遂にこの日がやってきた……!!
いよいよディオドラのヤツとのレーティング・ゲーム開幕の日だ。
武者震いや緊張の類はない。
ないのだが……。
「いやあ、今日は人生最良の日になりそうですね、アーシアさん」
「……」
相変わらず馴れ馴れしくもディオドラのヤローはアーシアに粉をかけている。
「そのシスター服の衣装もとてもお似合いですよ。そうだ。この試合のあとに新しいシスター服をオーダーメイドするというのはどうですか? 二人で選ぶのもきっと楽しいですよ」
「いえ。その必要はありません。私達が勝ちますから」
アーシアは遂に前を向き、ディオドラと相対してはっきりと拒絶の意思を示した。
あの温厚で控えめなアーシアがここまではっきり自分の意思を伝えるとは!!
成長したな!!
「貴方とお話して判りました。
貴方は決して誰にも心を開かないもの。
その優しさめ笑みも全てはまやかしの
つくりもの。全てを煙に巻き、夜霧の様に惑わす狷介固陋の人。それが貴方です。
そんな貴方が誰かを愛するなどありません! そんな貴方を誰かが愛する事もありません!
宵闇に揺蕩う霧に掴めるものなんて、何もないんですから!」
「……」
アーシアの啖呵に内心はどうあれディオドラは目を閉じて冷静な様子を見せていた。
しかしあのアーシアがここまで強い言葉を使うなんて。今まで我慢していたんだろうか。俺があそこまで言われたら泣くかも。
「そこまでになさいアーシア。
みだりに人前で誰かを罵るものではないわ」
注意する、というより宥めるようにリアス部長がアーシアの背後からそっと肩に手を置き、それを受けたアーシアも落ち着いた様子を見せた。
部長の配慮のお陰か場が険悪にならずに済んだのはありがたいけど……アーシアがあんなに感情的になるなんて。余程あのニコニコ腹黒野郎にムカついていたようだ。
「気にしてはいないよ、リアス。
人生は誤解と衝突の積み重ねだからね」
「ありがとうディオドラ。
貴方の器の広さの意外性に悪魔の身ながら今日だけは神に感謝せざるを得ないわね。 あ、いたた……」
あ、ムカついていたのはアーシアだけじゃなかったんですね……。
まあ、リアス部長に眷属を譲れなんて無法も無法、虎の尾でタップダンスする様な真似をされては頭痛を起こすのも承知で皮肉をいうのも納得だ。
「まあ、互いにその程度にしておけ。
リアスも思うところ、ディオドラに含む所があるのは解るがレーティング・ゲームは飽くまで堂々たる決闘の場。これ以上口舌の刃で切結ぶのは無粋というものだ」
今回、レーティングゲームの裁定役ということでやって来たサイラオーグさんが部長とディオドラを嗜めた。
流石にサイラオーグさんの前ではディオドラもあくどい真似はしないだろう。
そして挨拶もそこそこに俺達はレーティング・ゲーム用のフィールドに転送された。
今回のフィールドは神殿だそうだ。
悪魔なのに神殿っていうのも妙だが、
ディオドラのヤローの趣味なんだろうか?
今回のルールは
①祭壇を奪い合って、一定数を維持すれば王であるディオドラ、リアス部長の本陣に眷属を送り込める。
②祭壇を奪えば奪うほど本陣にいる王、眷属の力は弱まる
③駒のランクによる奪い、維持できる祭壇の数は決まっている。なおこの際何個使っているかは関係ない。兵士が維持出来るのは一つだけだ。
「明らかにイッセーがいる私達に不利なルールにしてきたわね」
「す、すみません……」
腕組みしながらうむむ、と唸るリアス部長に俺は恐縮するよりなかった。
兵士10個分の駒を使っている俺をメタる為にこんなルールにしてきたんだろう。
陣地の奪い合いなら数が多いほうが俄然有利だもんな。
「気に入らんな」
「ええ、とても」
「そうですね」
「全くだね」
ううっ!? 小猫ちゃん、ゼノヴィア、姫乃先輩、そして祐斗までリアス部長に同調……!?
