※この作品はR-18です。

女子高生になる   作:姫野真沙美

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その12 翔吾3

 またやってしまった。

 公衆の面前で、翔吾に抱きついてしまった。

 廊下を行き交う生徒たちや先生方に見られたかもしれない。

 

 我に返り、すぐに翔吾から離れたが、どのぐらい抱きついていただろうか? 結構長かったのではなかろうか。

 

 僕が抱きついている間、翔吾は抵抗せずに優しく身体を支えてくれていた。

 その事に恥ずかしさを覚え、翔吾を無視して足早に教室に戻った。

 

 流石に呆気にとられたのか、井上さんも上田さんも何も言って来なかった。

 

 誰からも何も言われないと、どんどん自分の中の思考に潜っていってしまう。

 僕の精神が、この身体によって、女そのものに変えられて行っている気がする。

 このままでは、心身ともに完全な女になってしまいそうだった。

 いや、その事自体はまだいい。女になりたくないわけではないからだ。問題は、僕の心だ。このままでは今の僕自身は消滅してしまって、別の誰かになってしまいそうな、そんな感じがしてしまうのだ。

 それは、今の僕が、女の身体を制御出来ていないからだ。

 

 心頭滅却して、性欲を抑制しなければならない。

 そうでもしないと、何か取り返しのつかないことになりそうな予感がした。

 

 放課後になった。

 今日は、クラブに出る気にならなかったので、休む事にした。

 こんな状態で、体育館で男子部員の眼の前で体操服姿を晒すわけにはいかない。

 そのうえ、胸を揺らして運動とか無理だった。

 男子にそんな姿を見られていると思うと、堪えきれる自信はなかった。

 

 大人しく家に帰ろう。そしてもう眠ってしまおう。そう考えた。

 

 まっすぐに帰宅する、予定だったが、気がつくと翔吾の家の前に居た。

 どうしてだかわからない。

 ぼんやりと考え事をしていた気がする。

 翔吾に家に行こうなんて考えてもいなかったのに。

 

 そういえば、前に読んだ本に書いてあった。人間は無意識に支配されていて、自分の意識だと思っている自我は、無意識の行動を正当化しているだけだと。

 つまり、僕は、僕の無意識は、翔吾に会いたがっているという事だ。いくら僕の意識が、こんな事はいけない、翔吾に抱かれるなんていけないと思っていても、無意識は翔吾に抱かれたがっているということなのだ。

 

 とはいえ、そう考えたところで、納得できるわけでもなく、決断できるわけでもない。

 あくまでも、自分が今している行為に対して、理由を付けたに過ぎない。

 

「やっぱりダメだ。帰らなくちゃ」

 

 僕の意識が、無意識に反抗してその場を立ち去る。

 

「何がダメなんだ? 勝巳?」

 

 声のする方向に振り返ると、そこに翔吾が立っていた。

 

「ななな、なんで、翔吾が居る?!」

「なんでって、ここは俺の家だからな」

 

 平然と応える翔吾。

 

「え? でも帰るの早すぎない? クラブはどうしたの? 休んだの?」

 

 翔吾はサッカー部のレギュラーだ。結構真面目にクラブ活動をしている。見たところ具合が悪いという感じでもない。まさか、僕を追いかけて来たとか?!

 そういう考えに至り、胸の奥が激しく鼓動を打った。

 

「ん? 何か変か? もう六時半だぞ」

 

 翔吾は自分の腕時計を見て、そう言った。

 

「え? うそ! もうそんな時間なの?」

 

 おかしい。僕は学校から帰ってすぐにここの来たはず。そんなに時間が経っているはずはない。

 カバンからスマホを取り出して、時間を確認する。

 しかしスマホに表示された時間は、六時半を回っていた。

 

「うそ……。僕ここの、何時間居たの……」

 

 たしかここに着いたのは、四時半とかだったはず。それから二時間も僕はここに居たっていうのか。

 まったく自覚がなかったので驚いた。その二時間をすっぽりと誰かに盗まれたかの様に感じた。

 

「おまえ大丈夫か?」

 

 翔吾が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 直ぐ側に翔吾の男の香りを感じで、頭がくらくらする。

 

 だめだ。もう理性が飛びそう。もうどうにでもなれだ。

 そのまま翔吾に寄り掛かって、意識を閉じた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 気がつくと、何処かで見たことのある部屋で寝ていた。

