※この作品はR-18です。

FGOエロ小説まとめ   作:お一

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×東方の女王、エロトラップダンジョンに挑む

 西暦二七二年、地上から一つの王国が消滅した。

 交易都市パルミラ。東西に大国を構える砂漠の要衝。交易で栄華を極めたこの都市を、どの時代のどの皇帝も求め、侵略し、奪い、しかして独立され、最後にして最も偉大なる女王を迎えた。

 名は、ゼノビア。

 智勇に優れ、類稀なる統治力を持ったクレオパトラを尊崇し、自らをその裔だと名乗った神秘なる女王。幾度も、その時代においては世界そのものと言えた大国、ローマ帝国を退けた功績は、世界中の王と比べてもなんら見劣りすることはあるまい。

 彼女の最期は、逸話が多い。

 パルミラの滅亡と共に服毒自殺をしたとか、ローマに赦しを乞うて市民となったとか、病死などはっきりとしない。

 こういう英雄は、ままある。立香にも心当たりはあった。

(源義経、原田左之助、人に愛された英雄は時々、そんなエピソードがある)

 生きていて欲しい。あんなにも勇敢で心優しい人だったのだから、どんな形であっても、その余生は穏やかで優しいものであってくれ。

 人々の願いである。

 ローマ市民にとっては、ひどく優越感をそそるだろう。勇敢にして思慮深い東方世界きっての女王が自らの膝に縋りついて緩しを乞い、その脅威たる人物に情けを掛けて生かしてやったとなれば、これ以上ないほど誇らしい。

 情け深いローマ市民は、否、という。アウレリアヌスが彼女に強いた凌辱は倫理に悖る。勇敢なる女王はきっとそれを拒んで死を選んだに違いない。その対比を以て、時の皇帝を批判した。

 事実は定かでない。最早過ぎ去った時に埋もれた真実であり、史家以外にはどうでもいいことだろう。

 ここに、英霊として本人が召喚されるまでは。

「私にも判らぬ。だが、だからこそ払拭するのだ。我が武勇と勝利を以て、パルミラの女王はローマに屈しなかったと。その死は、誇り高いものだったと」

 カルデアにはそういう英霊も多い。その死の瞬間まで勇敢で、誉れ高い勇士が。そういう英霊に肩を並べるためにも、とゼノビアは意気込む。

 立香はそういうゼノビアを応援した。彼の臨む戦いは常にその背に人理を背負い、誇りある戦いというのならこれ以上はあるまい。国家どころか地球人類を背負うのだから。

 しかし、とも思う。幾度も命の危険に見舞われ、また、多くの命をその手で送ってきた立場からすると、恐れてもいいではないか、と。人間ならば、生命ならば当たり前のことで、たとえその死を恐れて仇敵の情けで生かされても、それでいいではないか。

 きっと彼女を愛した臣民は許してくれる。彼女が愛したパルミラの市民は、名誉の自死よりも恥じて生きて、再起を願う彼女を望んでくれるのではないか。

「言うな、マスター。お前は私の勝利を望み、願い、信じてくれる。誰でもないお前の言葉だから、私はその言葉を情けとも憐れみとも思わず、素直に受け取れる。

 ああ、きっとお前の言う通り、人々は願ってくれる。他ならぬお前が言うのだ、きっとそうなのだろう。

 だが、私がそれを拒むのだ。負けただけでなく、衆人の前で辱められたのならそこで死んでいて欲しいと。更なる恥辱は撥ねつけていて欲しいと。

 こういう女なのだ。お前から見れば、短慮で狭量で手前勝手な王に見えるかもしれないが、それでも、私は―――――」

 死ねばそれまでなのだ。生きていてこそ臨むこともある。況してや女王ならば、生きてこそ再起も逆襲も叶う。そう出来ずに死んでも、希望を繋いだのは無意味ではない。

 立香の心配そうな目を見て、ゼノビアはその頬を両手で包んだ。

「本当に、私は良いマスターに会えた・・・・・・。

 私の望みを真摯に捉え、私に勝利を望み、私を誇りある戦いへと誘ってくれる。そのうえで、私を英霊としてではなく、女王としてでもなく、私という女を慮って、私の怒りも恐れず心配してくれる。

 ああ、カルデアのアウグストゥスよ、私はお前に必ず勝利を捧げよう。親愛なる戦友よ、この黄金の輝きを断ち切る時は、お前が隣に居てくれると嬉しい・・・・・・」

 そんな二人で挑んだ特異点は、まるで塔のように聳えるなにかだった。

 生き物のようでもある。無数のイモムシの集まりか、それとも超巨大な生物の内臓か、表面がぬらぬらと照り光り、鼓動のように蠢いている。

 現地での情報収集の結果、ここは必ず男女の一組でないと入口さえ現れず、如何なる平気であっても外からの破壊は不可能ということが判明した。

「ということは、内側は結構フェアな可能性が高いね」

 モニターしているレオナルド・ダ・ヴィンチは言う。

「どういうこと?」

「制限があるってことは、その制限をクリアして挑む者には特典がつくってことさ。如何に特異点でも、いや特異点だからこそ抑止力を回避するためにバランスを取る。実際、ここに挑んで死んだ者は居ないって話じゃないか」

 そうなのだ。誰に聞いても内部についての情報は水一つも漏らさぬほどに知ることは出来なかったが、生存者は幾人も居た。というより、死んだ者が居なかった。

「死のみが人間にとっての最大の損でもない。気をつけるのだ、マスター。人は尊厳を破壊されるだけで死に等しい苦しみを負う」

 ゼノビアが立香の肩を叩く。そんな油断をする主人でないことは充分承知しているが。

「じゃあ行こう、ゼノビアさん」

 そうして口を開けた塔へと踏み入る。

 内側は、不自然なほどに明るい。光源などどこにも見当たらないのに、昼間の屋外の如く明るく、それ故に床も壁も、生物の胎内のような様相がはっきりと見える。

 う、と軽く口元を抑える立香。ゼノビアは上を見た。

「高いな。届かないこともないが・・・・・・いや、膜が張っているな。あれを破らないと上がれないようだ」

 ゼノビアの分析に視線を天井に移そうとした時、付近の床や壁から無数に細長いものが二人に伸びた。

「むっ!」

 立香を脇に抱えて臨戦態勢を取ったが、それらは充分に距離を取って止まった。

「目だ!」

 立香が叫ぶ。確かにこの細長い触手の先端は丸く膨らんでおり、眼球が剥き出しについていた。

 うねうね、と身をくねらせながら目の角度を変えて二人をじっくりと観察している。

「どうする、薙ぎ払うか?」

 なにがしかの情報を取られているかもしれないが、トラップである可能性もある。一応指示を仰ぐが、立香も迂闊なことは避けたい。

 が、迷っている間に役割を終えたように触手たちはさっと離れ、その根元へ縮んで壁や床に吸い込まれていった。

「慎重に行こう。ダ・ヴィンチちゃんはああ言ったけど、サーヴァントとマスターが生還出来る保証はない」

 その通りである。一定の魔力に反応する罠ならば、一般人は避けるだろう。この少年の、年齢に見合わない経験に感心して、ゼノビアは視線を向けた。

 これまた、目である。違うのは、その左右から翼が生えていることだ。

「ようこそ、私の体内へ」

 男の声がした。一応、情報収集で聞いている。これからルール説明があるのだと。

「構えることはない。ちょっとしたゲームをするだけだ。挑戦するのは女性だけ。君は見ているだけだ。まあ、応援くらいは許可しよう。但し、その令呪とかいうやつを使うと反則負けにしよう。その場合は生かして帰さないからそのつもりで」

 緊張感が一気に膨れ上がった。令呪という言葉は、聖杯を偶然見つけた一般人には知り得ない情報だ。

「いや、さっき見たからね。分析情報だけだよ。ええっと、まじゅつし? というのかな。そういうのはちょっと判らない。まあ、気楽に挑んでくれよ。反則負け以外はそこの女の人がギブアップを宣言するまで終わらないし、別にギブアップしてくれてもその状態のまま帰すだけだから」

 二人とも、まったく安心してはいない。

 経験で判るのだ。こういう説明は必ず罠があると。

「その状態のままっていうのはどういうこと? それに、俺のギブアップは意味がない?」

「ああ、賢い人だね。でも残念。質問は一切受け付けない。嫌ならこのまま帰ってもいいよ。入口は開けてやる。

 でも挑むんなら、君はこっちに来てくれなきゃダメだ」

 ぐにゃり、とすぐ傍の床が変形した。

 まるで鳥かごである。格子状の囲いが口を開けている。

「マスター、いけない。お前がそんな危険を負うことはない」

 ゼノビアが押し止めるが、声は言った。

「心配は要らんさ。見物人に余計な手出しをさせないための配慮だ。大変なのはむしろ君だ。なにせこの塔を登るのは君一人なんだからね」

「なんだと?」

 きっと、目を睨むが、おそらくただのカメラとマイクに過ぎないそれは微動だにしない。

「整理しよう」

 立香がゼノビアを振り返る。その表情は、覚悟を決めている者のそれであった。

「塔の攻略はゼノビアさんが。俺は令呪も含めて手出しが出来ない。棄権は俺ではなくゼノビアさんの意思でのみ受け付ける。通信は不安定で、ここは隔離された空間だから、多分向こうのルールに則らないとなにも出来なくなる」

