やべぇことになった……
※マジメに考えてたら前振りが長くなりすぎたので分割。次回からがそれぞれの生徒との「エッチなのはダメ! 死刑!」になります。
時刻は先生がアキラに夜這いを掛けられた数十分後。
0時を過ぎた遅い時間にも関わらず、トリニティ総合学園の本校舎にある許可された者しか出入りできないテラスには3つの影があった。
「はぁ~……やっぱナギちゃんの入れてくれた紅茶は美味しいなぁ。香りも味も間違いなく一級で心が落着くよー」
「でしたら、もうお休みになられてはどうです。明日の朝は早いのでしょう? 夜更かしはお肌の天敵とも言いますし、寝坊してシャーレに遅れたらミカさん、絶対に癇癪を起こすではありませんか……」
「だって、だって~~~! 明日は私に取ってとっても大事な日になるの知ってるでしょ! 目が冴えちゃって眠れないんだもん」
「あぁ、そうですか。それは大変ですね……」
「ぶーぶー! 昨日からナギちゃん冷たくない!?」
「……そうなっても仕方がないのは理解しなよミカ。明日の午後を迎える前には親友であるキミが
「ま、まぁ、それは……ちょ~っと悪かったと思ってるけど……」
「ちょっとどころではなく、ものすごく悪いと認識したまえ。事情こそ理解したが、大なり小なり先生のことを頼れる大人として好感を持っている私とナギサを相手に、自分が学園の代表として先生と性行為してくると突然聞かされたんだ。思うことの1つや2つはあるものさ」
テラスにあるオシャレなテーブルを囲って紅茶を楽しんでいるのは3人。
丸1日を費やして高級エステに通い、明日の準備のため女を磨いていた
幼なじみの親友からいきなり、先生と性行為をするから準備を整えるのに協力してと言われた
非常に頭の痛い事態に、しかし未来視の力を失った自分ができることなどたかが知れていると傍観者に徹することにした
ミカは頬を紅潮させながら明日のことを妄想し、ナギサは見た目以上に動揺していることで少々冷たい態度となり、セイアはそんな2人の潤滑油となるべく会話を繋げていた。
(実際、心がザワついてしまうのは本当なんだ。先生と出会う前なら「勝手にしたらいい」と割り切ってたのだろうが……時が経つにつれ、つまりは先生がミカを抱くであろう時間に近づくごとに心が不安定になるのを感じる)
セイアにとって先生は不思議な人だった。
大人ではあるものの、自分たちとそこまで年齢差がない青年が生徒たちのために体を張っているのを未来視の中で見て、興味を持った。だからこそミレニアムでのちょっとした冒険の後、シャーレ所属となったのだ。
最初は意地の悪い問いを聞いてみたりして、よくいる2人が感心を寄せる先生がどのように自分のような性格の生徒と接するのかを見てみたいだけだったが、嫌な顔をせず真剣に向き合ってくれていることに気付けば気を良くし、ちょっとしたイタズラや夕日の中でのドライブを楽しむようになっていた。
そんな先生が、すぐ側で期待に胸を膨らませるピンク色のお姫様を女として抱くことになると聞かせられれば、苦言の1つや2つ言いたい。
それをしないのは、どの道誰かが性行為しないと先生が危険になってしまうからであり、自分よりもよっぽど複雑な心境であるはずの友人の気持ちを考えてのこと。
(どうしたのでしょうか、私は)
ナギサは昨日から感じる胸の痛みに悩んでいた。
