノックが聞こえてロックを解除する。ブリュンヒルデが、頬を赤くさせて立っていた。
「っ・・・・・・!」
たったそれだけのこと。愛を通わす女が頬を赤らめているというだけのことで、立香の心臓は大きく弾み、血管が膨らむ。
「ど、どうぞ・・・・・・」
半歩引いて半身になって、ブリュンヒルデを招き入れる。
ブリュンヒルデは相変わらず楚々とした歩き様でベッドへ腰かけた。
行為の合図ではない。二人の合図は手を繋いで、指を絡めるところから始まる。いきなりベッドへ、というのは控えめで慎ましいブリュンヒルデにしては大胆が過ぎる。
しかし、あの色っぽい表情というか、立香が肩を抱いて寄り添いたくなる表情からはちょっとそれ以外に考えられない。話の流れですることになるかもしれないが、導入にしては不自然な気もする。
とはいえ、この表情のブリュンヒルデを放っておくことなど出来る筈がない。飛び掛かってキスしたい衝動を抑えながら、同じようにベッドへ座る。
「どうか、したの?」
「あなた、今から私がなにをしても驚かないでくださいね」
一瞬だけきょとんとした。
確かにブリュンヒルデを悩ませる殺意に関しては立香も充分に気をつけている。しかしこれだけ情を交わした仲である。ブリュンヒルデがその殺意に堪えられなくなったなら、その前に判る。
しかし驚くなということはブリュンヒルデもそれなりに覚悟のようなものを要することなのだろう。立香は頷いた。
「そうして欲しいなら、なにがあっても」
驚かないよ、と微笑む。ブリュンヒルデは心から安心したような、救われたような表情で目尻に涙を浮かべた。
(この方を好きになって、愛してしまって、本当によかった)
一時は随分悩んだ。シグルドに対する思い、自分の殺意への躊躇、一人の勇士として愛してしまう心に。しかし今は心底思う。自分は間違っていなかったと。
腰のコルセットの紐を緩め、ニット生地の上衣を捲る。安心した心地である。このマスターとこのブリュンヒルデにおいて、心配される最悪の結末はあり得ないのだ。
「お、おお・・・・・・」
思わず漏れる感嘆の吐息は立香のもの。
着替えをする時のように気軽に晒される白い肌の美しさはもはや言うまでもない。淡雪の如く白く柔らかな肌が、その胸において品よく膨らみ、美しい曲線を描いている。その頂点に桜色の突起。何度見ても、これに感動しないということはあるまい。
「マスター、こちらに頭を」
ぽん、と促されるのは膝枕。
「あ、はいはい、ただいま・・・・・・!」
子供のように慌てた様子で体勢を直して背中を向けて倒れ込む。柔らかな太ももの感触が後頭部に。このあたたかさと柔らかさだけでも、もう心地いい。
陽のぽかぽかとした午後に、ブリュンヒルデとこうして過ごせたらどんなに幸せだろう。
「さあ」
と、ブリュンヒルデが頭を抱く。
後頭部に優しく手を添えて、ゆっくりと上体を起こさせる。目の前に迫るのは、ブリュンヒルデの乳房。
母性を象徴するような英霊はカルデアには数多い。彼女らに比べれば慎ましい大きさなのだろう。夢で見た十人の英霊たちの平均サイズから言えば、一回りも二回りも小さい。
しかし、そんなことが気になろう筈がない。憧れと恋が愛に昇華され、それを通じ合った者の乳房が目の前にあるのだ。若い性の衝動に愛までもが乗っかれば、他に比べられるものなどあるわけがない。
「吸って、くれませんか、マスター・・・・・・」
物静かなブリュンヒルデの声は、消え入りそうなほど小さい。
表情を見る限り、恥ずかしいのではないだろう。受け入れてもらえるかどうか、そんな不安が覗いているのか。
そう思うと、立香の頭は冷めてきた。行為に及ぶ時のような、頭の奥をフラつかせる昂奮が覚めてきて、これが性行為の一環ではないことが判ってきた。
「あむ」
頼まれるまでもない。恋人の乳房を目の前にして、鼻息が掛かるほどの距離に愛らしい先端があるというのに、どうして咥えないなどと思えようか。
「ん・・・・・・」
やはり、敏感な場所だからだろう。一瞬だけぴくん、と体を跳ねさせて眉根を寄せた。
その悩ましい表情に思わず下半身が穏やかでなくなりかけたが、すぐに浮かべた優しい表情に自重した。
「このまま・・・・・・ああ、どうか・・・・・・いつまでも・・・・・・」
なにか、蕩けるような調子で。
立香にはよく判らないが、乳を吸う自分よりも吸われるブリュンヒルデの方が癒されているらしい。
ブリュンヒルデの中で、行き場を求めて猛り来るっていた愛が落ち着いていく。鬱屈した愛情が、すぐにも殺意に塗りつぶされることを自覚しているブリュンヒルデは、この安心感に心から安堵した。
「ちゅ、ちゅ・・・・・・」
行為の時とは違う、優しく単調な吸い付き。正に赤子になった気分で、乳首を吸う。
「・・・・・・ああ・・・・・・!」
感に堪えたように、ブリュンヒルデは上を向く。自分を抱く腕の力が強くなり、顔全体がより乳房に押し当てられる。
(ちょっと、苦しい・・・・・・!)