 年若だが、幾つもの死線を潜ってきただけあって、情報の整理が上手い。ゼノビアは口を挟まずに理解に努めている。

「途中棄権がありなら、一旦撤退して再挑戦も視野に入れてもいいところだけど、ゼノビアさん、残念だけどそれは考えない方がいいと思う」

「ほう、何故?」

 ゼノビアにも察しはついている。が、敢えて立香に説明を促した。

「ギブアップした時は、その状態のまま帰すってことだから、仮に宝具を失ったとしたら、ここを攻略するまで取り返せない状態になると見ていいと思う。宝具だけじゃなく、体の一部や英霊を構成する逸話や概念のようなものを取り上げられてもそうだと思う」

 つまり、再挑戦は間違いなく初回よりも戦力低下の著しい状態であるということだ。

「欠損があってからじゃ、多分遅い。遅効性の毒のようなものを受けた後だったりすると、もうキツい。言いにくいけど・・・・・・」

「攻略する以上、出来なければ死ぬつもりでいろと、そういうことだな、マスター?」

 気まずそうに、少年は頷いた。こういう時、誰の心が一番重いのか、ゼノビアは判っている。

「そんな顔をするな。いつも通り、お前は私の勝利を信じてくれればいい」

 ゼノビアは口を挟まず眺めていたメッセンジャーを振り返り、

「私が斃れた時、マスターはどうなる」

「用はないからね。外に放り出してあげるよ。でもまあ、大丈夫だと思うよ。ここは頑張り過ぎても死ぬことはないから。命の保証はする」

 さらりと言った様子からは、嘘は感じられない。もっとも、なにを目的にしているのかも判らないのだから微塵も安心は出来ないのだが。

「じゃあ、頑張って」

 格子の中に入る立香。錠が下りるような耳障りな音の直後、籠は上へと向かった。

「さ、君はこっちだ」

 メッセンジャーが羽ばたいて、壁に向かった。ぐにゃり、と壁が歪み、小さく穴が空いた。

「ここを通るのか?」

「健闘を祈るよ。こうして口出しはするけど、その言葉を信じるかどうかは君次第だ」

 這って通れる程度の小さな穴だ。ゼノビアは腹這いになり、肘と膝を使ってその穴を通る。

「ん・・・・・・く、う・・・・・・!」

 ぐにゃりとした不快な感触が、剥き出しの腹や腕から伝わってくる。暗く狭い穴は視界が完全に闇に閉ざされ、鼻の先になにかがあっても察知できない。

 しかしそれよりも不快なのは、なにやらこの穴を構成する床壁天井から、粘液が垂れ落ちているということだった。

「はい、もうちょっと頑張って。もうすぐ出口だよ」

 奥から声が聞こえる。メッセンジャーは別のルートで先へ進んでいたものらしい。

 灯りが見えてきた。穴から這い出ると、そこには壁があった。

「う、くう・・・・・・!」

 首から下が、粘液で濡れている。体にまとわりつくような感触は、肌をぞわぞわさせるほどに不快だったが、ゼノビアが思わず呻いたのは衣服の乱れだった。

 黒い乳帯がズレていた。両手でまろび出そうな乳房を覆い、乱れを正す。下も、布地が尻の割れ目に食い込んでいたから、壁を背にして両手の人差し指で直す。

 格好に見合わない真っ当な羞恥心の持ち主だから、その様子は丹念だった。

「う~ん、なかなかそそるね。そんな痴女みたいな格好なのに、恥ずかしがりやだね」

 声を無視して、前の壁を見た。

 目線ほどの高さに文字が書いてあり、ボタンが三つある。

『上が好き?』

『下が好き?』

『それとも薄く満遍なく?』

 非常に嫌な予感のする組み合わせだった。

「さ、どれか選んで。選ばないと次は進めないよ?」

「マスター」

 振り返って、気がついた。いつも傍らで自分の勝利を願い、的確な指示を出していた男は居ないのだ。たとえ的確でないにしても、彼の指示であるならその後がどうなっても納得できたのに。

(私は、いつから・・・・・・)

 王ならば、自分の意思は自分で決めるべきだ。当然、その後に起こるであろう全ての事象の責任は自分にある。それが、ゼノビアにとっては当たり前だった。

 それが、いつからこうなったのか。そしてその変容を、堕落でも逃避でも、況してや敗北でもなく、信頼だと素直に受け取れるようになったのはいったいつからだったのか。

「見ているのだ、マスター。お前が居なくとも私は勝利を手にする。お前の信じる勝利は私が全身でつかみ取るものだ。なにも、案じることはないのだ」

 ポチ、と躊躇なく三つ目のボタンを押した。

 相変わらず嫌な感触だった。柔らかさの中に硬さが内包されているような、こんな感触を、知っているような気がした。

「へえ、三つ目か。ま、一番多い択だね」

 当然である。三つ目だけが、抽象的だが説明に多く文字を使っている。そこからなにか連想し得るのは三つ目だけだし、連想を証明できる事柄が多いのも三つ目だけなのだ。

 ぐにゃり、とゼノビアの足元の肉が蠢いた。

「反撃しちゃダメだよ。それへの攻撃は全部、君の相棒に跳ね返るからね」

 反射で薙ぎ払おうと考えた瞬間、絶望的な言葉に体が硬直した。

 足元の肉は細い触手を数本ゼノビアに向かって伸ばし、足に巻き付きながら登っていく。

「く・・・・・・!」

 体の表面にへばりついた粘液を辿るように、或いは泳ぐようにしてしゅるしゅると巻き付いていく。

「なにを・・・・・・!」

 している、と声を張り上げたが虚しい。触手は意思をまるで感じさせないくせに生き物のように蠢いている。

 不快な感触だった。触手の表面はつるつるとして、それでいて弾力がある。ボタンと同じような食感だが、それが線の感触で皮膚にまとわりつくのは不快だった。

 が、それだけではない。こそばゆい。決して皮膚を圧迫せず、表面をなぞるだけの細やかな動きは、したくもない笑いが込み上げてくるほどにくすぐったい。

 ゼノビアの体のラインに沿って絡みついた触手は、奇妙なことに乳房と尻を避けている。二本が脇を通って肩へ、細い二本が谷間を通って喉元からうなじへと。尻はきゅっと吊り上がった形のよいヒップラインを避けて腰に向かっている。

 その避け方が如何にもいやらしく、嫌悪感が込み上げてくる。

「はいはい、じっとしててね。すぐ終わるから」

 もしも、一番目と二番目ならばこれが上半身か下半身かに集中したのだろう。この選択が正しかったのかどうかは、こうなった後のゼノビアにも判らない。

「おい、これはいったい、なにをしている・・・・・・?」

 不快な口出しをする目玉を睨みつけた。メッセンジャーは変えるほどの表情もないが、抑揚が肩を竦めるような様子で、

「全身マッサージ? 硬い体を解そうかな、って」

「ふざけるな」

 軽口は、好きではない。特に信頼を置いていない相手からのそれは、不快なだけである。眉根の寄った険しい表情に、更に呆れたように目玉は言った。

「ふざけちゃいないよ。何事も前置きが大事だ。丁寧にやっておくと、盛り上がったところが更に活きる」

 その言葉の終わらぬうちに、役目を終えたように触手が引っ込んでいく。

 目の前の壁が歪み、ゼノビアの身長ほどの穴を空けた。

「さ、どうぞ?」

 言われる前に、ゼノビアは進んでいた。

 嫌な感覚だったからだ。

(これは知っている。この、怖気の走る感覚は・・・・・・)

 嬲る者の意思だった。

 絶対的優位に立った者が、もう覆せない不利のために跪くしかない者をじわじわと苦しめる意思。肉体的な苦痛よりも精神的な痛打を与え、尊厳を踏みにじる行為。

 それを、このメッセンジャーと触手から感じた。

(なるほど、私は適任だな)

