※この作品はR-18です。

女子高生になる   作:姫野真沙美

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その1 初登校

 久しぶりに学校に来た。

 

 今、教室の扉の前に立って、担任の三上先生から呼ばれるのを待っている。一ヶ月ほど休学していて、やっと登校できるようになったのだ。一ヶ月という期間は、本来ならばそれ程長いものてはないだろう。心配していた友人たちに暖かくむ迎えられ、休学の間、何をしていたのかとか、身体の調子はどうだ、など色々聞かれ、段々と鬱陶しく感じたりなんかしてしばらく過ごし、何れは何事も無かったかのように今まで通りの日常に戻って行くのだろうと思う。

 

 本来ならばである。

 

 しかし今、僕の置かれた状況は普通ではない。何故ならば、一ヶ月前、つまり休学する前は、僕は男だったのだ。いや、生まれてずっと男だった。当然、同級生のみんなも僕を男だと思っているし、僕も男としてみんなと接してきたのだ。1学期の間は。

 

「安城くん、入り給え」

 

 担任の三上先生の声が教室内から聴こえる。

 「はい」と返事したら、教室内がどよめいたのを感じた。それは僕の声が、どう聞いても女の子のそれだったからに違いない。

 

 みんなの反応が怖くて、恐る恐る扉を開けて中に入る。

 

「失礼しまーす」

 

 反応を怖がったせいで、か細い声しか出なかった。教室のみんなの反応が無いところをみると聞こえなかったのかもしれない。

 

 教卓の方へ向かう間、自分の足音が異様に大きく響く。教室は、しーんと静まり返っており、それがより自分が注目されている事を感じさせる。周りの様子を確認したいけれど、とてもみんなの顔を視る勇気は湧かなかった。

 

 教卓に辿り着き、みんなの方に身体を向ける。俯いたままでも、教室中の視線が集まっているのを強く感じる。

 

「あー、見ての通り、安城くんは、女の子に、なりましたのでー、先程説明した通り、これからは女子生徒となりますのでー、そのなんだあ、まあよろしくってわけだ。な、わかるな? っという事で、安城くん、何かあれば一言」

 

 一体どんな説明をしたのか気になるところではあるが、三上先生に促されて、顔を上げる。

 

 僕に教室中の視線が集中する。

 

 恥ずかしくて、恥ずかしくて、いたたまれない。早くこの場を去りたかった。その一方で何か言わなければならないという気持ちもあった。これからの事、これからのみんなとの関係、それをどうするか。今まで男どうしとしての付き合いがあった者との関係、そしてこれから女の子としての僕と、同級生の女子との関わり方など、どうしていいか分からない事だらけだ。いろんな事が頭を巡る。そして巡るだけで何も形に成らず、時間だけが過ぎる。実際に過ぎた時間は僅かだったかもしれないが、僕の中ではとても長い時間沈黙していたように感じた。早く何か言わなければ。気持ちばかりがはやり、焦って何も喋れなくなる。口だけが意味もなくパクパクと動いていた。

 

 

「安城くん?」

 

 担任にまた即された。とりあえず、ずっとこのままでいるわけにはいかない。形だけでも挨拶をしておく必要があった。

 

「えっと……。僕は、女の子になりましたが、あまり気にせず、いままで通り、よろしくお願いします」

 

 と、なんとか最後まで言い切った。実際、今まで通りなんて出来ないとわかっているけど、その辺りを細かく言い方を考えたりする余裕はもう無かったのだ。

 

「はい、じゃあ、安城くん、席について。席は変わってないから」

 

 顔が真っ赤になっているのを感じる。頭から湯気が出ていそうだった。視線を下に向けたまま、自分の席に向かう。自分の姿を教室中の視線が捉えているのを感じる。それは男子だけではなく女子の視線もあったろう。男子の視線は、僕の女の子としての部分を品定めしているだろうし、女子の方は自分と見比べたりしているのかもしれない。

 

 凄く長く感じた自分の席までの距離を歩き切って、席に着く。座る際に、スカートの後ろの裾を撫でて足の下に敷くように調整する。このやり方が正しいのかどうかわからないけど、こうしないとスカートがぐしゃぐしゃになることは、既に家で経験済みだった。

 

 席についても、周りの視線が気になって落ち着かなかった。極力眼を合わせたくなかったので、正面の黒板を眺めるようにしていた。

 

 ホームルームが終わって担任が教室を出ていくと直ぐに、みんなが僕の席の周りに集まってきた。男子のみではなく女子も混ぜ込ぜでいろいろと聞いてきた。

 

