「う、うああ……!! や、やめろっ!
やめてくれっ……!!」
俺は絶望に苛まれていた。
バイサーを聖女から悪魔に貶めたあの貴族の男がアーシアを犯しているじゃないか……!!
ふざけやがって!! あのクソ野郎がっ!!
俺は眼の前のガラスを打ち砕こうとするがビクともしない……!!
「ハハハ! 無駄だよ! ライザーは僕の事を血統に胡座をかいた誇大妄想狂と考えていた様だけれど……所詮それが成り上がりものの限界だよねえ! なあ! アーシア!」
ぱんっ!! ぱんっ!! と肉同士がぶつかり合う音が俺の心をヒビ割らせていく……。
「はぁい♥♥♥ その通りです♥ ディオドラ様あっ♥♥♥ イッセーさんみたいな浮気者で♥口先だけの男の人に振り回されるのなんてもううんざりですう♥♥♥」
「!?」
う……、ウソだ!! こんなのデタラメだ!!
あのアーシアがあんな事を……あんな事を言うわけがない!! 俺は必死に拳をガラスに叩きつけまくるが毛程の傷もつきはしない。
一方のアーシアはガラスにそのおっぱいをぎゅう〜っ♥と押し付ける様にしながらディオドラとのセックスに溺れていた。
気持ち悪い。気持ち悪い。脳が爆発して内蔵の全てが口から吐き出そうな位に気持ち悪い……!
「そうだ。憎め、恨め、呪え」
「聖女だなんだと言っても一皮剥けば同じだ」
「これが人間、いや生物の本性さ」
「だから……」
違う! 違う!! 違う違う違う!!!
俺の今までの全てがデタラメで何もかもウソだったとしても……!!
俺は彼女を……! 皆を……!
「ウソをつけ。お前が守りたいのは皆に愛されて可愛がられるお前だろう」
なんだよ……! なんなんだよ!!
さっきから……!! お前らが俺の何が解るっていうんだ……!!
憎しみに染まりきった悪鬼のような俺の顔がガラスに映っている中、アーシアを犯しているディオドラの姿が変わっていく……。
誰の顔よりも見たその顔は……。
「解るさ。俺は未来のお前自身だからな。兵藤一誠」
う……あああああああっ!!!!
ー
「ぶはあっ!?」
ばっと、思わずベッドから跳ね起きる事でさっきまでの地獄よりも酷い光景は悪夢だった事が解った。
な、なんて酷い夢だったんだ……泣きたい!
しかし、左右にはまだ夢見心地のアーシアとイゼベル様が寝息を立てていた。
「イッセーさぁん……♥わたし、幸せですぅ……♥」
「むにゃむにゃ……もう食べられんぞ〜」
アーシアはともかく、イゼベル様は相変わらず色気以上に食い気ッスね……。
でも、さっきまでの最悪な気分が大分マシになったぜ……。二人共ありがとな。……それにしても、一体誰があんな最低最悪の夢を見せたんだ?
『……』
ふと、夢の最後に現れた未来の俺らしい男を思い出す。
あれは間違いなく未来の俺だ。そう確信できる程に俺は奴の顔をハッキリと思い出す事が出来る。そして同時に思い出すのは今の俺にとってかけがえのない仲間達の存在だ。部長や朱乃さん、小猫ちゃん、木場にアーシア、ゼノヴィア、堕天使の皆、日本の神様達……後半はまとめすぎな気もするけど、それでも大事な人達ばかりだ。
俺は絶対あんなクズにはならねえ! 絶対にだ!!
「……アーシアはともかく、イゼベル。
貴方、いつからイッセーの主になったの?」
って、り、リアス部長!? なんたる見目麗しいおっぱいであることか! まさに夜明けのおっぱい! ありがたや!
「むにゃ……何ぞ騒々しいのう〜。
従者一人押し倒す気概もない主が囀りよるわ……あふ……」
転じてイゼベル様は猫のように伸びをして目を擦りつつの暴言だ。
起き抜けとは言え、あまり部長を煽る事は仰らないで下さいますと助かりますのですが……。
「な、何ですって……!! ライザーとの婚約破棄の時に私は押し倒そうとしたわよ!!」
「じゃが未遂に終わったのであろう。
余とアーシアはとうの昔にイッセーと肌を重ね睦み合いに励んでおると言うのになんとまあ迂遠な事か」
「う、煩いわね! すぐに私の大事なイッセーにちょっかいばかり出して!! そもそもこの家だって私達が改築したのに……!」
「なんじゃ。財貨で男を囲い込むとは。ヴリトラでもあるまいに」
「ああ言えばこう言って! このあんぽんたん! 年増! 年増! 行けず後家!」
「な、なんじゃと〜!! タブー中のタブーに触れよったな小娘!! へちゃむくれ!! 乳牛帝めが!!」
髪の毛以上に顔を真赤にして部長はイゼベル様に食ってかかる。ああ、こんな可愛い部長達と同棲しているだなんて俺は本当に幸せ者だ……! って現実逃避している場合じゃなかったー!!