 この機会に、寧ろ感謝したくなった。

 なにをされてもこの心は折れぬのだと。恐怖に跪くゼノビアは、この世にもう居ないのだと証明するには絶好の機会ではないか。

「マスター。一時も目を離すな。お前の従える女王は、決して折れぬところを見せる」

 歩みに力が入る。その様子に、メッセンジャーは感心したように言った。

「凄いね。怯まないどころか勇むのは初めて見た。これからも楽しみだ」

 無視して次の間に進む。

 穴を潜って次の間に入った瞬間、穴は閉じた。ここでギブアップを宣言すれば容易く開くのだろうから然程でもないが、やはり目に見えて退路が閉じるのはプレッシャーだった。

 が、後ろよりも前を見るべきだろう。そうして見上げたフロアは、広くも狭い様子だった。

「これは・・・・・・」

 迷宮、とさえ思った。

 見上げられるほどに天井は高く、しかし無数の壁と床が見えた。目の前には天井のない通路。その遮蔽物のどれも壁と同じく生き物の内臓のようなピンク色で、触手と同じように呼吸するように蠢いている。

「ズルはダメだからね。ちゃんと順路通りに進んで。間違えても戻ることは出来るよ。時間制限もないから、たっぷり楽しんでね」

 ゼノビアは花で出来た迷路を思い出した。多少立体的だが、その類であろう。もしくは巴御前辺りが言っていたゲームの方が近いか。

「どる、あが? カイ? 確かそんなことを言っていたな。踏破すればいいのか?」

「そう。ゴールに辿り着いたらクリアさ」

 単純でいい。別に頭を使うのが苦手なわけではないが、不明瞭な文章であれこれと推察させられるよりは楽だ。

 一歩踏み出して進む。壁は案内するように曲がっている。順路通りに進み、分かれ道へ出た。この中から選ぶ基準は自分の中に幾つかあるが、それよりも、

(なんだ、この匂いは・・・・・・)

 少し甘ったるいような匂いが、このフロアに進んだ時からしていた。

 不快ではない。花の香りのように、体が拒否を示すようなものではないのだが、鼻腔に吸い込むと頭の芯が柔らかくなるような感覚がした。

(幻覚剤の類か? いや、意識ははっきりしている。少し、酔うような・・・・・・)

 酒に似ているのかもしれない。もしそうならあまり吸引するのは悪手だろう。極力息を止めて進むことにした。

 まずは壁に沿って左へ。床に穴が空いている。穴の中心に細い触手が向こう岸にまで通っていた。

「飛び越えるのはなしね。ああ、あと結構脆いからね。衝撃を与えると千切れるよ」

 やり方まで指定されるのは気分が良くないが、従うしかない。

 衝撃に弱いのだからこの上を走るのも良くないだろう。触手を両手で掴んで、両脚で挟み込む。消防などのロープ渡りで進もうとしたが、

「っ!?」

 パッ、と体勢を戻す。床を引っ掴んで上がり、元の位置に戻った。

「これは・・・・・・」

 粘液が分泌されている。毒性の有無が判らないから、滑るよりも、体にあまり浴びないことを考えた方がいいかもしれない。

「下はクッションみたいに柔らかくしてあるから落ちても大丈夫だよ。ちょっと遠回りしてもらうけどね」

 舌打ちをしたのは、最も気に掛かる粘液の正体についてはなにも言わないからだ。

 仕方なく、触手を跨ぎ、足に絡めながら上体を寝かせ、這うようにして進むことにした。

「賢明だね。それなら簡単には落ちないし粘液がへばりつく体積も減らせる」

 ただ、バランスがとりづらい。ゆっくりと進んだ。

「う、く・・・・・・」

 谷間に挟んだ触手が擦れる。黒い下着の、三角の部分に押し当てられるのが不快だった。こんな体勢だから、上から見下ろすメッセンジャーに尻を曝してしまうのが恥ずかしくて堪らない。

 自然と呼吸が荒くなる。何とも言えない違和感の抱いたまま、対岸に辿り着いた。

(これ、は・・・・・・?)

 皮膚の感覚が、少しおかしい。いやに敏感な気がする。同時に体温が少し高くなっており、うずうずとしたなにかが体の奥で芽生えてきているのを感じた。

(まずい、これは・・・・・・)

 唇を噛んだ。その痛みで正気を保とうとした。

 体にへばりついた粘液の感触は相変わらずおぞましいが、皮膚の上を滑り落ちていく感覚は時折背筋に甘い電流が走る。くすぐったさと紙一重のこの感覚は、入念な愛撫を受けた時に似ている。

「さあ、次へ進もうか」

 ゼノビアの変化に気がついているであろう白々しい声色で、メッセンジャーは言った。

「判っている!」

 苛立ちながら前を向いた。この変化を、おそらくは見させられているであろう己が主には気がつかれたくない。

 なるべく平静を装って歩を進めるが、ゼノビアは気がついている。

 薄い黒い下着、まるで水着のようなそれを浮き上がらせるほど、乳首が屹立しているのを。尻に食い込みそうな下着のクロッチの部分に、別の粘液の湿り気を感じることを。

(この香り、そしてこの粘液、おそらくどちらもがそうなのだ。女を惑わす成分がある)

 古来より、人買いや好色な王が、抵抗の余地を失った女たちに投与し、己の欲望を満たすために使用した薬がある。現代医学では、それを媚薬と定義する。正確には幻覚剤や麻薬の類なのだが、効能は似たようなものである。

 意識を溶かさない程度の微弱な効能が、ゼノビアを取り巻く現在の環境に散布されているのであろう。思えばこの、単一色の肉壁も、認識がぼやける代わり映えのない景色だ。

(気を強く保て! この程度の幻惑に・・・・・・!)

 そんなことに気を取られた所為だろうか。不意に、床が崩れた。

 いつものゼノビアなら、いやサーヴァントの反応速度ならすぐさま飛び退いたろう。しかし自らの体の変化、そしてそれによって生じるであろう恥辱に敵愾心を燃やした結果、罠に対する感度が鈍った。

 ゼノビアは落ちていった。底も見えない闇へ。

「あぶ・・・・・・!」

 危険を知らせようとゼノビアの主である少年が、肉壁に生じたスクリーンに向かって叫ぶも、無意味である。そこで映像が切り替わる。

 翼の生えた目玉のメッセンジャーも、落下する人体に追いつけるほど早くは動けないのだろう。真っ暗な部屋が映し出された。

 構造は同じだ。ピンク色の肉壁が床と壁と天井を形成し、その中へ、ゼノビアは落ちた。

「くっ・・・・・・!」

 足を下に、直下で落ちた。が、痛みはなかった。柔らかな肉壁がスライムのように変形してゼノビアを受け止め、腰から下が完全に埋没したものの負傷はない。

 が、身動きが取れない。柔らかく自身の体重と落下速度を受け止めたにも関わらず、肉の床はがっちりと腰を掴んで離れない。脚も、肉に埋もれてしまったようで動かせない。

 まるで底なし沼である。なんとか打開を探ろうと首を動かした瞬間、いくつもの触手が群がった。

「なにを・・・・・・!」

 自由になる両手と魔力を総動員して反撃。サーヴァントの能力ならば難しくはない。なんとか自由な両手で払いのけると触手の先端は焦げて引き千切られ、腕の届く範囲から侵入できない。

 が、如何に英霊でも背中に目はない。矢の十本程度ならばそれでも対処可能だが、百本近い細かな触手にはさすがに後れを取った。

「くっ・・・・・・!」

 両腕を取られた。絡みつかれてぐるぐる巻きになった両手を強制的に天へと。手のひらを上に拘束されたゼノビアに、触手が群がった。

(やはり、こういう罠か・・・・・・!)

 触手は、器用に下着をズラしていく。谷間の紐に一本がフックのように引っ掛かり、それを勢いよく持ち上げる。

 豊満な釣り鐘型の乳房が、ぶるん、とまろび出た。

 本人にその自覚はまるでないが、乳房の大きさも形も、ウエストの引き締まりも尻の形も、全身がスーパーモデルのよう。

そのうえ他の過ぎるほどに剛毅な英霊たちに比べれば人並みな羞恥心を持っているから、乳房が露わになった瞬間、予見していたというのに顔が爆ぜたように真っ赤になった。

 それがあまりにも愛らしく、美しく、指一本手出しできない状況の立香が思わず鼻血を噴きそうになった。

「やってみろ! 私は、辱めには屈しない・・・・・・!」

 陳腐な台詞だが、聖杯に懸けるほどの意思である。この啖呵には半生を込めている。

 もっとも、触手に意思はないのか、まったく意に介さず乳房に絡みついた。

 二本の触手が乳房を逃がさぬよう、その形をより明確にさせるよう、とぐろを巻いて絡んでいく。形を整えるためなのか、半分ほどで止まり、同時に少し蠢いて、揉むように締め付けを調整する。

