「さて、準備完了だ。クソトカゲ改め、悪しきドラゴンと紅き娼婦の女王。 もう少し僕の創世神話に付き合ってもらおうか。このディオドラ・アスタロト。 いや、ディオドラ・ヤルダバオトのね!!
君達の終末に光あれ!!」
ディオドラのヤツは色は蒼いが赤龍帝の鎧に酷似したデザインの全身鎧を纏いながら俺を悪しきドラゴン呼ばわりする。
それはいいがリアスを娼婦の女王呼ばわりとは何だ!!
「リアスが娼婦だと!! ふざけんな!!」
「イッセー! 気持ちは嬉しいけど安い挑発に乗ってはいけないわ!!」
「オメーらなぁ……」
リアス部長の言葉とアザゼル先生の呆れ声を背に受けながら俺はディオドラに仕掛ける。ヤツの能力がどんなものかは解らないが戦ってみない事には解らない!!
「うおりゃあ!!」
思い切り殴りつける、と見せかけての前蹴り!! 姑息なフェイントではあるがディオドラには実戦経験が少ない筈。
「フッ……」
バキッ!? と俺のフェイスガードが罅割れた!? 気がつけば俺はストレートに対するカウンターを食らっていた……!?
な、何でだ!? 俺のストレートはフェイントだったはずなのに……!?
「落ち着けイッセー! そんな単純な攻撃じゃ当たるもんも当たらんぞ!!」
アザゼル先生から激が飛ぶ。
そ、それは勿論そうだ。
「このぉ!!」
「相変わらずの猪突猛進……。
と見せかけて足元にスライディングして
僕の膝下を狙う」
ショルダータックルの姿勢に入った俺にヤツは呟く。
俺に何言ってんだコイツ?
確かに実践的な手だが読まれてる攻撃なんざわざわざするか!!
それにテクニックタイプには小技よりもパワーでゴリ押しするのが俺のやり方だ!!
ぶちまかしてぶっ飛ば……すっ!?
ミシィッ!! とイヤな音を立てて俺の踝が踏みつけられた! 鈍く、かつ焼けるような痛みが俺に襲いかかる……!!
な、何で俺はショルダータックルから態勢を変えてスライディングをしているんだ!!
読まれている攻撃をしてどうするんだよ……!!
「うっぐ……!!」
「ほら、どうしたいんだい?
ご自慢のドラゴンショットはどうした?
あ、大いなる7つの丘の並行励起によるパワーアップなんかもいいかもしれないね……?」
まるでゲームを攻略する様なヤツの口ぶりと態度に俺の頭と肝が同時に冷えた。
な、何だ!? コイツの攻撃……いや、能力の正体が掴めねぇ……!!
(相棒! 一旦下がってアザゼルや嬢ちゃんと合流しろ! コイツの能力は俺達の想像
以上に厄介だ!)
ああ……! 悔しいが認めざるを得ない。確かにあの2人に状況説明だけでもしておくべきだ。
「イッセー! 援護するわ!!」
「一旦下がってこっちに合流しろ!」
リアス部長の滅びの魔力を込めた魔弾の援護とアザゼル先生の指示の下に俺は一旦ディオドラと距離を取る。
ディオドラは滅びの魔力にも対応できるのか虹色の障壁によって滅びの魔力を防いでいた。
「へー……これが滅びの魔力か?
想像していたよりなんて事はないな。
それとも、サーゼクスの妹(有象無象)ならこんなものかな?」
なんて安っぽいあからさまな挑発。
俺だってこの程度の煽りに反応する程バカじゃないさ。リアス部長を侮蔑した事にはキレそうになるけど、ここは抑えるのが最善だと思うくらいに俺だって成長してるさ。
ところが……!!
「舐めないで! 私は『紅の殲滅姫』!!
サーゼクスの妹なんて名前じゃない!!」
!? まさかリアスが逆上するなんて!
彼女は一斉に魔力弾を撃ち込んだ。
手の皮が裂け、制服やコートもビリビリになるまでに撃ち込むなんてムチャな上に暴走もいい所だ。
いや、なにか変だ!