が、水を差したくない。鼻はもう乳房に埋もれ、頬に柔らかい感触が押し当てられる。唇の端になんとか隙間を作って呼吸して、窒息を免れる。
意識して、自分から抱きついたりはしない。よく判らないが、ブリュンヒルデは自分を赤子のように扱いたいのだろう。赤子の小さな手では母の体に届くはずはない。為すがままに抱かれ、乳を吸う。
「・・・・・・ああ・・・・・・!」
何度目の感嘆の吐息だろう。ブリュンヒルデは愛情が報われた気分で、母乳の出ない乳を差し出す。
(なんだろう、この感じは・・・・・・)
記憶にはない。が、体が覚えているのか。
優しさに包まれる感覚。粘膜のように自分を包む愛情の香り。遠い昔、まだ目も開いていない頃に、きっとこうして抱かれていたのだ。その感覚が、思い出される気分だった。
そう自覚すると、自然に体を力は抜けて緊張が解け、完全に身を預ける。
ブリュンヒルデの腕に掛かる立香の体重が、ブリュンヒルデの愛情をまた煽り立てる。
「ねんね・・・・・・」
ぽんぽん、と背中を叩きながら思わず漏れる言葉。母性に狂う英霊の気持ちが、判る気がした。
しかし、このもどかしさはなんだろうか。
体の内側に溢れているあたたかい思いが、自分の体を突き破ってなにかに為ってしまいそう。この愛らしい生き物を、愛おしい生物を、どうすればこの気持ちに敵うのか。
発散させた端から溜まっていく愛情。もうこの生き物を食べてしまう以外にどうしようもないのではないか。そんな考えさえ過ぎる。
「ぷふ、う・・・・・・ちゅ、ちゅ・・・・・・ぷしゅー・・・・・・」
そんなブリュンヒルデの心中には構えない。なんとか窒息しないように呼吸を繋ぎながら乳首を吸う立香。
昂奮しているブリュンヒルデの乳肌はしっとりと汗ばみ、押し当てられる乳房も平熱より熱くなっている。鼻に満ちていくブリュンヒルデの体臭は否応なく下半身に血液を集めるが、同時に甘ったるい匂いに癒される。
あの夢とはまた違う意味で、乳の海。液体ではなく肉の意味で、乳の海に溺れそうな気分である。
そうであるならば、これがあの夢の実現なのだろう。故にここで溺れ死ぬことすらも男の幸せであろうか。
軽く酸欠の頭はもうそんなバカなことしか考えられない。
「ああ・・・・・・!」
しかし幸か不幸か、気絶する前にブリュンヒルデの中の愛情が昂じて、立香の顔を引き剥がす。
「・・・・・・っ、ぷは・・・・・・!」
苦しくも甘美な窒息から逃れたことを、鼻と頬に触れる外気の冷たさで悟った。反射的にようやく息を吐き、存分に吸う。頭が痺れたよう。なんとなく助かった、という実感がありつつも、あのまま乳の海で溺死できたらどんなに幸せだろう、と惜しむ気持ちも強かった。
「あなた、ああ、あなた・・・・・・!」
ブリュンヒルデはもう蕩けたように、立香の体を抱えてベッドに寝かせ、さっさと下半身を脱がしに掛かる。
(いつになく強引に! でもそんなのも・・・・・・)
などと思っていたところだったが、勃起したそれが露わになると、ブリュンヒルデがフリーズした。
普通ならば困惑するであろう。しかし立香にはブリュンヒルデの心の動きが手に取るように判った。そのくらい出来なくては、ブリュンヒルデの良人は務まらない。
「あ・・・・・・」
そそくさと、脱がされたズボンと下着を履き直す。
おそらく、ブリュンヒルデはおしめを代えようとしたのだ。授乳に無我夢中なブリュンヒルデは、いつの間にか立香を嬰児と錯覚して、愛情の命じるままにおしめを代えようとしたのだ。
いつか、遠い昔に我が娘にしてやったように。
それが、勃起した生殖器を見て我に返ったのだ。
冷や水を浴びせられたように冷静になったブリュンヒルデの脳内は、なんともいえない気まずさに満ちているのだろう。
立香は察して、その肩を抱いてやる。
「いいんだよ、ブリュンヒルデ。またしたいことがあったらなんでも言って。俺は、ブリュンヒルデが嬉しいと嬉しいんだ。君もそうだよね?」
だから、この気持ちが判るはずだと。
相変わらず素朴な少年である。もう少し気の利いた言葉が吐けるなら、なかなかの女たらしになれそうなものを、あまりに直接的な物言いであった。
しかし、命の儚い神話の時代の北欧出身には、その直接さが刺さる。ブリュンヒルデは感に堪えて立香の手に手を重ねて、
「・・・・・・ありがとう、あなた・・・・・・私、幸せもの、ですね・・・・・・」
優しく唇を重ねた。
いつものように、互いの愛情を交わし合う、あたたかく優しい口づけだった。
冷静になる、ということは誰にでもある。バーサーカーにだってある。ブリュンヒルデにだって、ないわけがなかった。
(・・・・・・あ、ああ、ああああ・・・・・・!)
悶絶を、今度はブリュンヒルデがする番だった。
良人の優しさに甘えて、都合も予定も意思さえも無視してなんて恥ずかしいことを強要したのか。
穴があったら入りたい気分、あれほど愛おしい立香に会わす顔もなく、このまま自害できたらどれほど気が楽であろうか。
元がダウナー気質だから、一人で悩むとろくな思考にならない。
そのことは、妹たちであるワルキューレもよく知っている。朝から自室に閉じこもったブリュンヒルデが、誰の益にもならないであろう苦悩に陥っていることを察して訪ねてきた。
「なる、ほど、お姉さまがマスターに・・・・・・」
オルトリンデが、さすがに顔を真っ赤にしながら頷いた。
ヒルドも少し顔が赤いが、憧れのブリュンヒルデの赤裸々な恋バナに興味津々で、少しにやけている。スルーズは、表情変わらずなにか頭を巡らせているらしかった。
「別に問題ないように思いますが。マスターとお姉さまは愛し合っているのですから、どちらも嫌がっていないのなら些細なことなのでは」
「もう、そういうことじゃないの。お姉さまは恥ずかしいんだってば。スルーズはもうちょっとお勉強しないとね」
「ですがスルーズの言うことも尤もです。マスターはお姉さまのお顔を見られない方がよほど気になると思うのですが」
立香を除けばブリュンヒルデの最大の理解者でもあり、最も寄り添う姿勢を見せるワルキューレではあるがこと恋愛に関しては無能という他ない。ブリュンヒルデが長姉ということ以上に、ワルキューレでありながら愛を見つけ、愛に生きて愛に死んだからこそ、彼女はワルキューレの憧れなのだ。
そもそもこの悩み事に関してはなんの助けにもならない。
しかし、妹たちの健気な心配は嬉しいし心苦しくもある。憧れられている長姉という気負いもなくはない。彼女たちの目標の一つたる愛を手にした自分が、このようにして悩んでいてよいのかどうか。
「ありがとう、妹たち。貴女たちの言う通り、なにも、恥じることはない、のです・・・・・・」
言ってみても、語調も表情も晴れやかでない。他人の心情には鈍感なワルキューレであろうと、そのことに気がつかない筈はない。
「それでしたら、お姉さまが同じくらい恥ずかしくなればよいのではないですか?」
スルーズが言った。実にらしい発言である。
「それ、具体的にどうするの?」
傷を負わせたのなら同じだけ傷を負えばいい。人間味の薄い本質的なフィフティフィフティである。
「スルーズの言を採用するのなら、マスターに恥ずかしい行いをしたのだからお姉さまも恥ずかしい行いをすればいい、ということになるでしょう。お姉さまが嬰児になりきれば良いのでは?」
しかし本質的であるならば、それは間違っていないということだ。
「でもそれ、マスターって嬉しいの? お姉さまとはちょっと違う感じな気がするけど」
ブリュンヒルデが一人で悩むよりも、はるかに建設的な意見が出てくる。
「一理あります。お姉さまが恥ずかしい思いをして、更にマスターにも有益でなければ吊り合った状態とは言えないです」
「ううん、それなら、一応心当たりがないとも言えないんだけど・・・・・・」
ヒルドが少し笑った。解決策を見つけた期待もあるが、どちらかといえば楽しんでいるような感じだった。
「それは?」
「あのね・・・・・・」
このようにして、決まったことである。
衝撃だった。その日、カルデアに走った衝撃は大きかった。
何故と言って、カルデアというのは変化を好む集団ではない。彼らにとって変化とは状況の変転であり、常に背水の構えであるカルデアに好転はあまりないからだ。