枕を投げつけあってどったんばったんとの大騒ぎではあるがこれはこれで平和……なのかなあ!?
ー
「あらあら。どうしたのリアス? それにイゼベル? 美人が台無しじゃない。ふふふ」
朱乃さん。解っていて言ってますよね。
青アザや引っ掻き傷、果てはたんこぶや絆創膏を貼り付けまくっている部長とイゼベル様を見ても笑えるのだから大したものです。
今俺達がいるのは冥界はグレモリー家領地行きの魔列車駅前。 部長が実家に一旦帰省するのと、若手悪魔達との顔合わせが目的との事なのだが。
「うう……我が身が情けないであります」
端っこで地面にのの字を書きながらずーん……と落ち込んでいるのはトリフネちゃんだ。と、言うのも飛空艇に変化すればひとっ飛びでありますとトランジスタグラマーな胸を張っていたのだが……。
『ダメよ。下手に私の領土に未確認飛行物体が飛び回って御覧なさい。お兄様やお父様の眷属の精鋭が忽ち撃ち落としにかかるわよ』
『そうじゃそうじゃ。それにトリフネよ。
そなたの飛空艇には握り飯しか食事がないではないか! ふざけておるのか!!』
と、痛烈なダメ出しとクレームを受けてしまった為である。
「……無用の長物」
「がはあっ!?」
こ、小猫ちゃん!! 辛辣すぎるよ!!
言葉で人は死ぬんだからね! トリフネちゃんは神様だけどそれはそれ!
「ギャスパー殿……その段ボール貸して貰えませぬか」
「え、ええ〜……まあ、予備があるからいいですけどぉ」
いや、ギャー助!! お前段ボールの予備なんて持ってきとるんかいっ!!
と、ツッコミを入れている間にトリフネちゃんも段ボールの中に引きこもってしまった。
「はあ〜……、落ち着くでありますなあ」
「でしょ〜……」
「来世は貝になりたいであります」
ってコラコラトリフネちゃん!! 後ろ向きなシンパシーを感じるんじゃありません!! というか、神様に来世ってあるのかなあ!?
と、まあそんな話をよそに魔列車は出発した。
ー
「それにしても、なんでまた魔列車でグレモリー領に? 前の時はグレイフィアさんに転送してもらって、帰りはグリフォンに乗って帰ったのに」
シトリー領を抜け、グレモリー領に入ろうかと言う頃、俺は部長に気になった事を訊いてみた。すると部長は何やら困った様な様子を見せていた。何か言いづらい事でもあるのだろうか?
「え、ええと……」
「イッセー君。貴方の眷属になったゼノヴィアちゃんとバイサーちゃんがいるでしょう? 眷属の眷属は身辺調査も兼ねて初めてリアスの実家に招かれた時は魔列車で来訪する仕来りになっていますの。うふふ」
と、朱乃さんが代わりに説明してくれた。
そう言えばバイサーははぐれ悪魔として悪事に少なからず手を染めてしまった経緯もあるし、ゼノヴィアはゼノヴィアで聖剣使いとして多くの悪魔の命を奪ったのも事実だ……。
「つまり禊……というワケですね。悪魔が禊というのも妙な話ですけれど」
俺の影から乳……じゃない! にゅっとバイサーが現れた。胸元&背中がガン開きチャイナドレスというありがたありがたやな格好だ。真ん中分けにしたロングヘアは乱れや傷はまるでなく限定フィギュアもかくや、といった美しさ。
「しかし、凄いメンバーじゃないかイッセー、部長。 元聖剣使いが2人、元聖女が2人、ニホンの神、堕天使と人間のダブルに吸血鬼、猫又、更には赤龍帝だ。此れほどのメンバーが揃っていればそこいらの悪魔やドラゴンなんて束になろうと相手にもならない。 そうは思わないか? 皆?」
ゼノヴィアは初めてのVIP待遇(ちょっと違うかな?)でハイになっているのか若干鼻息荒く、目をキラキラさせて皆に同意を求める。
「あらあら。改めて言われてみれば凄い顔ぶれですわね〜。うふふ」
「確かに、コカビエル事変や白龍皇事変をくぐり抜けた僕達は禁手化までに至ったからね」
「ぼ、僕もある程度なら魔眼をコントロールできる様になりました……」
「私も、聖書を読んでも頭痛がしなくなりましたよ!」
「それもこれもイッセー様のお導きですわ」
いや、アーシア。それは成長と言うにはちょっと違うのでは……?