大切な幼なじみが色んな段階をすっ飛ばし、明日の午前には殿方と性行為をしますと聞かされ動揺するなという方が無理な話なのだが、その相手が先生と聞いた途端、まるで裁縫の針が胸に突き刺さったかのような痛みを感じたのだ。
最初に出会った頃はこのようになるなど夢にも思わなかった。
セイアが死に(雲隠れしてただけ)、疑心暗鬼となったナギサ。先生のこともスパイ候補をまとめて捨てるために作った補習授業部に関連して利用しようとしただけだった。その後、紆余曲折(脳破壊)あって自分のした愚かなことへの償いも兼ねてシャーレ所属となり、先生とも良好な関係を築いたが……心には重しがあるままだった。
先生の優しさに触れ、誠実さを知り、自分たちと同じように呆れてしまう面を見ることで本来の自分を取り戻していった。だが、疑心暗鬼だった頃に先生に言われてしまった言葉はずっとナギサの心に突き刺さったまま。
そして先日、エデンの時からの――いや、トリニティができた頃からのアリウスとの問題が一先ずの解決を迎えたことで……心に重くのし掛かっていた悩みが取り除かれたことで……先生が謝ったことで……溜めていたものが決壊した。
それからだろう、シャーレの当番を待ち遠しくなったのは。
それからだった、ミカやセイアが先生と仲良く話すのを見る度に嫉妬心が自分の中で見え隠れするようになったのは。
ナギサは自分の気持ちに
「そういえば……」
ミカは何かに気付いたようにナギサとセイアを見る。
「2人こそ、どうしてこんな遅くまで起きてるの?」
「……あのねぇ、ミカ」
「ミカさん……本当に聞いているのか怪しいと思ってましたが……」
「え? え? 何なの?」
ミカは覚えがないのか困惑するが、その様子を見た2人は呆れるようにため息を吐いた。このお姫様は自分たちがこの時間帯でまだ起きてる理由も分かってないのに「眠れないから一緒にお茶しよ☆」と言ってきたのか、と。
「昼間に言ったではありませんか。“慈愛の怪盗”からキヴォトス全土に予告状が届き、場所の特定もできないので数日の間はトリニティの警備を強化すると。ティーパーティーは何かあればすぐ指示が出せる状態にするので、私とセイアさんは遅くまで起きてますよと……」
「どうせキミのことだ。明日のことで脳内をピンク色の妄想でいっぱいにして、ナギサの言葉を右から左へ聞き流していたんだろう?」
「ゔっ!」
大正解。
でも仕方ないではないかとミカは言いたい。
明日には大好きな先生とセックスすることになるのだ。他の学園の生徒も一緒に――というのは思うことはあるが、先生を助けるためでもあるし、何よりその条件を呑めば先生の初めての相手になれるチャンスを掴めるのだ。
先生は複数の少女を抱くことになるだろうが、その初めての相手となれば間違いなく先生の記憶に残る。どんな相手にだってマウントを取れる! そんな大チャンスを逃がすのは先生ガチ勢としてあり得ない!! 保健体育の知識とメルリー先生の作品を元にした桃色空間を頭の中で描いて当然だった。妄想の中の先生(脳内美化120%)にあんなことやそんなことをされ、「初めての相手がミカで良かったよ」などとアフタートークできるのであれば死んでも悔いは無い。
(どうしよ、また目が冴えてきちゃった。さすがにこれ以上の夜更かしは明日に響くし寝ちゃわないと。明日起きたらすぐ身支度を整えて、電車でシャーレに向かって、ジャンケン大会で絶~対に優勝して……ナギちゃんに買ってもらった『ジャンケン必勝ガイド』も読み込まなくちゃ!)
