一方その頃、志乃の父・士郎が持ち込んだ妖刀を調べた道満たちは、その正体が並の祓い師では手に負えない「不祓案件」の霊刀・村雨だと見抜く。
娘を救いたい父の願いを受け、道満たちは妖刀を預かることを決断。そして一誠たちもまた、犬塚家に滞在しながら事件の真相へと迫っていく。父の愛と妖刀の呪いが交錯する、新たな怪異譚が幕を開ける。
「おはよーございまーす!!」
!? な、何だ!? 朝から目覚ましとは比較にならない大声で俺は目覚めた。
すると普段着の志乃さんがベッドの側に立っているではないか……!
あ、そうか。確か昨日は妖刀騒ぎを解決すべく刀の鑑定回をやっていたんだな。
「良く眠れましたか?」
「え、えぇと……まあ……はい……」
「そうですか! 私もバッチリです! 聞いてくださいよ!私は8時間も眠っちゃいました!」
「お、おう……」
不眠症が治ったせいなのか、志乃さんは妙にハイになっている気がする……。
「あの、着替えたいんで出ていってもらっていいですか?」
「あっ…すいません!
私、そういうのに疎くて……!それじゃ!!」
頭を下げてからパタン、とドアを閉める志乃さん。
やはり箱入り娘というかなんというか、ズレた感性を持っているのかな?
とりあえず俺はスーツに着替えて居間へと向かった。居間には朝食の支度をしている女中さん達とご飯を食べる士郎さんと志乃さんがいる。士郎さんは少し憔悴しているように見えた。
「どうも。兵藤一誠です」
「娘とはどの様な関係で?」
ま、まるでお嫁に貰うかの様な口ぶりじゃないか?
親父さんに誤解されると怖いからここは適当に誤魔化さないと!
「いえいえ。仕事で縁がありまして……志乃さんのお悩みを解決するために来ているんですよ」
なるべく丁寧な対応をする。ここで変な態度を取ったら台無しになってしまうからな。
「ほう。確か妖怪退治の専門家とか言っていましたね……どういった所にお勤めなのか、聞いてもいいですか?」
「はい。京都で平安時代から続く由緒正しい妖怪退治の集団ですよ(大嘘)」
「そうでしたか……いやはや、若い身空で立派なものですね」
「いえいえ……」
うんうん、と納得していたら志乃さんが空気を読まずにトンデモナイことを言い出した。慌てて否定して話題を変えようと試みるも、士郎さんの目つきが変わっていく……。
「いや〜! この天麩羅美味しいですねぇ!衣がサクサクで海老もプリプリで!」
無論尻尾までバリバリ音を立てて食べる。
実際美味しいし、何とか空気を変えようとしたがこれがまずかった……!!
(相棒。いきなり天麩羅から食うやつがいるか……。しかもつゆにベッタリ漬けきっては衣の歯触りが台無しだろう)
(あっ!しまった!お義母さんから食べ方のマナーは教わった筈なのに!!)
『いい。イッセーくん。マナーというのはソーナさんが言う様に【氏より育ち】を示すものであり、相手に対して敬意を示すものなのよ。
美味ければいい、楽しければいいというのは蛮族の考えで洒脱ではないのよ。
そしてそれは貴方が今後付き合うであろう階級の人達にもバッチリ見られるのよ』
うぅ……お義母さんの厳しい指導を破ってしまったぁ……!
そして肝心の士郎さんと言えば先付の薬味である蓼酢を苦虫を噛み潰す様な顔で食べていた……。
(あれはお前の無礼で不快な顔つきになったと女中や嬢ちゃんに悟られないための気遣いだぞ)
(マジかよ……!)
「すいませんでしたぁ!」
「い、いや貴方が謝る必要はない」
「そうよパパ!食事は楽しく食べなきゃ美味しくないわ! イッセー君を試すなんて趣味が悪いよ!」
「そんなつもりは……」
ああ〜……俺のせいで親子の仲にヒビが入って行くのが分かる。
「本当に……すいません……」
「いや……こちらこそ悪かった……。だが娘には優しく接してくれ。私は置物や電柱と思ってくれて構わないが。
志乃は壊れ物を扱う様に、心を込めて、丁重に……ね」
「は、はい……」
何だろう、何か嫌な予感がする。
父としては年頃の娘を心配するのは分かるんだけども……。
だ、ダメだ……。このまま親子の間にヒビを入れたままで帰ってはリアスの眷属として面目丸潰れ! 何か、何かいい手はないか?そうだ! こういう時は話題を変えろ!
