木場視点
僕らは今、外国人墓地の地下に侵入している。ライラさん、イゼベルさん。そして紫藤イリナ。このメンバーでイッセー君達が地上で陽動をかけている間に彼らのアジトから聖剣の因子に関わる情報を引き出すために調査するという手筈だ。
「くしゅん! 誰ぞ余の噂をしておるのかのう……?」
イゼベルさんがくしゃみをしながら鼻をこする。超然、というかおおらかというか……。イッセー君は彼女のそういう所に惹かれたのだろうか。
「ゴッド・ブレス・ユー」
「たわけ! 余は神の加護なぞ不要じゃ!」
「あう、スイマセン……」
ライラさんは海外の出身だからかイゼベルさんに声をかけた。確か海外ではくしゃみをすると魂が抜けるとかなんとか……。
しかし紫藤イリナは妙に静かだ。
イッセー君と会った時にはもっとテンションが高かったはずだけど……。
「何を暗い顔をして歩いておるか木場」
「貴方には関係ないことです」
「ほおー、余に対して言いよるのう。
『魔剣創造』の使い手に相応しく抜けば玉散る氷の刃……といった所かの。
何やら冷えるのも道理かの」
おどける様な、或いは僕を挑発するかのような調子で彼女はつらつらと言葉を並べ立てる。
「何が言いたいんですか?」
「復讐は最も甘美なる毒だという事じゃ。
復讐に生きれば生きるほどお主の世界は濁り、淀み、腐敗していく」
「貴方に何が解るんですか?」
僕は彼女の瞳を睨む様に見据える。だが彼女はそれを気にも留めない。
だから復讐は止めろというのか?
許すことが大切だとでも言いたいのか?
知った風な事を! そんなお為ごかしで何が救われるというのだ!! 言ってみろ!
「き、木場サン。落ち着いてクダサイ」
「やはり貴方は悪魔なのね木場祐斗。
やはり貴方たちは審判の日に神の裁きを受けるべき存在ね」
「い、イリナ!? 言い過ぎデス! 木場サンに謝ってくだサイ!」
ズドオォォォン!!
一触即発の空気が漂う中、地上で大きな爆発音が響いた。イッセー君達が動いた様だ。今は仲間……でもないが僕たちが争っている場合ではない。
僕らは地下を更に降りていく。
そしてそこで見たものは……。
ー
「んぶっ……!? んんん……!」
「ギャッハハハ! レイナーレといいアンタといい堕天使ってなんでこうも素晴らしきオマンコなんざんしょ! 俺ちゃんのチンポは天元突破! 天を衝くドリルなりってか!そらそらそらぁ!」
「あ……あぁ……」
確か、彼女はミッテルト……だったかな?
何故彼女がこんな所に?
全身を剥かれ、あちこちに鞭を打たれた様なミミズ腫れができている。
手足を鎖に繋がれたままフリードに犯されている。
堕天使が犯されている光景に何故か僕は酷い嫌悪感を抱いていた。
以前の僕なら『ああ、そう』位の感想しか持たなかったはずだ。
だが、彼女がとても辛そうにしているのを見ると何故か怒りが込み上げてくる。
「フリード・セルゼン!!」
「はあぉ〜ん? 人をフルネームで呼んでんじゃあねーですよドグサレ悪魔ぁ!」
僕の気配に気がついていたのか!?
魔剣創造により生成した闇属性の飛刀を漏れなくフリードは切り払った!
「ギャッハハハ! 怖い怖い! そのプッツン顔! 友情の怒り核爆発!! って感じぃ〜?