常に危機感をある程度保ち、状況の変化に対して最善を選ぶ必要がある。その彼らにとって最も歓迎すべきは不変と穏やかさであり、集団生活だけにその気分は一層強い。
その彼らの緊張した神経を刺激したのが、突如食堂に現れたブリュンヒルデの格好だった。
「う、わあ・・・・・・!」
幼子のサーヴァントの誰かが感嘆の吐息を漏らした。遅れて現れた立香も、後で同じ吐息を漏らすことになる。
大きく背中の空いた黒いドレス。肩から伸びる二本の紐が乳房を覆い、幕のように下半身へ伸びる。その下半身も脚の付け根が露わになるほど深いスリットを刻み、ウェディングドレスのように裾を床に擦る。
実に煽情的な、それでいて美しいドレス。相応しい気品とスタイルを着る者に課す、この世で最も着こなしの難しい正装であろう。
少し前、カルデアを騒がせた英霊が着ていたドレス。根はやさしいながら露悪的でいたずら気質な彼女が、真剣に恋の相談を受けて採寸から仕立てまで手伝った黒い礼装である。
彼女は、こと恋には弱い。自分自身が恋というものに人生を変えられたからだ。だから、恋の相談に対してだけは常に真摯である。
「さすがブリュンヒルデさん! これならセンパイも大喜びでしょうね。まるでローストハムを見つけたワンちゃんみたいに飛び上がって喜んでくれますよ」
相変わらず小生意気な物言いではあるが、これはこれで本当にブリュンヒルデを応援している。照れ笑いで頷いて返した。
以前、立香がこのドレスに見惚れていたことをワルキューレたちが思い出し、これを着て生活すれば立香も喜ぶだろうと提案したのだった。
ブリュンヒルデにすれば無論恥ずかしい。さすがに閨での痴態に及ぶべくもないが、このドレスを着るということそれ自体が、物静かというよりも陰鬱な気質のブリュンヒルデには耐えがたい。
「ほほう、北欧の戦乙女が今朝はなんとも艶やかな。着こなしも実に鮮やか、余も思わず感嘆する。その姿であれば万人を魅了しよう。無論、余とて負けてはおらぬがナ!」
人類史上最も審美眼に厳しい一人であるネロ・クラウディウスのお墨付きである。
いつもより、立ち姿を意識している。そうでなければ、このドレスに負けてしまう。
本来の持ち主である彼女よりも、ブリュンヒルデは乳房が小さい。その代わり、腰が細く足が長い。その姿をより映えさせるには、常に胸を張って背筋を伸ばし、足幅を小さく、しかし足をクロスさせる優美な歩き姿でいなければならない。
正にゴージャスな歩き様はブリュンヒルデにとって縁遠い姿だが、この服がそれを求める。そして求められて応えられたなら、薔薇の皇帝すら唸らせる美しさを与えるのだ。
また、ギャップがいい。
ミニスカートであることを除けば、カルデアでもブリュンヒルデほど肌を見せない英霊は珍しい。トンチキな話だが事実である。
その彼女が、背も脇も胸元も腰や脚の付け根や谷間さえも露わにしているというのが、鼻白むほどの落差を生む。
「ちょっとやり過ぎたでしょうか。あれほどまで忠実にトレースせずとも」
「まあまあ、やっちゃった以上はもう仕方ないって」
オルトリンデとヒルドが、ブリュンヒルデのあまりの美しさに躊躇している。スルーズは不在である。彼女はマシュを連れて立香を迎えに行っている。
ブリュンヒルデは食堂の入り口で待ち、立香をエスコートするのである。
待つほどのこともなく、スルーズに手を引かれた立香がやってきた。マシュは、その後ろで微笑ましいものを見るような目でついてくる。
言われてみれば、結婚式のフラワーガールが新郎の手を引いているようにも見える。
「あ・・・・・・」
ブリュンヒルデの姿を認めると、思わず立ち止まる。
それはそうだろう。他の者が着ていてさえ視線を縫い留めるほどのドレスを、恋人が着ているのだ。魂さえ抜かれておかしくない。
朝の食堂は中も外も騒がしい。そういう喧騒から一瞬浮き上がったように、二人の視線が絡み合い、その一瞬で二人にしか判らない言葉がいくつも行き交う。
スルーズはいつの間にか傍を離れ、見守るワルキューレに合流し、立香がブリュンヒルデに歩み寄る。
「・・・・・・おは、よう」
上擦った声が冷静さを失っていることを伝えるが、それにしても挨拶より先に言うべき言葉があるだろうに、とワルキューレやマシュはおろか、成り行きを見守る職員やサーヴァントたちがやきもきした。
「おはようございます、あなた」
それでも、ブリュンヒルデは満足そう。わざわざ口に出さなくても、内心が手に取るように判る。純情で奥手な立香から無理に感想を引き出すこともない。一時でも見惚れてくれただけでこの恥ずかしい礼装を来た甲斐もある。
立香に手を差し出して、それを立香が握り、二人で食堂へ。
「くう・・・・・・!」
と、あまりにもじれったい様子に何人かが歯噛みしている。お節介な者などは故意にアクシデントを起こそうと身を乗り出してもいた。
そこで、
「綺麗だよ、ブリュンヒルデ」
素朴な立香の賞賛。
やはり、判っていても口に出してもらえると嬉しいものだ。ブリュンヒルデは全ての羞恥と苦労が報われた心地で、目尻に涙が浮かんだ。
「でもちょっと惜しいかな。いつもより綺麗なブリュンヒルデを、一番に見たかった」
照れくさそうに頭を掻きながら言った。そんな立香が微笑ましくて堪らず、ブリュンヒルデは繋いだ手の甲にキスをした。
一方で、
「そうじゃん!? それはそうじゃん!」
「何故気がつかなかったのか・・・・・・!」
ヒルドとオルトリンデが自分たちの失態に悶絶し、
「パーティーではないのですし、サプライズなのだから無理でしょう」
スルーズが冷静にため息を吐いた。
結論から言えば、 ブリュンヒルデのドレス姿はこの一時だけのものではなく、戦闘が考え得る不測の事態以外は全て、その格好で過ごすことになった。
食堂から引き上げる際に、
「あ、いやあ、それにしても・・・・・・」
立香が会話に集中できていない。
恋人にするとは思えないほどこそこそと盗み見て、そのたびに頬を紅潮させて視線を逸らし、磁力でも帯びているのかというほどまた盗み見る。
完全に挙動不審な姿がひどく無様であったが、恋人のそんな様子を見るのは意外と楽しい。それに、そうなる原因が自分ならば着飾った甲斐がある。
とはいえ、良人と呼ぶ人にはもう少し積極的になってももらいたい。誰のためにこんな格好をしているのか、判らないわけではないだろうに。
「あなた、手を・・・・・・」
と、軽く断りを入れて立香の手を取り、自分の肩を抱かせる。
そしてその手を、首から乳房を支える肩紐の内側に滑り込ませた。
「んなっ!?」
「これくらい、してもいいのです・・・・・・あなたは、私の・・・・・・」
それ以上は言葉に出来なかった。普段からもっと積極的な英霊ならば軽く言ってのけるのだろうが、ブリュンヒルデはどうしてもそこで詰まらざるを得ない。
が、立香には伝わった。伝わらねば、良人たる資格もあるまい。
「ご、ごめ・・・・・・いや、うん・・・・・・そうだね・・・・・・俺たちの仲、だもんね・・・・・・」
はっきりとは立香も言えない。しかし遠回しな表現でも、お互いの言いたいことは判る。
自然と、赤くなった顔が向き合い、近づく。
自然と二人は目を閉じて、口づけを交わす。
引き揚げそびれた職員や英霊があまりの甘ったるさに砂糖を吐きそうになり、厨房と食堂を繋ぐカウンターでブーディカが学生の恋を見守る主婦のように目を輝かせ、タマモキャットが祝いのデザートの準備に取り掛かり、エミヤがため息を吐いた。
小さくない歓声に、ようやく自分たちがどこに居るのかを思い出して、二人はコソ泥のように丸くなって逃げだした。
これだけ恥ずかしい思いをしたのだから、きっとこの場限りだったのだろうという予想に反して、ブリュンヒルデは常にこの礼装を着るようになった。
理由はもちろん、誰でも判っている。思った以上に立香が喜んでくれたからだ。当事者だけに、自分の喜びようを汲んでくれて、おそらくは一度の機会のつもりであっただろうものを常用してくれたというのは、胸に迫るものがある。
とはいえ、そこはまだ未成年の少年である。気の利いたお返しも思いつかないが、かといって素直に礼を言うだけではとても足りない。どのようにしてこの感動を伝えるべきかを考えると、覚えたてなだけにすぐ性行為が浮かぶ。
(いやいや、それはさすがに・・・・・・!)
