FGOエロ小説まとめ 作:お一
マタ・ハリという英霊ほど、扱いに困る英霊も少ない。
いや、扱いづらいという意味では決してない。彼女は従順で、戦闘力にこそ欠けるが、全ての英霊の中でも最も協力的な部類である。
困る、というのは使役する側の感想であり、彼女の機能性や利便性を評価する言葉ではない。
事実、マタ・ハリは優秀な英霊である。
その最たる運用例は、人間関係の調整や敵陣の諜報という、戦闘集団を維持、運用するうえでは絶対に代わりの利かないもので、他に並び立つ者のない英霊と評してよい。
ただ、聖杯戦争で呼び出されるという条件に於いて、つまり勝ち抜くに足る戦闘力を有していないという条件が、彼女の英霊としての価値を下げてしまっている。
だが、人理修復というイレギュラーな状況で使役されるサーヴァントしてなら、彼女の価値は計り知れない。
「ええ、マスターが望むなら」
二十世紀、太陽と名付けられた女は、その美貌に好意を乗せて微笑む。
「マルガレータ、僕は、悪いマスターだ」
彼女と契約を交わした少年は、その微笑みの正視に耐えられず、俯いた。
「あらあら、困ったわ。顔をあげて、マスター」
柔らかい掌で少年の頬を包み、そっと持ち上げて目線を合わせ、
「自分を悪い人だと思い込むのはいけないわ。
自分を良い人だと思い込む人は自分以外に厳しくなって、自分を悪い人だと思い込む人は自分を追い込む人になるものよ。
マスター、あなたは私をマルガレータと呼んでくれる。誰もが忘れてしまった私の名前、結ばれた人さえ呼んでくれたかも判らない名前を、あなたは呼んでくれるわ。
だから私はマタ・ハリになれる。あなた以外の女にもなれるの。
ねえ、笑って、マスター? 他の男の女になる私をせめて笑って見送って。そうしたらきっと、この先どんな目に遭っても耐えられるわ」
昨晩、愛を交わし合った少年の頬にキスをして、マタ・ハリは身を翻す。
少年の苦悩も自分の憂鬱も全て振り切るような、舞うような、美しい所作だった。
洗脳という行為の危うさを、マタ・ハリは自身の宝具の特性なだけに知り尽くしていた。
諜報のスキルを持つ彼女は、望む情報を手に入れられる。併用して、フェロモンのスキルもBランクで取得する彼女に、得られない情報などあるまい。
更に宝具による洗脳を行えば、情報どころか状況まで得られる。
今回のように。
「倒せばいいというわけじゃないのが、とても痛いところだね」
ドクター・ロマンは、難しい顔で頭を掻いた。
詳細はこうだ。
修正されていく特異点に出現した、人理修復前の事件の余波で、敵対する二勢力の両方が現地の魔術師の助言を得て神秘に挑戦している。
ホムンクルスの生成、オートマタの作成、キメラの合成である。
どれも害意を以て扱えば多量の人を殺傷し得る戦闘力の塊で、放置すれば抗争の最中、どれほどの死傷者が出るか判らない。
これを阻止するのが人理修復を託されたマスターの、後片付け的な任務なのだが、問題がある。
二勢力が同時に着手したということは、投入される時期もほとんど同じということだ。
片方に戦力を集中させればもう片方が進撃する。被害を完全にゼロに抑えたければ同時に撃破しなければならない。
予想される敵性体の何れも、サーヴァント一騎あれば問題ない筈だが、もしも人理修復以前の余波が予想しえない形で影響を及ぼせば。
不測の事態を考えると、マスターを伴ったサーヴァント二騎は各勢力に欲しい。そこで、片方の勢力に戦力を集中させ、もう片方をマタ・ハリの諜報、洗脳で可能な限りかく乱するという作戦を立てた。
マタ・ハリが潜入するのはあくまでも人間の集団である。役割上、問題も危険性もなかったが、彼女の契約者は迷った。
(マタ・ハリは、嫌がらないだろうか)
いや、拒否はすまい。拒否してくれるのなら慮る度合いも負担も少なく済む。
少年には判る。
最初期から戦いを共にし、喜びもやるせなさも共有し合い、愛情さえ交し合った彼女は、どんなに不満でも自分から口にはしないと。
だから、彼女を自室に呼び彼女が喜ぶ小指の結び合いを拒んで、この作戦を告げた時、少年の顔色は病人のようだった。
マタ・ハリは言った。