「あ、あの〜。士郎さんはどの様なお仕事を……」
「輸入、輸出関係だよ。元々この辺りの生まれではなかったが曽祖父の代にここへ移り住んでね、運が開けたらしい。
生糸や織物から始まり、今はブランド物や貴金属の取引で生計を立てている」
(建てたのは生計じゃなくて蔵でしょ〜。
とボケる様な空気じゃないな)
そ、そう言えばこの人……かなりの大金持ちだったな。志乃さんからは直接聞けなかったけど道理で守り刀の目利きが出来たわけだ。
(刀集めを黙認したのは、どこかに自分の家業を継いで欲しいという思いもあったのかもしれんな。年頃の娘がやたらブランド物や貴金属を集めるのは少々軽薄すぎるし周りへ成金趣味をひけらかす様なものだからな)
と、ドライグが口を挟んできた。
ドラゴンのくせに世間を知った発言だなぁ……。確かに大商人が娘に財産を残そうとすると遺産を狙って近づいてくる人がいたりするもん。
俺の父さんも俺の知らないところで色々な人に苦労させられているのかもしれない。
とにかく、士郎さんの人となりを知れて良かった良かった。
『ところであの二束三文のガラクタどもはどうしましょう?』
「が、ガラクタども……」
「不安なら姫島神社で刀ともども縁切りと厄払いのサービスもつけますわよ♪」
「え、縁切り……厄払い……」
って良いところだったのに八尺様がフリップにとんでもない事を書き込んで、朱乃さんも追随する。ガラクタって! 言い過ぎ、いや書き過ぎだよ。
(ククク、ひどい言われようだな。まあ事実だからしょうがないけど)
ドライグも面白がるし……。
「ま、まあ……何だ。思い出に価値はつけられないものだ。志乃、失敗も一つの糧として大事にしなさい」
「パパも失敗だなんて!ひどーい!」
どこか和やかな雰囲気に包まれつつある士郎さんと志乃さん。ふ〜、一安心。
『あまり良くない兆候です』
「そうですわね……」
え!? どこが!? 刀のこともそうだが親子関係についても俺は専門外。
ここは口よりも手を動かした方がいいだろう。 そんなワケで刀を土倉へ戻す手伝いをしていると、不意に庭が目に入った。
広い池。立派な石灯籠。枝ぶりのいい松。ワサビのサービスっていうヤツかな?
(それを言うなら侘び寂びだろう)
即座にドライグが訂正してくる。悪かったな!学がなくて!
しかしやっぱりお金持ちだなぁ……。
だけどこういう庭には錦鯉がパシャパシャ泳いでたりするもんだけど、一匹もいないな。
「何か気になりましたか?」
「あ、いや、その……」
するとドライグが俺の声色を真似して勝手に喋り出した。
『いやぁ、こういうお屋敷の池って、錦鯉が優雅に泳いでるイメージがあるんだけど、生き物の気配がないなぁって』
こら、ドライグ! 勝手に俺の声を使うな! 中の人の無断借用は許しません!! いや、この場合はガワの人か?
と、そんなどうでもいい俺のツッコミを意に介さず、ドライグは真面目なトーンで答えた。
(お前らだけでは真相に辿り着けそうにないのでな。俺は回りくどいのは嫌いなのさ)
「ああ……」
志乃さんはどこか寂しそうな表情で池を見ながら話を始めた。
「私が刀を集め始めた頃でしょうか。池の鯉が急に弱るようになってしまって。パパが心配して、今は別の生け簀で飼っているんです」
「生け簀に……」
(やはりな。よくよく見れば松の育ち方も妙だ。葉の色艶はいいが、枝ぶりが不自然に片側へ寄っている。庭全体が淀んだ気を吸っている証拠だ)
(何言ってるんだよ。刀はほとんど偽物だったし、本命の妖刀も専門家が預かったんだろ? 邪気なんてもう――)
(相棒、お前は戦いになると冴えるくせに、それ以外は本当に鈍いな。今後お前もハーレム王……もとい人や悪魔を従える立場になるんだからよく聞け)
ドライグは呆れたように鼻を鳴らした。
(生き物は嘘をつかん。魚も木も、人より先に土地の異変を教えてくれる。
それとな、問題は"偽物の刀"そのものなんだよ、相棒)
偽物の刀が問題? 何言ってんだ。 偽物は所詮偽物。
本物の迫力や輝きの前じゃ及びもつかない。
朱乃さんや八尺様が言ったような二束三文の紛い物だろう?