人生で最も性衝動を持て余す年頃だから、その発想自体は健全だろう。しかしそれを良しとするには精神が健全であり過ぎた。すぐにその考えを打ち消し、強引に打ち消してしまうために悶々とする。
そしてブリュンヒルデのルーンと観察眼の前に、未成年のジレンマなど透かして見るようなものである。
「・・・・・・は、あ・・・・・・」
シャワーを浴びる。
マイルームの中を直方体に区切った狭いシャワールームは、故郷のそれを比べると実に窮屈だ。
が、入浴は心の洗濯である。日本人ほど入浴と食事に凝る人類は居ない。そこに見出す安心感や満足感も同様である。
忙しないカルデアにあって、最も精神のやすらぐひとときである。
熱いシャワーが落ちる。立ち上る湯気によって透明なガラスが曇り、私室としてプライベートに隔離された部屋の、更に秘めたる密室となっていく。
気が緩む。この緩みがなければ人ではいられないほどの緊張した日々。反動で、ただシャワーを浴びているだけで下半身が熱くなる。
「うぅん、立派だ」
そんな、いつもなら口にしないような冗談も出る。
「ええ、ほんとうに」
ぎょっとして振り向く。独り言に返事をされる時ほど驚くことはない。タオルを持ったブリュンヒルデが真後ろに立っていた。
「あ、と・・・・・・」
生まれたままのブリュンヒルデ。今更言葉を尽くす必要もないほど美しい。
素肌を多く出したドレス姿とはまた違う。服に着られないために背筋を正し、優雅な所作を心がける必要がない。少しだけ自信なげに、或いは儚げに、はたまた物憂げに、背中を傾ける立ち姿。
天上のローブを編む銀の糸のように美しい前髪が、ともすれば細い目を隠す。今まさに開こうとする花の如き美しい姿が、生まれた時のまま晒されている。
一瞬目を奪われるが、体ごと振り返って視線を逸らす。ブリュンヒルデにどんな意図があるかは知らないが、あまり直視していると襲い掛かりそうな気がした。
「お背中を、流しにきました・・・・・・」
いつものように楚々とした声音。しかし立香の背中に寄り添うほどに近づき、肩に手を置いて囁く。
「あ、ありが、とう・・・・・・」
声が思わず上擦る。気の利いた言葉も返せずに、ボディソープから泡を作るブリュンヒルデを背中に感じながら棒立ちになった。
「このところ、少し・・・・・・」
落ち着かないのではないか、とは言わない。男を立てることが当たり前なブリュンヒルデが、男のありように口を挟むような出しゃばったことは言わない。
もこもこにした泡を背中につけて、細くしなやかな指を這わせる。
「うひゃ・・・・・・!」
ちょっとくすぐったいが、それ以上に胸の奥が熱くなる。
首筋から肩、背中を通って腰、更にその下まで、指と手のひらでなぞるように。
「ああ、あなた・・・・・・」
女としては、男の背中に感じるものがある。たとえ並び立つことすら叶わないとしても、まぎれもなくブリュンヒルデが認めた勇士の背中である。思わずその肩に頭を乗せ、腕を回して抱き締めた。
「あ、の・・・・・・」
緩めたシャワーが、床に落ちる音がやけに大きく聞こえる。壁にまとわりついた飛沫が水滴となって落ちる音も。
二人の体温が溶けて、同じ生き物になってしまったように。いつの間にか呼吸まで同じタイミングになったが、立香の鼓動はブリュンヒルデのものとは違って早く激しくなる。
「はやい、ですね・・・・・・」
ブリュンヒルデの指が胸を這う。左胸に手のひらを押し当て、小動物のように忙しない鼓動を打つ心臓を憐れむように、そっと撫でた。
「っ・・・・・・!」
堪らなくなったのは立香である。ここまでされて恋人を襲うなという方に無理がある。しかし、ブリュンヒルデはその機先を制するようにあっさりと身を離した。
「あ・・・・・・」
お預けを食らった子供のような、情けない声が漏れる。
出鼻をくじかれて、いきり立っていた下半身も情けなく揺れた。いくら堪りかねてもブリュンヒルデが嫌がるのなら襲うわけにはいかない。
ブリュンヒルデとしては、もう少し強引でもいい。しかし結ばれるまで面影を重ねていた夫も、おそらく同じ反応だっただろうと思うと、自分の好みはこういういじらしい男なのかもしれない。
自分に向かって伸ばそうとした腕が力なく下がっていくのを見ながら背を向ける。
「あなた、ご存知ないのですか・・・・・・」
足を肩幅より少し広く。透明なガラスの壁に手をついて、上体を曲げる。
肩越しに立香の目を見ながら、右手で自らの臀部に指を食い込ませながら持ち上げる。そして、秘部を露わにしながら、
「私のここは、いつでもあなたの好きになさってよい、と・・・・・・」
男心をよく理解している英霊ならば、もっと妖艶に誘うことも出来るのだろう。自分のものなのに妙な遠慮で食いつこうとしないこの奥手な主人の劣情を促し、気兼ねなく食い散らかせるような、気の利いた誘い方がきっとあるのだ。
しかしどう頑張っても自分ではここが限界。自分の股にある器官の名前さえ口にすることが出来ず、自然と服を脱ぐ場と時を選ばねば機会を掴むことさえ出来ない。
内省的な性質のブリュンヒルデは我がことながらずるい、と思う。しかし彼女は知らぬ。百戦錬磨の女がどんなに妖艶に誘うとも、ブリュンヒルデのような女が恥じらいながら求めてくれることには及ばぬと。
一気に限界まで勃起した肉棒を揺らしながら、捧げられたブリュンヒルデの尻に迫る。
あまりにも昂奮していたからだろう。ブリュンヒルデの腰を鷲掴みに、一息に襞を覗かせる秘裂に挿入した。
「ふぐ、う・・・・・・!」
さすがに、いきなり膣を貫かれる衝撃は重い。くぐもった悲鳴が喉奥から溢れ、波打つように下半身から上半身に向けて揺れる。
「く、あ・・・・・・!」
思わず奥歯を噛んだのは立香である。
こうなることを望み、臨んだだけにブリュンヒルデのそこはもう熱く柔らかく解れており、一気に侵入してきた肉の塊に一瞬怯んだものの、すぐに絡みついてきた。
女の膣の形状は、直前に挿入したものの形に馴染むという。
それはつまり、一度経験し、間に別の男を挟まなければ、膣は自分専用の肉穴だということだ。立香の形を覚え、立香に快感を与えるために細かく形状を変えた膣が歓迎する。
「う、うう、ああ・・・・・・!」
