鳳統と名乗った少女が、脱力したように地面に座り込む。
闘気の類のものをあまりにも感じさせないせいで、気づくのが遅れた。亞莎にしても、交合の余韻が残っていたから、反応しきれなかったのだ。
雷火が厳しい視線を鳳統に浴びせている。ちょっと怯みはしているが、顔を背けることはしなかった。あどけなさはあっても、子供ではない。そこに、鳳統の覚悟があるのではないか、と孫策は感じていた。
このまま双方黙っていても、埒が明かない。亞莎を促し、余っていたごま団子を差し出させた。甘いものは気分を和やかにしてくれる。それに、反応を観察していれば鳳統に対する判断もぼんやりとついてくるだろう。
「あっ。呂蒙さんのごま団子、とっても美味しいです」
「えへへ、でしょう? そのごま団子には、孫策さまへの愛情がこもっておりますので。だけど、褒めてもらえると素直に嬉しいですね。ありがとうございます、鳳統さん」
「い、いえ、こちらこそ。その……。いきなりお邪魔してしまったのに、こんなに美味しいものまでいただいて、私なんとお礼を申し上げたら」
ツバの広い帽子を地面に置いて、鳳統が深々と頭をさげる。礼儀を知らない人間ではない。それに、表情や仕草からは理性をはっきりと感じられる。そもそも、鳳統は自分に用があって訪ねてきた、と言っていたのだ。
話を聞く態勢となって、孫策は鳳統の緑色の瞳をじっと見据えた。愛弟子でもある蓮華になだめられて、雷火もとりあえず矛を引っ込めたようだ。
「食べながらでいい。用件を聞かせてもらおうか、鳳統」
「は、はいっ。んっ、こほっ、けほっ」
緊張があるのか、鳳統がごま団子で喉を詰まらせる。自分が口をつけたものだが、まあいいだろう、と孫策は水の入った竹筒を手渡した。鳳統が勢いよく中身を嚥下していく。白い喉を伝う汗が、ちょっと色気を漂わせている。
先ほどの残り火が、まだ消えきっていない気がしていた。念を入れて守りをかためてくれているのか、亞莎は横から動こうとはしていない。身体をそっと抱き寄せると、発情した女の匂いをまだ感じられた。
「亞莎」
隣りにいる亞莎に、ささやくように呼びかける。声の響きで、自分がなにを求めているのかわかっているはずだった。
「亞莎」
一度目は、ほとんど無視を決め込まれた。冗談を言っている、と思われたのかもしれない。それならば、と今度は尻にふれながら亞莎の真名を呼んだ。
「ほ、本気なのですね、一刀さま? もう、知りませんよ、どうなっても」
鳳統が自分と亞莎の顔を交互に見つめる。
なにか秘密の会談でもなされているのではないか、とまた身体を強張らせているようだった。根本的には、臆病な子なのだろう。それでも、目指すものがある。肉体を衝き動かすだけの、欲望がある。だから、鳳統は危険を顧みず、原野をひとり歩いてきたのだ。
「あの……。改めまして、私は鳳統です。これまで、この荊州にある水鏡先生の私塾で、学問に励んでまいりました」
「そういう集まりがあることは、俺も耳にしたことがある。もっとも、知ったのはつい最近のことなのだが。荊州で才能ある若手を求めるなら、まずそこをあたるべきだと臣下に教えられた」
水鏡先生で通っているが、本名は司馬徽というそうだ。表に出ることを好まず、草庵を結んで弟子との交流を愉しんでいる。劉表から招喚を受けたこともあるそうだが、そのときは断りを入れたと聞いている。つまらないと感じたことには、手を貸さない。そうした性格は、好ましいと思った。
ほとんどが、情報通である冥琳から得た知識だった。頴川で暮らしていた桂花もその名は知っていて、どうやら名士間では結構な有名人であるようだ。
「みんなのお母さんであり、お姉さんでもある御方なんです、水鏡先生は。私たちと同じ目線に立って学び、ときには悩みを共有してくれる。州牧さまの誘いを蹴ったりで、世間では気難しい人だと思われているかもしれませんが、そうじゃないんです」
「ン……。それで、鳳統」
会話の途中、亞莎が長い袖を山のできかかった下腹部に置いた。さり気ない動きである。話に夢中になっている鳳統は、まったく気にしていなかった。
なにかあると察した蓮華が、注意しようとする雷火を押し留めた。さすがは、自慢の妹である。
亞莎の長い袖には何箇所か切れ込みが入っていて、それが変幻自在の攻撃を可能にしているのだった。時には、死角からの飛び道具が敵の命を奪うこともある。今回は、その長所を奉仕のためだけに使わせるのだ。紛れもなく、恋人であり主君でもある自分だけの特権だった。
男根。器用に取り出して、亞莎が袖の切り込みの内側に招き入れる。熱くなった根元に冷たい指が絡むと、それだけでも気持ちがよかった。
袖に妙な輪郭が浮き上がってしまっているが、指摘はされなかった。
「区星との闘いを、見ていました。江東孫家が荊州にきてやる最初の戦を、どうしても見届けたいと思ったんです。孫堅さまの勇名は、聞き及んでいましたから」
「それは、すまないことをしたな。あの戦、母御は城で酒を飲んでいただけだった。現場の指揮は、俺に丸投げだ」