いつもの、太陽のような、優しい微笑みで。
「任せて、マスター。きっとあなたの為になってみせるわ」
お互いが覚悟を決めて、その夜は二人で過ごした。そして翌日の朝、彼女は単身で任務に向かった。
首尾よく潜入し、勢力の長に取り入り、簡単にその愛人の座を手に入れた。
これで情報はザルをすり抜ける水のように手に入る。問題はかく乱である。
異形の生命体の投入時期と場所を、なんとか変更させなければならない。彼女の宝具を使えば出来なくはないが、首領一人に用いればその変貌を誰かが不審に思うだろう。かといって主要なメンバー全員に使用するには射程が不足している。
一度に百人の洗脳を可能とするマタ・ハリの宝具『陽の目を持つ女』だが、その射程は長刀を用いる佐々木小次郎よりも短い。
更に問題なのは、効果時間である。朝陽が登るまでだから、継続的な意識の変更には再三の宝具使用も含めて現実的な条件とはいえない。
ここぞという場面以外は使えない。
(まずは、心身を蕩かしましょう)
そういう、功利的で打算的な考えは、潜入以前のものだ。
瘧を落とすように、マタ・ハリはその種の思考を全て潜入した瞬間に捨て去った。そうでなければ、一人の男の心を握ったまま離さないという偉業はとても出来ない。
真のスパイは、相手はおろか自分にさえ、スパイであるかどうかを悟らせない。人間は他人に対して敏感だ。特に肌を接する以上、功利や打算を大きな割合で心に住まわせれば必ず気取られる。
マタ・ハリは、完璧に愛人になった。
心から、その男を愛するようになった。目的を認識したまま、その手段に思考も心も染め上げた。
不可能を可能にする、英霊たちの大偉業となんら遜色のない、見事な詐術であった。
胸には這う男の武骨な指を、マタ・ハリはそっと触れた。
嫌悪感は欠片もなかった。昨夜、同じようにその部分を愛した少年に対してのものとまったく同じだった。
マタ・ハリの柔らかな乳房の感触を楽しみ、その美しい曲線が自分の指によって形を変える征服感に酔い、劣情を持て余して桜色の先端を指の腹で優しく潰す。
「おお、それほどここが好きか」
あ、と官能的な悲鳴を短くあげて顔を仰け反らせたマタ・ハリに気をよくした男は、昨夜まで少年のものだったそれを弄ぶ。
マタ・ハリは拒まない。
拒まないどころか、男が喜ぶように官能的に声をあげ、身を捩り、どんどん劣情を煽る。マタ・ハリにすれば慣れた刺激であった。肉体的な悦びを忘れるようなことはないが、彼女がこれまで感じ取った刺激と反応を比べれば、多少大袈裟である。
性交時の女の仕草や反応は、半分以上が演技である。それは自分を官能に貶め、男を法悦に昂らせる無意識の演技。マタ・ハリはそこに、愛する男の満足感を上乗せするため、少し大袈裟に演じる。
両の乳房を弄ぶ男の手つきに、マタ・ハリは股を摺り寄せる。
「もう、堪らぬのか?」
野太い声が耳元にある。
羞恥を煽る声に抗うため、マタ・ハリはその唇に吸い付く。
男はすぐにそれに応え、応えるだけでなく自分から蹂躙する。
口内を侵食してくる舌と唾液を歓迎し、マタ・ハリは自分に快感を与えようとする意思に応え、男の粘膜を舐る。
絡みついた蛇のように、灯りの落ちた部屋に男女の肢体が絡む。
ふと、男の手がマタ・ハリの腰に落ちる。そのまま落ちて、足の間へ。
マタ・ハリは可憐に足を閉じてその手を挟み、唇を離してふふ、と笑った。
「恥ずかしいわ。もうそこを触るなんて」
「ほう、恥ずかしいようなことになっているのか」
いやいやをするように顔を振り、マタ・ハリはベッドに倒れ込んだ。
マタ・ハリの薄い褐色肌が白いベッドに横たわり、膝を立てて男の手を挟んだまま、手は顔を覆った。
「可愛いやつ」
それを、男を歓迎しながらも羞恥を忘れない可憐な女の仕草と取り、男は少し力を入れてマタ・ハリの股をこじ開けた。
窓から入る月と星の灯りに照らし出されたそこは、薄くその光を反射した。
「おお、濡れておるわ」
ごつごつとした太い指でマタ・ハリの痴毛に触れ、湿り気を楽しみ、割れ目に指の腹を這わせる。
「はァんっ」
マタ・ハリの喉から嬌声が漏れる。
「なるほど、確かにこれでは恥ずかしいな」