快感に負けないように。膝まで甘く痺れる快感に立ち向かうように腰を進め、ガラスの壁面にブリュンヒルデを押し込む。強すぎる快感に腰砕けにならないための勇ましい前進だったが、壁に手をついて穴を差し出したブリュンヒルデの逃げ場を潰してしまう。
後背位の姿勢から、立ちバックに変化した。
「あ・・・・・・!」
ブリュンヒルデの足が浮き上がる。豊かな乳房がガラスに押し当てられて潰れ、肉棒に串刺しにされてしまった。
この体勢になってしまったら、抵抗など許されない。男の気が済むまで嬲られるだけであり、こうなるまでに抗わなかったということは、それを受け入れるということでもある。
「私のそこを・・・・・・」
というブリュンヒルデの宣言はおもねりでも媚びでもない。事実と覚悟を示した率直な言葉だったのだと体で示している。
そのことが、立香を昂らせる。
「は、あ・・・・・・!」
ぐっと腰を引く。絡みつく膣襞を振り切り、半分ほどを外気に晒す。
不思議である。風呂場など湯気に包まれて温気に包まれている。しかしブリュンヒルデの膣に埋まっていた肉棒の半分を晒すとひんやりした。
ブリュンヒルデのそこは湯よりも熱いのだ。誰のために熱くなっているのか、それを思うだけで胸に迫るものがある。
「はあ・・・・・・!」
肉棒の冷たさを嫌うように膣へ戻す。
愛液のべっとりとまとわりついた肉棒は、狭まった襞を掻き分けながら奥へ。
「ん、う・・・・・・!」
艶めかしい吐息が、ブリュンヒルデの喉から押し出される。
解れたそこを肉棒で埋められる感覚。敏感に蕩けた膣襞を硬い肉棒に貫かれる快感。下腹部から腹、胸を通って立ち上る甘美な幸福感。ガラスに押し付けられた桜色の突起がじん、と疼き、硬く尖っていく。
冷たいガラスに乳首を擦られる感覚は、良人の手で愛されるのとはまた違った快感であった。
「は、はっ、は、は・・・・・・!」
テクニックもなにもない。衝動と肉欲に任せた動物のピストン。
蠢き、絡みつく襞に肉棒を埋め、振り切ってはまた戻す。ブリュンヒルデの腹の中で混ざり合った二人の液体がかき混ぜられる音がする。
肉と肉のぶつかる単調な音が、狭いシャワールームの中を反響して、ブリュンヒルデの耳を辱める。
(こんな、音を・・・・・・)
自分が奏でているのかと思うと恥ずかしさで死にたくなる。哀れを乞うようにガラスを指が這うも、獣となった男に慈悲などない。
「あう、うう・・・・・・は、あ・・・・・・!」
不思議な器官だと、自分でも思わざるを得ない。
子を産むための空洞の筈なのに、肉棒で埋められて擦り上げられると声を抑えることも叶わない。背筋をぞくぞくと駆け抜ける快感が嬌声を引き出していく。肉音と相まって反響する自分の淫らな声が、ブリュンヒルデの頬を熱くさせる。
「あ・・・・・・!」
と、今になって気がついた。
押し当てられた胸が、湯気に曇ったガラスを磨いている。
ブリュンヒルデが快感に悶えるたびに、立香に突かれるたびに、乳房によるワイパーが曇りを消していく。
外から見れば、ブリュンヒルデの乳房だけがくっきりと見えることだろう。シャワールームの外に誰も居ないことは充分に判っていても、その恥ずかしさに体が縮こまってしまう。
「ブリュンヒルデ・・・・・・!」
立香の情熱が、ブリュンヒルデの躊躇を許さない。
更に腰を進めて、ガラスに押し付けて逃げられなくする。いつの間にか立香の腰の動きも、大きく激しいものから小刻みなものに変わっていく。
ブリュンヒルデの一番奥の、窄まった部分に先端を押し付けるような。ブリュンヒルデの全身を揺さぶるような動きは、立香の限界を示している。
「は、は、は・・・・・・!」
駆け上がる熱い予感を、女の最奥へ。
立香の頭からブリュンヒルデの存在さえ一瞬消えるほどの衝動。絶頂へと向かう瞬間は女ではなくメス、メスというよりも穴であろう。
「くう、うっ、うう・・・・・・!」
獣が唸る声に似ている。頭の中を真っ白にするほどの快感に、一瞬だけ浮かぶ躊躇。それを振り切るようにひと際深い突き込みで腰を叩きつける。
「ああ・・・・・・!」
思わず漏れる官能の吐息。
体を揺らすほどの強い突き込みで女は腹の奥へ熱い予感を感じ取る。
「く、うう・・・・・・!」
どくん、と吐き出される精液。ブリュンヒルデの子宮口寸前の、窄まりに直接吐き出される。降りてきた子宮がここに蓄えた精液を吸い上げて、自らの卵子のために精子を導く。
その下腹部の蠢動が、妖しい快感を立ち上らせる。
「は、あ・・・・・・ん・・・・・・」
感に堪えた吐息が漏れ、ぶるり、と体が震える。
このぞくぞくと背筋を走る快感こそ、女の本懐、メスの悦びであると経産婦であるブリュンヒルデは知っている。
その悦びをこの良人とともに迎えられることが嬉しい。
ブリュンヒルデを絶頂に導く動きではなかったのだから当然だが、この性行為でブリュンヒルデの体は高みへ至っていない。しかし、この満足感はそんなものより遥かに尊い。
男は射精を目的として行為をするから、絶頂を重視するが女は違う。この満足感を得られれば絶頂など一生しなくても構わない。
射精を終えて、よろけるように腰を引いた立香を支える。
「ご、ごめ・・・・・・」
「いいえ、あなた・・・・・・うれしい、です、わたし・・・・・・」
精を放たれた女が男に礼を言うなど、あまりにも露骨ではないか。そう思いはするものの、感謝は伝えた方がいいだろう。ぬるめのシャワーで汗を流して、綺麗に後始末まで。
「ありがとう、ブリュンヒルデ。俺も、その・・・・・・」
どうも、感激しているらしい。
後始末の甲斐甲斐しさというよりも、自分の積もった性欲のために自分から赴いて、自らの愛情と献身を示してくれたことに。
それをどう伝えればいいのか、迷っているようだ。
伝えてくれるのは嬉しいが、別に惑わせたくて来たわけではないのだ。気にしないように、と先にシャワールームから出した。
体を拭いて、ベッドへ座る。シャワールームは、ベッドに寝転がった時の足の向こうにある。ちらり、と目を向けると、
「っ・・・・・・!」
LOVE,と曇ったガラスに指で書いたブリュンヒルデが、乳房をガラスに押し付けていた。
「・・・・・・」