「リアス!」
「離れなさい! ヤツは私を……!!
このリアス・グレモリーを……!!」
暴走する彼女を鎮めるためとは言えパシッ、と思わず軽く頬を叩いてしまう。
これは眷属として失格だが……!!
「何をするのイッセー! お兄様にだって打たれた事はないのに!!」
「落ち着けリアス! こんなの、いつものリアスらしくないぜ!
リアスはサーゼクス様の妹である事を誇りに思っていたんじゃないのかよ!」
「イッセー……」
「ハハハ。麗しい主従愛だ。まあ、悲しき悪役にはそういうロマンスも必要ではあるよね」
彼女の目と表情が落ち着いたのと同時に、ディオドラが俺達を嘲笑う。創世神話がどうだのこうだの、悲しき悪役のロマンスだのと、現実はゲームみたいに決まりきった選択肢を選ぶものじゃねえぞ!
……!? 選択肢?
俺が何か気づきかけたのに合わせてアザゼル先生が攻撃する。
それ自体は然程注目には値しない。
義手と光の槍との同時攻撃。誰でも思いつくアザゼル先生の突飛な発想や持ち味が全く活かせていない定番の連携だ。
「堕天使総督様も所詮この程度か?
神の子を見張るもの、か。この新たな神である僕が生まれた以上キミ達の役目ももう終わり……?」
と嘯いているディオドラの頭に携帯灰皿がカンッ、とぶつかる。
一瞬フリーズしたもののディオドラは直ぐに余裕を取り戻し、アザゼル先生を見据えた。
「何だいこれは? 苦し紛れにしても無様にも程がある」
「まあな。自覚はある。が、前にも言った通り教師は生徒に教えてやる責務があるんでな」
「そうか。だが彼が真実に辿り着く事なんてあるのかな?」
言いたい放題言いやがって……!!
とは言うがこれで何を気づけと言うんだ。
俺は頭が悪いからそんな予想外の難題を突然言われたって……!?
予想外……? 予定調和……? 選択肢?
ま、まさか……!!
「リアス! あれを使うぞ!!」
「ええっ!? ま、またぁ!?」
俺はディオドラの様子を伺いながら
さっきの聖魔フィールドを打ち消した『乳化相殺』(OPPAIWHISPER)をしかける構えを取る。
真っ赤になって慌てふためくリアスは明らかに恥ずかしがっている様子だ。
『どう考えても非協力的』
『いい加減にしなさい! と俺に平手打ちをかます』というのがコテコテのラブコメパターンだろう。
果たして……。
「いい加減にしなさいイッセー……! あらっ?」
リアスの平手打ちが空を切るのも無理はない! なぜなら……!!
「と見せかけて殴るっ!!」
殴ると言ってもディオドラの方だけどな!
助走をつけての右ストレートが奴の顔面にヒット! ミシッとした手応えをはっきり感じた。
「……成る程。からくりに気付いた様だね」
「ああ! お前の神器……いや、イゼベル様と同じ喪神具の能力は『予測できる選択を任意に固定できる』だな!!
幾らお前でも俺が『リアスのおっぱいに目くれずにお前に向かって殴りかかる』ってのは読めなかったみたいだな!! どうだっ!!」
(どうだっ!! は余計だろう。相棒)
ビシッと、どこかの弁護士の様にディオドラを指差しながら俺はヤツに宣告した。
「な、何ですって!? 事象干渉を行う事ができるなんて……! 聖書の神の奇跡に等しい所業じゃない! それをどうしてディオドラが!?」
「……つまりお前さん。
アーシアの事件だけじゃなく、バルパーの聖剣計画とコカビエルの超魔術、果てはオファニムの企てた神の再臨計画にもいっちょ噛みしてたってワケか……。
聖剣の因子を用い、堕落させた聖女の力を抽出、星の力に指向性を持たせて、聖書の神を再現する……と。
あんまりドカ盛りされるとおっさんとしては胃もたれ気味になりそうだぜ」
リアスは驚愕してアザゼル先生は渋い表情になっている。
理屈はわからん! 俺に解ったのは一つ!