嬲るように、楽しむように、男は指の腹をゆっくりと上下して、ぷっくりと膨れたマタ・ハリの大陰唇をなぞる。
ただそれだけの動作なのに、徐々に室内にねちゃねちゃと水音が響いてきた。
「いや、そんな無体に・・・・・・」
指の間から顔を覗かせて、マタ・ハリはねだるように言った。
「うん? わしは女を労わっておるだけだが?」
心底楽しげに、痴愚に喜悦する男の表情で、マタ・ハリを嬲る。
指を離して、べっとりと付着した愛液の感触を本人に見えるように楽しみ、ぺろりと舐めて、見えていないもう片方の手の指をずぶりと膣口に差し入れた。
「んむうっ!」
思わぬ刺激にマタ・ハリの背が仰け反り、びくんと二度跳ねた。
「ほう! イキおった! あはは、他愛ない」
法悦に身を捩ったマタ・ハリに優越感を刺激され、男は堪りかねたようにずいと、己のそれをマタ・ハリの眼前に突き出した。
「お前ばかり楽しんでおらんで、わしに奉仕せんか」
「ああ、申し訳ありません。すぐに」
言い終わらぬうちに、マタ・ハリは恐縮したように慌ててそれを口に含んだ。無論、これも演技ではあるが如何にもそれがいじらしい。見事に男の優越感をくすぐっている。
(マスターも、これが好きだった・・・・・・)
一瞬だけ過ぎったその思いは、ちくりと心臓の辺りを抉り、すぐに消えた。
「おお!」
男が思わず感嘆の呻きをあげたほど、マタ・ハリの技術は卓越している。
男が思わず背筋に甘い痺れを感じるほどに、手管を極めている。
性感を焦らすように舌の動きを敢えて外し、かと思えば吸い付く。大胆に尿道口を舌先でつつき、柔らかな頬肉で亀頭を包む。
「ねえ、閣下。この体勢では、奉仕がやりづらいわ。私に任せていただけません?」
「どうするのだ?」
男の目は既に期待が宿っている。
「ご無礼を承知で、お願いします」
マタ・ハリは口でそういうものの、動くと素早い。すんなりと男にその体勢を取らせた。
本来なら、屈辱的な筈の四つん這いの姿勢を、男は自然と受け入れるほど、マタ・ハリの誘導は巧みだった。
その姿勢になったことを知ったのは、ぬめった暖かい感触が己の尻の穴を這いずった瞬間だった。
「じゅる、れる、れろれろ」
マタ・ハリは痴毛に覆われた割れ目を開き、顔を埋めて尻穴を舐め上げる。唾液をたっぷりと絡ませて、舌先でつつき、解れたと見るや、ぬぷりと差し込んでいく。
「お、おお!」
どんな商売女にさせても、ここまで熱のこもった奉仕は受けたことがない。
マタ・ハリの技術よりもその熱意と献身に惚れ込むようにして、男は与えられる快楽を受け入れた。
「じゅずるるる、じゅっぱ、ぢゅぶ、ぢゅば、ちゅるるる」
尻穴を舐りながら、先走りをベッドに垂らす肉棒を優しく手で包み、ゆっくりと扱く。分泌された粘液を亀頭にたっぷりと塗して、男がマタ・ハリの乳首にそうしたように優しく捏ね上げていく。
「も、もう良い! 寝ろ!」
堪りかねて叫ぶように命じると、マタ・ハリは抗わず男の下に身を滑り込ませた。
「生意気にもわしを追いつめおって、憎らしい奴じゃ」
男は笑ってマタ・ハリの足を持ち、腰を上げさせて、ずぶりと己の肉棒をマタ・ハリの膣内に挿入した。
「う、うお・・・・・・」
男が思わず呻き声を上げたほど、マタ・ハリのそこは男を歓迎していた。
多量の愛液はもちろん、待ちかねたようにそこは収縮して喜びを表現し、絡みついた。
マタ・ハリの膣壁はツブツブとして細かく、襞は細かく深い。更に膣口と膣内で収縮し、奥へ行くほど狭くなる。
その至上の名器が感涙するように粘質の分泌液を流し、感激したように絡むのだ。
女の心と体は密接に繋がっている。
マタ・ハリが偽らざる心から男を迎え入れている証拠であり、それが男にもありありと判るから、男は気まぐれと幸運で手にした愛人を宝を見るように賛美した。
「良い拾い物だわい。ふふ、男を知っていると見えるが、わしはこれまでの男と同じようにはいかんぞ」
マタ・ハリの極上の名器に悦ぶだけでなく、マタ・ハリを悦ばせようと男も腰を振る。
動物的なピストン運動のみならず、肉棒で膣内を掻き回すべくぐるぐると腰を回し、緩急をつけて、マタ・ハリから法悦の音色を引き出していく。