まさにビキビキニで木っ端ミジンコ! ってかあ〜?」
「はあ……。何と矮小な存在であろうか。
種はおろか言葉すら交わすのも怖気が走る存在に会うたのは久々ぞ」
「ミッテルトサンは神に背いた降天使で複雑な気分デスが……貴方は許しマセン!」
イゼベルさんがフリードを牽制し、ミッテルトを救助しながらライラさんはフリードを睨みつける。イリナさんは冷静なまま、後ろを固めてくれていた。
「おやおやおや? そこにおわすはライラ女史ではござんせんか? そーんな鋭い眼光で見られちゃアテクシコーフンしちゃいますわん!」
相変わらず狂人じみた振る舞いだが隙が見えない。と、いうかライラさんとフリードは面識があるのか?
「あら? ぜぇーんぜん覚えてませーん! って感じですなあライラぁ! 期待の星にしてエンゼル・ライラの異名持ちのテメーなら溝底に沈んでた僕ちんの事なんて知らぬ存ぜぬって感じ? 解る、解るよ〜ん☆だから死ね」
まるでジェットコースターの様に感情の乱高下を見せるやフリードは捉えきれない速さで突進! ライラさんとミッテルトの衣服や肌を切り裂いた!
「あアッ!?」
「いやああ……」
ライラちゃんとミッテルトの悲鳴が洞窟内にこだまする中フリードの高笑いが響く。
僕は二人をこれ以上辱めない様に魔剣の壁を二人の周りに生成した。
魔力の消費はあるが、彼らがイッセー君の友人である以上見捨てる事などできない。
「あらあらあら?木場きゅんってばお優しいのねん!素敵! 抱いて!」
「僕にその手の趣味はないよ。仮にあったとしても君とは死んでもお断りだ」
「あらあらつれねーですこと!
者ども! 出会え出会え!! ゲヘヘへ、一遍言ってみたかったセリフを今ここで言ってやったぜ!!」
ここは敵のアジトだからな、当然伏兵もいる。人相の良くないゴロツキたちが剣を持って現れ始めた。その手に携えているのは……。
「聖剣……!?」
「そうですよーん☆マグダラちゃんの破滅的な淑女で濃縮された因子を取り込んでこいつらは聖剣を使えるまでにパゥワーアップ! したわけでござんす☆戦いは数だよネン♪」
天閃の聖剣の刃に舌なめずりしながらフリードは勝ち誇るように笑った。
「阿呆が。数で囲めば余を圧殺できると?
話にならぬすくたれ者よ。こうした小賢しさとは無縁な所に覇は存在する」
「は? ナニ言っちゃってんのこのBBA?
うぉーいお前ら! このBBAヤッちまっていいぜ!」
「木場よ! ザコは余と聖剣使いに任せよ!
貴様はそこのすくたれ者を仕留めるのじゃ!」
「解った! イゼベルさん、ライラさんとミッテルトを頼みます!」
僕はイゼベルさんに二人を任せるとライラちゃんとミッテルトの周囲に展開していた魔剣の壁をフリードに向けて射出した!
「うおおおっ!!」
「なーにがうおおおっ!! だ!
バラバラに解体した後テメーのくちん中にハラワタ詰め込んでやるぜぁ!!」
ヒュン、とまたしてもフリードの姿がかき消えた。しかしタネはおおよそ解っている。
天閃の聖剣による超加速を加えた突進並びに乱れ斬り。それが『狂刃無適』とやらの正体だ! 僕は氷の魔剣と嵐の魔剣を同時に創造し、地には氷の結界、中には鎌鼬による真空の刃を張り巡らせた。
「うおっ!? ま、間に合わねえ!!」
フリードの表情が恐怖に歪む。だが、同情はしない。聖剣に関わるものは全て許さない。それこそ、僕の生命を捨て去ってでも!
「と、おもーじゃん?」
ニタァ、と悪魔そのものな邪悪かつおぞましい笑みを浮かべるフリードに僕は戦慄した。
「なっ!?」
氷の結界と真空の刃がフリードの体を素通りする! まるで幻術でも見せられているかの様に……。
「でひゃははははは!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇっ!!」
動じてしまった僕にフリードは迫撃をしかけてきた! スピードもさる事ながらこの重さは……!? 受けきれない!?