三者三様に思考を巡らせる中、バタバタと誰かが走る音が聞こえてくる。音はどんどん近づき、テラスに続く部屋のドアが勢いよく開いた。
開けたのはティーパーティー所属の2年生。先生がたまに言っていた“トリカス”ではないナギサも信用している生徒だった。
「ナ、ナギサ様!! きききき緊急のご報告が……!!」
新しくティーパーティーに抜擢されて日が浅いとはいえここはお嬢様学校。普段は淑女として振るう舞う努力をしているその生徒がお淑やかさをかなぐり捨てたような焦りを見せている様子に、こちらが想定した以上の緊急の案件が発生したことを悟ってナギサは表情を引き締める。
「落着いてください。緊急事態が発生したことはアナタの様子から察しましたが、だからこそ落着いて、要点をまとめて報告を」
「は、はい……!」
「それで、どうされました? もしや“慈愛の怪盗”の件でしょうか?」
「はい! “慈愛の怪盗”から犯行成功の声明が出されました!」
「おや、すでに犯行が成功した後なのかい? その慌て振りを見るに、トリニティのどこかで人知れず美術品が盗まれていたとか?」
「い、いえ……そういう、話ではなかったと言いますか……ぅぅ……」
「ねぇ、あの子……どうにも様子が変じゃない?」
ここでナギサたち3人は報告に来た生徒の様子がおかしいことに気付く。
その反応はまるで、レッドウィンターの生徒が秘密裏に販売していた同人誌(微エロレベル)を見てしまった耐性のないお嬢様のよう。
報告に来た生徒はさんざん目を泳がせた末、覚悟を決めたかのように佇まいを正す。まるで、これから噴火する火山に立ち向かう英雄のような雰囲気に3人は息を呑む。
「非常に、重大なことが起こりました。間違いなく、明日よりキヴォトスで混乱が起きることが。ナギサ様、セイア様、そしてミカ様には……覚悟を持って聞いていただきたく」
「それほどなのかい」
「ええぇ……? 聞くの怖いんだけど……」
「……聞きましょう。報告を」
報告に来た生徒は、一拍を置き――
「“慈愛の怪盗”によって……シャーレの先生の童貞が奪われました!!」
「「「は?」」」
一瞬でテラス全体の雰囲気が変わる。
ナギサは笑顔であるのに全く笑っていなかった。
セイアの肩に乗っていたシマエナガは殺気を感じた瞬間に飛び立った。
ミカは瞳孔の開いた目でそれなりにお高いカップを粉砕した。
* * * * * * * * *
シノン『――ということで、“慈愛の怪盗”があの!シャーレの先生から童貞を頂戴したと声明を出してから
スマホから流れるのはクロノススクール放送のニュース。
この2日、キヴォトスで最も注目を集めている『シャーレの先生、童貞喪失事件』について噂や憶測も含めておもしろおかしく放送していた。
で、そのスマホを見ている先生当人はというと――
「おおおぉぉぉ~~~~~っ……!」
頭を抱え、徹夜明け3日目のサラリーマンのような呻き声を上げている。
「先生、大丈夫ですか?」
「ダイジョウブジャナイ」
「お気持ちは分かりますが、マジメな話ですのでいい加減シャキっとしてください。昨日の大混乱は私が矢面に立ったんですよ? 2日経ちましたし、先生も区切りを付けてくれなければ話が先に進みません」
現在、シャーレの応接室では疲労困憊(肉体的)なリンと疲労困憊(精神的)な先生による『シャーレの先生、童貞喪失事件』についての詳細の擦り合わせや、それによる各地の影響について話し合いが行われていた。
「そもそも、こちらは少しでも詳細を確認しなければならないのに、なぜ報告書の提出を頑なに断るのです?」
「あの夜(アキラに夜這いを掛けられた日)の出来事でどういう侵入経路でアキラがシャーレにやって来たのかってことや、どんな立ち去り方をしたのかって報告は……まぁ、分かる。けど――」
「けど?」
「何が悲しくてアキラ……つまり生徒と性行為した時の詳細まで書面に書かなくちゃいけないの!? 何? リンちゃんはオレに羞恥プレイを強要してるの!? 実はそういう趣味なの!?」
「はぁ……誰が、何の趣味ですか……」
先生がアキラに童貞を奪われた朝には連邦生徒会から緊急のヘリが到着。わざわざミレニアムにまで送って、最新の機器でバイタルチェックが行われた。結果、発情状態だった際と比べて一応の落ち着きを取り戻したと判断される。
依然、霊薬の効果は残ったままなので定期的に生徒に発散してもらわないといけないという事実は変わらなかったが、命に関わるかもしれない緊急事態は超したと判断されたのである。
だが、そこからが大変だった。
シャーレ所属の生徒たちから引っ切りなしに届くモモトークは詳細を語るわけにも行かず基本黙秘を貫くしかなかった。さらに、ミレニアムで検査を受けている間にシャーレへ大量の生徒(主にモモトークしたけど返信がもらえなかった勢)が押し寄せ、一時周辺がパニックに。さらにさらに、事態の対処をすることになった連邦生徒会から事の詳細についての報告書類の提出を求められた。
報告書類は……まぁ分かるよ。
でも何でアキラとセックスするまでの過程から体位、果ては射精量からピロートークの内容まで書かないといけないのさ! そこは必要ないよね! 誰なのこれ作ったの!? アオイ? 財務担当なのになにやってんのさ!! 断固拒否します! この報告書の雛形見て許可した時点でリンちゃんも同罪だからね!