俺って人望なかったんだな……。
ギャー助、その段ボールちょっと貸してくれんかね……。
(何を憶測でモノを言っている)
と、ドライグがツッコミを入れてくるのに
併せて皆が続いた。
「僕たちはイッセー君のワンマンチームだと誤解されている事がね」
「ええ。認識を改めさせる……もといあの自己認識に歪みのあるお坊ちゃまにわからせる必要がありますわ」
「……同感です」
「うむ」
み、皆……!! 皆の真意を理解して感激のあまり目から涙が止まらない!!
俺は今猛烈に感動している!
「ではお互いに準備は良いか。
リアス、ディオドラ。互いに家名に恥じぬ健闘と敢闘を」
「ええ」
「勿論です」
そしてお互いの足元の魔法陣が眩く光り、レーティング・ゲーム会場へと俺達は転送された。
ー
転送された先はギリシャチックな神殿をイメージさせる場所だった。
しかし転送された場所には俺一人。
リアス部長も他メンバーの姿もない。
(どうやらお前達は別々の場所に飛ばされたらしいぞ、相棒)
ドライグの警告を受けつつ周囲を警戒する。こういう時探知系の魔法やら特技が使えればいいのだが……匙みたいに。
……だが!
「そこに誰かいるな!!」
バトル漫画宜しく俺はドラゴンショットを神殿の1柱目掛けて放った。
ドォンッ!! と爆裂音と共にあたりに煙が立ち込める。
(やったかな?)
いや、ザンリュウさん。
そういう雑なフラグの立て方は止めてくださいよ……ホント。
なんて俺が呆けていたらヒュゴォッと一陣の風が駆け抜け、竜巻が生じる。
「危ないっ!!」
若干ハデに回避しつつ俺は態勢を立て直しながらも視線を竜巻が襲ってきた側へと見据える。
果たしてそこに立っていたのは……。
髪を後ろで結んだ水色髪の美少女だった。
……全裸の。
「な、なんだあっ!?」
「この私、ネイの擬態を見破るとはどうやら貴方をみくびっていた様ね」
と、ネイ、もといネイちゃんはキリリとした表情で言う。
目の保養……! じゃなかった!!
目のやり場に困る……!!
「き、キミ! 何で服を着ていないんだ!」
「何故だと? 私の役目は貴方の足止めをすることよ。聞いたところによると貴方は女性の裸に目がないそうね。
しかも洋服破壊なる卑劣な技を持つとか。
それを封じるためにディオドラ様から全裸で戦う様に命じられた。それだけのことよ」
ネイちゃんは自信たっぷりに言うと腕組みをして胸を持ち上げる。
な、なんて説得力……!!
意外とデカいし形もいい……!
くっ……! これじゃマトモに戦意喪失させることができない……!! ディオドラのヤツ……なんてヒレツなマネを……!!
(そんなスケベ丸出しのニヤケ顔で言われても説得力がないぞ)
ドライグのツッコミはともかく俺は彼女に対応するべく赤龍帝の籠手を発動させて臨戦態勢を取った。
一方のネイちゃんは複数の竜巻を巻き起こして俺にぶつけてくる!!
ぶるん♡ばるん♡とおっぱいやお尻を振り回しながら、だけど。
こ、これは正に死の罠だ……!
(そんなバカなこと言ってないでちゃんと戦え)
ですよね~……。
さらに言えば彼女の巻き起こした竜巻は中々の威力だ。今まで戦ってきたはぐれ悪魔の比じゃない!
なんとか相殺しながら戦ってはいるのだが
ネイちゃんの身体に傷が生傷が生じ始めていた。そればかりか出血まで……!!
「お、おいっ! キミ、ケガをしているじゃないか!! なんでディオドラのヤローなんかのために義理立てするんだ!!」
「ディオドラ様を愚弄するな!!