いや、可愛いからいいや。変わらないままのアーシアでいてくれよな。
「これっ! ゼノヴィア! バイサー!
余への感謝と奉納はどうした!! 余がイッセーを見出し鍛えたからこそ、今日のそなたらがあるのだぞ!」
「待ちなさいよイゼベル! イッセーを蘇らせたのは私だと言うことを忘れているようね!」
「何を抜かすか! 赤龍帝の篭手を引き出すきっかけを与えたのは他ならぬ余であるぞ!!」
「そんなの関係ないわよ! 貴方がそんなだからイッセーは他の子にばかり目移りしていつまで経っても私を……!?」
そこで部長はハッとなる。とんでもない爆弾発言をしかけた事に感づき、姿勢を改めた。
「い、今のは忘れて頂戴、イッセー」
「ハイ! 忘れます!!」
俺は直立不動の態勢で部長の言葉に従う。
だってイゼベル様から力を与えられたとは言えリアス部長は俺の憧れだからな!
いつか彼女を抱く目標はあるが、まだまだそのレベルには達していないのは自覚している。
「うわ、マジか……」
「マジでありますか……」
「イゼベル様、口調が乱れていますわ」
? イゼベル様とトリフネちゃんが『こいつ、アホか』みたいな呆れ顔をして俺を見ているがどうしたんだろう?
「……」
そんないつもの真面目に不真面目な俺達の中で小猫ちゃんが所在なさ気にしていた。
さっきまでのクールな表情はどこへやら。なんだか申し訳無さそうだ。
「どうしたの小猫ちゃん?」
「……わかりません」
「へ?」
「わかりません! いつもヘラヘラして!
いやらしい事ばかり考えているくせに!
何でもできて! 強くて! 皆から頼りにされているイッセー先輩に私の気持ちなんて!
解るはずがないんですっ!!」
キッ、と睨むというより迷い猫の様に弱々しく潤んだ瞳で小猫ちゃんは叫ぶと部屋から走り去ってしまった。
「こ、小猫ちゃん……」
「イッセー! 早く小猫を追いかけなさい!」
「えっ……けど……」
部長のお言葉といえども、事実を指摘された俺がここで慰めに行っても逆効果な気がするんだ……。
「いいから行きなさい! これは命令よ!」
「行くのだ! 余も追って命ずる!!」
「は、はい〜っ!!」
俺は部長とイゼベル様に急かされ、慌てて小猫ちゃんの後を追った。
ー
「小猫ちゃん!! 待ってくれ!!」
「来ないでっ! それ以上近寄ったら飛び降りますから!!」
魔列車は冥界の空を走っている。
高さは目も眩むばかりで、地上から何百、いや何千メートルはあるだろう。
そんな高さから落ちれば悪魔であろうとただじゃ済まない。
冥界の空気は空を飛ぶには適さない。
余程空を飛ぶ技術に長けているか、余程の魔力に恵まれているか、はたまたトリフネちゃんばりの特殊スキルでも持っていない限りこの高さからの落下死は免れないだろう。
そんな魔列車の先端で彼女は半身を乗り出していた。
「どうしたんだよ小猫ちゃん? そんなのいつもの小猫ちゃんらしくないぜ!」
「いつもの小猫ちゃんって何ですか?
私のことなんて……何も知らないくせに!」
その言葉に俺は衝撃を受けると共に改めて朝の悪夢を思い出した。俺は周りに助けてもらってばかりのくせに、周りの皆の事を何も知らない。
『なぜなら、俺は未来のお前自身だからなあ!』
その挙げ句が女の子を弄んで、甚振って、その挙げ句にポイとゴミの様に捨ててしまうクソ野郎になってしまうってことかよ……。
何がハーレム王だよ! 悪夢だよ!
あの夢は俺の思い上がりとバカさ加減を戒めるための予知夢だったんじゃねえか!!
気が付くとガン! ガン!! と俺は血が出るのも構わず自分の頭を殴りつけていた。
「先輩!! 何をしているんですかっ!!