――と、こんな感じだった。
「そ、そんなことより! オレとしてはアキラの件で心配事があるんだけど……」
「現在キヴォトスで活発に行われてる“慈愛の怪盗”ハンティングのことでしょうか? 先程確認した際には、懸賞金額が
「アキラぇ……」
“慈愛の怪盗”アキラは今――完全な自業自得で割と命の危機だったりする。
それも当然の結果である。主要学園を中心にシャーレの先生を尊敬し、憧れ、好意を抱いている生徒は数多くいた。ネームド生徒だけでなく、一般モブ生徒も含めればその数は膨大。
大半が「like」の意味での好きではあるが……塵も積もれば山となる。1人当たり1000円~5000円の出費だとしても数百人が一斉に懸賞金に注ぎ込めば額は膨れ上がる。追い打ちを掛けてるのは「面白そうだし私も数千円出そ♪」という生徒も一定数いること。現在も微妙に上がり続けている分はそういう生徒から出された懸賞金である。
そりゃ普段からオシャレと称して銃のデコレーション、強化、メンテナンスから消耗品の弾丸の売買までしているのがヘイロー持ちのキヴォトス人なのだ。実は意外とみんな銃関連のお金は持っている。毎日どこかで弾丸が飛び交う世界だからね。コンビニに銃弾は普通に売ってるのが当たり前のキヴォトス。狂ってやがる。
――と、ここまではまだマシ。
問題は「likeよりのLove」な生徒、「Love」な生徒、「EXTREME LOVE♡LOVE(先生ガチ勢)」な生徒たち。
先生の童貞という奪われたら二度と手に入らないソレを、知らぬ間にどこぞの泥棒猫によって盗まれたことを知った彼女らは激怒した。必ずやあの傍若無人な某に鉄槌を下すと。
私だって先生の童貞欲しかったのに……! 出せる分のお金はあげるから絶対に捕まえてよ。もちろん私たちもハントするけどな? 逃走用の道具は十分か“慈愛の怪盗”……草の根を掻き分けてでも見つけ出してやるよ!!
そんなこんなで昨日から行われているのが“慈愛の怪盗”ハンティング。
何せ金賞金額が3億に達しそうな賞金首なのだ。捕まえればしばらくの間は遊んで暮らせる、節制すれば一生仕事せずに生きられる。そんな夢のような生活が七囚人とはいえ、そこまで戦闘力が高くない人物に掛けられている。
なら乗るっきゃねぇだろこのビックウェーブに!
一狩りいこうぜ!!
賞金ハンター女王に私はなる!
そんな『
「ちゃんと端正局送りにするために捕まえるんだよね?」
「今度捕まったら2度と出られないかもしれませんが」
「懸賞金のポスターに『DEAD OR ALIVE(生死問わず)』って書かれてるんだけど……」
「…………後ほどヴァルキューレに確認を取りましょう」
先生の心配事は尽きない。
単純に七囚人とか関係なく大切な生徒であることも理由だが……やっぱり、何だかんだ言って“初めての相手”なのだ。無意識の部分で心配してしまう。
さらに、心配事を加速させる情報が1つ……
「それで、ええっとぉ……昨日、オレと
「具体的に誰が……というのは口を閉じますが――目撃情報によりますとアビドスから全員が、トリニティからは聖園ミカを筆頭に一部が、ゲヘナの空崎ヒナ委員長が単独で、ミレニアムのセミナーが依頼する形でC&Cが出撃、etc.……それぞれ独自の方法で“慈愛の怪盗”をあの夜から追いかけ続け、D.U.を含む広範囲で破壊を振りまいていますね」
「oh……」
でしょうね。
そりゃ明日には「LOVE」の意味で好きな先生とジャンケン大会の優勝を逃したとしても乱k――合同になるとはいえセックスするはずだった生徒からすれば、知らないうちに優勝賞品を横取りされたのだから。
そもそも先生の発情を抑えるために集まるはずだったのに、その発情も収まったとなればどうなるか? “慈愛の怪盗”の声明後すぐに連邦生徒会から「こういう事態ですので~、メディカルチェックもあるので~、今日の話は一旦無しに~~」などと連絡を受けた生徒たちの心情は?