ディオドラ様は……村の連中に排斥された私を悪魔でありながら唯一匿ってくださった御方なんだ!」
目をかっと見開いてネイちゃんは竜巻に自身の血液を乗せて飛ばしてきた!!
(まずいイッセーくん! マグダラ程じゃないが元聖女の血液は君達転生悪魔には猛毒だぞ!)
「くっ……!!」
なんとか身を翻してかわそうとしたが、
複数の竜巻によって逃げ場がなく、モロに食らってしまった。
「ぐぅ……!」
『いいぞ〜。僕の最愛のパートナーのネイ。そのままそのクズトカゲを足止めしてくれ。なんなら殺してもいいよ?』
ダメージを受けた最悪のタイミングでディオドラのヤローから祭壇を通してホログラム通信が行われる。
「はい……! はいっ!!」
キラキラと目を輝かせ、神に祈るを捧げるかの様にネイちゃんはディオドラの幻影に跪いて返事をしていた。
ネイちゃんにではなくディオドラのクソヤローにふつふつと怒りが湧いてくる。
「ざっ……けんな!! ディオドラァ!
レーティング・ゲームで殺しはご法度だろ!!」
「様をつけろよ。クズトカゲ。
世の中には不幸な事故ってのがあるんだよぉ?」
ゴミをみるような冷酷で残忍な瞳でディオドラは俺を睨みつけてくる。
こいつの性格の悪さも大概だぜ……!
ビビリはしないがヘドが出そうだ。
「分かりました! ディオドラ様!
このネイは貴方に逆らうクズの手先に立派に役目を果たしてみせます!」
「ふふっ。いい子だねぇネイ。 愛しているよ」
ディオドラの満悦げな声の合図に従い、
ネイちゃんが竜巻を再び放ち出す。
(成る程、あの女の愛と忠誠を引き出すことで嵐を巻き起こす能力を強化しているらしい)
(けどディオドラは彼女の未来なんてこれっぽちも案じていない様だ。
寧ろアーシアちゃんを手に入れるためにここで使い潰すつもりだろう)
ドライグとザンリュウさんが
それぞれネイちゃんの分析をしてくれた。
おそらくあの二人の言う通りだ。
しかし、どうすればいいんだ……!
ー
『第一、第二の祭壇がディオドラチームにより占拠されました。
グレモリーチームに対してペナルティを発動します』
無慈悲なナレーションと共に僕が発動させた魔剣がズシリ、と重くなると同時に魔力が吸われていく感覚がある。
「あら、噂程にもありませんですことね」
やや露出の高いウェスタン装備のメガネっ子が僕を見下す様に言ってくる。
金髪ツインテールの根元にボール型のアクセサリーと二丁拳銃という独特の格好をしており、さらに言えばかなりの美少女だ。
彼女の名はリップ。
ディオドラ眷属の騎士……だそうだが、
銃で武装した騎士とは恐れ入る。
「あら、貴方、私に見惚れていますですね? ふふっ、私は可愛いですますから」
「自信家だね。けど残念ながら僕の趣味じゃないかな」
「奇遇ですますね。私も貴方のようなひ弱そうな男性はタイプではありませんですよ」
イッセー君の様に相手を煽ってみたが不発に終わった。なかなか彼のようにはいかないな……。
「BanBaーn!!」
磁力付きの特製魔弾をぶっ放してくる彼女に向けて魔剣で迎撃しようとするも……
まさにホーミング弾の軌道で肩に2発貰ってしまった。
「如何ですか? 魔磁力付き魔弾をぶっ放してくる美女なんて滅多にいないですますよ。このリップの魅力に骨抜きにされなさいです!!」
「謹んでお断りするよ」
僕は魔剣創造で地面から植物の魔剣を発動させて彼女を絡め取ろうとした。
ところが……!
