賊軍狩りから帰って早々に、義母たちの催す酒宴に引っ張り込まれていた。
通ってきた領内の様子からして、一応やることだけはやっているようだ。ただ飲み明かしていることをあの雷火が許容するはずがないし、これはなにか意図があってのことなのではないか、と孫策は思う。
背の低い円卓を中心に据えて、背もたれのついた長椅子が三つ並んでいる。義母に祭、それに粋怜がほんのり色づいた顔を同時に向けた。卓上にはすでに空になった酒瓶が置かれていて、三人の背後には妖しげな影が見え隠れしているような気がしてくる。
「おう。ちょうど今しがた、貴様が来るのが遅すぎる、と噂をしていたところでな。どこでも、好きな場所に座るといい」
「うふふっ。私の隣、若殿のために空けてあるんだけどなあ。座ってくれないと、お姉さん泣いちゃうかもー?」
「むむむ……。なんじゃ粋怜、いい年こいた女が泣き落としに走ろうとは、みっともない」
「えー、別にいいじゃない、いくつになろうが女の武器を使ったって。それに、ずっと一緒に行動していた炎蓮さまや祭と違って、私は一年近く若殿に構ってもらえなかったんだし、このくらいねぇ?」
肘掛けから身を乗り出し、粋怜がにやついた顔で周囲を見回した。腕の中で圧縮された乳房が、はち切れんばかりに存在を誇示している。どうやら、今日は徹底的に甘えるつもりでいるらしい。粋怜の肩にそっとふれてから、孫策は隣に腰掛けた。
「そうそう。男の子は、やっぱり素直でいるのが一番なんですもの。ねー、一刀くん?」
「ン……。ひとを散々誘惑しておいて、よく言う。祭、俺にも酒を。こんなところに突っ込まれて、ひとり素面でいられるものかよ」
「あっ、いい匂い。んふふっ……。うれしー、ちゃんとお風呂はいってきてくれたんだ? 野性味あふれる若殿も嫌いじゃないけど、こういう時くらいはねぇ」
祭が酒を注いでくれるのを待っていると、横から粋怜が熱っぽい吐息とともに身体を擦り寄せてきた。空いていた腕が、すぐさまやわらかなモノに挟まれる。それまで静かにしていた雄の象徴が、たまらずぴくりと反応を示した。
乳。乳。乳。どちらを向いても、母性豊かな果実が視界に飛び込んでくるのだから、ある意味思考の休まる瞬間がないとも言えるのか。
自分の視線に気がついたのか、眼の前にいる祭が谷間を強調しながらわざとらしく身体をくねらせている。相手をしてもらえずにいじける粋怜のことをひとまず捨て置き、一番近くの巨乳を肴に酒を口に含む。勝ち誇ったように笑う祭の姿がよほど悔しかったのか、粋怜がふくらませた頬を肩のあたりに押し付けた。
心身を癒やしてくれる女の香り。幼いころから親しんできた、宿老たちのものだった。家族のような関係は、大人になっても変わらず継続している。子供時代はおそろしいばかりだった雷火の存在も、付き合いが深化するに従ってかわいらしいと思えることが多くなっているのだが、当人の尊厳のためにもそれは心の中に伏せてあった。
「ハハハッ。戦場帰りのくっさいチンポをオレの口で洗ってやるつもりでいたのに、つくづく余計なことをしやがるやつだな」
「おう。じゃったら炎蓮さまは、儂らが愉しんでいる様子を眺めてひとり酒を愉しまれるがよい。のう、若殿?」
よいことを思いついたと言わんばかりに、祭が手にしていた酒瓶の中身を少し胸元に垂らす。そうして流れてきた酒を口で受けると、それまでとは比べ物にならない昂揚感が全身を熱くした。
「ほら、粋怜」
「あっ、若殿……。んっ、んくっ……」
事前に含んでおいた酒を、口づけをしながら粋怜に飲ませる。互いの舌で唾液と混ぜ合い、それを小分けにして数回で飲み干す。
二人でつくった味が気に入ったのか、粋怜がねだるように唇を突き出してきた。ほのかに汗ばむ祭の乳房。顔の側面でその熱を受け止めつつ、粋怜の舌をかわいがった。芳醇な吐息が肌にかかる。その状態で胸を軽く刺激してやると、粋怜は軽く背中を仰け反らせた。
「はあ、あっ……。これ、すっごく気持ちいい。んむっ、んあっ……。若殿、もっとしてぇ……?」
「むう、んぅ……。儂の乳の感触も、存分に味わっていってくだされ、一刀さま。うあっ、んむっ……。ふ、服で乳首が擦れて、ああっ、あぁ……」
前座の余興にしては、十分すぎるくらいの盛り上がりなのである。
これでは、どちらがもてなされているのかわかったものではない。宿老二人はどこまでも貪欲で、密着した肌が離れてくれようとしないのである。
自分たちの痴態を眺めて義母が笑う。肉感たっぷりの褐色の太腿に、つい視線を奪われた。
「ほんとうにどうしようもない変態だな、貴様は。いい加減、母さまの前でみっともなくチンポを大きくして、恥ずかしくはないのか、ああ? それも、年増二人にいいように絡まれてだぞ。なあ、一刀?」
「興奮しているのが丸わかりではないか、母御め。もっとも、他人の性癖を糾弾できるような聖人ではないがな、俺も」
「いいじゃねえか。この親あって、この子ありだ。それでお天道様の下、まともに歩かせてもらえるのだから、世の中案外捨てたものではないのかもしれねぇなぁ、ククッ……。っと……、どうやら御客人が到着されたようだ」