(贋作ってのはな、ただ似せて作っただけじゃない。『相手を騙してやろう』『本物と思わせて儲けてやろう』『世間を出し抜いてやろう』……そんな負の感情が最初から染み付いて生まれる代物だ。だから霊感のある奴ほど真っ先に違和感を覚える。アイツ――八尺は刀そのものを見ていたんじゃない。刀に染みついた"人の業"を見ていたんだ。)
成る程!だから一目で『偽物』って分かったのか!
(そういうことだ。名刀には鍛冶の誇りや願いが宿る。贋作には欺瞞や欲が宿る。あの守り刀だけは父親の愛情が勝っていた。だから八尺様も真っ先に本物だと断言したんだ)
そ、そういうものかぁ〜。
鑑定の世界も奥が深いんだな。俺自身も、リアス・グレモリーの眷属としての自覚を持たないと。この事件をきっかけに、少しずつ勉強していかないとな。
まずは『魔剣創造』を使える祐斗に師事するのもいいかな?
(勉強も結構だがな。この土倉の淀みを辿ってみろ。何か良からぬ匂いに満ちている)
(良からぬ匂い〜?)
言われるがまま半信半疑で、以前に習得した“乳気”から相手を探し当てる技術の応用で、陰の気から出所を探り当てていく。
「……!!」
なんと土倉の基礎の中に石碑が無造作に埋もれていたじゃないか。幾ら俺がド素人でも石碑をこんな扱いするのはおかしいと思うのは明白だ。
しかも、石碑に彫られていた文字がふるっている。『畜生塚』と来たもんだ。
(これは……!?)
蒸し暑さ以外の理由で汗が出てきた。この石碑の意味することは……
もしかしたら、俺達はまだ全貌を見ずに、何も知らないまま事件に首を突っ込んでいるのではないだろうか。
俺は深呼吸をして、冷静さを取り戻し後に一旦士郎さんの部屋に戻り、詳しい事情を聞くことにした。
「畜生塚……ですと!?」
「はい。これが現物っス。
確か曽祖父の代にここへ移り住んで、事業が成功したって言ってましたよね?
何かその時の記録は残っていないんスか?」
士郎さんは少し驚いた顔をしたが、すぐに真剣な表情になり、こう語り始めた。
「確か曽祖父の日記が残っていた筈です。
昔の日記な上、大分クセの強い字のようで解読もままならないとあって放置していたのですが……」
「よしっ! 探しましょう!」
こうして俺達は志乃さんらと一緒に家中を探し回り、夕暮れ時までかかって曽祖父さんの日記を見つけた。だって広いんだよこの屋敷!そして八尺様の知識をフル稼働して読み解く事にした。
「あの、この八尺様という方は何者なのですか? 刀や昔の文字に精通しておられる様ですが……」
「パパ!こんな時に女の人を口説こうとするなんていやらしいわよ!それも自分より大分若い子を!不潔だわ!」
「そんなつもりは……」
ああ、また親子関係が厄介な事に……。
社長の業務を中断してまで探索に参加してくれたのに。
『お二人ともお静かに。
大凡の解読はできましたが警告しておきます。士郎さん、志乃さん。あなた方の曽祖父や祖父、父は世間的に褒められた人物ではないと判明しますが、宜しいですか?』
二人は固唾を飲んでいたが、コクリと頷いた。二人が了承するなり翻訳内容を手記する八尺様。その内容は二人は勿論、俺も朱乃さんですらたまげる内容だった。
まず、曽祖父が終戦後この地に引っ越して始めたのが戦争で亡くなった人の土地を勝手に自分のものだと主張し、地元のヤクザ……もとい当時駒王町を支配していた妖怪を使役して奪い取ったという。
「ひどい……」
多感な年頃の志乃さんは青ざめ、顔を覆った。士郎さんは士郎さんで唇を噛み、黙っている。俺もここまで非道なことを平然とやってのける人間がいた事にショックを受けた。
更に輪をかけて酷いのが祖父だ。
やれ、何億ふんだくってやっただの、
やれ何千万毟り取られただの。
誰それが成功するなんて許せない。
誰それが失敗した。いい気味だ。と耳をふさぎたくなる様なことが延々と書かれている。そして遂に決定的な畜生塚の事実が明らかになった。
高度経済成長の土地開発によって地価が高騰したが当然、その時巷にいる野犬が問題になった。そして様々な悪意や怨念にさらされた使役していた妖怪も限界に来ていた。
そして……
『三十代目芦屋道満なるものに金を積んで犬とあの畜生を始末させた。
狗神用に材料を提供してやったというのに何千万もふんだくりやがって。
犬共が怪物に化転するさまや同衾相喰む様は痛快で酒が進んだのは事実だが高い買い物だった。まあ塚位は作ってやるから有り難く思って成仏してほしい。
しかし仏になったのなら塚を作るのは時間と金の無駄ではないだろうか』
「こいつら……人間じゃねぇ……」
生物学には人間だろうけど悪魔なんて及びもつかない畜生じゃねえか……。
「もうやめて!聞きたくない!」
「落ち着きなさい!志乃!」
うずくまって嗚咽する志乃さんの両肩を押さえながら士郎さんは頭を振り、その後はっとした様子で頭を押さえた。
「三十代目……だと!?