バチバチッ!! と磁力の結界が生じたかと思うと植物の魔剣は弾かれてしまった。
「nonnon♪ nonnon♪
金属なら阻まれると考えたのでしょうのですけれど……。私の魔磁力結界はそんなヤワじゃありませんなのですよ。
金属を含む攻撃なら無効化してしまうのですねー」
「……随分と自信満々だね」
「そりゃそうですですの。
だって私はディオドラ様に大切に可愛がってもらってますから。そんな私をディオドラ様に仇なすクズ共に負ける理由なんてどこにもありませんなのです」
僕に銃を向けながらもリップは心底ディオドラへの信奉を隠すことなく宣言する。そんな彼女に対して僕は憤りを隠さずにはいられなかった。
「それは違うよ、リップさん。
そんなの自分はディオドラに愛されていると信じたい、彼に愛されなければ生きていけないと信じ込んでいるだけさ。
真実の愛も知らないで女の魅力を語るなんて滑稽だね」
「な、なにおですとぉー!!」
リップはカッとなって僕に銃口を向けてくる。やっぱりリップは自身が愛されていると信じたいのだ。ディオドラを信じなくては生きていけないと信じ込み、その妄執に囚われているだけの事だ。
イッセー君ならそんな彼女でも救おうと奮起し、自分から不利な状況に飛び込みながらも奇跡を起こすのだろう。
「私は許しませんですよー!! その綺麗な顔の眉間に風穴を開けてやるです!」
「悪いね。ピアスをやる趣味はないんだ」
だが、僕はイッセー君にはなれない。
だから……!
「むん!!」
咄嗟に磁石の魔剣を創造して眉間を狙った魔弾をリップめがけて弾き返すと共に……。
「ぐわあああっ!!」
肩に埋まっていた彼女の魔弾を再構成して
撃ち返した。失神しそうな程の激痛と衝撃はあったが……!!
「C……Crazy……」
「恋に恋するナルシズムが仇になったねリップさん。大好きな自分自身から創り出したものは流石のキミでも弾く事はできないだろ?」
地面に倒れ伏したまま動けなくなったリップに告げる。喉と肺を撃ち抜かれたせいでこのままでは呼吸もままならない筈。
このままだと確実に命はないだろう。
しかし、ディオドラがリップが信じている通りの存在なら、助け舟を出す筈だ。
「ディオドラ……さま……たすけ……」
虚空に向かって手を伸ばしながらリップは力尽きそうになっている。
「何をしているんだいリップさん!
ディオドラは最初からキミを使い捨てる気だったんだ! キミが信じていたものなんて所詮虚像に過ぎないんだよ!!
いますぐギブアップするんだ!!」
「うっ、嘘です!! 嘘ですですーっ!!
ディオドラ様……助けて……助けて──っ!! うぅ……ディオドラさまぁ……。
私がいけなかったですの……。だからお願いですぅ……許してくださいですぅ……」
彼女は主に許しを請いながらさめざめと咽び泣いている。
彼女の命を奪う事が目的ではないのだから
これ以上は危険だ。
そう考えて僕はエマージェンシーコールをサイラオーグ様に送ろうとしたその時だ。
祭壇からホログラム通信が送られてきたがその内容は僕の想像を遥かに越えた陰湿で邪悪なものだった。
『バーカ! テメーらクソ貴族のギョーギのいいルールに付き合ってられるかよ!!』
『うわあぁぁぁ! よくも! よくも!! このクソトカゲがあ!!』
『ハッハッハ!! テメーの飼ってた売女どもは全員犯してからぶっ殺してやったぜ!! いい声で泣くから久々にコーフンしちまったよ!! ギャハハハ!!』
『彼女達を侮辱するな!! クソ……!!
僕に……! 僕に力があればーっ!!』
(……まやかしだ!! それにあの偽物は……!! フリード・セルゼン)
血が出るまでに僕は拳を握りしめ、映し出されたホログラムの幻覚を見ていた。
「……」
リップはホログラムを見つめると、瞳に光が戻る。その姿はまるで自分の使命を思い出した殉教者の様にも僕には見えた。
元聖剣使いの僕にとっては見るに堪えない表情だ。
「ディオドラ様、どうぞ……私の力を……がはっ!」
吐血しながらもリップさんはディオドラに自らの残り少ない生命力を捧げて彼の力になろうとしていた。
「やめろ! そんな事をしたって何になる!