「ふ、う・・・・・・っ、く・・・・・・!」

 奥歯を噛んだのは、不快だからではなかった。

 最早隠すことも叶わないが、陶器のように白い肌にほんのりと浮かぶ汗と、その頂点でツンと尖っているピンク色の突起。それは確実に、この体が情欲に昂っている証左だった。

「なん、の・・・・・・!」

 これしき、と逃げそうになる五体を抑えつけた。抵抗はこれを見ている者を喜ばせるだけだ。真っ向から受け切って耐えきってこそ、尊厳は守られる。

 ふう、と一旦深呼吸。もう一度、潜水するように大きく息を吸い込んで、他の触手を睨みつけた。

 くるなら、こい、と。

 そして突起に襲い来る触手を見つけ、不敵に笑ってみせた。

 触手は先端を花のように開き、おしべやめしべのように細い触手を何本も伸ばしてきた。

「な、に・・・・・・?」

 予想とは少し違ったらしい。ゼノビアが一瞬戸惑うと、その直後、

「ふ、う・・・・・・!?」

 硬く屹立した乳首に、その細い触手が先端を当てて群がって、ゆっくりと回転した。

 予想していたものとはまったく違う、くすぐったさと紙一重の繊細な快感。柔らかく細いものが触れるか触れないかで敏感な粘膜を撫でている。

 拒むために、自分の中に快感だけは通さないフィルターを精神に拵えてみても、その隙間を縫うが如くにすり抜けていく快さ。

 乳首の先端から、粒子のように細かな快感が胸に向かって駆けていく。それらが集まって、背中を通って頭と下腹部へ流れゆく。

「ん・・・・・・ふぁ、あ・・・・・・くっ、く、ん・・・・・・あ・・・・・・っ」

 堪えても堪え切れない甘い声。喉を締めても奥歯を噛んでも、どうしても漏れてしまう上擦った声が、精神を削っていく。

 細く小さな快感の刃が、頭の深部へ刺さっていく感覚。凌辱や強姦といった語感とはあまりにそぐわない優しい快感に、ゼノビアの脳が一瞬混乱した。

 本当にこれは強制的なのか。辱めなのか。意地悪な恋人が甘く責めているだけではないのか。蕩けてしまうほどの甘い快感に、ゼノビアの腰が跳ねた。

 触手は乳首をゆっくりと愛撫している。決して強くない。緩慢に、優しく、少し物足りないくらいに。

「あ、くぁ・・・・・・あ、あく、んっ・・・・・・ふ、ひ、ぃ・・・・・・」

 抵抗の意思がはぐらかされる気がした。抗うのが馬鹿らしいとさえ思った。

 そして、肉に埋もれた下半身の、その芯の部分。自分さえきちんと直視したことのない割れ目から、熱い蜜が零れそうになっているのを自覚した。

「っ・・・・・・!」

 自覚した瞬間、ゼノビアは醒めた。蕩けている場合ではない。如何に強制的に発情させられようと、予想を外した快感であろうと、屈してはいけない。

 この甘い時間が百年続けよという弱い意識を自分の中から追い出して、回転する触手を睨む。

「う~ん、やっぱりいいね。意思の強い女性は素敵だ」

 どこかから、メッセンジャーの声がする。

 他人の視線を意識した瞬間、力が抜けていた背筋がぴん、と伸び、胸を張る。この姿勢こそ、誇り高い女王に相応しい。たとえどんな状況でも、乙女のように萎れてはいけない。

 触手が引いた。細い触手は花弁の中に埋もれ、役目を終えたように引っ込んでいく。

(みたか、これこそ王の・・・・・・)

 鼻で笑って勝ち誇ろうとした瞬間、別の触手が脇から伸びてきた。決して逃さぬよう、背中から回り込んだ触手は先程のものと同じように、先端を開いた。

「くっ、なんだそれは・・・・・・!」

 その断面に、思わず息を呑んだ。

 花弁が開くように四枚に分かれた触手の先端。その内側には、細かな肉の粒が無数に浮かんでいて、粘液がトロトロと溢れている。

 ゼノビアの生娘のような認識には想像もつかないが、そういう性癖にも触れた経験のある立香には判った。どのようにして使うものなのか。

「よく、考えつく・・・・・・!」

 女を嬲る算段がよくぞこれほど、とゼノビアが呆れると同時に、触手が乳房に食らいついた。

 柔らかな乳房は押し当てられる触手の圧力に形を変え、先細りながらも内側の肉のままに張り詰めて。ひどく淫靡な光景だった。

「うふあっ、ああ・・・・・・!」

 ゼノビアはそれどころではない。

 硬く屹立した乳首が柔らかな肉のコブに撫で回され、転がされ、すり潰される。先程とはまったく違う暴力的な快感に、思わず全身がビクンビクンと跳ね回った。

「こ、の・・・・・・変態め・・・・・・!」

 意思に反して、体には力が入らない。全身の筋肉が甘く弛緩して、更にそこに快感の電流が流れるから随意筋を動かす信号に届かない。況してや、触手と肉壁の拘束を解くなど及びもつかない。

「く、うう・・・・・・!」

 絶え間なく、乳首から流れていく甘い電流。敏感になった粘膜を相手に、決して痛みを与えない極上の力加減で、刺激を一定化させずに責めてくる。

(これでは、どんな女でも・・・・・・!)

 耐えられないだろう。況してや愛する人を迎え入れた経験のある体ならば、こうまで悦ばせ方を熟知している手管には逆らえない。

「ふぁ・・・・・・あ、あん・・・・・・!」

 ここで、声音に変化が訪れた。

 喉奥で殺しても殺し切れない搾り出した悲鳴ではなく、甘く蕩けた女のそれ。責め手に媚びる色さえ含んだその音色は、正に嬌声であった。

「おや、もう堕ちたのか。意外に早いなあ」

 メッセンジャーの声も聞こえていない。ゼノビアは先刻までが嘘のように、

「んあ、あ・・・・・・あく、ん、ん、あふぁ・・・・・・ああ!」

 しかし元来が向いていないのだろう。多少のぎこちなさのある哭き方だった。

「違う・・・・・・!」

 思わず呟いたのは、見ているだけのマスターであった。手出しの出来ない状況だから、信じる以外にしようはなく、そしてそういうことをやらせたら右に出る者の居ない男である。

 が、無論そんなことは触手には関係ない。

「んふぁ、あ、ああ・・・・・・あっ、い、いい・・・・・・気持ちいい・・・・・・ちくび、もっと・・・・・・!」

 生物の舌よりも細かな凹凸を蓄え、特性の粘液を滴らせる触手が、乳首を舐めしゃぶる。そればかりか、正に口に等しい機能を持っているように空気を吸い、乳輪ごと乳房を啜って柔らかな肉を揺らす。

「そ、れ・・・・・・! す、好きな・・・・・・やつ・・・・・・うくっ、くっ・・・・・・!」

 ゼノビアが頭を逸らせ、ねだるように背中を伸ばして胸を強調する。ぶるん、と重たげに揺れる乳房を覆う触手は、喜ぶように愛撫を激しくしていく。

「あ、ああ・・・・・・あ、あっ、あ・・・・・・!」

 頭にピンク色の霞が掛かっていく。蓄積された快感の爆発に体が無意識に備えて、全身の筋肉が硬直していく。

 その動きが、触手にも判ったのだろう。

「・・・・・・え・・・・・・?」

 しゅるしゅる、と潮が引くような速さと鮮やかさで触手が引っ込んでいく。埋没していた下半身も肉の床が下がって露わになっていった。

「別にご褒美じゃないんだから、簡単にイカセるわけないじゃない」

 メッセンジャーが言うと、ゼノビアは鼻で笑った。

「どこまでも下衆な。こうして嬲られた女たちがどれだけ居たのか、生半な仕置きでは済まさぬぞ」

 腕を振るって、全身にまとわりつく粘液を払う。前屈みになって、ずり上げられた下着を戻していく。

「あれ・・・・・・?」

「呆けるな。早く道を開けろ。マスターの元へ急いでいる」

 その迫力に気圧されたように、肉の壁が穴を作った。

「ねえ、堕ちたんじゃないの?」

 メッセンジャーが寄ってきた。蠅を追うように鬱陶しげに手で払いながら、

「女を支配したがる男はいつも浅はかだ。耐えるだけが工夫ではない」

 さっさと進んでいく。

 抵抗は、男を喜ばせる。そしてその抵抗を上回るのならばいっそ受け入れて流せばいい。心や意思の大切なところだけを硬く秘めて、表層の部分を明け渡せば勝手に敵が緩む。

 あとは隙を突けばいい。ゼノビアは単なる戦士でも、負け知らずの王ではない。一度破滅しているが故に、そのしたたかさは並大抵でない。

(しかし・・・・・・いやらしい・・・・・・)

 ふう、と息を吐きながら思った。

 乳首で絶頂しかけたのは本当である。体が甘い快感の爆発に期待していたのも真実だし、それをお預けされた体が疼くのも当然であった。

 今も、黒い下着に包まれながらも隠しようもなく勃起して形を浮き彫りにしているし、鼓動のたびに刺激を求めて疼いている。下半身も同様に、太ももにまで垂れた蜜がテラテラと光っている。