「つまりお前が諸悪の根源だな!!」
「諸悪の根源はキミに担ってもらうよ。
悪しきドラゴンくん」
砕けたフェイスガードを投げ捨て、血を拭いながらディオドラは不敵な笑みを浮かべている。まだまだ隠し球があるってのか!? だが……!!
(その意気だ相棒。ヤツは相手の底を見定め矮小化させる天才だが、生憎お前は底抜けの馬鹿だ)
な、何だよいきなり!! こういう時はもっとこう……ハートフルな激励があるだろ!
しかし俺の戸惑いをドライグは鼻で笑う。
(テンプレな激励じゃヤツの思い通りになるだけだからなァ。とにかくいつも通りのお前のやり方でいきゃあいいのさ)
何だか訳がわからんが俺のやる事は3つ!
リアスを守る! 皆も助ける!
ディオドラはムカつくから殴る!!
「ウオォォォォ!! 行くぞォ!!」
『Boost! Boost! Boost! Boost!』
ー
(フッ、相変わらず喧しいヤツだよ。
兵藤一誠)
果たして一誠らが看破した通り、ディオドラ・ヤルダバオトの能力の一つは選択の固定。
『神は再び設定する』(RE.SET)
未来予知ならぬ未来予定。他者の言動からある程度読み取れる選択肢を利用して操縦桿代わりにする。
あらかじめどのコースに球が来るのかが解ればホームランにするのは難しい事ではない。
言うなれば登山の岐路を定めて踏破を確実なものにする。そうした能力だ。
(さて、そろそろ半減の力を使う頃かな?
それとも大いなる7つの丘の並行励起?
それともリアスが持つ滅びの魔力を取り込むか……ふふふ……)
どれもこれも今までならば逆転の奇跡を呼び起こすには十分すぎる切り札であった。しかしそれの失敗や暴走を予定できる今となっては恐るるに足らない。
そして、意外な事にイッセーが選択したのは直接ディオドラを殴る。それだけだ。
(成る程、確かに単純な選択で頭を一杯にしてフェイントやらコンビネーションやらの選択肢を減らし単純にリスクは減る。
だが、どうって事はない!!)
彼は尊大かつ傲慢であったが厄介な事に
誇大妄想狂でなかった。
ライザーと同じく、或いはサイラオーグに迫るまでに鍛錬を重ねていた。
(予定するまでもない! バカにでもわかる正拳突きだ!!)
あっさりといなして顔面に拳を合わせてのカウンターを見舞う。
己の拳がめり込み、烙印を押し付ける様な愉悦にディオドラは陶酔しかけた。
だが、イッセーは罪を認めない。
心は折れない。何度も何度もカウンターを受けてもまだ倒れない。
(ちっ……! 何だと言うんだ! 鬱陶しい!! 貴様を甚振るのは愉しいがこうも連続だと流石に食傷気味だぞ!!)
しかしこの尋常ではないタフさは何だ。
ディオドラは心の内で毒づいた。
仮に今のイッセーがヴァーリやサイラオーグ級の耐久力があったとしてもこうまで勢いが衰えないのは不可思議だ。
「ははは! そうか! 貴様……! 一時的にドライグに身体のコントロールを任せているな!! チャチな詐術だ! 悪しきドラゴンの面目躍如だねェ!!」
ディオドラは知っている。
「許してくれ我が子よ……! お前を才能のない穀潰しと言ったのは心から詫びる!」
「やめて! これ以上痛いのはいやーっ!」
「助けてくれよォ〜!! アンタにはもう逆らわねぇよぉ!!」
全能者ぶった屑(父)も、
偽善者ども(聖女)も、
自分を見下した紛い物(グラシャラボラス家の次男坊)も。
皆、そうだ。痛さや怖さに耐えきれず見苦しいまでに取り乱し哀れみも失せるほどに命乞いをしてきた。
(お前(悪しきドラゴン)もそうだろう?
良いことを言っても痛がり屋の偽善書の同類だ!!)