ディオドラはキミの事を最後の最後まで利用して捨てるんだぞ!」
「憐れですますね……。
私の想いはディオドラ様の糧となり、未来永劫あの方を守り続けますのです……。
これこそ真の純愛、いえ殉愛なのです!!
あなたにはきっとわからない事なのです」
「馬鹿だよキミは! そんなのはただの狂信と依存だ! ディオドラなんかに……」
「黙るがいいですです!!」
僕はリップの気迫と、その眼差しに射竦められた。
「例え私が終わりの時を迎えても後悔も迷いもないのです。
だってディオドラ様と過ごした日々の幸福は真実なのですから」
「そんなものは現実逃避だ……」
僕が呟きを洩らしたのも束の間、辺り一面に紫電が走り始める。
「ああ……ディオドラ様ぁ……。
私は……幸せですぅ……」
そして雷鳴が轟いたと同時に、リップさんの姿は塵一つ残さずに消えた。
ー
「第二祭壇、リアスチームが奪取。
ハンディキャップを解除します」
……第二祭壇は確か、木場先輩の担当。と言うことは木場先輩が逆転したと言うことでしょうか。 私は段ボールに隠れるギャスパー君を側に寄せつつ改めて対戦相手を見据えます。
「リップめ。しくじった様ね」
「仕方ありませんわプラズお姉様。
あの田舎娘は所詮三流。 私達とはランクが違うのですから」
「そうね、マイナ。あんな兵士と同じ扱いだなんて情けなくて涙が出ちゃうわ」
ディオドラ眷属の僧正姉妹、プラズとマイナは仲間意識というものは皆無の様です。
「……貴方達は仲間じゃないんですか?」
「あら、貴方はペットを仲間だなんて言うのかしら?」
「やはり下賤な転生悪魔は思慮が浅くて困りますね、プラズお姉様」
「そうですわね、ですが私達は違う。ディオドラ様の乳母より生まれた由緒正しい眷属なのですから!!」
まるで舞台女優の様に祭壇から高らかに自らの出自を誇る姉妹。
ですが私から見れば不快と滑稽さが入り混じるのみです。なぜなら……。
「あ、あれっ? 確かディオドラは聖女を堕落させた後に転生悪魔にする事で眷属を増やしているんじゃなかったんじゃ?」
姉妹に聞こえないか細い声でギャー君が私に尋ねてきます。 なので私は二人に聞こえるようにはっきり答えます。
「パイザーさんから聞きましたが……。
ディオドラの眷属は記憶を操作されているんです。イッセー先輩の使い魔になって漸く真実を思い出したと」
「そ、そんな……! ひどい……!!」
ギャー君が顔色と言葉を失うのも無理はありません。 もし記憶を操作する手段が確立されているのでしたら、彼女たちだけでなく他の転生悪魔達も同じ目に遭わされている可能性もあるのですから……!
