「さて、と。君の眷属が見ている所で開通式を始めようか?」
「……!?」
「イッセー! 私の事はいいから……!!
ただ……見ないで……!!」
霧に四肢を拘束されている彼女は俺の方を見ずに懇願する。俺はそんな姿を見て見捨てる訳にはいかない。
気がついた時には距離を一瞬で詰め、ヤツの股間に蹴りをかましていた。
玉座があっさりとガラス細工の様に砕けてリアス部長が宙に投げ出される。
咄嗟に飛び上がって俺はリアス部長、いやリアスを抱きかかえて着地した。
「なんて言う事をしたのイッセー!
これで貴方のクラスメイトと親友に黒瓜君が何を仕掛けるか分かっているの!?」
「分かっています……!」
この状況でも自分の純潔より眷属の友人を案ずるリアスの気高さ。
それでこそ俺達が生命を賭けて戦うべき主だ。そして俺が惚れ抜いた女性だ。
「リアス。取り敢えず安全な所に」
「え、ええ」
自分でもビックリする位ドスの効いた低い声だったと思う。リアスの腕を優しく掴んで後方に下がらせた。
「出てこいよ。原理は知らねえがどうせ大したダメージも受けてないんだろ?」
霧に向かって問いかけると僅かな静寂の後にディオドラの声が返ってきた。
「……わかるかい?」
「録に手応えがなかったからな」
「やはりキミは品性の欠片もないクソトカゲだな。人を殴り馴れているだなんて」
「レイプショーがお気に入りの異常性愛者に言われたくねぇな。悪趣味にも限度があるんだよ」
担架を切りつつも俺は『赤龍帝の籠手』と『大いなる7つの丘』を同時に発動。すると俺の頭程の大きさのある数字の6を模した形の勾玉が展開されると高速で回転。3つの竜巻を生み出し、ヤツの霧を消し飛ばすべく吹き荒れた。
「へ〜え。これが噂のデッド・ロン・フーンとやらかい? 噂に聞く程の威力じゃあないな。ハハハハハ!」
霧がかき消えたのはほんの僅か。
すぐに濃い霧が立ち込め、どこからともなく俺を嘲笑うディオドラの声が響き渡る。
だが、焦るな……!!
「なら、こいつはどうだ!」
『DIVIDE! DIVIDE! DIVIDE!』
ザンリュウさんの持つ半減の力を拝借し、霧を半減、半減、また半減、と繰り返し、徐々に霧を薄くしていく。
そうすれば何れはヤツが実体化せざるを得なくなる筈だ。
だが、幾ら半減の力を行使しても霧はまたしても立ち込め、元の濃度に戻っていく。
(イッセー君。キミはまだ半減の力を使い慣れていない。これ以上は却ってキミの身体に負担をかける事になるよ。それに…)
(すいません……! ザンリュウさん!)
ザンリュウさんに詫びをいれ、一旦半減の力を停止させた。しかし、どういう事なんだ? 吹き飛ばしても縮めても薄めても効果がないだなんて……。
『ハハハハハ。キミは何か勘違いしている様だね。まさか僕がロキなんぞの様に空間と融合してこの霧そのものと化している……なんて考えているんじゃないのかな?』
ち、違うのか!? 逆に図星を射られた俺は内心で酷く動揺していた。
なんでこっちの攻撃が通じない……!?
と、一歩下がったその刹那、幾つもの光弾が霧の向こう側から放たれた。それも霧の中から次々と、途切れる事なく連続的にだ。何十発という光弾の雨を前に慌てて勾玉による障壁を展開したものの、数発が俺を捉えてしまい、後方へ弾き飛ばされた。
「イッセー!」
「平気っス!! この位!」
魔術によって制服姿に戻ったリアスが俺に駆け寄ってくる。大丈夫ですよ部長! まだやれます!
『おっと、二対一とは参ったな。
しかもリアスには滅びの魔力がある……。
分が悪い状況だね、これは』
霧の向こうでディオドラが余裕たっぷりに嗤う。悔しいが確かに霧の中に居続ける限りはヤツは傷一つ負わないだろう。
(困った。どうする事も出来ないじゃないか。物理的な攻撃は通らない、魔力を伴った攻撃も通らない……なら!)
「こいつで……どうだ!!
……あちちちち!?」
「イッセー! 援護するわ!」
俺は『譲渡』の権能をアスカロンに発揮させる! 魔の力がダメなら聖なる力……この場合はミカエルさんから貰ったアスカロンの力を増幅させる。
聖なる光の力なら霧だって吹き飛ばせる筈だ!!