「ねえ、ねえ? どーいうこと?」

「性転換手術したの?」

「もう切り取ったの?」

「豊胸したの?」

 

「待って、待って、ちょっと待って」

 

 怒涛の勢いに狼狽えて、なんとかみんなを抑えようと両手で制する。先生は一体どんな説明をしたのだろうか? 僕は性同一性障害ではないし、性転換手術を受けたわけではない。気がつくと女の子の身体に変わっていたのだ。

 

 それは夢の中の出来事だった。夢の中で誰かに聞かれたのだ。「お前は何を望む?」と。そのとき僕は、「女の子になりたい」そう応えていた。性同一性障害ではないし、性の自認が女性だったというわけでもない。僕は単に、女の子に憧れていて、女の子に産まれていたら良かったなあっと漠然とした気持ちでずっと過ごしてきた。その自覚は、小学校1年のときだった。母親が体操着を女の子用と間違って注文してしまったのだ。その体操着を見たとき、僕はそれを履きたいと思ってしまった。母親が、体操着を男子用に交換してもらうと言ったときに、「嫌だ、それが着たい」と口走っていた。そのときは自分でもなんでそんな事を思い、そんな事を言ったのかよく分からなかった。

 小学校高学年になると、クラスメイトの女の子の胸が膨らみ始めるのを見て、男性的な興味よりもむしろ、羨ましいと感じていた。自分も胸が膨らんで欲しいと思っていた。そして家に独りでいるときは、タオルを腰に巻いて、スカートに見立てて過ごしていたりしていた。そして男性器を切り取って女の子みたいになりたいと妄想するようになっていた。それは高校生になっても続いていた。

 

 だからだ。夢の中で何を望むか聞かれたときに、「女の子になりたい」そう応えてしまったんだ。

 

 まさか本当に女の子になるとは思わなかったが、その日の朝にもう身体は女の子になっていた。

 

 母親は酷く驚いていたが冷静に病院に連れて行ってくれた。検査の結果、僕の身体は紛うことなき女性の身体であり、子供も産めるということだった。

 

 よくわからないまま願いが叶った形になってしばらく戸惑っていたけども、落ち着いてくるとすごく嬉しかった。その反面、学校の友達や近所の人たちにあれこれと注目されることを思うと、逃げたくなった。

 

 気持ちを整理する時間と、女の子用の衣類やらもろもろの準備の為もあり1ヶ月間の休学となったわけだ。

 

 だが、クラスメイトのこれらの反応を見ると、どうやら性転換手術を受けたと勘違いしているようだった。

 

「なあ、これ本物か?」

 

 無遠慮に後ろから、男子生徒が、僕の胸を鷲掴みにしてきた。身体が反射的にびくんっと跳ねた。そしてゾクゾクする感覚が全身に広がる。

 

「っっきゃああああああああ」

 

 自分でも驚くぐらい、今まで出した事がない悲鳴が出た。男子生徒の腕を振り払い、自分の腕で胸をガードして蹲る。

 

「おぃおぃ、冗談だってばさあ」

 

 冗談でも胸触ったら駄目だろう。仮に僕が性転換手術して作った胸だったとしてもだ。信じられない。

 そしてもう一つ信じられないのが、僕の股間が疼いてしまった事だった。胸を触られて反応してしまったらしい。股間の女の子の部分が、じんじんを痺れている。まさか感じているのだろうか。僕は淫乱だったのだろうか。そもそも女の子はこんなふうに感じてしまうのだろうか?

 

「ちょっと今のは駄目じゃない? 男子はあっち行って。しっし!」

 

 クラス委員長の梅津さんが気を使って男子生徒を遠ざけてくれた。

 

「大丈夫? 外出る?」

 

 背中を擦りながら優しく語りかけてくれた。

 

「あ、うん、大丈夫。ちょっと、その、びっくりしただけだから」

 

 あんまり迷惑を掛けたくなくて、大丈夫な事を強調しておいた。

 

「なんか、大変な事とか、わからない事があったら、私が相談に乗るからね」

「あ、ありがとう。梅津さん」

 

 たぶん、担任から言われていたのだろう。女の子初心者の僕がいろいろと戸惑ったりするだろうから、梅津さんに手助けするように伝えていたのだろう。それは正直助かる。男子の頃から特に女子と仲良くはしてなかったので、女の子になったからといって直ぐにクラスメイトの女の子と友達になれるわけではないだろうし。かといって、男子と仲良くするのは、今のように身の危険があると思った。そうなると僕は独りぼっちになってしまう未来しかなかった。

 

 梅津さんを起点にして、女の子と仲良く出来るようにしよう。それが今からの手始めの目標になった。

 

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