『激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム』*1である。
そりゃ怒るよ。
その日のために準備やら覚悟やらしていたなら当然。
トリニティの初動は早かった。
凍えるような笑顔のナギサは“お政治力”を働かせて正義実現委員会を動かし、件の泥棒猫を捕まえるための実働部隊を出動させた。
激おこセクシーFOXはこれまでに未来視で培った情報の有効活用と相手を追い詰めるための動き方をフル活用し、泥棒CAT捕縛のための包囲網を作っていった。
で、先生とのセックスのために1日の大半を使って高級エステコースにて自分を磨き上げたにも関わらず、全てを台無しにされたミカは――“慈愛の怪盗”アキラの場所がある程度絞り込めた時点で全力疾走。理性のないトリニティピンクゴリラへ変貌して、トリッキーな動きで逃げようとするアキラを周りの被害を一切考えない圧倒的パワーで追い詰める。トリニティからもたらされる情報を手掛かりに、どこに逃げようと必ず追い詰めるその姿は破壊の権化!
尚、被害報告の半分がミカによる建築物及び公共施設の破壊であった。
ゲヘナの風紀委員長ヒナは泣いた。
予想通りアコがキレた結果、騒ぎを聞いた万魔殿の関係者から伝言ゲーム形式で情報がマコトまで伝わり「何っ、極秘情報!? シャーレの先生と最初に体の関係を持った生徒の所属する学園は他の学園にまで影響力を持てるだと!? キキキ! こうしてはいられない! 先を超される前に誰でもいいからゲヘナ学園の者が先生とねんごろするのだ!!」と煽った結果、本気にした一部の生徒が互いに牽制しあい、牽制が戦闘にまで発展、他の生徒たちも巻き込んだ大混乱が起こった。
風紀委員長として鎮圧に向かったヒナはほとんど勢いで、自分がその役目をすると宣言。冷静になって顔から火が出るほど恥ずかしがったが、同時に口元はニヨニヨ。翼はパタパタ。
事情も事情だし決まったものは仕方ないと、イオリとチナツは複雑な心境を隠してヒナの初体験のためのサポートに回る。ちなみに、アコは燃え尽きて灰になっており、全く役に立たなかったので無視。明日のために仕事を休ませ、着ていく服を選んで、美味しい食事で活力を付け、ちょっとでも綺麗に見えるようナチュラルメイクを試してと、普段働き過ぎなヒナのために風紀委員全員(-1人)はできる限りの努力をする。
が、そんな中で舞い込んできたのが“慈愛の怪盗”による声明。
その知らせを聞いたヒナは……最初は無言で涙を流し、しばらくしてブツブツと何かを呟いて笑いながら泣くのを繰り返し、最終的にへたり込んで大泣きをしだした。
それからどれほどの時間が経った頃だろうか。イオリやチナツがどうにか落着かせようとする前に突如立ち上がって“慈愛の怪盗”ハンティングに向かったのだ。
風紀委員長として数々の問題児たちを鎮圧してきた圧倒的パワーと、そんな問題児の行動を予測する洞察力が“慈愛の怪盗"に牙を剥く。
愛銃から発射される極太レーザー(!?)はアキラが隠れている建物ごと貫き滅しに掛かる。その時のヒナの表情は分からない。なぜなら、正面から見てしまったハンティング中の生徒は例外なく恐怖で気を失ったのだから(アル様、2敗)。
尚、被害報告の3割が謎レーザーによる建造物破壊である。
ミレニアムのセミナーに所属するノアは静かにキレた。
そもそも先生が薬で発情し、誰かが性行為しなければならないとなったら、相手は1人しかいないではないか? 先生の初めてをもらう権利は、初めて先生のために当番に来た生徒が相応しいはず。まぁ、自分も“あわよくば”という気持ちがないと言えばウソとなるが、大切な人の初めての相手が大好きな親友なら納得できる。それこそ、ジャンケン大会の優勝とやらを逃したとしてもセックスするのであれば……後々自分が先生と間違いを犯したら“姉妹”の関係にもなれたり~なんて。親友の言葉を借りるなら「完璧~♪」な計画と言えた。
恥ずかしがる親友を言葉巧みに後押しし、もっと慎重に考えましょうと言う自分たちのトップに横領都市とは別件の横領の証拠を突き付けて黙らし、先生とセックスするミレニアムの代表枠に親友をねじ込むことに成功した。