流石の俺も少しダメージを負いかけたが、
リアスの滅びの魔力が俺への反動ダメージを中和してくれた。
「いつの間にこんな技術を!?」
「私だっていつまでも後方でふんぞり返っているだけじゃないわ。私は魔王サーゼクスの妹であり、何よりも……『紅髪の滅殺姫』とも呼ばれた存在よ?」
再構築見慣れないコートを羽織ったリアスが強気に微笑む。強エロカッコイイ! やっぱり俺の主だぜ!! この聖光ならヤツの霧だって……!!
『成る程。魔の力が通じないなら、聖の力を使えばいい……かい? クソトカゲらしい貧困な発想だな』
な、何だと!! 全然……効いてない!!
驚愕する俺とリアスに対し、ディオドラは更に煽ってくる。
霧はヤツを隠すだけじゃなく、霧自体にも全くダメージを与えられないという事なのか……?
「貧困な発想でごめんなさいね。
ただ、貴方のように叡智を独り占めして引きこもるという惨めな発想には及ばないわ。小人閑居して不善を為すとはこういう事なのね」
「そうだそうだ!」
物理攻撃も光もダメなら口撃はどうだ、と
リアスがディオドラを挑発する。
しまった、メチャクチャガキっぽい便乗をしてしまった。
『ハハハ。確かに。才能というのは社会の役に立ってこそ……という意見もある。
そこのクソトカゲの様に衣服破壊だの、おっぱいドラゴンだのと馬鹿な発想をしている輩の方が社会にとって無益である可能性は否定出来ないね』
ぐむ……。た、確かに女性を裸にする力とかおっぱいから相手の心を読むとかが全部が全部世の中の為になるとは言えない。
それを認めざるを得ないのが辛いぜ。
「霧の中で社会を語るなよクソガキ。
冥界も人間界も、匿名掲示板の延長にあるものなんかじゃねえんだぜ?」
千日手の状況に入りつつあるなかアザゼル先生がレーティング・ゲームのフィールドに乱入してきた。
「アザゼル! どうして貴方がここに?」
「ん? そりゃお前。俺はお前らの教師だからな」
『随分と手の早い事だな堕天使総督。
自らサーゼクス様の使い走りになるとは恥も極まったね』
顎をポリポリと掻きながらアザゼル先生は答える。それに対してディオドラはアザゼル先生を使い走りだと評する。
霧から声だけしか聞こえてこないのでヤツが今どんな表情をしているか分からないが、恐らくはニヤニヤと俺達の神経を逆撫でする様に笑っているんだろうな。
『しかし、仮に手を打つとしたらもう少し早くに手を打っていても良かったんじゃないか? 少なくとも……僕の配下はもっと苦しんで死ぬ事はなかっただっただろうに。とんだ不良教師もあったものだ』
「いや、お前の配下が一部例外はあるとして苦しみながらくたばったのはお前のせいだろクソガキ?
論理のすり替えで俺を霧、もとい煙に巻こうってんなら相手が悪いぜ?
あとお前さんの無敵モードの種も大体見当がついた」
さ、流石堕天使総督だ!!
ディオドラのああ言えばこう言う口撃に一歩も引かない!
それに無敵モードの種が解っただって!
一体どんなトリックを……??
「なら、早く破ってもらえないかしら」
「ダメだ」
「な、何でですか!?」
『ハハハ。どうやら堕天使総督様一流のつまらないハッタリだったみたいだね』
リアスの言葉にアザゼル先生がまさかのダメ出し!! そりゃないぜ!!
ディオドラは益々悦に入った様に煽ってくるし……!!
無敵の堕天使総督パワーで何とかしてくださいよォーッ!!
そんな俺達の心の内を知ってか知らずか
アザゼル先生は悠々とタバコを取り出すと義手の指先から種火を出してうまそうに紫煙を吐き出し、気怠げに話を続けた。
「あのな。俺は教師であってお前らの親ってワケじゃねえ。答えを教える事は出来るが問題を解くのは生徒の仕事だ」
『問題を解く? まるで僕の力を理解していないと見える。どうかしている……。
誰も解っちゃいないんだ』
ディオドラが何か言っているがここはスルー!
先生からヒントを貰う方が先だ!!
「先生。何か分かったんですか?」
「簡単な話だ。お前らはずっと勘違いしてる」
『ほ〜う?』
勘違いってどういう事?
