息を潜めて、闇の中を歩いた。
喧騒と、干戈を交える音はまだ続いている。五歩、六歩。傾の吐息が少々耳障りなくらいだった。襲撃による緊張。あるいは、命の奪り合いに気分を昂揚させているのか。もし後者であるならば、救いようのない女だと思うのと同時に、琴線に触れるなにかがあるのも確かだった。
包囲の輪が、ちょっと狭まったような気がしていた。血の匂いを辿れば、敵のおおよその位置を探ることはできる。それでも、完全に気配を掴ませないだけ、相手はかなりの手練れなのだろう。
背を低くし、ひとりの死角から接近した。手のひらで口を覆う。叫ばれる前に、刃を急所に突き立てた。手応えがある。絶命したひとりを静かに寝かせ、孫策は次なる獲物を見つけようとした。
一応将軍位にあった傾はともかく、瑞姫には荷の勝ちすぎる相手だった。とにかく、先手を取れるだけ取って数を減らす。向こう見ずな大立ち回りなど、やろうと思えばいつでもやれる。要は、そのための舞台をいかにして整えるかだった。
「ほう。なかなかやるではないか、孫策。ふふふ……。この調子で、余を洛陽に還せば褒美は望みのままだぞ。なんなら、瑞姫のことを好きにさせてやってもいい。なあ、男としてこれ以上ない提案だろう? だから……」
「ちょっと。しっかり当人に聞こえているんだからね、姉さま。それは、私だってできることなら都に還って華々しい暮らしにもどりたいわよ。けど、ねぇ……?」
自分の働きを眼にして気が緩んだのか、傾が袖を引いて話を持ちかけてくる。
瑞姫の方は、傾ほどは乗り気でないようだった。政争の結果洛陽を追われ、いまなお原野の真ん中で暗殺者につけ狙われている。さっきだって、自分に守られていなければ、瑞姫は頭を射貫かれていたのだ。そうした状況と豪華な暮らしとを、秤にかけてしまうのは当然の成り行きだった。
「静かにしていろ、と言ったはずだ。それとも、そんなに死にたいのか、二人とも」
「うげっ……! そ、孫策め、なにを」
傾の手首を掴んで、地面に引き倒した。
剣。数瞬前まで首があった宙空を、鈍い音をたてて通過していく。とっさのことで思考が回っていないのか、傾が文句をぶつけてくる。当然のように無視して、孫策は刀を持った右腕を横に払った。暗闇。赤い血飛沫がぽつりと降りそそぐ。複数の足音だった。自分たちの居場所を知り、襲撃者が駆けてきているのだろう。不意にめぐってきた乱戦の気配だった。姉を起こしている瑞姫の前に、孫策が立ちふさがる。約束は約束で、破るつもりなどなかった。
「死ね、孫策」
襲撃者から声が発せられる。最初からあった違和感の正体が、これで掴めたような気がしていた。
二人が同時に斬りかかってくる。殺気。どこか湿り気があるのは、相手がまともな武人ではないからなのか。刀を手にした腕をだらりと垂らし、あえて構えを崩す。好機と感じたひとりが突っこんでくる。月明かりを頼りに、剣をかわして胴を薙いだ。即座に、もう一歩強く前にでる。死。陰を感じさせる剣の雰囲気に呑まれれば、待っているのはそれだけだった。母親譲りの豪剣で、孫策がもうひとりを斜めに斬りつける。
「貴様ら、さては荊州牧の手下だな。はははっ。孫家がおそろしくなって、ついに俺を斬りにやってきたか」
帝の死去で、各地に散らばる実力者たちは、地盤硬めに動くはずだった。漢室にも連なる劉表の名のもとに荊州がまとまれば、天下を狙えるだけの一大勢力になる。そこで邪魔になってくるのが、孫家の存在だった。
この襲撃は、噂に聞く黄祖の手によるものなのか。江夏に引っこんでいるように見せかけて、やはりその眼は州内を俯瞰していたのだろう。こうでなくては、化かし合いはおもしろくない。とはいえ、暗闘を繰り広げる自分たちに挟まれるような格好で、ついでに殺されそうになっている傾と瑞姫は不運だとしか言いようがなかった。
黙して向かってくる男の肩から先を、孫策の刃が斬り飛ばした。
「ぐっ、ぬうぅ。こい、斬れ……ぇ!」
捕虜としたところで、なにかを聞き出せるような敵ではなかった。気迫に感化されたように、孫策が豪快に首を刎ね飛ばす。