「客人? まさかとは思うが」
祭の乳肉に埋もれたまま、どうにか孫策は部屋の入り口に顔を向けた。
人の入ってくる気配がある。いまさら取り繕うものなどなにもないか、と二人と絡み合うまま客人を出迎えた。それに、なにか問題があれば義母が真っ先に指摘しているはずなのだ。どれだけいい加減にしていてみせても、そのあたりに対する信頼は大きかった。
「お呼びに預かり光栄です、孫堅殿。支度をしていたので少し遅れてしまい、申しわけ……え?」
直感のささやいていた通り、客人というのは黄忠その人だった。
最初上品にほほ笑んでいた顔が、もみくちゃになった自分たちを見つけた瞬間から、硬直してしまっている。
さすがに、義母はおもしろいことを考える。
粋怜の熱い舌を吸い上げながら、孫策は黄忠の反応を観察していた。
「お、お取り込み中に、お邪魔してしまったようですわね。ええと、それではわたくしは……」
何度か視線を泳がせたのち、黄忠は退室することを選んだようだった。
翻した着物の切れ目から白い肌が覗く。いまは完全に、思考がそちらの方向に振り切っている。
「どこでもいいから座っていけ、黄忠。それに、飲んでいれば多少の粗相は忘れる。無礼講だ、無礼講」
「そ、そうでしょうか? んっ……。ですがまあ、孫堅殿がそこまで仰るのなら、お付き合いいたします」
「ハハッ。夫に先立たれた女同士、愉しくやろうではないか。ガキの世話のことでもなんでも、聞いてくれてよいのだぞ? なにせ、これでもオレは三児の母をしているのだからな」
表面的には酔った勢いで、義母が酒をもった腕で黄忠の肩を抱いた。
あのくらいの酒で酩酊するような女ではない。文字通り、黄忠を抱き込むことがこの酒宴の目的なのだろう。完全に落とすことが叶わずとも、心の揺らめきは各所に影響を与えるはずなのだ。
劉表勢力への挑発は断続的に行う。とにかく、あちらに荒事を起こさせるのが、義母の戦略のひとつだった。そうなると、南陽にいる美羽の存在も、劉表にとっては重くのしかかってくる。偵察に出した黄忠まで孫家と懇ろな関係を築いたとなれば、その動揺は果てしなく大きくなることが予想されるのだ。
黄忠に手渡した酒杯に、義母がなみなみと酒を注ぐ。男根にいたずらを仕掛けようとする粋怜の乳に仕置を与え、孫策は未亡人二人のやり取りを見守った。
「飲め飲め。貴様も、イケる口なのだろう?」
「ええ、それなりには。あっ……、いい香り。このお酒は、どちらから?」
「地元から運んできた酒だ。もし気に入れば、いくらか土産として持たせよう」
「ふふっ。ありがとうございます、孫堅殿。んっ、ふう……」
自分で言うのもなんだが、非常に奇妙な空間だ。
祭の銀髪を指で撫で、衣服越しに勃起した乳首を舌で愛撫する。同じことをしてもらいたくなったのか、立ち上がった粋怜が乳房を顔の間近に寄せてくる。恥ずかしいくらい盛り上がった突起に爪をたて、弾く動きを何度も繰り返した。
義母と黄忠が世間話に花を咲かせる中、宿老たちの艷やかな声が室内に響く。
どこまでいけば、黄忠は乗ってくるのか。思考だけは冷静に、二人の肉体の反応を愉しんだ。
「なんというか、御子息とはとても仲がよろしいのですわね、孫堅殿は」
「都の礼儀はいざ知らず、孫家ではこのくらい普通だ。気が向けば、あいつとも寝る。なんなら、娘たちとも一緒にな」
「えっ……? あ、あの、寝るというのは勘違いではなくそういう?」
「大人の男女が同じ寝台に入るのだぞ? そうなって、やることなどひとつしかないではないか。ハッ……。気まぐれで引き受けた拾い子だったはずが、いまではどっぷりだ。一度ハマれば、そう易易とは抜けられんぞ? だが、やつの味だけはこのオレが保証してやる」
「んっ、ごくっ……。あ、あまり軽々しく、そういう冗談を申されるべきでは……」
「ハハッ。冗談じゃねえよ、なにも」
祭の乳首から口を離し、孫策は黄忠の顔をじっと見据えた。
雰囲気を察した二人が席を空ける。にっと笑った義母が、黄忠の背中を手のひらで力強く押した。
ちょっと戸惑いながらも、黄忠が空いた長椅子まで足を進める。決心がつくまであと少し。ここからは、積極的に仕掛けてもいいと判断した。
「あの……。きっとご迷惑ですわよね、孫策殿も……?」
「少しも。挨拶を交わした折から、仲を深めたいと思っていたのです、私は。こんな席です。一刀、とどうか真名でお呼びください」
「あっ、ふふっ……。紫苑です、一刀殿」
簡単な形式で真名を預け合うと、それまでかすかにあった薄い壁が崩れたような感じがした。
酒でいささか思考が緩んできているのか、紫苑は艶やかに色づいた豊満な谷間を隠そうともしない。祭や粋怜、それに義母とも違うやわらかな雰囲気。香りにしてもどこか上品なものがあり、この女をものにできると思うと心がやはり湧き立った。
しなやかな紫苑の指。優しく手のひらで包み込み、孫策は隣に座るよう促した。