私が会った男は三十三代目芦屋道満と名乗っていたが……!まさか、あの男は私の家の因縁を知って近づいてきたのか?」
士郎さんを責めるつもりは毛頭ないが、志乃ちゃんの肩から手を離したのがいけなかった。
「わ…私……!もう……生きていられない!!」
パッ、と衝動的に部屋から飛び出していってしまった! 早まるな、志乃ちゃん!!
ー
そして舞台は一旦、犬塚邸の外にうつる。
家の側にはその豪邸に似つかわしい高級車が1台止まっていた。いや、止まっているというよりは雌伏の時を待っているというべきか。
中には二人の人物と一匹の犬が待機していた。先の桂小五郎、並びに三十三代目芦屋道満その人である。
呂不韋の姿はない。
藤吉郎、ヴリトラ・アスラと共に京都にて調略を行っているためだ。
意外にも運転席に座っているのは道満より年下に見える小五郎の方であった。
無論ただ無為に時を待っているワケではない。しっかりと女中と執事を買収なりなんなりして邸宅に盗聴器と隠しカメラを仕込んでいた。
「今明かされる衝撃の真実、だねぇ。
特にこのお嬢さんは箱入りもいい所。
罪の意識に耐えられなくなったか」
「……知っていたんですか」
糾弾する調子で、隠していない片目で道満を睨み据え件の村雨を刀袋から丁寧に取り出しつつ小五郎は尋ねた。
転じて道満はさも当然と言わんばかりに肩を竦める。
「大凡はね。だから実家は伏魔殿だってキミに話しただろう」
「なら、どうして黙っていたんです?」
「簡単な話だよ」
何が愉快なのか知らないがくっくと肩を揺らし、犬が歯を剥く様に道満は笑った。
「私には祓う義理はある。祖父の尻拭いという意味ではね。だが、義務はない」
小五郎は眉をひそめる。
少なくとも『正道』と藤吉郎に称された小五郎の中にそんな発想はまるでないし、頭を掠めたことすらない。
だが道満は義務はない、と臆面もない笑みを浮かべて
その笑みは、どこか獣じみた、それも人とも獣とも思えない、得体のしれぬもの、鵺を彷彿とさせる笑みであった。
「それにね……呪詛師というものは、所詮"忘八"の商売さ」
「忘八……」
忘八。仁義礼智忠信孝悌──八つの徳を忘れた者。昔からそう呼ばれている。人であっても人でなし。外道の最たるもの。
「だから私は慈善事業なんてしない。依頼人の利益、自分の利益、その両方が噛み合うから動く。それだけだよ。だから屋敷に残った因縁──畜生塚や鎧武者は、イッセー君たちに祓ってもらう」
「つまり丸投げじゃないですか」
「適材適所というやつさ。赤龍帝は赤龍帝らしく英雄譚を紡ぎ、名を取ればいい。呪詛師は呪詛師らしく利益、実を頂く」
士郎達の曽祖父にも劣らない人でなしの言葉だ。あまりの穢らわしさに小五郎は思わず額を押さえた。
(外道がっ……!)
「バウ! バウッ!」
ハチが吠えた瞬間、道満の口元から笑みが一瞬だけ消えた。
それは小五郎でさえ見落としかけるほど短い変化だったが、長年連れ添った犬の叱責だけは、流石の三十三代目も無視できないらしい。
「そうですか」
道満の方を振り向きもせずに小五郎は村雨を握りしめながら言うなり、車のドアを開けた。
「どこへ?」
「決まっているでしょう。助太刀にいきます」
「おやおや? キミは『逃げの小五郎』じゃなかったかい?看板倒れってのはつまらないよ」
「僕は英雄である前に人間ですから」
「アォーン!」
よくぞ言った、と言わんばかりに小五郎に追随するハチを見て道満は所在なさげに頭を掻く。
「二対一かあ……。じゃあしょうがないね。私の一番嫌いな言葉はタダ働きで、二番目はくたびれ儲けなんだけどなぁ」
「道満さん!」
「わかりやすいねキミは」
(わかりづらいのは貴方だ)
と小五郎の喉から出かけたがそれは言わなかった。
エロは? 解決編と並行して。