「ああ怖いわ。嫉妬と羨望と逆恨みに満ちたあの下妖の眼差しときたらどうでしょう」
「ああ、可哀想にマイナ。
もう安心よ。私とディオドラがついているから」
マイナさんを抱き締めながら悲嘆に暮れるプラズ。
しかしその姿は何処か芝居がかっていて薄っぺらく感じてしまいます。
彼女たちは自分達が悲劇のヒロインだと思い込んでいるのでしょう。
「だから私達の秘技でチリ一つ残さず消滅させてさしあげましょう」
「はい、お姉様」
プラズが光のエネルギー、マイナが闇のエネルギーを増幅させお互いの間に凝縮していきます。あれは、イッセー先輩の必殺技の一つである『聖と魔を統べし覇王』の亜種でしょう。
「あ、あわわわわ……あんなのマトモに受けちゃホントに消滅しちゃいますよ!!」
ギャー君は慌てふためいた様子ですが、私は落ち着いて意識を集中します。 イッセー先輩のお役に立ちたい。彼の為ならどんな困難でも乗り越えてみせる。
そう強く願い、訓練に付き合って貰った時の事を思い出します。
『やっぱり体術じゃ小猫ちゃんには敵わないなあ』
『……ありがとうございます。 そう言えばあの先輩の必殺技ですけど、どうしてドラゴンショットや他の技と併せて使わないんですか?』
『いや〜、それがさあ……』
先輩は気まずそうに目をそらしながら頬をかいて言い淀む中居合わせたイゼベル……さんが腕組みしながらカラカラ笑い出します。
『使いたくても今のイッセーには出来ぬのじゃ。聖魔の融合は禁手化に等しい高等技術。いくら才能があっても出来ぬ事はある。なあ、イッセーよ』
『ああ。だから基本、聖魔融合を併用して使う必殺技はない。俺にだって出来ない事はあるしな。小猫ちゃんには負担をかけることもあるだろうけど、勘弁してくれな』
『……』
拝むような姿勢で彼は私に頼みました。
確かにイッセー先輩はどんな人でも見捨てずに救おうとするところがあります。それ自体は美点なのですが……私個人としては無茶が過ぎる気がしてなりません。
だからこそ……。
「まあ、猫耳と尻尾まで生やして無様ですこと。痩せ猫らしく跪いて命乞いすれば私たちのペットとして可愛がってあげるわよ?」
と浸ってしまっていた所、かの姉妹が私へ宣います。 思わず笑みが溢れてしまいました。いえ、この場合は牙を剥いたというべきでしょうね。
「……血統書付きのペットがペットを飼うんですか?」
「何ですって!! 猫又風情が!」
彼女達は図星を射られたらしく激昂して、光と闇を纏った聖魔混合波動を放とうとしましたが……。
「にゃっ」
私が放ったのは光の火種。 蝋燭の火かと錯覚させるくらいの小さなものでした。ですが、それで十分。 火薬庫に放つ火種ならば。
「な、ななっ……マイナ! 早く闇の力を抑えなさい!!」
「わ、解っているわよ! 姉さんこそ光の力の出力を上げてってば!!」
「にゃっ」
聖魔の混合波動を調整しようとしていますが私が何度も火種を撃ち込む事で暴走は加速し、遂に……!!
「嘘よ! こんなの嘘よ!!
マイナ! アンタのせいで! こんな!!」
「煩い!! 録に力のコントロールもできないくせに私の足を引っ張って! 何が姉よ!!」
身内で罵り合う醜さは私の想像よりも遥かに不快です。やはり人は自分だけが正しく偉いと思い込んでいる限り、醜さは増すのみなのかもしれません。……黒歌姉さん。
「あ……!?」
ついに二人は互いの光と闇を御しきれず、巨大な爆発が生じます。
「わわわわ……わあ〜〜っ!?」
ギャー君は咄嗟に時間停止の結界を展開する事で私たちは爆発から逃れる事が出来ました。
「小猫ちゃん!! 僕が停止結界を張れなかったらどうするつもりだったんですかぁ〜!?」
「……大丈夫。私は貴方を信じていましたから。ぐっ」
「イッセーの先輩の真似をしたってダメですぅ!!」