「こーれが俺っちのもう一つの奥義、
『冥恭死吸』ザンス♪ 。敢えて生者である俺っちが死の力を取り込むことでえ質量的なものが? 対ショーメツするとかなんとかかんとか?
いやー、兵藤一誠君には感謝カンゲキ雨嵐! アイツが光と闇の力を融合するのを実証してくれたおかげで俺も似た様な事ができる様になったってワケ!
いや〜ん、怖い怖い♪ ボクチン天才すぎて怖〜い。追放ものの主人公になっちゃったって感じぃ〜?」
「ぐわあっ!!」
僕はフリードの剣を受け止めきれずに吹き飛ばされた。なんて重さだ! まるで巨大な岩塊で殴りつけられたかの様な衝撃が僕の全身を駆け巡る!
「いや〜それにしても? アテクシに比べてなんと詰まらない生涯なのでしょうかねえ木場祐斗君はぁ? このまま僕ちんにズタズタにされながらあそこの雌豚共が犯される様を見せつけられた挙げ句に虫の様にくたばるワケですなあ〜☆
うっひょー、救いのないバッドエンドはシコリティ高っけース!」
そ、そんなことは……させない!
させるものか……! だが……全身は冷え、血の抜けた様な感覚と激痛が僕の体を蝕む。もう……ダメなのか?
「イゼベルさん、イリナ! 少しの間、
時間を稼いでクダサイ!」
「はあー? させるワケねーだろこのアマ!
特にテメーは孕ませた後にガキごとぶっ刺して殺してやるって決めてんだよォ!!」
ライラさん……? 一体何を……?
彼女が祈る様な態勢を取る中、僕の意識は闇へと落ちていった……。
ー
「こ、ここは……?」
あの時と同じ場所だ。
僕が聖剣計画の失敗作とされ、処分された場所。
僕より優しかったものも、強かったものも、賢かったものも、美しかったものも、
みんな、みんな無慈悲に命を奪われた。
苦しかっただろう。悔しかっただろう。みんな、みんな無念だっただろう。
僕は……それを全てふいにしてしまった。
力がないばかりに。
力がないばかりに……僕は誰も救えなかった。いや、そうじゃないな。
僕は所詮自分の事しか考えていない偽善者だったんだ。だから何もできなかったんだ。
『偽善者の何が悪いのです?
戦う意味さえ解せぬものが最後まで立っていた試しはありません』
ライラ……さん?
いや、少し雰囲気が違う?
背中には10枚の輝く天使の翼。
『貴方が信じて戦うものはなんですか?
贖罪ですか? リアス・グレモリーからの命令ですか?』
違う、そんなものじゃない。
僕は……ただみんなに生きて欲しかったんだ。死んでしまったら……何もしない。
何もできない。
『ならば、貴方は何をしたいのですか?』
僕は……守りたい! もう誰も死なせたくない! 僕にも誰かを守れる力が欲しいんだ!! するとライラさんの翼から蒲公英の種のように羽が少しずつ舞い散る。
舞い散った羽は人の形となり、聖歌を唄う。転生悪魔である筈の僕が頭痛もしなければ目眩も苦痛もない。
ああ、そうか。そうだったんだね。ありがとう、僕の友達。僕を導いてくれて。そして……ごめんよ、みんなの事を忘れてしまっていて……。
『僕らは一人ではダメだった』
『私達は聖剣を扱える因子が足りなかった』
『だけど』
『皆が集まればきっと、大丈夫』
『聖剣(かなしみ)を受け入れるんだ』
『怖くなんてない』
『たとえ、神が死んでも』
『悪魔が去ろうとも』
『僕たち、私達の心はいつだって……』
ひとつだ。
僕の意識が覚醒すると共に全身の傷がまるで溶けていくかのように消えていく。
「はあ〜? 転生悪魔のくせに天使の加護で回復するなんておかしくありません!?
そんなインチキ、俺ちゃんは認めませーん!!」
フリードが突進してくる。だが、もう僕には恐るに足りない!