止めて下さい!! すぐにアーシア先輩を呼びますから!」
小猫ちゃんはさっきまで自分が飛び降りようとしていたのも忘れて俺を止めようとしてくれた。
「俺、俺、俺、馬鹿だ! 大馬鹿だ! 最低だ! 最悪だ!」
「落ち着いてください! お願いですから!」
「あ、ああ……ありがとう。少し落ち着いたぜ」
これじゃ錯乱しているのはどっちなんだか。
「一体、どうしたんですか? こんな事、普段の先輩なら絶対しない筈なのに」
「……実は、朝方見た夢の話なんだ」
「夢? どんな夢なんですか?」
「それが、女の子に俺が酷いことをする夢なんだ。覗きやらセクハラなんてどころじゃない最低のことを……」
「そう、ですか……」
ホント、最低だ。臭いものに蓋をして浮ついていた自分が恥ずかしくなってきたが、そんな最低の俺の手を小猫ちゃんはぎゅっと握ってきた。小さいが暖かくて柔らかい手だ。
「私は、そんな風に思っていません」
「え?」
「先輩は、いつもヘラヘラしていて、いやらしい事ばかり考えているけど……今の先輩は女の子を傷つけて喜ぶ様な悪魔じゃありませんから」
「……小猫ちゃん」
「それに……私も、先輩になら……」
小猫ちゃんはそこまで言うと、ハッとなって首をブンブンと横に振る。
「い、今のは忘れてください!」
「お、おう……」
小猫ちゃんは顔を真っ赤にして俯いている。うぅ……なんだか俺まで顔が熱くなってきちゃったよ……。
「と、とにかくだ! 皆、心配してるからさ、一旦戻ろうぜ!」
「そ……そうですね」
と、俺達が戻ろうとした時だ。
ガッシャアァァァン!! と床が轟音をあげるやいなや崩れ落ち、小猫ちゃんが投げ出された。
「小猫ちゃん!!」
俺は当然悪魔の翼を広げて、小猫ちゃんを救出すべく魔列車を飛び出す。
だが……
(お、重い……!? 鉛みたいに翼が重い!! しかも空気が……重油のプールかって位粘ついている様に感じるぜ!)
滑空すらままならぬ位に冥界の空気は重たく感じられた。それでも俺は必死になって小猫ちゃんの元へと羽ばたき彼女を抱きかかえた。
「せ、先輩! 離して下さい!」
「ダメだ! 絶対に離さないぞ!!」
たとえ俺の身がバラバラに吹き飛んでもクッション位にはなってみせる! 小猫ちゃんだけは、守ってやるんだ!!
力にリミッターがかけられようがなんだろうが、それが俺の王道なんだ!!
『そうだね。それに僕、ハピエン厨だから』
『白いのの依代にしては話がわかるじゃないか』
ザンリュウさんの声がしたかと思えば……。
『divide! divide! divide!』
落下の勢いがドンドン減少していき、ふわりとまるで落ち葉が水面に軟着陸するかの様に俺はお姫様抱っこの状態で地面に降り立った。
「これは……?」
見れば小猫ちゃんも不思議そうな顔をしていた。
「な、何だか俺、白龍皇の力も使える様になったみたい……」
「ええ……」
照れ笑いする俺に小猫ちゃんは呆然とする。俺もまだ半信半疑だけど。
『まあ、大分制限はあるけどね。ヴァーリ君はまだ生きているから』
『だろうな。あの小僧も白いのもそう簡単にくたばるタマじゃないさ』
あ、そこはやっぱりそうなんだ……。
けど今はそんな事より小猫ちゃんのケアが先決だ!
「さぁ! 早く皆の所へ行こう!」
「はい!」
小猫ちゃんは嬉しそうに微笑んでくれた。
小猫ちゃんも元気を取り戻してくれたし、俺もザンリュウさんの力を使える様になったし万々歳! まさに情は人の為ならず! だな!
「ほ〜お。俺の縄張りに妙な悪魔が飛び込んでくるとはな」
しかし、1難去ってまた一難という言葉もある。なんと俺達の視線の先にあった黒い山がいきなり喋り出したじゃないか。
いや……違う!!
翼と尾を広げバサアッ!! と跳ね上がったそれはドラゴンだった。
マジかよ!! あの空気の中なのにあの馬鹿でかい図体を風船みたいに軽々と!?
「な、何だよお前は!? ドラゴンのくせに悪魔みたいな角と翼を持ちやがって!」
「フハハハハ! 俺の名はザンニーン!!
なんやかんやで主を喰らい、その悪魔の駒が持つ全ての権能を奪った悪魔竜王よ!!」
「あ、悪魔竜王〜!?」
って事は兵士、騎士、僧正、戦車、女王……全部の力を持っているって事か!?
インチキ効果もいい加減にしろ!!
『……はあ』
おい! ドライグ! なに諦めたみたいな溜息ついてんだよ!! 不安になるだろ!
「ほほお〜。転生悪魔にしては珍しい神滅具……いや、神器を持っているようだな。
その力も俺がぺろりと平らげてくれるわ!」
く、くそー! だが、やるしかない!!