予定では予断をもってディオドラは能力を発動させて、リンクを切断しようとした。
だが……。
(小僧。お前は間違っちゃいない。
だが、正しくもない)
ドライグの声が聞こえたと同時にイッセーの拳はディオドラの胸元にヒットする。
それ自体は然程の威力ではなかった。
(殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る!)
『Boost! Boost! Boost! Boost! Boost!』
倍化していたのは膂力ではなく精神力。
幾ら殴られても、痛くとも、苦しくとも、決して折れない最弱であるということの苦渋の戒めと、それでも戦う覚悟。
力の信者は神を畏れ、傅くが無頼の愚者は神を畏れない。
そして海を割り開く様な、或いは川を遡る激流の拳の乱打がディオドラを見舞う!
「図に乗るなよ!! 人間風情が!!」
「はあ〜? 俺は悪しきドラゴンだったんじゃなかったのかよ!
自称神様よぉ! 人をドラゴン呼ばわりするくせに自分は弾幕を遡って天を戴く事はできないみてぇだなァ!!」
『EXPLOSION!!』
最大出力でのアッパーカットがディオドラの顎を捉え、打ち上げ花火の様に天空へとディオドラを打ち上がらせた。
ー
バシィッ!! とフィールド全体に衝撃が走り、空間全体が振動した。
我ながらかいしんのいちげき! というべき手応えをハッキリ感じたぜ……!
ああ、全身が痛いというか焼け付く位に熱い……!
「アザゼル! すぐにフェニックスの涙を!」
「解ってるって。えーっと、どこにしまったっけなァ……」
「もういいわ! 私のを使う!!」
鬼気迫る表情でおっぱいの谷間(異次元ポケット)からリアスはフェニックスの涙を取り出し、俺に飲ませてくれた。
彼女の温もりと優しさが本当にありがたい。
「ひー……いててて……」
「もう! イッセー! 貴方はいつもいつもムチャばかりして……!!」
「すんませんッス……!」
何とか軽口を叩けるくらいにまで傷
が癒えた。俺はリアスの叱責を受けながらも抱きつかれて悪い気はしなかったえへへ。
「全く呆れたヤツだぜ。さっきまで死にかけてたってのによぉ。ほれ、飲みな」
と毒づきながらもフェニックスの涙を漸く見つけたアザゼル先生が俺に差し出してくる。いやいや。確かマンションが1軒建つくらいのお値段がするアイテムだろ?
「い、いいッスよぉ!! まさかそれを飲んだ代金を身体で払えー! とか言ってヴァーリ代わりの用心棒にする気じゃないッスよね?」
「チッ、バレたか。知恵のついたガキは可愛げがねえって楽園から追い出したオヤジの気持ちが今わかったぜ」
油断も隙もあったもんじゃないな……!
強くしてくれた恩はあるがやはり根っこはちょい悪堕天使だよ!!
「これ、イッセー。アザゼルめからの珍しい施しじゃ。回復し切るためにも飲んでおけ」
「なんだババア。今さらツバメドラゴンの心配か? 重役出勤にも程があんだろ?
ババアの朝は早いモンだがなァ」
金の長髪をたなびかせながらイゼベル様が空間を割り開いてやってきた。
お褒めの言葉を下さると思ったが肩透かし。いやいや! これはお前はもっと伸びるからここで満足するなという愛の鞭なんだ!!
「イッセー。何を呆けておる。立たぬか」
「は、はいっ!」
「ちょっとイゼベル!! イッセーはまだ回復しきっていないのよ! 何を……!」
「そなたほどの者がまだ解らぬのか。
神を僭称するものが相手ならば勝負はこれからであろう……がっ!?」
瞬間、熱線がイゼベル様の胸を貫いた!
な、何が起こったんだ!?
「ぐぬう……。ぬ、抜かった……!」
「イゼベル様!! 早くフェニックスの涙を!!」
「要らぬ。余にすれば心臓を撃ち抜かれるなどほんのかすり傷じゃ……!!」
しかし顔は蒼白で流れる冷や汗が尋常ではない。
「さて……続きと行こうか?
僕は生憎この通りまだ戦えるが?」
「上等だ!! ディオドラ!!」