「双覇の聖魔剣!」
「せ・い・ま・け・ん? 聖魔剣だあ〜?
テメーみてーなスカタンが禁手化に至る資格なんてねーんだよ!! 『冥恭死吸』!!」
フオン、と独特の高音を発しながら
フリードが光の姿に変わる。「『冥恭死吸』の効果は単純明快! 俺ちゃん自身が光の速さを超える事だ!! 光より速い物質は存在しない! 厨二病ならみーんな知ってるよねぇ!! つまり、存在しないものを殺すなんて誰にもできやしねえんだよオォォォ!!」
「悲しい男だね君は。無視され、排除され続けて、いないものとして扱われてきた世界への結論が怨念晴らしか」
人のことは言えない。僕だって、自分が一人ぼっちじゃないと言うことが漸くわかったばかりなんだ。
「あんだとぉ!? テメーも同じ穴のムジナだろうが!!この偽善者が!!」
フリードは光速を超えた動きで僕の周りを飛び回りながら攻撃を加えるが、
攻撃する瞬間は実体化せざるを得ない!
「僕は君を殺さない! その怨念を殺す!」
「はあ〜? 何言っちゃってんのお前? バッカじゃねーの!? 死ねや!!」
フリードが再度『冥恭死吸』で光の姿に変わり、僕の背後から切りつけ……ることはかなわなかった。
「おぉ……マジですか……」
フリードは首と胴が切断された状態になったというのに、それでも尚生きていた。
「なるほど、お主、既に不死者か」
「なんだよなんだよ〜。祐斗君もBBAもそこの聖剣使いもライラも全然ビビらないじゃん!俺ちゃん悲しいわ! よっ、はっ、とうっ!」
まるでサッカーボールの様に自らの首をリフティングすると再び首と胴体を繋げた。
なんとも形容し難い光景だ。
「うーん……ノロイの旦那とマグダラちゃんも撤退したみたいだし俺ちゃんも定時なんで上がりまーす☆」
「私達があなたを逃がすとでも?」
「うっせーなあ! 納豆みてーなネバネバ糸が丸見えな聖剣使いちゃんよお!
しかし、まあ……。俺ちゃんは寛大ですし? 一ついい事を教えてやりましょ!
コカビエルの目的は聖剣の複製じゃありません! もっともっとヤバくてとんでもねーコトなんザンスよ!
一体何が始まるんです? 第三次世界大戦だ! なーんつってな!」
フリードはけたたましく雄鶏の様に笑いながら飛び去っていこうとする。
「ま、待て!!」
「待つと言われて待つヤツなんていませーん!! バーカ! はい! ちゃらば!
残念無念また来世!!」
まるで子供の様な捨て台詞を吐いた後、フリードは光となって消えた。
「ま、待ってくれフリードさん!」
「俺達はどうすれば!?」
イゼベルさんやイリナさんにボコボコにされていたフリードの手下たちはフリードが去った後、イゼベルさんとライラさんに縋り付く様にして懇願し始めた。
「知らぬわ。自分で考えよ」
「そうねえ……。まあ、少なくともコカビエル様の所に戻るのはオススメできないわね」
「……と、いう事は?」
「貴方達は教会を追われる身になるでしょうね。でも安心してちょうだい!私が責任を持って貴方たちを保護するわ!」
「ほ、本当ですか!?」
イリナさんはそう言うが……なんというかな。フリードなんかに賛同するのは不本意だがまるであの時の研究員の様な邪悪さを感じてしまう。いや、気のせいだ……。
多分聖魔剣を作ったせいで僕のテンションがおかしな事になっているんだろう。
「第三次世界大戦じゃと……?
なるほど、奴の真の力を解放すればそれも可能か。コカビエルの奴め」
イゼベルさんもイゼベルさんで何かを考えている様だ。
「イゼベルさん、それは一体……」
「いや、なんでもない」
僕はイゼベルさんに尋ねようとするがはぐらかされてしまった。