イッセー先輩ならきっとそう言ったと思います。サムズアップしながら。
とにかくギャー君の停止結界のお陰で爆風を凌ぐことができましたが、二人は既に戦闘不能となっていました。
「ど、どういう……こと……」
「わ、私たちのからだ……なんで……!?」
二人の表情が失意と絶望に呑まれていき、瞳、いえアイセンサーから輝きが失われていきます。手足はひび割れ、身体のあちこちからは血ではなく土留色の腐臭を放つ強酸性の液体……恐らく疑似体液が垂れ流されます。
「ああ……、と、溶ける……! そんな……!!」
「ディオドラさま……どうして……!?」
「うっ……」
「こ、これは……?」
『マリオネットだよ。見て分からないか?』
祭壇から悠然と玉座に座るディオドラ・アスタロトはニヤニヤと目を細めながら我々を見下ろしています。
その忌々しい嘲りに満ちた表情が憎たらしいのですが、今は抑えておきます。怒りを爆発させるのはあの男の顔面に拳を叩き込む時にすべきなのですから。
「そ、そんな……! ディオドラ様……どうして……?」
「姉さん……私達は……」
ディオドラが二人の問いかけには答えないまま、姉妹の身体がボロボロと崩れていきました。恐らく体液による腐食によるものでした。
「あがあああ!? ま、マイナ……! 離れなさい……! 離れろぉ!!」
「ね、姉さん……!? あがあああ!! あ、アンタの体液で私を溶かすなぁぁ!!」
『アッハハハハハ! お前らホントに面白いなぁ!! まあ安心しなよ。 オリジナルのキミ達はちゃーんと保存済みだからさ』
目を背けたくなる様な地獄絵図を前にしながら、バンバンと肘掛けを叩き、腹を抱えてディオドラは嘲笑します。なんて外道……!!
咄嗟にギャー君が段ボールを使って二人がこれ以上腐食し合わない様に隔離し、更に問いかけました。
「な、何が面白いんですか!? この二人は貴方を信じて戦ったのに……。機械の事とかは僕はよくわかりませんけど、オリジナルがいるからってこの二人の痛みや苦しみが薄まるワケじゃないでしょ!!」
「「あ、あなた……」」
2人の顔が若干ながら苦痛に歪むのが和らいだ様に見えました。ああ、なんて暖かな光景なのでしょう。ギャー君の思いが彼女達に届いているのがよく解ります。
二人は蟠りが解けたかのように完全に融解し、消滅しました。
「それでお二人のオリジナルとやらはどこにいるんですか?」
『ふーん、囚われの赤の他人の聖女を助けるために決意表明かい? カッコいいねえ。
……バカだなお前は。
2人ともとっくにキメラにしたよ。
しかも出来が悪くてね、仕方ないから純血派の皆の前で互いに殺し合わせたよ。あれは傑作だったなあ』
「この……!! 人でなし!」
ギャー君は顔を真っ赤にして拳を震わせ、ホログラムに投石します。無駄なのは百も承知の上でしょうが手袋を投げつける意味合いがあるのでしょう。彼が勇ましく振舞ってくれたお陰で、私もギャー君とホログラムの向こう側にいるディオドラに怖じることも慈悲を与えることもなく挑む事ができそうです……。
ー
『第三、第四の祭壇がリアスチームが奪取。ディオドラチームにハンディキャップを与えます。あと一つの奪取で王への挑戦が可能になります』
祐斗、小猫ちゃん、ギャスパー君。皆本当に強くなったのね。女王の私もうかうかしていられないわ。
「雷よ!」
「無駄だ!!」
気合を入れて天地から同時に雷を発生させてみたものの、ディオドラ眷属の戦車である彼女の纏うダイヤの鎧は難なく耐え切る。その上この子の身体能力はハンディキャップをもろともしない力を持っているのが厄介だわ。それに……。
「ハァ……ハァ……。いいわね、その表情! 絶対に負けないっていう強者のプライドがズタズタにされていくのを感じるわ!