さすがに目は合わせられないのか、不自然に逸らして恥ずかしがっていて、それがまた鼓動を早くさせる。
「あ、く・・・・・・!」
射精したばかりだというのに、睾丸が精子を急造させるのが判る。どこまでも愛おしいこの女をどうすれば、満足できるのか。
幾たび体を重ねようとこの思いは全て伝わるまい。ブリュンヒルデも、おそらく同じ気持ちなのだろう。だからこうして来てくれたのだ。
ベッドシーツを握りしめ、ふたたび痛いほど勃起した下半身を持て余しながら、ブリュンヒルデが出てくるのを待った。
カルデアに召喚されたサーヴァントが全員で人理を守るために戦っているかというと、そうでもない。
皆が皆、過去に偉業を為した英雄であるが、その偉業に取り組むきっかけも一筋縄ではない。自らの運命であった者、そう生きることを選んだ者、ただの成り行きから物好きまで千差万別。ならば死後の生における戦いの動機も同様である。
「貴方様・・・・・・」
熱烈な視線を向ける清姫を特異な例としなくとも、戦う動機が立香個人である例は少なくない。例えば妖精国で絆を結んだメリジューヌなどは、立香さえ無事であれば世界の一つや二つ滅びたところで意にも介さない。
傾向としては、神霊に代表されるハイ・サーヴァントの類や伝承で倒される役目を担う反英雄にその色が強い。なによりもまず自分ありき、という思考が無関係ではないのだろう。
そのため、立香とブリュンヒルデが恋仲であることが周知されていても、特にお構いなしにモーションを掛けることも多い。
「マスター・・・・・・」
アサシン特有の隠密性で気取られることなくストーキングしたかと思えば、大胆にもベッドに潜り込む静謐の、などはブリュンヒルデにとって非常に鬱陶しい。
ブリュンヒルデにとって、立香と並び立つことを自分以外にも許容できるとしたら、同じく最も古くから苦楽を共にしたマシュだけであり、その他はぽっと出のトンビ共である。
もっとも、彼の優しさと器の大きさに脳を焼かれたという点では同志なので、同情はしているが。
立香の方も、きちんと恋人が居るのだから線引きはしているようで、そこを超えそうになると意外な凛々しさで誘いを突っぱねてくれる。ブリュンヒルデに不安や不快感を与えないように気を遣っていることは傍から見ればよく判る。
ただ、妬心とは積もるもの。自分の恋人に肌を見せながらしなだれかかる女は、ブリュンヒルデが抱える殺意の病とは無関係に刺し殺したくもなる。それを理性で抑える日々の限界は、急に訪れた。
「あれ・・・・・・?」
ぶち、となにかが切れる音を立香は聞いた気がした。
「失礼します」
管制室から立香をお姫様だっこで抱え上げて、職員に一礼して飛び出す。
飛ぶが如く、いやもう飛翔んでいた。床から数センチ浮き上がって、スピードスケートのように廊下を曲がって一気に自分の部屋へ。
立香の部屋はお節介なサーヴァントや自分のルーンが防犯措置を施しているものの、それを余裕で搔い潜る無粋なサーヴァントもある。行為中に邪魔をされるとロマンシアを最大火力でブッパしそうになるのでブリュンヒルデの部屋がいい。
「お・・・・・・?」
ぼふ、とベッドへ投げ出される立香。
そこに、フー、と猫のような息を吐きながら覆いかぶさるブリュンヒルデ。
「腕、を・・・・・・」
勢いの割りに声は小さい。抑えきれない妬心に導かれて勢いがついているものの、もともとが内省的だからここで立香が抵抗すれば歯止めが掛けられる。
しかし、ブリュンヒルデの言う通りに腕を上げて頭を預ける枕の下に手を潜らせる。こういう、昂奮したブリュンヒルデに僅かばかり困惑しているようだが、自分に悪いことは絶対にしないだろうと安心して言うことを聞く。
その姿がまた、なんとも言えずムラムラして、ブリュンヒルデは堪らず首元にキスをした。
「わ・・・・・・くすぐったい・・・・・・」
「ちゅ、ちゅ、ちゅ・・・・・・」
右の首筋に、胸元へ、もう一度登って左へ。
ブリュンヒルデの薄く、柔らかい唇が押し当てられる。さらさらの髪が頬や鼻に当たって、思わず体を捩らせるほどこそばゆい。
「わ、は、あは、どうしたの、ブリュンヒルデ」
まだ、じゃれつく猫をあしらうような余裕がある。懐が深いのも器が大きいのも結構なことだが、英霊の激情に触れることがどういうことなのか、一度体に教えておくべきかもしれない。
「・・・・・・は、あ・・・・・・」
熱い吐息が、耳に掛かる。
耳たぶの辺りを温めるように、かすれた声が漏れるくらいたっぷりと。
「ひぅ・・・・・・!」
その瞬間、ビクリと体を跳ねさせる立香。
ようやく狙った通りのリアクションを得られて、ブリュンヒルデは少し満足して頷いた。
立香の耳が、特にうなじから耳の裏に掛けてと耳朶の辺りが弱いのは意外とみんな知っている。玉藻の前あたりがいつもの悪戯っぽくもしなだれかかって囁く時、そそる反応をする。
うまく隠せていると思っているのは立香本人だけで、興味のない者たちは知らないが好意を持っている者はみんな知っている。
ただ、現れる反応があまりにも敏感そうなので、その気にさせる時でないと触れないようにしている。
恋人であるブリュンヒルデには、そこを責める資格がある。
「・・・・・・は、あ・・・・・・」
もう一度、熱い吐息を耳たぶへ。
それだけで、立香はぶるりと体を震わせて、身を捩る。
「あなた・・・・・・」
舌を伸ばして、無意識に刺激を望んで顔を傾ける立香の望み通り、耳の裏を舌先でなぞってやる。
先端を尖らせたあたたかい舌が、ゆっくりと下から上へ、耳の裏を舐めていく。
「ひ・・・・・・!」
こんなところ、どんなに敏感でも自分では愛しようがない。他人に愛してもらわなければ得られない快感、愛されて初めて弱いと自覚する場所への刺激に、立香は駄々っ子のように身を捩る。
「れ・・・・・・え・・・・・・」
激しくはしない。ゆっくりと五を数えるくらいの間隔で下から上、戻って同じように下から上へ。
「あ・・・・・・は、う・・・・・・!」
女のような吐息を漏らしながら、体を震わせる立香。とても多くの試練を潜り抜けた勇士とは思えぬその可憐な仕草に、ブリュンヒルデの鼓動が早くなる。
(ああ、もっと・・・・・・!)