 メッセンジャーにもそれが判った。注意深く観察すればゼノビアのそれがやせ我慢だということがよく判る。映し出されたその様子を見てほくそ笑む。

「これは・・・・・・」

 次は、肉のプールであった。

 対岸は五十メートルほど先。さすがに一足で飛び越えるのは難しい。出来なくはないが、この甘い痺れの残った下半身でどこまで行けるか判らない。

「ここを泳げということか」

「いいや、水と違って抵抗があるからね。溺れ死なれても困る。これを使いなよ」

 板が用意されていた。これをビート板にして進めということか。

「泳げたらね」

 意味深に笑う目玉を敢えて無視して、板を浮かべ、そこに飛び込む。

 柔らかな肉の海はあっという間にゼノビアの胸までも飲み込んでしまい、なんとか浮かべた板にしがみつく。

「・・・・・・なるほど。手で漕げということか。しかしこの程度・・・・・・」

 如何に固体でも、豆腐のように柔らかいのなら蹴って進めないことはない。脚に力を入れようとして、気がついた。

 下半身の感覚がない。正確には、肉に埋まった箇所が完全に麻痺していた。

「はい、慌てない。大丈夫、ちょっと感覚を遮断してるだけだから、なくなったりしてないよ。ほら、見てみなよ」

 メッセンジャーが板のように平べったい肉を手に目の前に降りてきて、それを広げた。すると映し出されたのは、肉に埋もれたゼノビアの下半身であった。

「これからなにをされているのか、じっくり見ながら向こうまで辿り着いてみようか。心が折れたら言ってね」

 悪趣味な、と奥歯を噛みながら手で漕ぎ出そうとした瞬間、映像の中の下半身に触手が群がってきた。

「なに・・・・・・!」

 抵抗など、出来るわけがない。感覚がないのだから力を入れてみてもうまく入らない。龍動物に近い肉が絡みついているから動く隙間もない。

 それを縫うように無数の触手が脚に群がり、あっという間に秘裂を掻き分けていった。

「貴様・・・・・・!」

「どんなふうにマンコを弄ばれてるのかもたっぷり見せてあげるよ。あ、こっちは肛門ね」

 同じように平べったい肉が目の前に現れ、そこに内視鏡のようにゼノビアの膣と直腸が映し出された。

 思わず顔が熱くなる。潰してやろうと手を伸ばすが、届くわけもない。

「ほらほら、進まないと終わらないよ? 心が折れるか泳ぎ切るまで続くからね」

 く、と奥歯を噛んでみても、言う通りである。早く終わらせたいなら早く辿り着くしかない。全身が沈まないよう板にしっかりとしがみつきながら右手で漕いでみる。

 一漕ぎで二ミリ程度は進むだろうか。五十メートルとなると気が遠くなる。

「いやあ、直腸はさすがに触手の粘液がないとダメだけど、膣はすごくスムーズだね。もうグチョグチョじゃないか」

 意識しないようにしてみても、目の前で見せつけられるからどうしても視界に入る。

 映像は音すらも発している。触手の粘液とゼノビアの愛液が攪拌されるいやらしい音が、塞げない耳から強制的に入ってくる。

「寸止めされてたから仕方ないよね。もし感覚遮断されてなかったら、イケてたかも?」

 彼女はアーチャーである。やろうと思えばメッセンジャーも撃ち抜けないことはないが、この先のことを考えて温存しているだけで、それをしないということはまだ精神の耐久値が限界を超えていないことを示している。

「ちょっと残念? これ、感覚が残ってたらすごかったろうね」

 思わず、画面を見てしまった。

 ピンク色の美しい膣壁に、紫色の触手が何本も侵入していて気持ち悪い。これが自身の胎内でリアルタイムで起こっているかと思うと吐きそうになるが、同時にその動きのいやらしさもはっきりと判る。

 うねうね、と柔らかく蠢く触手が決して膣を傷つけないよう優しくくねり、膣壁を撫でる。肉棒ならば太い一本だから、どんなに長かろうが太かろうが、触れない場所というものがある。

 しかし触手はそんな隙間を許さぬとばかりにうねって、膣から得られるであろう快感を引き出すべく縦横無尽に体をくねらせている。

「ああ、言い忘れてた。この子たちも気持ちいいとかあるからね。あんまりゆっくりしてると・・・・・・」

 なにか、言おうとしたところで変化があった。

 触手の何本かが、その先端から粘液を吐き出してしまった。

「あ、言わんこっちゃない。ちゃんと改造してあるからね、人間でも妊娠するよ?」

 全ての思考を置き去りにする嫌悪感が全身に走った。もう悠長なことは言っていられない。映像では粘液を吐き出し終えた触手が下がり、代わりの触手が膣内に侵入したところだが、構っていられない。

 両手に魔力を込めて必死に肉の海を泳ぐ。

 それほど長くは掛かるまい。しかしその間も、粘液をかき混ぜる、肉同士が悦び合う音が聞こえてくる。

「あ、六本目だ。普通の女の子ならだいたい三十本分くらいはここで足止めされるかな。まあ大抵ここでギブアップするんだけど」

 耳障りな軽口にも付き合わない。ひたすらに漕いで、ようやく対岸に手が届いた。

「おお、九本目でフィニッシュか。さすが古の英霊。人間とは格が違う」

 白々しく誉めそやす声を無視して岸に上がる。両手でぐっと肉の床を掴み、下半身を引き上げる。

「ま、見物はこれからなんだけどね」

「なに・・・・・・あぐう!」

 粘液をたっぷりとまとった下半身が肉の海から引き上げられた直後、ゼノビアを襲う強烈な快感。脳を焼くような強すぎる快感に一瞬意識を持っていかれそうになったが、なんとか腕に力を入れて引き上げる。

「おお! さすが! 普通ならここでもう一回沈んで、もう浮き上がれないんだけどね」

 なんとか這い上がったゼノビアだったが、そこが限界だった。

 本来、自身が肉の海で味わっていたであろう快感が一気に流れ込んだ。余程触手の愛撫は執拗且つ的確だったのだろう。意識を失いかけたゼノビアが数えられただけで四回は同時絶頂してしまった。

「おご、おお・・・・・・! おぐ、ぐくう・・・・・・! んごおお・・・・・・!」

 上半身を床に突っ伏し、白目を剥きながら爪を立てる。痛みでもなければこの強烈な快感に抗えないが、その程度の痛みはもう意識の表層に登ることすらない。圧倒的な快感にあっさりと流され、膝を立てて腰を持ち上げた下半身からは吐き出された粘液が噴いている。

「あはは! 水柱だ! いや、粘液だから、なんて言うべきだろうかねえ!」

 心底おかしそうにメッセンジャーが笑う。勿論、この光景をマスターも見せられているのだろうが、そこのことを意識する余裕はない。

「ふぐお、お、おぐう・・・・・・! んふ、ふー、ふ、くふぃ、あ、あが、げひい・・・・・・!」

 なんとか窒息しないよう、呼吸するのでせいいっぱいである。

 全身を貫く快感の電流に、筋肉が硬直し切ってしまわないよう必死である。半面下半身は力が入らず、膣から逆流してきた粘液が噴き上がって、無様な水たまりを作っている。

「芸術的なアーチだ。審査員が居たらみんな十点をつけてくれたね!」

 空気も、大量に入っていたのだろう。放屁のような音がゼノビアの膣から断続的に聞こえ、そこに水音が混ざるから、女の尊厳を叩き壊すに相応しい下品な音色が響き渡った。

「いやあ、演奏までしてくれるなんて、なんて気が利いてるんだろう。あ、妊娠ってのは嘘だよ。ちょっとしたジョーク」

 ゼノビアには、もう届いていない。途切れそうなか細い息で、この拷問のような快感が引くのを待つしかない。

「そんなに暴れると怪我をするよ」

 ゼノビアに宛てたものではない声で、正気に戻った。

 あの少年が自分の惨状に憤ってくれているのだろう。自分を信じてくれている少年の顔が浮かんで、ゼノビアは体を持ち上がらせた。

「ま、マスター・・・・・・心配は、要らぬ・・・・・・私は、まだやれる。それよりも身を大事に、するのだ・・・・・・共に勝利を喜ぶ前に、怪我はつまらない・・・・・・」