一方で霧の向こうでディオドラが興味深そうにしていた。何だか同好の士を見つけたというか、なんというか……。
「イッセー。お前は霧を悪魔の力で吹き飛ばそうとした。
それがダメとなるとアスカロンで聖なる力もぶつけた。
まあ、考えは悪くない」
アザゼル先生は指をチッチ、と振りながら俺の戦法を振り返る。
そして一拍置いた後に本題に入った。
「だから全部失敗した。
なぜならソレは。聖でも魔でもないからだ」
((聖でも魔でも……ない?))
俺とリアスはアザゼル先生の言葉を聞いて目を見開いた。それは……。木場の聖魔剣、俺の聖と魔を統べし覇王(トゥイン・ロード)と同じ?
「それはつまり禁手化という事? だけどそれは神器ならともかく神滅具級の力でもない限り不可能よ!」
「おいおい。木場が聖魔剣を持つに至った時の話をよーく思い出してみな」
『ハハハ。まるで補習授業みたいだね。
いいだろう。君達がどれだけ無様にのたうち回るかまでのヒマ潰しに付き合ってあげるよ』
アザゼル先生の謎掛けに俺は必死に思考を巡らせた。あんまりこういった事は得意じゃないけど……!!
そんな中で、霧の向こうからディオドラの侮蔑的な嗤い声が響いてくる。
(確か……木場は聖剣計画の犠牲になった人達の想いを集めて聖なる力と魔の力を融合させたんだったか……?)
「みんなの想いを集め、聖なる存在と魔の存在を融合させる……?」
「そうだ。が、皆の想いってのは何も夢や希望でなくたっていいんだ。
更に言えば木場は元々天使側の人間だったが故あって転生悪魔になった。
イッセー、お前の近くにもそういう元はぐれ悪魔がいただろ?」
「元はぐれ悪魔……。それはバイサーの事?」
リアスは知らないかまバイサーは元聖女だったがディオドラの策略により、教会を追われて身も心も奴に穢され、口に出すのも悍ましい改造をされてはぐれ悪魔になってしまった子だ……。って元聖女……?
「ま、まさか……!?」
「そう。お前さんが今想像した通りだ。 そいつは元聖女を取り込んだのはイカれた異常性愛や嗜虐趣味を満たすためだけじゃあない。
ヤツなりに禁手化を目指そうとしたんだろうな」
「で、ではディオドラは!?」
『ハハハ。半分正解だよ』
アザゼル先生の仮説に重ねる様に霧の奥からディオドラの声が響いてきた。そしてそれは肯定に値するものであった。
『この霧は、廃魔毀聖の霧。
聖と魔を融合させるのではなく聖と魔の境界を定め、分断、峻拒する孤高の王のものだ。神の御業と言ってもいい』
「それはつまり自分以外は皆ゴミって事かよ!! なにが孤高だ!!」
「自身の眷属を踏み台にして玉座に座る? 穢らわしい! 貴方にはヘドが出そうよ!」
俺とリアスは同じ気持ちだ。この男が心底気持ち悪い、と感じていた。アイツの見ている世界にはアイツ個人しかいないんだ。
『ヒドい言い方をしてくれるね。
僕はちゃんと皆の気持ちを汲んでいる。 彼女達への実験によって、禁手化へ至るパターンのいくつかは解析できた。
これは人工神器を開発したそこの総督や、野良の神器使いにすれば福音だろ? 禁手化による発展はそれこそ千年、いや万年経っても消えることなき功績だ。彼女達は悪魔、いや聖女史上最大の功績者と言っていい。
その点においては彼女達の犠牲は良い事づくめ。歴史に名が刻まれたんだ』
コイツ……何言ってやがる!!
アイツは確かに禁手化を実現するために自分の眷属を踏み台にしてきた。
けど、その踏み台にされた女の子達はみんな笑顔だなんて思っちゃいない!
ただただ悲しく、無念で、苦しかった筈だ!
死にたくない! 神様! 助けて! って言って死んでいったんだ!! それを……! それをコイツは……!!
良い事づくめだと!!
「ふざけるな! お前は犠牲を伴ってでも成したい大きな夢と希望を掲げて皆を導く存在じゃない! お前は他人の人生を弄んでオママゴトをするのが好きなサイコ野郎だ!!」
許せねえ! いや許しちゃいけねえ! 初めはアーシアを取られるのはイヤだ、って子供じみた独占欲からコイツに反感を持っていた。けど今は違う!
俺の心は明確に、このディオドラ・アスタロトという存在に対して怒りを覚えている!