独り占めにしたい。自分しか知らない立香を知って、それをこの胸に閉じ込めたい。
これが愛欲の焔なのだろう。自分を苛む愛と殺意の炎に負けぬ熱量のそれに身を焼かぬよう、抑えながら愛撫する。
立香が耳に夢中になっている隙に、シャツをめくる。
引き締まった体。幾度も死線をくぐった体は決して綺麗ではないが、それが余計に愛おしい。この胸の近くの傷痕は、剣の時代の故郷で剣豪によって穿たれたものだと知っている。
「ああ、あなた・・・・・・!」
指先で撫でていく。捲り上げたシャツを胸元でまとめ、露わになった立香の胸板を指でなぞる。
性感帯を刺激されて、体は準備を整えているのだろう。触れもしていないのにピンと屹立した乳首の周りを、ゆっくりと撫でる。
「ん・・・・・・!」
くすぐったいのだろう。体をもぞつかせながら、ブリュンヒルデの指が好いところに当たるよう無意識に導く。
それをわざと躱しながら、乳輪の外側を円を描いて撫でる。
「ん、く・・・・・・!」
切なそうな吐息を漏らしながら、更に乳首を尖らせる立香。
あまりにも可憐なその姿に、このまま食い殺したくなる衝動を必死に抑えながら、顔を近づける。
「ちゅ、むう・・・・・・!」
左の乳首に思いきり吸い付く。
唇を尖らせ、唇の全てを押し付けながら突起を口内へ誘うように。
「ふあ、あ・・・・・・!」
いきなりの甘美な刺激に体を弾ませ、愛らしい声を漏らす立香。
吸うだけは足らない。これは愛撫を受ける立香の感想ではなく、ブリュンヒルデのものであった。
誰が吸うだけで終わらせるものか。こんな愛らしい突起を、舐めまわして愛し尽くさずにいられるものか。
唇に吸い付きながら、唾液をたっぷりとまとった舌がプロペラのように回る。
「くう・・・・・・! う、あ・・・・・・っ、は・・・・・・あ・・・・・・!」
男の平たく硬い胸板に唇を接するのは独特の感覚だが、悪い気分ではない。切迫した悲鳴が、堪え切れず漏らした喘ぎ声が、そのままブリュンヒルデへのご褒美になる。
「ちゅぶ、う・・・・・・! クチュ、ちゅ・・・・・・れ、れ、れ・・・・・・」
尖った唇の端から舌の先端が覗く。
絶妙に空気を入れて舌を回すように舐り、入り込んだ空気を唇で吸って抜く。初めてやってみて、立香が気持ち良くなるように趣向を凝らしてみる。
効果は抜群である。
肘を立てた姿勢で、顔を覆うように身悶えしながら、声を漏らしている。
乳首は左右で一対である。片方だけを熱心にするよりは、ともう片方の乳首を指で転がしてみる。
「くあ・・・・・・!」
好い反応である。やる気も出るというものだ。
が、手と唇と舌を別々に動かすのは非常に脳を酷使する。マルチタスクという技能は、本来人間の脳に備わっているものではない。同時愛撫は一点集中よりも技巧に劣る。
しかしタイミングを合わせて左右の乳首を愛撫するのは、片方の乳首に集中するよりも効果がある。指で一定のリズムで転がし、
「ちゅぶ、ぷ・・・・・・ちゅむ、ちゅ・・・・・・ぅ・・・・・・っ・・・・・・!」
吸って、離し、また吸い付く。
「はう・・・・・・!」
体が弾むほどの快感。胸から立ち上る甘く蕩ける刺激に、少年らしい意地も張れずに吐息を漏らす。
「ちゅぱ、あ・・・・・・」
唇が離れる。顔を離し、しかしこのまま放っておくのは哀れだと指で交代して、両手でクニクニと揉むように転がしてやる。
疲れたのだろうか、と立香はブリュンヒルデの表情を見遣る。新発見だったが、ブリュンヒルデが構わなければもっとしてもらいたい。
そんな素直過ぎる願望は表情を見て弾け飛んだ。
「・・・・・・っ!」
錯覚だろう。そうに違いない。人体にそんな機能はないし、自分にこんな権能もない。
しかし、確かにブリュンヒルデの目の奥にハートが見える。もしくは、顔の周りにハートが飛んでいる。
イカれた妄想に違いない。しかし時に妄想は現実よりも、恋人の心中を示す。
捕食者のような目をしたブリュンヒルデは、追い剥ぎのように立香のズボンとパンツを剥ぎ取った。
露わになる肉棒。耳と乳首への愛撫で最大限に膨張したそれは、ヒクつきながら天井を向いていた。
ブリュンヒルデの期待通りの勃起に、無意識であろう舌なめずりをして、ブリュンヒルデは跨った。
「あ・・・・・・」
と、思う間もない。もちろんこの時も着用している黒いドレスの、深いスリットを起点にした隙間で脚を広げ、奥へと肉棒を誘い込む。
ぬぷ、と音がした。
柔らかい膣口の感触が亀頭にあったのも一瞬、まるで木綿豆腐に指を沈めるように、肉棒は肉穴に呑み込まれていった。
「う、はあ・・・・・・!」
背をのけ反り、官能の吐息を漏らすのは立香ではない。立香を責めるだけで昂ぶり、勝手に解れた膣を埋めてもらう悦びに喘ぐブリュンヒルデである。
それでも腰は止まらない。ぞわぞわと妖しい快感を立香に与えるこの肉穴の持ち主は、背筋を駆け上る快感にも怯まず最奥へと吞み込んでいく。
「あ、はあ・・・・・・」
まるで、懐かしい場所へ帰ってくるような感覚。
耳や乳首を愛撫される時とは別種の、安心感さえ含んだ快感に吐息が漏れる。頭でも心でもなく体で思い知った。
ブリュンヒルデのそこは、自分のものなのだと。
「あ・・・・・・っ、は・・・・・・あ・・・・・・!」
同じような実感はブリュンヒルデにもある。
反応こそ対照的に。抑えきれない快感を持て余すように、腰を中心に体をビクつかせ、不規則に震えながら、快感と達成感に声を漏らす。
そのまま、言葉もなく一分ほど、二人は止まった。
この時間の幸福感は当人たちにしか判るまい。
見上げれば恋人が、見下ろせば良人が、幸せそうに微笑んでいるのだ。互いの体温を共有し、最も敏感な場所で繋がりながら。
いつまでもこの幸福に酔いたい。永遠があるのならこの瞬間こそ永遠のものであったらと思う。
しかし、堪えられない。
込み上げる互いの肉欲に、底さえも突き破る愛欲に、ブリュンヒルデの腰は動いていた。
「ん・・・・・・あ・・・・・・ん・・・・・・ふ・・・・・・ん・・・・・・」
立香の予想とは少し違っていた。
ブリュンヒルデは右手を前に、左手を後ろについて体重を支えながら、腰を回してグラインドさせて動いていた。
「あ、は・・・・・・!」
シャワールームでブリュンヒルデを犯した時のような、激しく鮮烈な快感ではない。
柔らかな膣壁に肉棒を埋め、シェイクさせられる快感。たっぷりと満ちたブリュンヒルデの熱い愛液を肉棒で搔きまわし、全周囲を膣壁に埋められる感覚。
「うあ、あ・・・・・・!」
感動した。
自分の上になったブリュンヒルデは、くねくねと、熟練のダンサーのような柔らかい腰遣いで動いている。
ステージなのだ、自分は。ブリュンヒルデという艶美なダンサーが、最も淫らに踊るためのステージとポールを、自分が果たしている。
特等席で見上げながら、ドレスを押し上げるほどに固くなった乳首に手を伸ばす。
「あ・・・・・・! あな、た・・・・・・!」
ステージであり観客である筈の立香からの、無粋なおひねり。ドレスの柔らかな生地越しに感じる、男の指の感触。尖った乳首を摘まみ、意地悪く転がされる被虐の快感。