包囲の手勢は、あと何人だ。警戒を強めながら、傾と瑞姫の方を振り返った。どこから出したのか、傾は肉切り包丁のようなものを握りしめている。昔の名残で、宮中にも持ちこんでいたのだろうか。肉屋をしていたから当たり前なのだが、剣よりもよほど傾には似合っている。
闇のうごめきが不気味だった。馬のいななき。それと同時に、周囲を包むような闘気が向かってくる感覚があった。
「この気配、まさかとは思うが」
閃光。暗闇を斬り裂く刃が、巻き起こしたものだった。
血の匂いが一気に濃くなっている。近くで、数個の首が一気に吹き飛ばされた。ほとんど確信を得た状態で、孫策は闘気の渦に足を進めている。
「あっ……。孫策、ほんとにいた。ふふん。お腹ぺこぺこだったけど、恋、がんばって走ってきた」
「大殿より命を受け、ただいま参上つかまつりました。僭越ながら、ちょうどよいところに到着できたようですね」
敵を撃破した闘気の持ち主は、感じていた通りあの恋だった。続いてあらわれた紅波の言葉にはちょっと引っかかるが、おかげで危地を脱することができたのだから、長沙にいる義母にも一応感謝しておくべきなのか。
「けりをつけるぞ。競争だ、呂布」
「わかった。んっ……。そういえば、張遼は? 胡車児が、一緒だって言ってたのに」
「さあな。たらふく飯を食って、どこかで呑気に寝転がっているんじゃないか」
闘いのせいでほとんど忘れていたのだが、敵からの圧力が妙に集中していた理由にようやく合点がいった。それに、霞が参戦していれば、もっと楽に動けていたはずである。
†
篝火を手に、転がる死体を見て回った。どこにも、黄祖の麾下たる証拠のようなものはない。自分を捜して急行していたようだから、紅波にも敵を探知しているだけの余裕はなかった。
隣りにいる恋が、あっと声をあげている。地面に転がる頭のひとつを、孫策が鞘の先で小突いた。
「おい。起きろ、張遼。ここは、原野のど真ん中なのだぞ。まさか、飯の食いすぎで気絶したんじゃないだろうな」
「んが……? あっ、おはようさん、二人とも。てゆうか、まだ全然夜中やんか。それに、なんでこんなところに恋がいてるん。んん、んー?」
何度か頭を揺さぶられて、霞がついに眼を覚ました。周囲に蔓延する死の匂い。普通に考えれば、最悪の寝起きだった。
それでもけろりとしているのだから、おそろしい女だった。あのような状況下にあっても、霞が微動だにせず寝ていたから、襲撃者たちも死体だと勘違いしたのではないか。傾と瑞姫は死者が生き返ったとでも思ったのか、姉妹で抱き合ってふるえている。
「大概いかれた女だな、おまえも。よくもまあ、こんな状況で寝ていられたものだ」
「なははっ。いやぁ……、面目ない。途中で、なんかやかましいなあとは思ってたんやけど」
「とにかく、場所を移そう。できれば身体を洗いたいな」
月光の照らす中、雪華に騎乗して駆けた。
借りてきた兵は、死んだかどこかに逃亡したようだった。結局、ほとんど身内だけの旅路である。よほど楽だったが、七乃の小言が待ち受けていると思うと、それで気が重くなる。
見つけた小川のそばで、馬を休ませた。終盤に参加しただけの恋も、血まみれである。あれだけ激しく武器を遣っていたのだから、それも仕方がなかった。
「一刀」
裸になって身体を洗っていると、恋が近くにやってくる。引き締まった四肢。見るからにやわらかで、母性を感じさせる乳房。総じて、ほのかな明かりで浮かび上がる肉体が、美しかった。
恋の腕に走る花柄の刺青に、そっと指でふれた。同じものが腿や腰にまで彫られていて、幻想的な感じをより強くさせている。
「ちんちん、びくってした。でも、ねねと交尾してたときは、もっと」
「ン……。興奮しているのか、恋」
「わからない。でも、一刀のそばにいたいと思った。……お腹の奥も、ちょっとだけ熱いかも。確かめて、一刀」
ささやかな願いだった。恋を抱きしめ、唇を吸う。たどたどしさが、なによりも愛おしい。恋の言う熱の在り処を探ろうと、指で股を覆う茂みをかきわける。濡れ方はわずかだった。それでも、あの恋が自分といて欲情してくれていると思うと、なんとも表現し難い感動がある。