 起き上がり、自由にならない下半身を下に、座り直して深呼吸をしてみる。

 快感は、まだ引いていない。ただ副交感神経を優先にして、少しでも楽に受け取れる態勢を探す。

 その間も、膣からは存分に叩き込まれたであろう粘液が逆流して、ぶぴ、ぶぴ、と断続的に嫌な音をたてている。

 十数分程度で、なんとか立ち上がる。下半身が甘く痺れているが、この先もなにが待っているのか判らない。これ以上休むともう立ち上がれない気がして、なんとか進んだ。

「へっぴり腰だなあ。そんなんで大丈夫?」

 壁に手をつき、腰を引いた無様な体勢で進んでいく。そして大きなフロアへ出た。

「頑張ったねえ。それじゃご褒美タイム。今度は反撃だよ、溜まった鬱憤をぶつけよう」

 肉の壁と床と天井の、もう見慣れてしまった光景だが、似つかわしくないものがある。

 プラスチック製のタンクらしい。目盛りが刻まれていて、どうやら五リットルまで入るらしい。

「これを満杯にして。制限時間は一時間。頑張れ」

 メッセンジャーがそう告げるなり、床から壁から天井からと、無数の触手が伸びてきた。それらはゼノビアに絡まることはなく、見守るように取り巻いて止まった。

「・・・・・・まさか!」

 と、ゼノビアは思い至った。顔面が蒼白になっている。

「勘が良いねえ。その通り。触手の吐き出す粘液でそのタンクをいっぱいに出来たら次に進めるよ。一時間を過ぎたら最初からやり直し。終わるまでここからは出られないのでよろしく」

 タンクが、ゼノビアの足元に運ばれる。触手は、ふよふよと漂って自分からは襲ってこない。

(・・・・・・なんとおぞましい嗜好か。本当にマスターと同じ性別の者が考えつくことなのか?)

 ちょっと信じられない気分だったが、深呼吸した。まずは調べることからだ。

 触手が粘液を吐く条件を調べなければ。手近な触手を握って手元へ止せ、いじってみる。

「う・・・・・・無駄に弾力が・・・・・・」

 予想はしていたが、つるつるとした触感の奥に肉の詰まった弾力があり、指で押せば柔らかくもある。この感触は正に、怒張した肉棒そのものだった。

 が、機能までそうとは限らない。牛の乳しぼりのように握りを変えて搾ってみるが、反応はない。諦めて、この形状と質感に似つかわしい愛撫をしてみると、五分ほどで粘液を吐いた。

「・・・・・・やはり、男のものを模しているということか・・・・・・下衆な・・・・・・」

 吐き出した粘液を、足元のタンクを引き寄せて集める。二十ミリリットルというところだろうか。これを五リットルとは、正に果てしもない気がした。

「その子たちは自分からは特になんにもしないからね、次々来て欲しかったら誘うことだね」

 吐き気のする趣向だ。こんなおぞましいものに怖気の走ることをしなければならないのに、口だけでも自分の意思で行わなければならないとは、ディテールの凝った凌辱である。

「グズグズするな、次」

 粘液を放った触手を離し、周りに群がる触手を指で招く。

 そこは女王である。意思があるわけでもなかろうが、威厳に惹かれたように何本かの触手がゼノビアの両手に集まった。

 そのうちの一本ずつを手で握り、扱いていく。

「それもいいけどね、マニアックな好みの子だと寄ってくるだろうけどね、もっとアピールしないと集まってこないんじゃないかなあ?」

 くっ、と奥歯を噛みながら蹲踞の姿勢になり、ゆっくりと膝を割った。

「こ、の・・・・・・!」

 ゼノビアは人一倍羞恥心のある女性だ。いきなり足を開いて股間を強調する真似は出来ず、黒い下着の股の部分が僅かに見えるだけで止まった。

「あ、それはかなりいいかもね。恥じらいは大事だから」

 顔を屈辱で引き攣らせ、羞恥に足掻く様はひどく男の昂奮を煽る。触手も喜ぶように上下に先端を揺らし、まさか目があるわけでもないのだろうがゼノビアに集まってきた。

「でもさ、そんなペースで間に合う?」

 言われるまでもなく、そんなことは判っている。一本につき五分も掛けていては間に合わないし両手でもたかが二倍である。しかも一時間も休みなく行えば当然疲労も出てくる。ペースダウンは当然だろう。

 結局、全身を使うしかない。ここに来るまでに胸も膣も弄ばれてきたが、それを自分から誘うというのはひどく抵抗があった。しかし、そうも言っていられない。躊躇しているとやり直しなのだ。

 ゼノビアは自ら、胸の下着をズラして、谷間に触手を導いた。

 腋を締め、谷間で触手を挟む。柔らかな乳房が硬くも弾力のある触手に吸い付き、桜色の突起がゼノビアの意思とは無関係に硬く尖り始めた。

(私の体は、もう・・・・・・)

 ここの毒気に中てられてしまっているのだ、と否応なく自覚させられる。一刻も早い踏破と脱出が望まれる。ゼノビアは覚悟を決めた。

「こ、来い・・・・・・触手たち・・・・・・」

 す、と膝を割り、我知らず蜜を滴らせる秘裂へ誘う。

「いいねえ、やっぱり無理やりより、進んでやってくれなくちゃ。こっちが悪者みたいだ」

 軽口は全て聞き流し、溜まった鬱憤と共にぶつけてやる。そう決意して、群がる触手の一本に向けて口を開いた。

「んぶ・・・・・・っ!」

 待っていた、とばかりに口内へ侵入する触手。この触感と味と匂いが、不快でないことが不快だった。

「じゅぶ、んぶ、ちゅ・・・・・・じゅぶ、ぷ・・・・・・」

 唇を窄ませ、ゆっくりと頭を前後に。口唇奉仕で触手を扱く。勿論、両手の触手を扱くのも忘れない。

 その間に、足元の触手がゼノビアの秘裂へ群がり、順番待ちのように脚に絡みついた。

 むっちりと実りながらも引き締まった太ももの肉が、触手に締め付けられて強調される。ツー、と落ちていく雫にあぶれた触手たちが蟻のように群がった。

「ほ、ほい・・・・・・!」

 触手を頬張りながら、このおぞましい肉塊を招く。触手が一気に貫いた。

「おぐ、う・・・・・・!」

 膣肉を一気に擦り上げる感覚は、不思議なことに痛みや違和感はまるでなかった。

 おそらくは強制発情させられているためであり、そのために最適化された形状と柔らかさのためだろう。

「ふぁ、ふぁっへ・・・・・・ほぐ、うう・・・・・・!」

 触手で口をいっぱいにしながら、予想外の快さに抗議するが侵入してしまった触手は止まらない。自らが高みへ至るためか、それとも女を強制的に頂へと誘うためなのか、遠慮も容赦もない抽送が繰り出される。

「んぶ、ぶぶ・・・・・・! んぐ、ん、んむう・・・・・・!」

 うねうねと、膣に包まれながら身を捩らせる触手の動きは変幻自在。あっという間にゼノビアの弱点を探り当てて、そこを重点的に責め上げる。

「うぐぼ、おぐ、く・・・・・・んぶう・・・・・・!」

 最早、口内の触手に奉仕するなど思いもよらない。好き勝手に口内で跳ね回る触手に呻きながら、普段よりも余程に感度の上がっている膣を責められて翻弄されている。

「ひゃ、め・・・・・・んべ、え・・・・・・へぐううう・・・・・・!」

 腰に溜まった甘い快感が、その奥で爆発する予感。

 肉の海で弄ばれていた時とは違い、はっきりと感じる絶頂の予兆に全身がおののく。ほんの一瞬の空白の後に、体の奥で快感が爆ぜた。

 全身をぴん、と硬直させ、弓なりに仰け反ってそれに耐える。体の中で起きる爆発から逃れる術はなく、身を任せて耐え忍ぶ以外に方法はない。

 そのゼノビアの反応に喜んだように、周りの触手が先端を上下させる。そして同時に、絡みついた四本の触手から粘液が迸った。

「サービスだよ。ちゃんとタンクで拾ってあげよう」

 ゼノビアの体を滴り落ちる粘液を、触手がタンクを動かして拾っていく。まだ十分の一にも満たない。

 だというのに、ゼノビアは忘我の境地からなかなか降りてこられない。触手で吊られてかろうじて姿勢を保っているものの、それがなければ脱力して横たわっていただろう。

「頑張ってね~」

 数分後、ようやく降りてきたゼノビアが同じように四本を同時に奉仕して粘液を吐き出させるも、一度目よりも呆気なく絶頂へ押し上げられて、なんと十五分も掛かってしまった。