真面目な性格だが恥ずかしさの中に嬉しさが隠し切れていない親友を見るのは、普段以上に笑みが溢れた。どれくらいかと言ったら、何も知らないコユキが「ノア先輩、絶対何か企んでます! 怖い!!」と逃げ出すぐらい。
口では色々と言いつつも翌日のことに期待をする親友を着飾る時間はノアにとっても楽しかった。前日の丸1日を休日とし、せっかくだから勝負下着とかも買いましょうと誘ったり(ちゃっかり自分のも買う)、ミレニアムの最新マッサージ機(エンジニア部は関わっていない)で体のコリをほぐしたりと、翌日の朝に親友を憂いなく送り出せるように考えられる限りのことをした。
それを全て台無しにしたのは“慈愛の怪盗”アキラ。
明日のことで頭がいっぱいで眠れないと言う親友――ユウカと一緒のベッドで落着かせようとしていた中で届いたその一報。
その時、何があり……ユウカがどうなったか知る者は……ノアだけである。
ノアの行動は早かった。
何も知らずに眠ってたC&Cの部長であるネルを鬼電で叩き起こし、当然キレる彼女にこう告げる。
「“慈愛の怪盗”が先生の童貞を盗み、ユウカちゃんが泣いたので今すぐ捕まえてください。これはセミナーとしての正式な依頼です」
「………………OKだ。で? そのクソ猫の居場所は?」
ネルは諸々のツッコミどころを全部飲み込んで依頼を引き受けた。先生に手を出した“敵”ということさえ分かればそれでいいのだ。
かくして残りのC&Cメンバーも叩き起こされ、随分舐めたマネしやがったクソヤローに鉛玉をぶち込むべく5人のメイドたちは夜の街へと繰り出した。
ハンティングで役に立ったのは途中で合流したトキ(アビエシェフ装備)。ミレニアムが誇るAI技術を駆使してアキラの行動を予測、C&Cフルメンバーで何度も奇襲した。さらに、途中で見失おうともアスナの「たぶんこっちー!」という100%当たる勘によって決して逃がさない。
尚、被害報告の約15%がC&Cによってもたらされている。
アビドスは生徒5人全員がハンティング準備を進めた。
元々アビドスは一蓮托生。1人のために残りの4人が全力を出せる仲間だ。
シロコから先生の現状を伝えられた対策委員会メンバーは、まずそれぞれの反応する。アヤネは顔を真っ赤にして頭痛を堪え、セリカも同じく顔を赤くしながらまだ見ぬ山海経の生徒に怒りを燃やし、ノノミはビックリしながらもゾクっとするような笑み(肉食獣のそれに近い)を浮かべ、ホシノはどうしたらいいのか本当に分からないといった様子で視線をあっちこっちに彷徨わせた。
シロコとしてはアビドス全員で先生と6Pと洒落込みたかったが、代表者は1人だけと決められていた。では5人の内誰が先生とセックスするアビドスの代表となるのか? その議論はたまにおかしな方向に行きつつも徐々に決まっていき、最終的にクジ引きで代表者が決まった。
ちなみに、その時刻は前日の23時。1日と半分の時間を使って議論しあって出た最終的な決め方がクジ引きとか何をやっていたんだ?と言われるのは仕方ないかもしれないが、5人それぞれが他のメンバーを大切にしていたからこその決め方だった。
全員が先生のこと好きで、全員が他の子のことも考えてるから、いつまで経っても決まんないね。じゃあ運を天に任せようか? そんな会話があったとかなかったとか。
もう遅いし今日はこのまま学校に泊まろうか~となり、ちょっとエッチなガールズトークをしながら寝る準備を終えた直後、“慈愛の怪盗”に先生の童貞を奪われたことを知った。
この時、代表となった1人だけでなく残る4人も怒りのオーラを発した。
理由など簡単だ。代表に選ばれた1人が静かに怒りだしたから、残り4人が全力でキレた。ただそれだけだ。アビドスは堅い絆で結ばれている。何かあったら他のメンバーも連鎖反応するぐらい。5人に言葉は要らなかった。装備を調えて夜の市街地へと躍り出る。
やはり強かったのはホシノ(臨戦)。実はアキラへ与えたダメージポイントはミカやヒナ、C&Cを抜かして1位である。よく逃げ切ったなアキラ。
本来アビドスにはアキラを追う方法などは無い。トリニティのような人海戦術も、ゲヘナの風紀委員長のような経験則も、ミレニアムのようなAI補助などありはしない。では何故、3大校の最強格を出し抜いてそこまで追い詰めることができたのか?