開放的な空間が、男女の衝動を激しくさせるのか。いつ、邪魔が入ってもおかしくないような状況だった。紅波なら、たぶん黙って見過ごしてくれる。霞は、おもしろがって乱入してくるかもしれないな、と恋と舌を絡めながら孫策は思っていた。
「むっ……。いまは、恋のことだけ見てほしい。だめ、一刀?」
「いいや。悪いのは、すべて俺の方だ」
「あっ、んっ、んんぅ、はうっ。一刀の指、ぬぷって……ぇ。お腹の奥、さっきよりもずっと、ああっ」
指に絡みつく肉の襞。恋の膣内が、自分に犯されることを望んでいるかのようだった。鍛え上げられた腹に勃起した男根を押しつけ、その気であることを教え続けた。それで、恋の濡れ方が強くなる。
「挿れるぞ、恋。何人も斬ったからか、抱き合っているだけでは俺もおかしくなりそうだ」
「うん。きて、一刀。はあっ、あっ、ふーっ、ううっ……」
抱き合ったまま、ひとつになろうとする。顔にかかる吐息が、焦れているようだった。恋のはじめてを奪う愉しみを、ゆっくりと味わう。むっちりとした膣肉を押し拡げて、奥の奥を目指した。
「んあっ、んっ、ふうぅ……。恋、ねねみたいに上手くできてる? ちんちん、お腹の奥がぼーっとしてるから、よくわからない」
「気持ちいいぞ、恋。ほら、ここがおまえの一番奥だ。突かれているのが、わかるか」
「やっ、ふあっ。い、いま、恋の身体びくってした。んっ、ふっ……。ちんちん挿れられるのって、不思議。どんな時よりも近くにいるのに、ちょっと寂しい。これって、なに?」
「案外難しいことを言うのだな、おまえは。まずは、考えるよりも感じてみることだ。恋、んっ……」
なだらかにふくらむ尻に両手を添え、腰を打ちつけた。乾いた音が川面に響く。恋の肉体は男根を受け入れることを完全に認めたようで、柔軟な肉が敏感な部分をくすぐるように弄んでくる。興奮が勝っているせいなのだろうが、早く果てたいという気持ちがいつもより強かった。
「あっ、だめっ……。そこ、とっても気持ちいい。一刀にちんちんでぐりってされるの、好き」
「あまり時間もないから、このまま。我慢なんてするなよ、恋」
「ひうっ、あっ、一刀……ぉ。ちんちんのびくびくも、恋に負けないくらいすごくなってる。白いおしっこ、もうでそうなの? はうっ、んっ。ねねにしてた時みたいに、恋の中にもびゅるって、んああっ……♡」
恋のふるえが大きくなる。強烈な力で抱き寄せられているから、そのことがよくわかったのだ。
口づけ。舌を突き出す恋が、餌を欲する小鳥のようだった。かわいい女だ、と孫策は笑う。ただし、生ぬるい覚悟で務まる相手でもない、という実感もあるのだった。
互いに窒息しかけるほど猛然と吸いあい、絶頂に全身をふるわせる。肌の粟立つ感じは、ほとんどあの一騎打ちの再現だった。
「んむっ、んーっ、んっ、ふうっ……」
肌を密着させての射精だった。誰が、この場の主導権を握っているのか。種をそそぐことで、それを恋にわからせる。内部がざわめき、従属の証を呑んでいった。絶頂している膣内ほど、正直な部分はない。
突き上げる。入り切らなかった精液が、股の間からこぼれ落ちている。それでも、続けた。呂布奉先のような怪物の腹を満たせるのは、この俺だけだ。そんな気持ちごと、恋の子宮にぶっつける。
「んぁ゙っ、んっ、んーっ……。ちゅっ、ちゅっ、んむっ、ちゅうぅ」
激しいだけだった口づけが、徐々に優しいものへと軟化していく。それに合わせて、膣内にたまった精液をかき混ぜるような動きを加える。充分気持ちよくなれているのか、恋の肉体は小さな痙攣を繰り返していた。
「はあっ、ふっ、んむっ、ふう……。んっ……。すごく気持ちよかった、一刀。みんなが一緒に寝ようって誘ってくるのも、これで納得」
「ン……。最高だったさ、俺も。狭いようで広い天下で、おまえと出逢えてよかったとも思う」
「ふふっ。相変わらず、一刀はへんなの。あっ、ちんちんまたぴくん、ってした」
浸かっている小川の冷たさが、ちょうどよい心地だった。
戯れるような恋とのついばみが続く。しばらく誰も邪魔してくれるなよと思いながら、孫策は血飛沫よりも赤い恋の髪を撫でた。