そうよ、それでいいのよ! 絶対勝てない強者に嬲り殺しにされる恐怖を味わいなさい!」
「その下品極まりない顔と台詞……。
主が主なら、眷属も眷属ですわね」
レイラと名乗る白髪の元聖女は嗜虐的で好戦的な笑みを浮かべて私の首を片手で持ち上げます。華奢に見える身体つきのからは信じられない力だわ。
「貴方のご主人様はどうやら貴方やお仲間の命なんか使い捨てのコマ同然にしか見ていないようですけど、そこまでして尽くす価値があるのかしら?」
私の言葉に彼女は更に力を込め、万力の様に圧迫されて息が出来ないほどの苦痛が襲ってくる。
「アッハハ♪ 私の暴走を促したいんでしょうが無駄よ。私は別にディオドラ……いやあの穢れた蛇が生きようが死のうが構わないの。ただただ貴方達悪魔を鏖殺してこの世界を清めるだけ。そのために転生悪魔になったのだから……。
聖書の神もお赦しになられる。いえ、きっと……私こそ真の聖女と皆が語り継いでいくのよ」
陶然とした表情でレイラは私の首を絞めながら独り言を呟いていく。
聖書の神はとうの昔にセイクリッド・ギアとして各地に散らばっているというのに。
「穢らわしい」
「……!? ぐがっ!?」
私は人差し指と中指の先に光の刃を展開し、咄嗟に斬りつけた。
ヒュッ、と風を切る音が生じると同時にレイラは素早く身を翻したが僅かに遅かったようね。瞼を切られたレイラは傷口を押さえながら血走った目で此方を睨んでいた。
「聖書の神も災難ですわね。
貴方の様な承認欲求と加虐嗜好に狂った輩に慕われて」
「何っ……!!」
「あら、図星かしら?
私は貴方を評価するつもりは毛頭ないし、興味もない。そもそも貴方が聖女か否かと問われるなら答えはノー。部外者から見ればただの殺戮者でしかないわ」
私の辛辣な物言いにレイラは激昂し、金剛石製のハンマーを振り回す。闇雲に振るう攻撃は読みやすく、避けるのも造作もない。
「貴様如きが堕天使と悪魔の混じり物が私に……!」
「まあ。混じりっけ無し、純度100%のおバカさんから混じり物とお墨付きを頂けたのは何よりですわ、フフフ」
確かに貴方の言う通り、私は堕天使と人間のハーフ。でもその出自に今は引け目も劣等感も何も無い。
姫島を名乗る誉れと、私らしく生きるという証明。
その証をイッセーと一緒に手に入れることができたのだから……!!
「……消えろ!」
「消えるのは貴方の方ですわ」
ダイヤモンドの装甲の一点を狙って私は雷、のみならず雷光の槍を放つ。
砕くのでは貫く。破壊のではなく穿孔の為に雷光の槍を収束して一点にのみ照射した。結果、まるで紙製の鎧でも貫くかの様に槍は容易く彼女の身体を防御ごと貫いた。
「ば、馬鹿な……!?
この……私が……! この私が……! 負けた……? そ、そんな……!」
「私はもう過去の自分にも、未来の自分にも臆病で引け腰だった頃の姫島朱乃ではありませんのよ」
「な……に……!? この期に及んで……男の話だと……け、穢らわしい……! ぐふっ!」
血反吐を吐いてレイラは血の海に沈んだ。
私はイッセーと一緒に夢を叶える。
それまでの過程で私は、己を磨き、鍛え、誰にも負けるつもりはない。
それが私の答えだ。
ー
『一定数の祭壇をリアスチームが占拠しました。 ディオドラチーム本陣への侵攻が許可されます』
フリードを相手取る私の頭上でアナウンスが響く。皆、本当によくやってくれたわ……!
「アーシア、ゼノヴィアは本陣を護って。
私が直接ディオドラとケリをつけるから」
王によって王を討つ。
レーティング・ゲームでは褒められた行為ではないのだけれどどうしても私が直接、ディオドラに手を下したかった。
サイラオーグから何の連絡もないのが気にかかりだけれど。
ディオドラ・アスタロト。貴方には私の大事な家族を傷つけた報いを受けてもらうわ。
私は改めて決意を固め魔法陣を展開して本陣にワープする。
すると……。
「やあリアス。ご機嫌はいかがかな?」
「ええ、とてもいいわ。貴方にとって生涯最悪の日をプレゼントできそうで」
玉座に座りながら芝居がかった余裕の笑みを見せるディオドラがそこにいた。