それはブリュンヒルデのダンスを妨げず、むしろ貪るように加速させていく。
「うお、おお・・・・・・!」
全部気持ちいい。ピストンと違って、快感に空白がない。ブリュンヒルデの体から一ミリも離れる瞬間がない。
それがこんなにも心を満たすのか。絡みつく襞に咀嚼されるような感覚は、胸の奥を熱くさせる快感だった。
「あ、は・・・・・・っ、あ・・・・・・! は、は、あ・・・・・・!」
だんだんと、ブリュンヒルデも堪え切れなくなってきた。
円を描くグラインドが、前後の小刻みなものになってくる。
快感の間隔が空くことに耐えられなくなってきている。恋人と繋がる幸福感と突き上げる肉欲に、無意識のうちに動きが変化していく。
「は、っ・・・・・・あ、ふ・・・・・・ん、う・・・・・・んん・・・・・・あ、ああ・・・・・・!」
指を口元に。なんの意味も持たない手と指の動きは、欲求と快感を持て余してのこと。目を閉じて、喉を反らして集中する。
「く、う・・・・・・!」
ヌチュヌチュ、と結合部からあふれ出た愛液がかき混ぜられて音が立つ。
淫らな光景であり、これ以上なく昂奮を誘うのだが、立香には少し生殺しに近い。ペニスは摩擦によって快感を得る。
蕩けるような快さと熱さが常に肉棒を包んでいるものの、望んでいる激しい快感には及ばない。じっくりと蓄積する快感は、射精と絶頂に向かっているものなだけに頭を搔きむしりたくなるほどの、切なさを孕んでいる。
しかし耐える。それを堪える。ブリュンヒルデの細い腰を掴んで、好き勝手に蹂躙したい欲求に耐えながら、自ら絶頂へ登りつめるブリュンヒルデを見守る。
「あな、た・・・・・・! あなた・・・・・・! さわ、って・・・・・・くださ・・・・・・ああ・・・・・・!」
立香の両手を包んで乳房へ誘う。
淫らに踊ってみせたダンスに、立香がくれたおひねり。自分がしてみせた、立香への愛撫を、自分にもしてみてほしい。
その愛撫の悦びの中で、絶頂へ至りたい。
肌を接する恋人の、叫ぶような欲求を汲み取って、立香はブリュンヒルデの乳房を鷲掴みにした。
「うあ、う・・・・・・! んく、う・・・・・・! う、うっ、ふう、う・・・・・・!」
ビクビクと、腰が怯むように震える。膣の収縮が激しくなり、その瞬間の近いことを感じ取る。
「く、う・・・・・・!」
立香もまた、ゆっくりと蓄積されていく快感が熱い感触を登らせる。
自分からは動かない。自分を導くのはブリュンヒルデに任せ、ブリュンヒルデ自身に自らの快感に止めを刺させる。
「うあ、は・・・・・・! は、は、あ・・・・・・っ、は・・・・・・あ、あ、ああ・・・・・・っ」
怯える子供のような。
何度経験しても、飽きるどころか慣れもしない絶頂の瞬間。頭の中を漂白するようなあの感覚に、本能的に恐怖する。
しかし、期待も同じだけ。この恐れを踏み越えた先にある絶頂は、この世の全てと引き換えにして惜しくないほどの多幸感をもたらすのだ。
(がんばれ、ブリュンヒルデ・・・・・・!)
恋人に熱烈なエールを送りながら、その瞬間を同時にするために少しだけ角度を変える。
自分の最も好いところに、ブリュンヒルデの膣襞を当てる。その、予想外の角度修正がよかったのだろう。快感は不意打ちが最も効く。
「あ、あなた・・・・・・! あなた! あ、あな・・・・・・ああ・・・・・・!」
なんと胸を締め付ける悲鳴だろうか。もしこれが自分の腹の上で、繋がった状態で発せられたものでなければ飛び上がって駆け寄っただろう。
ブリュンヒルデは自分を呼びながら、体の内側で炸裂する快感に全身を突っ張り、背中を少し丸めて、しがみつくように立香の腰を掴みながら、
「は・・・・・・あ・・・・・・ひ・・・・・・っ!」
電気椅子で処刑された囚人のように、不規則に震えた。
もうそれを見るだけで判る。ブリュンヒルデの味わう絶頂がどれほど深く、激しいものであったか。
加えて体がそれを如実に表している。
「くう・・・・・・!」
まるで食い千切らんとするかのように、激しく収縮する膣に堪らず精を放つ。
奇妙なことに、膣は精液の熱い感触を受け取ると勝手に入り口から奥へ向かって波打つように締め付けを見せ、尿道に残る精液さえ搾り取る動きを見せる。
絶頂から降りてこられないブリュンヒルデが意図してのものではないであろう。ブリュンヒルデの秘めたるこの場所の主が誰なのかを、体がもう悟っているのだ。
オスを悦ばせたメスに与える褒美。この熱く粘っこい感触を求めんがための膣の蠕動であったのだ。悦びに震えるように、最後の一滴まで搾り取るように、いつまでも膣は収縮していた。
「は・・・・・・あ・・・・・・」
荒い息を落ち着かせる。快感が引くのは男の方が数倍早い。
引いていく甘美な快感の名残りに笑みをこぼしながら、崩れ落ちるブリュンヒルデを支える。
余程に激しい快感だったのだろう。じっとりと汗ばみ、白い肌を紅潮させて不規則に震えるブリュンヒルデは、少し心配になるほどだった。
それでも意識はまだあるようで、か細い息を長く吐き、快感のあまり自我の支配を逃れた体を引き留めている。
どれだけ時間が経ったろうか。
身を寄せ合い、余韻に蕩けているだけでこの世の幸福の全てを味わっているかのよう。夢心地で満足感に酔っていると、落ち着いてきたのだろうブリュンヒルデが急に頭を持ち上げて、
「ご、ごめんなさい、あなた・・・・・・」
「へ・・・・・・?」
予想だにしない謝罪が飛んできたので呆けてしまった。
「わ、私・・・・・・あんな・・・・・・」
なにか、後悔している様子だが、心当たりがない。
なんとかここで彼女の内心を察してやりたいところだが、なかなか珍しいブリュンヒルデ主体の性行為は非常に満足感が高かったし、謝られる謂われがなさ過ぎて難しい。
少し間が抜けているが、素直に訊いてみる。
「えっと・・・・・・ごめんね、ブリュンヒルデ。なんのこと?」
「私、勝手な・・・・・・いえ、強引に・・・・・・それより、あなたの、したいことを・・・・・・」
内向的なうえに陰気な性質だから、後悔し始めると要領を得ない。
それでもなんとか、断片的な言葉を拾って察するに、情欲のままに意思を確認せずに、ブリュンヒルデの好き勝手な行為に走ったことを悔いているらしい。
「う、ん・・・・・・」
こういう時、どうすべきなのか。
なにか気の利いたことを言えればいいのだが、勝手に後悔されるだけでもなかなか居心地が悪い。
素直にいくことにした。
「代わりに、言うこときいてくれる?」
「え・・・・・・はい、どんなことでも・・・・・・」
一瞬、果てしなくよこしまなことを考えた。
ヒモのようなビキニを着てもらって、その美しい肢体と裸より卑猥な格好を目で楽しんでみたいし、とびきり下品なポーズをしてもらうのもいい。
しかし真摯であるべきだろう。頭を撫でながら、
「またやってくれる?」
ブリュンヒルデは、救われたように微笑んで、
「・・・・・・はい・・・・・・!」
目尻に浮かんだ涙がこれ以上なく美しいものに思えた。