(ああ、マスターとは・・・・・・)
全然違う、と言葉にして表さない。それがこの状態のマタ・ハリに出来るせいいっぱいの気遣いであった。
確かに、少年のそれとはサイズも手管もまったく違う。
少年のそれは事のたび、挿入した瞬間に一度果てる。
うう、とくぐもった呻き声を、マタ・ハリは何度聞いただろう。奥へ行くほど狭まる膣の半分も届いていないのに、少年は法悦してしまうのだ。いや仮に耐えられたとしても、少年のサイズでは届かない。マタ・ハリの性器を隅まで堪能することは出来ないのだ。
少年の熱い体液が注ぎ込まれる瞬間をマタ・ハリは内臓で感じ、子をあやすように抱き締めてやり、背を撫でて回復を待ち、少年の体力が続く限り楽しませてやる。
それは二人でお互いの快楽を貪ろうという男女の淫靡な行為ではない。少年に自分の体を提供して慈しむという、余裕と優越感とほんの少しの不満を帯びた気遣いであった。
彼女の契約者はそれに翻弄されるだけで、マタ・ハリに悦びを味わわせようなどと余裕を見せることは遂になく、何度目かで果てて眠るのだ。
それに引き換え、この男の性技の巧みさは如何にしたことか。少年の手管ではこの先の将来も決してありえないとはっきり断言出来る満足感が、マタ・ハリの全身を巡る。
マタ・ハリは自分でも知らぬまま何度も法悦を味わい、天上に上るような心地を体感し、
「それ、情けをくれてやるわ!」
男の、腹の底まで響くような声を、神託を受ける巫女のような荘厳な気持ちで受け入れ、膣内に放たれた熱い粘液を心から歓迎した。
「ああっ!」
それが、その夜最後にして最も深い法悦の瞬間だった。
マタ・ハリの目の奥で火花が散り、視界が白く染まり、体が何度も跳ねた。彼女の意思を離れて、膣は自分を極限まで悦ばせた男から貪欲に搾り取るため収縮し、返礼を捧げた。
「ん! は、あ、ぁ、あ」
正に息も絶え絶えの中、自分にかつてないほど注がれた熱い体液を感じ取り、マタ・ハリは愛しげに自分の腹を撫でた。
「極上の女だ。これから毎夜、お前を味おうても百年は飽きんな」
マタ・ハリにこれほどの悦びを与えながら、そう哄笑する男と、一瞬だけ昨夜愛した少年を比べて、マタ・ハリの目尻に涙が浮かんだ。
(ああ、マスター)
心の中で愛しい少年を呼び、顔を思い浮かべようとして、自分の体を上書きした目の前の雄の顔に掻き消された。
これが数夜続いた後、マタ・ハリは煙のように消え、急襲した鬼神のような二人に組織は壊滅させられるのだが、それはまだ少し後の話であった。
マタ・ハリがようやく自分の契約者と再会を果たしたのは、カルデアに帰還する前のことだった。
「ありがとう、マタ・ハリ。君のおかげです」
事態の終結が目前と決まった夜、マタ・ハリはあの男の寝所を抜け出し、アジトから脱出して、もう片方の勢力を壊滅させて野営するマスターの元に戻った。
その夜は、既に事が行われた後だった。
マタ・ハリの肢体は汗に濡れて光り、膣内から太ももに、ゼリーのように精液が垂れていた。
ごくり、と少年は思わず唾を飲んだ。
「マスター、ただいま」
マタ・ハリは少年を呼び、部屋を出て別れた時と同じ、太陽のように微笑んだ。
少年は劣情を瞳の奥に灯らせ、嫉妬と興奮で乾ききった喉を絞るようにして、
「ああ、おかえり、マルガレータ」
彼女の眼前に膝をついた。
マタ・ハリはそれを受けて、身に纏う薄布を焦らすようにゆっくりと解いた。
仄かに上気した頬、汗で濡れた肌、屹立した乳房の突起、股間からごぽりと溢れる他人の精液。
これ以上ない淫靡さと背徳さを湛えた姿だった。
少年はズボンと下着を煩わしげに脱いで、またも喉を絞るようにして、
「さ、さあ、さ、開いて・・・・・・」
玩具をねだる子供のような、欲望に惑った無頼漢のような、別人のような声音で言った。
マタ・ハリは心得て足を開き、自分の膣口を指で優しく広げ、腰を突き出した。
精液が、ごぼりと溢れて落ちた。塊がべちゃりと地面を汚し、それでもまだ一部は落ち切らず両方の太股を伝っていく。
「ぼ、僕よりも・・・・・・」
少年はマタ・ハリを見上げる。
マタ・ハリはその様を心底嬉しそうに、また心から愛おしそうに見て、こくりと頷いた。