「んきゅう・・・・・・! おっふ、ふへあ、あ・・・・・・あ・・・・・・」

 息も絶え絶えである。一時間は呆気なく過ぎ去って、タンクが回収される。新品のタンクが補充された。

「はい、じゃあやり直し。まあ次の一時間は休憩に当てるのがいいと思うけどね」

 悔しいがその通りであった。このままでは身がもたない。幸い、ゼノビアからなにかアクションを起こさない限り触手は触れることすらないから、横になって息を整える。

「・・・・・・よし・・・・・・これならば」

 五体に活力が戻ってきた。体にまとわりついた粘液を口に含み、凄まじく嫌悪感が走ったがなんとか飲み下して水分補給。

 女の尊厳を破壊することに特化したこの肉の塔を踏破したければ、最早恥など構っていられない。たとえ見守る主に軽蔑されようとも、最終的に勝利することだ。

 そう思って、触手に命じる。

「次々と掛かってこい。それから、粘液を取りこぼすな。いいな?」

 ストックホルム症候群のように、恭しいほどに触手は先端を伏せてゼノビアに拝礼した。

「さあ、来い!」

 がに股で中腰になり、触手を誘う。顔の傍まで挙げた手に触手を一本ずつ握り、それらに舌を伸ばして順番に奉仕する。

 ヴァギナへ伸ばされた触手を自ら腰を落として迎え入れ、スクワットの要領で上下させて膣そのもので触手を扱きあげる。

「んぶう・・・・・・!」

 ビシャビシャ、と顔に掛けられる粘液。頭を下に振ってそれらを振り落とし、命じられた通り、触手はそれを余すところなくタンクで受け取っていく。

「ふっ・・・・・・う、んく・・・・・・! く・・・・・・あ、く・・・・・・ん、ん、ん・・・・・・!」

 腰を上下に動かして、腰回りの筋肉を意図的に締め付けながら触手を扱く。主導権さえ握ってしまえば、意外にあっさりと触手は粘液を吐く。

 膣で受け止めたそれを、指で膣口を開いて吐き出す。ボトボト、と重たそうな音を立てて落ちる粘液がタンクに満ちて、更に触手を迎え入れる。

「おぐ、うう・・・・・・!」

 それでも、ゼノビアの敏感になった体は繰り返される責めに耐え切れず、何度か絶頂してしまった。喉を反って、嬌声を出来るだけ抑えながら絶頂も制御していく。

 要領を掴んで、この三度目の挑戦でタンクをいっぱいにしてみせた。

「ど、どう、だ・・・・・・」

 さすがに息も絶え絶えであったが、次への扉が開いた。メッセンジャーの声と共に、拍手が聞こえてきた。

「いやあ! 本当に凄いね! いいものを見せてもらったよ。君の相棒も感動でむせび泣いているよ」

 ひどく胸が痛んだ。誰よりも勝利を信じる主に、この痴態を見せているのだと思うと屈辱と罪悪感で胸が締め付けられる。

 それらが敵愾心と結びついて、再びゼノビアを立ち上がらせた。

「次は、なんだ・・・・・・!」

 メッセンジャーを睨みつける。少し困ったように、

「次で最後さ。これを乗り切れば無事クリア。主を返してここを開放しよう」

 最後のフロアは、部屋だった。

 アパートの部屋のように狭いその部屋の真ん中に肉で造った椅子があり、ゼノビアはそこに座らされた。

「最後は、特になにもしなくていい。耐えるだけさ。無事に耐えきったらクリア。ギブアップはいつでもどうぞ」

 手足が、肉の輪で拘束された。椅子と床に縫い留められてしまって動けない。同時に胸と腰も椅子の背もたれに輪で括りつけられてしまって、逃げることは叶わない。

「さて、前回のチャレンジを失敗した時間だけこの責めを受けてもらおう。君は二時間分だね」

 触手が三本、壁と床よりゼノビアに伸びる。

 一本が腰に絡みつき、割れ目に身を押し付けながら、その少し上に止まった。先端が割れて細い触手が数本伸び、ぷっくりと充血した包皮を向いた。

 もう一本がその先端を割り、無数の小さな肉のコブを露わにした。

「ま、まさか・・・・・・!」

「そう。二時間たっぷりクリトリスを責める。何度イッてもいいよ。ギブアップをしない限りね。まあ、休憩は認めよう。指で三回、椅子をノックして。五分休憩させてあげる」

 むき、と包皮を押し下げて露わにされた陰核。肉芽、お豆、と表現する言葉は幾つかあるが、そのどれもに相応しい形状とサイズである。

 ゼノビアの陰核は、刺激慣れしていない。度重なる刺激と絶頂体験によって充血し、ぷっくりと膨らんでいるものの初々しいピンク色で、空気に触れるだけでも刺激に等しい。

「ああ、気絶すると最初からやり直しだからそれだけ気をつけてね。じゃ、二時間楽しんで」

 その声を合図に、触手がゼノビアのクリトリスにむしゃぶりつく。

「あっぐううう・・・・・・!」

 たっぷりと粘液をまとった触手は、決して痛みを与えないよう摩擦係数を調整して、ゼノビアの初心な陰核をしゃぶる。

 まずは根元から。いきなり乱暴なことはせず、小さな肉の粒を押し当てて、ゆっくりとマッサージ。それだけで、ゼノビアは他愛なく全身を痙攣させて叫んだ。

 未知の快感である。それも、ひどく暴力的な。

 一瞬で全身を貫いて脳天まで駆け抜けた鋭利な快感が、その継ぎ目さえはっきりしない間隔で襲い来る。

「お、おっ! おぎ、ぃひ・・・・・・ぐひぃいい・・・・・・!」

 美しい容貌が歪んでいく。歯を食いしばり、目は半分瞼の裏に隠れ、口の端から溢れ出た涎が顎に向かって垂れていく。

 全身が何度も椅子の上でバウンドする。なんとか逃げ場を求めて弾ませてもがっちりと拘束されているから逃れようはずもない。加えて、陰核へ吸い付いた触手はその先端を押し付けているからズレることさえない。

「あぐぐ、イグ、ぐ、イグイグ・・・・・・イッグ、う・・・・・・!」

 仰け反りながら頭を振る。機械的に容赦なく叩きつけられる快感に、ゼノビアの体は呆気なく降参して絶頂へと。

 しかし、その間も陰核を責める触手は止まらない。

「な、あ・・・・・・!? あっひ、んひぃいい・・・・・・!」

 視界が白く明滅する。いつもなら、快感の到達点である絶頂を経由すれば緩やかに鎮静される筈なのに、強制的に続けられる快感に意識が白く染まっていく。

 ゼノビアに既に時間感覚はない。せいぜい五分程度で既に休憩を求めている。快感に甘く痺れて、自由にならない体になんとか鞭を打って、指を三回ノックさせる。

「はいはい、休憩ね」

 触手の動きが止まる。しかし解放されるわけではなく、動きが止まるだけのことだった。

 が、それでもいい。まずは呼吸さえ出来なくなる快感をせき止められれば、なんとか意識を保てる。

 全力疾走を数時間続けた後のように荒い呼吸で、体に酸素を巡らせる。無意識に硬直した筋肉の疲労が、ほんの僅かだけ癒された。

「あ、ごめん。伝達漏れだ。休憩したらペナルティで十分伸びるからね。五分しか経ってなかったから、差し引き五分プラスだ。残り二時間五分ね」

「は・・・・・・?」

 あまりにも常軌を逸していたからだろう。聡明な女王がその言葉を理解できず、呆けたようにメッセンジャーを二度見した。

「おお、いい反応。今日一じゃない?」

 なんとか呼吸を整えた時、触手がクリトリスを撫で始めた。

 なんと短い五分だろうか。責めを受けている間は永遠のように感じられるその時間が、休憩であれば矢のように過ぎていく。

(これ、を・・・・・・二時間・・・・・・?)

 心が折れそうになった。あまりに現実感がなさ過ぎて、他人事のようにさえ思えた。

 が、全身を貫く快感はそんな意識を強引に引き摺り戻す。

「うあああ・・・・・・!」

 声が漏れる。最早抑えようとさえ思わない。敏感な陰核の根元を無数の小さな肉の粒にタッピングされ、ただ泣き叫ぶよりしようがない。

「あ、あっ、いや、ああ・・・・・・!」

 腰を沈めようとも椅子が邪魔でそれも叶わず、浮かせれば触手がより吸い付いてくる。

 陰核への刺激にゼノビアの体がほんの僅かでも順応すれば、刺激が先端に移っていって、快感に休憩を許さない。

「やめええ・・・・・・! き、きも、ちいひ、ひぃいん・・・・・・!」

 全身を暴れさせて僅かでも逃れようとしても、がっちりと拘束されていて叶わない。絶望感が広がっていく。なにをしても無駄なのだと体が悟っていく。

(ああ・・・・・・ギブアップで・・・・・・たすかる・・・・・・)

 唯一の逃げ道は降参を示すこと。自らの心が折れ、体を屈し、憐れみを乞うて許しを得ること。なんの罪過もない自分が、理不尽に侵略してきた者へ跪いて許しを乞う。それさえしてしまえば、この拷問のような快感から逃れられる。

(・・・・・・それ、だけは・・・・・・!)