「そ、そのような事情がおありだったのですね。ですが、孫策さまの見事な狩りを見ることができて、よかったんだと思います。ほんとうに鮮烈で、一撃で心を打たれた。私の頭に巣食うけものが、叫ぶ感覚があったんです。ああ、こういう戦を、私はしてみたいんだと。それで、すぐに実感することができたんです。一目惚れって、こういうことなんだって」
「好きなのか、戦が。剣をふれば、人が死ぬ。采配ひとつで、大勢の麾下を死地に送ることもある。はははっ。見てくれのかわいらしさに、危うく騙されるところだったな」
亞莎の手のひらが、亀頭全体をじっくりと撫でてくる。浮いてしまいそうになる腰は、どうにか留めた。
脳髄が熱くなる。それは、快楽のせいだけではないはずだった。意識しているのかはわからないが、鳳統が少しだけにじり寄ってくる。瞳の輝きは、強いままだ。
「あははっ。おもしろい子と出会うことができましたね、兄上。あれは、孫家の在り方を知らしめる戦でした。届く者には、届くと思っていましたが」
「しかし、乱世の育んだ芽というのは、おそろしいものですな。かような童が、若殿に感応されてしまうのですから」
「こ、子供じゃありません、私は。それに、焦りもないわけじゃありませんから。お友達の朱里……、孔明ちゃんが劉焉さまに召し出されてから、もう何年も経っています。それなのに、私は仕えるべき主君すら見つけられないでいる。ここままだと、きっと手遅れになる。そう悩んでいたときに巡り合ったのが、孫策さまでした」
鳳統の言葉に昂揚しているのか、亞莎の手つきが激しくなっている。先走りを巻き込んでいるせいで、かすかだが、袖の中がにちゅにちゅという淫らな音を立ててしまっている。
吐き出すのなら、袖の中だと孫策は決めていた。少々機嫌を曲げられてしまう可能性はあったが、欲望の前にはどうでもいいことだ。男根を軽くひくつかせ、亞莎に快楽をねだってみる。逆手に握った竿。上下する動きで、ふくらんだ袖が何度も揺れる。生地の表面に薄い染みができていることも、孫策は気づいていた。
「劉焉というのは、先の益州牧か。おまえの友人は、かなり評価されていたのだな」
「孔明ちゃんは、弟子の誰よりも優秀でしたから。親友ですけど、負けたくないと思ってがんばりました。ですから、どうか私を麾下の末席にお加えください、孫策さま」
鳳統が、さらににじり寄る。
亞莎の袖の動き。妙なふくらみも、さすがに悟られてしまうような距離だった。それに、射精を我慢している男根が、強い精臭を発している。拝礼する鳳統のほとんど目と鼻の先。張りつめた亀頭が、袖の内側で悦楽に歪む表情をさらしているはずだった。
「一刀さま。いまおイキになるのは、さすがに。あっ、やっ、だめっ……。そんなに、おちんちん暴れさせてはいけませんよ」
「誰のせいだと思っている、亞莎。おまえが、ちっとも手加減しないからではないか」
ささやくように、亞莎と言葉を交わした。鳳統が地面を見つめているのをいいことに、ついばむような口づけを愉しむ。袖の中で、男根は限界までふくらんでいるのだろう。
そもそも、隠そうとしてしている行為ではなかった。燻る残り火の処理を、少ない時間の中でやり遂げる。感づいて逃げ出すようなら、鳳統との縁はそこまでだという思いもあるのだ。
「いいぞ。ああ、最高にいい。ははっ……! このまま、出すからな」
「あ、ありがとうございます! というか、出すって……?」
心はすでに決まっていた。意味を察した雷火が顔を手で覆っている。蓮華はちょっと呆れている感じで、乾いた笑い声を洩らしていた。
鳳統の眼前で、袖の生地が押し出されるようにぷっくりとふくらむ。白濁した粘液。細かい隙間をくぐり抜け、自由な世界を謳歌しているようだった。もうどうでもよくなったのか、亞莎が射精にふるえる男根を乱暴にしごく。搾り出された精液が見る間に袖を汚し、鳳統は硬直した状態でそれを見ているだけだった。
「えっ……? なにこれ、おち……んちん? 孫策さまと呂蒙さんが、なんで、えっ……?」
ぶつけられた狂気は、狂気で覆ってしまうのが正道だった。
衣服がべっとりと汚れることも構わず、亞莎は奉仕の動きをやめなかった。血、あるいは精液の豊かな香りが、亞莎の本能に火をつけるのだ。この亞莎も、間違いなくその身に狂気を宿しているひとりだった。
「んっ……♡ もっと、もっとたくさんイッてください、一刀さま……っ♡ 射精、射精すごいっ。はあっ、んっ、んあっ♡」
負けじと、孫策は真新しい精液で袖を濡らし続けた。状況を飲み込みきれてはいないものの、鳳統にも多少の落ち着きがでてきている。それに、熱い吐息が先端にかかっているような気もしていた。
「理解できたかの、鳳統。憧れの孫策さまは、倫理観をどこかに捨ててきたような御人であらせられる。お仕えするのは楽ではないぞ。それを知ったうえでどうしても、と言うならわしも止めはせぬが」
「あっ、えへへ。ちょっと驚きましたけど、むしろ素敵だと思うんです、私は。常識に縛られていては、乱世を生き抜くことなどできません。はあ、んっ……。それによく嗅いでみると、この香り……とってもどきどきする」
「ふむう……。若殿に惹かれるだけあって、筋金入りのたわけであったか、こやつも」
雷火が、再び顔面を手のひらで覆う。
孫策の笑い声だけが、原野に響いた。