そして、ヤツは俺の言葉に、これまで聞いた事が無い位に冷たい声で答え始めた。
『正しいか正しくないかの話はしてないんだよね。できたか、できなかったかの話だ』
「もういい、口を開くな! ドライグ! あとの事はいいから!
俺の力をフルパワーで倍化してくれ!!」
俺はありったけの力を込めて霧をぶっ飛ばすべくドライグに『倍化』を要求した。
のだが……。
(そいつはダメだな相棒。 ヤツはまず間違いなく俺達のフルパワーに対して何らかの対策を立てている。 不滅のラーフとやらと戦った時の事を忘れちまったのか?)
た、確かに……ヤツは不滅の力で俺の力をいなし、消耗させた上で仕留める作戦に出たっけ。同じ手を2度食うワケにはいかない……!
ならどうすれば……!!
「落ち着けイッセー。アスタロトの小僧にムカつくのは分かる。だがお前が暴れたらそれこそ相手の思うツボだ。お前さんには聖でも魔でもない第三の、お前だけの力があるだろ?」
聖でも魔でもない俺だけの力……?
俺はリアスの方に視線を向けた。
きょとんとする彼女は主であるが同時に愛しく、何より俺にとって美しくて魅力的な女性だ。彼女の輝き……。
それが聖でも魔でもない第三の力なんじゃ……? ならどうすれば……??
俺はリアスの顔を、スタイルを凝視する。
そうして脳裏に浮かんできたのは……!
『そう。無法、もとい無縫天に通ず。
貴方のそのおっぱいへの情熱と憧憬こさが、
この定まりきった杓子定規に満ちた世界の枠を打ち壊すもの……』
この声はエルシャさん!?
確か最高の赤龍帝と称されたかつての大英雄……。彼女の魂の残滓も後押してくれている……!!
「分かりました! エルシャさん!!
……ハァーッ!!」
「エルシャって誰……!?」
ずむっ♡とリアスのおっぱいに俺は両指を突き立てた。彼女のおっぱいは柔らかく、温かで俺の指は沈み込むばかりだ。
「ひゃあん♡ちょ……ちょっとイッセー!? いやぁ〜〜ん♡」
突然のおっぱいタッチにリアスは甘い声を上げてしまう。そのウィスパーボイスに滅びの魔力と俺の譲渡が上乗せされた結果……
『ALLBREAK! OPPAIWHISPER!』
『『なんとまあバカバカしい雄叫びだ』』
ドライグが呆れた様子でツッコミ霧の向こうにいるディオドラが俺たちの行動を馬鹿にする。だが俺達の力は、今までにない位に上手く噛み合っていた。何より、この力は聖でも魔でもない、俺とリアスだけの力だ!!
……ってどういう事だ?
ヤツの禁手化が解除されたのに余裕綽々じゃねーか?
こ、こういう時は「僕の力が〜っ!」とか「こんな事が有り得るのか!?」みたいな驚愕の悲鳴を上げるのが定番じゃないか!!
しかしヤツはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。ヤケになっているのか、或いは……何か隠し球があるのか……?
「随分と余裕そうねディオドラ。
言っておくけれど貴方が言っていた人質達は全員無事よ。当てが外れたわね」
「そうだそうだ! 残念だったな!!」
俺とリアスはお互い肩を寄せ合うようにして勝利宣言をする。だが、
ディオドラは笑みを崩さない。それどころか俺たちの態度が面白いと言わんばかりに唇を吊り上げた。
「ああ、そんなのあったね。
だが、今となってはどうでもいいんだ。
ありがとう兵藤一誠。リアス=グレモリー。聖と魔の枠を取り払ってくれて。
喪われた神の御業を再現してくれて」
バチバチ、とディオドラの身体の周りにスパークの様なものが迸る。
コイツ……まだ何かするつもりか!!
「まあ、直ぐに悔やむけどになるよ。
なまじ霧を破らねば良かったってね」
「おいおい……。悪いイッセー。
あのヤロー、とんでもねぇ切り札を持ってやがった」
そしてディオドラの身体が俺や白龍皇の様な龍の鎧に包まれる。俺の真紅とは真反対の蒼い鎧に。
って何ですかアザゼル先生!
その、やっちまったぁ〜! みたいな顔は!!
『ごめんね』
えーっ!! エルシャさんまで!?
「さて、準備完了だ。クソトカゲ改め、悪しきドラゴンと紅き娼婦の女王。 もう少し僕の創世神話に付き合ってもらおうか。このディオドラ・アスタロト。 いや、ディオドラ・ヤルダバオトのね!! 君達の終末に光あれ!!」
アスタロトとヤルダバオトって響きが似てない?