 微かに見えた救済の道。それを自覚した瞬間、ゼノビアは英霊として自らの定義を思い出した。

 屈さぬこと。勝利すること。それこそがゼノビアが現界した理由であり、そしてそれを誰よりも信じる者が己がマスターであることを思い出した。

「ま、け・・・・・・ぬ・・・・・・!」

 きっと触手を睨み返す。眼に精気が戻り、嬌声と悲鳴の溢れる唇から闘志がまろび出た。

「私は、負けぬ・・・・・・!」

 その瞬間、触手が唇を窄めるようにして先端の吸い付きを変え、陰核を吸引した。

「むほおぉおお・・・・・・!」

 不意打ちの快感に、一瞬で引き締まった表情が無様に歪んだ。

 最も敏感な陰核の先端から、痺れるような快感が全身を貫く。全身をバタつかせるが、やはり徒労である。

 陰核に吸い付いた触手は隙間なく密着して空気を抜き、吸引の圧力で引っ張る。先端から全体に掛けて痺れるような快感が走り抜けていく。

 これに比べれば、根元をタッピングされていた一瞬前は、まるでお遊びであった。

(だから、前戯、なのか・・・・・・!)

 苦し紛れに言葉遊びで意識を逸らしてみても、その一瞬後に叩き込まれる暴力的な快感に声をあげずにいられない。

「あひっ、ひ、んひぃいい・・・・・・!」

 もう、自分がどんな表情をしているのかも判らない。白く染まる意識を快感が上書きして、全ての感覚が遠くなる。

 しかも、吸い付きは一定でない。時折緩めて吸引をゼロに戻し、その瞬間、快感が名残りを残しつつも引いていき、呼吸を許す。こうしないとさすがに酸欠で失神してしまう。

 これは人体の構造だから仕方がないのだろう。しかし、この休憩が同時に拷問だった。

「ず・・・・・・は、ぐく、う・・・・・・あぎぃいい・・・・・・!」

 水責めの拷問と同じだった。

 呼吸が絶えてしまえばそのまま死ぬだけだ。そこに苦痛はない。が、絶えようとした瞬間に水から上げられると呼吸が再開できる。その瞬間にまた水へ戻されると永遠のように苦痛を味わう。

 同じだった。回復した瞬間それ以上に責められて、ゼノビアはもう休憩という概念すら忘れて為すがままになっている。

「とれ、るぅう・・・・・・! クリトリス、とれるうう・・・・・・!」

 寧ろそれを望むかのように。悶死するほどの痛みを味わおうと、この永遠のような快楽拷問から抜け出せるなら、いっそこの陰核を引っこ抜いてくれ、と。

 これは戸惑いでも躊躇でもなく懇願だった。

 しかしそんなこと、女を責めるためだけに建立された肉の塔が許す筈もない。もう何度目か、ゼノビアが絶頂した瞬間、クリトリスを吸っていた触手が離れた。

「うぅはっ・・・・・・は、ぜ・・・・・・ひぐ、う、うう・・・・・・」

 最早虫の息のように、胸の辺りの筋肉が痺れるのを堪えて、か細く息を吐く。

 休憩のノックはしていないから、これは次の責め苦までのインターバルに過ぎない。が、そんなことさえもうゼノビアの頭には浮かばない。数秒に過ぎずともこの隙間で、生命を繋ぐ行動をしなければならない。

 呼吸である。これが絶えれば意識を失う。もう一度同じことを同じ時間される事態を避けるために、必死に呼吸を繋いだ。

「飽きないようにね、いろいろやらないと」

 メッセンジャーの声も届かない。呼吸以外に思い至ったのは、またしてもクリトリスに触手が伸びた時だった。

「つ、ぎは・・・・・・」

 なにをするのか、と恐れながら触手を見る。先端が開き、ざらついた肉のコブが三つばかり並んでいる光景が目に入った。

 それは、突然行われた。

「あひぃいいい・・・・・・! んぎいぃいい・・・・・・!」

 三つのコブはゆっくりと回転して表面を陰核に擦り付ける。柔らかい肉のブラシに、敏感な陰核が隙間なく撫でられ、弾かれ、磨かれていく。

「あああああ・・・・・・! あ、あっ、あぁああ・・・・・・っ!」

 最早ただ叫ぶだけ。いや、本人は自分が声を発しているということさえ判っていない。

 目を剝いて、唇を開き、舌を出して、叫んでいなければ自分が砕けていきそうな気さえした。ほんの僅かでも堪えれば、快感の爆発と同時に自我までも吹き飛んでいきそうな。

 泣き声とさえ言えない咆哮は、獣よりも怪鳥のよう。

「あぐぁああ・・・・・・! あ、んああああ・・・・・・!」

 ジタバタと、無駄に体をよじっても逃げられない。触手は容赦なく、一定のリズムで回転して肉ブラシでクリトリスを磨く。

 やがて、その声さえも途絶えた。

「・・・・・・っ! ・・・・・・!」

 悶絶している。あまりの快感に喉の筋肉も痺れてしまったのか、それとももう声を出す体力すら失ったのか。

 ブラシが逆回転する。たったそれだけでも変化になり得るのか、いきなり変わった刺激にゼノビアの五体が激しくバウンドして反応するが、やはり声はもう出ない。

「っ! っ・・・・・・っ!!」

 まるで電気椅子で処刑された死刑囚のように、椅子の上で全身を震わせる以外に反応がなくなった。

 意識があるのかどうか、外からは判別出来ない。汗と涎と愛液をまき散らしながら、クリトリス磨きに悶絶している。

「きひ・・・・・・っ!」

 唯一反応があったのは、さらりとした触感の飛沫をヴァギナから噴いた時。飛沫と呼ぶに相応しいその液体を迸らせ、ひと際大きく痙攣した。

「・・・・・・」

 それからは反応らしい反応がない。ちょろちょろ、と黄色い液体が漏れた時に、その温かさに驚いたように一瞬だけ体が跳ねた。

 それでもまだ、クリトリスへの責めは続いた。

「うあー・・・・・・あ、くあー・・・・・・あ・・・・・・」

 そしてようやく終わりの時。黒目はもう瞼の裏に半分隠れたまま、ぐったりと脱力して肉の椅子に沈みながら、舌を出してなんとか呼吸だけしている。

「おめでとう! ちゃんと脳波を計測して、失神してしないことと最後まで耐え抜いたことを認めよう! クリアだよ」

 椅子から輪が外れ、拘束が解かれる。誰もが、この光景を見せられているマスターでさえこのまま崩れ落ち、しばらく行動不能になるだろうと思った。

 が、椅子の拘束が外れた時、ゼノビアが全身にまとった金の鎖が崩れ落ちた。

「え・・・・・・?」

 光がゼノビアを包む。一瞬だけ目を晦ませるほどの輝きはすぐさま優しい後光に変わり、それが消えた時、光よりも眩い戦装束に身を包んだゼノビアが現れた。

 宝具の発動である。

 彼女が心から自身を肯定した時、誰にも恥ずることのない真なる女王と自身を認めた時にのみ発動する宝具である。

 彼女のステータスは高水準だ。魔力のステータスのみが少し低く、そのため三騎士特有の対魔力の水準も低い。そのためこの塔に充満する、女に対する特効のほぼ全てを受け切る結果となったが、この宝具を発動してしまえば全て四散する。

 体力は消耗してしまったが、肉の椅子から立ち上がった時、既にその目は上を向いていた。

 元々、筋力や敏捷といった基礎ステータスが、ステゴロの殴り合い上等な騎士やバーサーカーを凌ぐほどに高水準だ。それが、この宝具の発動と同時にブーストされている。今の彼女を阻むには、冠位を以て挑まねばなるまい。

 無論、敵う筈がない。敵は竜殺しの英雄でもなければ神でもない。クリアと同時に空いた穴を行儀よく通りはしたものの、肉の塔はその機能のほとんどを停止させるまでに破壊された。

「え・・・・・・?」

 この塔を造り、幾人もの女を弄んでその痴態を楽しんでいた男は、ゼノビアの腕の一振りと共に塔の外へ弾き出された。持ち主を失った聖杯が零れるようにして現れたが、そんなもの、ゼノビアの興味の外である。

「無事だったか、マスター・・・・・・」

 肉の檻を引き千切る。迸る魔力の奔流が、それ自体高熱を持っているようだから、セーブしてか弱い主人の体を抱き締めた。

「心配をかけた。しかしどうだ、私は見事勝利したぞ」

 誇らしげに、そしてなによりもきちんと無事を確認して安堵した表情で、ゼノビアは笑った。立香はこの相棒の首根にかじりつきながら、

「お疲れさま、ゼノビアさん。俺の、勝ち続ける女王さま・・・・・・」

 肉の塔が消失していく。二人はその崩壊が終わっても、互いを抱き締めていた。




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