「んっ! こっちから先生の淫臭がする!!」
匂いに敏感な狼(シロコ)がいたからだ。
そりゃアキラは先生の精液を大量に受け止めてすぐ「bye♪」したので体も洗っていない。股から垂れ続ける分も含めて淫臭を出し続けているので、動物の要素+先生限定の匂いフェチに目覚めてしまったシロコからは逃れられなかった。
想定以上に追われ続けるのでアキラも体を洗う暇さえない。常に居場所を特定される恐怖にアキラは震え上がった。
尚、実はアビドスが暴れたことによる被害報告はほとんどない。まぁ借金の9億は健在だしね。変に請求されないよう被害を出さずに戦闘するのは5人とも得意なのだ。
で、それ以外の各学園の生徒はというと。
まずシャーレのすぐ近くにあるホテルでキサキはサヤと合流し、先生との性交で責任を取るつもりだったのだが――急に白紙となり呆然。結構覚悟して来ていただけにちょっとショックが大きかった。
ヴァルキューレからの推薦を受けて準備を進めていたRABBIT小隊のミヤコは、事の次第を知ってすぐ猫狩りを開始。『泥棒猫滅殺作戦』を他の小隊メンバーと行う。いつもと明らかに違う雰囲気の作戦名にサキはドン引きした。
念のためにと百鬼夜行から来ていたカイは、同じ七囚人がしでかしたことを聞いて大笑い。たまたまレッドウィンターから戻ってきたメルと出会って、一緒に“慈愛の怪盗”ハンティングの様子を観察した。
連邦生徒会のアオイは平常を装いながらキレていた。
いつの間にか流されて先生と性行為することになり、決して嫌じゃないことに自分自身で驚き……“慈愛の怪盗”の一件だ。そりゃ怒った。静かに。とりあえずで今年度の七囚人への対策費用を倍増した。
「最後に確認できたところですと、“慈愛の怪盗”は衣服がボロボロの有様でいつ捕まってもおかしくない状況ながら必死に逃げおおせたようです。追跡していた各学園の生徒たちはまだ諦めていない様子だったものの、さすがに被害が無視できないレベルまで来ましたので連邦生徒会長代理の権限で学園に圧力を掛けて止めさせていただきました。はぁ……代理として使える権限その他は余り使いたくなかったのですが、そうも言っていられませんでしたので強引に押し通すことになりましたよ」
「その子たちが出した被害についてはオレの方で払うよ。お金なら困るぐらい溜まっているからね。リンちゃんの方からどうにか軟着陸できるように根回ししてくれる?」
「そういうのは苦手なのですが……仕方ありません」
「ありがとう」
「それで……先生は今後どうするおつもりでしょうか? 霊薬の効果そのものは消えたわけではないので、定期的な性欲の発散が課題となるのですが」
「……どうしようかなー」
先生の悩みは尽きない。
また先日のような発情状態となれば業務に支障をきたすことは目に見えているが、じゃあ誰が性欲処理――自分とセックスしてくれるかを考えるのは……
「頭が痛い」
霊薬の摂取から大凡4日。
毎日のように頭痛に悩まされる日々は続いていた。
~おまけ~
アキラ「し、死ぬかと思いました……これが先生の初めてを頂いた代償なのですね……しかし、あの方々は一体? ゲヘナの風紀委員長やC&Cのメイドは知っておりましたが、脱獄してからキヴォトスで強者が増えてませんか???」
【挿絵表示】