「比べてはいけないわ。
だって、マスターは永遠に、あんなに逞しくなれないでしょう?」
うう、と少年は呻いた。
悲しみの嗚咽ではない。怒りの咆哮ではない。
それは法悦の呻き。取り出した自分の肉棒を自分の手で慰め終えたための呻き声であった。
ぴゅっと、水鉄砲から飛び出すように放出された少年の精は、ぴちゃ、と地面に染みた。
「うふふ、量も濃さも・・・・・・。
ねえ、マスター。比べて? それだけでも判るでしょう?」
嗜虐的にマタ・ハリは微笑んだ。少年は壊れた人形のように首をこくこくと振って、他の男の愛撫に火照ったマタ・ハリに飛びついた。
「ああ、マルガレータ、マルガレータ・・・・・・」
「ええ、ただいま、マスター。このまま戻りたいけれど、明日もあるんだものね。早く休んで、早く済ませて、そして帰りましょう。
私たちのカルデアへ」
幼子に回帰したように泣きじゃくる少年の頭を撫でて、マタ・ハリは慈愛に微笑んだ。
激しい自責と後悔が、少年を苛んでいた。
目の前には、愛情を交し合ったサーヴァント、マタ・ハリ。彼女はいつもの微笑みを少年に投げかけて、穏やかに少年を眺めている。
「本当に、本当にごめんよ、マルガレータ」
「いいの、いいのよ、マスター。私は、あなたが悦んでくれたらそれで」
胸が締め付けられる。頭の奥が熱くなる。
しかし同時に、少年のそこは屹立する。
特異点から戻ったあと、二人で愛を交わし合い、どのようにあの男に愛されたのかを語ってもらい、少年はマタ・ハリに放った以上の回数を自分の手で放ち終えたあと、罪悪感に苛まれた。
人が生まれ持った、或いは後天的に備わってしまった性癖である。
少年のそれは哀れなことに、嫉妬と鬱であった。誰よりも愛した女が他人に抱かれ、他人に愛される様に興奮する。しかもそれを自分と比べられると惨めさが増し、興奮は倍増してしまう。
作戦上、マタ・ハリが潜入して愛人になることはなんら矛盾しない、謂わば使命なのだだから少年が気に病むことではない。彼が恥じるのは、その状況に興奮してしまうことである。
マタ・ハリは全て知っている。知って、受け入れた。
この少年以外に対する愛情は、全て少年の愛情のため。故にその手元を離れたら手を離した風船のように飛んで消えていった。少年がそれを望まない限り、彼女が愛するのは目の前のこの少年のみなのだ。
少年に対しても、他の男に対しても、どちらも偽りでない、本当の愛。
少年とサーヴァントの、歪だが純粋な愛情である。
この歪みは、人理修復という身に勝ち過ぎた重荷をその未成熟な体と心に負ってしまった弊害であろう。
だがなによりも余人の涙を誘うのは、少年自身が歪んでしまった自分を恥だと感じ、その贄となってしまった恋人に罪悪感を抱き続けていることである。
まったく、なんという善良さなのか。
その偉業と難行に相応しい報酬も、名誉すらも与えられない境遇でありながら、己を糾弾する道徳観をなんら損なわず、それ故に自身を苛む刃を滔々と自身で生成してしまう。
マタ・ハリには、それがいじらしい。同時に可愛くもある。なによりも愛しい。
だから、このマスターが事の後に襲われる自責と罪悪感を取り去ることが、なによりも急務であることを知っている。
たとえそれが、他人の目にはどれほど奇怪で残酷に映ろうとも。
「でもね、マスター」
微笑しながら目を剥き、ほんの少し恐ろしい女の顔を作って、
「あなたがこの小指を離してしまえば、本当に私はあなたのものでなくなってしまうかも」
少年の目の色が変わった。
罪悪感も自責も、後ろ向きな気持ちは全て掻き消えた。代わりに生まれたのは、決意。
焦燥よりも、決意であった。
全て承知で全て受け入れてくれるこの女を、絶対に誰にも渡してなるものかという、鬼気迫った男の表情であった。
次なる命懸けの使命に挑むため、いつか訪れる別離の瞬間まで少しでも互いを幸福にするため、夜を越えていく。
「ああ、マルガレータ、僕の、僕だけのマルガレータ」
「何度でも囁いて、マスター。あなたの元に帰ってきたことを、私の体と心に教えてちょうだい」
唇を重ね、睦言を何度も交し合い、抱き締め合う。まだ、夜は終わらない。