 はっとなって、身体を起こし、辺りを見回す。

 ぼんやりとした意識の中で、徐々に事態が把握出来ていく。

 

 何があったのかを、ゆっくりと記憶の糸を手繰る。

 翔吾と話していた事を思い出すと同時に、この部屋が翔吾の部屋だと認識した。

 

 まだ男だった頃に、翔吾の家には何度も遊びに行っていた。

 知り合ったのは小学生の頃だが、お互いの家を行き来して遊び初めたのは中学生のときからだ。

 最近でも、結構遊びに行っていたので、あいつの部屋は覚えていた。

 

「気がついたか?」

 

 翔吾が階段を登って、お盆にお茶の入ったコップを乗せて部屋に入って来た。

 ローテーブルの上にそれを置くと、僕の方へ近寄ってきた。

 

 僕はどうやら翔吾のベッドの上に寝かされていたようだ。

 

 身体を起こしてベッドに座り直すと、翔吾は隣に座ってきた。

 

 こいつ、ナチュラルに隣に座りやがる。僕が女だと思っていないのか、それとも元男で友人という気安さか?

 いや、こいつの場合、普通の女の子相手でも、堂々と隣に座りそうな気がする。

 

「急に倒れるからびっくりしたぞ。大丈夫か? なんなら家の方に連絡するけど?」

 

 こっちが変な事を考えていたのに、翔吾のやつは親身になって僕の身体を心配してくれていたようだった。少し恥ずかしくなった。

 

「翔吾、おまえいい奴だな」

 

 意識せずに勝手に口をついて出てしまった。

 

「なんだよ急に?」

 

 翔吾は、キョトンとした顔で僕を見つめた。

 やめろ。こんなすぐ近くで僕の顔を凝視するな。

 また変な気分になっちゃうじゃないか。

 

「別に。ただ、そう思っただけ。なんか助けてもらったみたいだから。ありがとう」

 

 そんなつもりはないのに、なんかそっけない感じになって言ってしまった。

 それに顔を見つめられるのに耐えかねて、顔も背けてしまった。

 

 しばらく沈黙が続く。

 なんとも気まずい。

 僕が勝手に来て、勝手に倒れて、介抱されたのになんか愛想無くて。

 あまりに自分がダメダメ過ぎて、なんて言っていいのかわからなくなっている。

 

 翔吾の奴は何も言わずにじっと待っている。いや、何を言うべきか考えているのだろう。

 どうすれば僕が落ち着くかとか、どうすれば話してくれるかとか思案しているはずだ。

 僕の態度を責めようといった雰囲気は微塵もない。

 

 ならば僕は、せめて、自分から何かを話すべきなんだろうと思った。

 とはいえ何を話していいか解らず、つい思った事を口に出した。

 

「なあ、僕が、綺麗な身体だったら、翔吾はその気になったりしてたかな?」

 

 言った後で、僕は自分が何を言ったのか理解した。

 自分でもそのときまで理解してなかったのだ。

 

 元男だからという理由で、僕は翔吾との関係を、男と女の関係にするつもりはないと思っていた。

 でもそれだけじゃなかったんだ。何処かで、自分は他の男たちに穢されたという思いがあったのだ。

 だからそんな僕を抱いて欲しいなんて言えなかった。

 

 いや違うな。これは、女の嫌らしいところだ。

 そんな風に言う事で、翔吾が断りにくくしているのだ。

 そんな事無い。今のお前でもその気になる。そう言わせようとしたんだ。

 

「えっと、翔吾。ごめん。今のは、その、ちがくて、無し。無しな」

 

 慌てて立ち上がり、翔吾に向けて両手を突き出して距離を取る。

 翔吾の顔は、恥ずかしくて見れなかった。あいつは、いったいどんな顔をしているだろうか。

 

「なんか、ごめん。って、謝ってばっかだな、僕。なんかさ、最近おかしいんだ。まだこの身体に馴染んでないのか、なんか情緒不安定っていうか」

 

 ああ、どうしよう。話せば話すほど、全身が熱くなってくる。翔吾の男の身体を僕の女の身体が欲しがっているのを感じる。その身体の熱に僕のこころが負けそうになってくる。

 このまま翔吾に抱かれる事で、身体のもやもやしたものを解消したい。

 それに頭が支配されそうになる。

 

 静かにそっと、僕の身体を翔吾が包み込んで来た。

 僕の身体がビクンと震える。

 それは驚きか、または喜びなのか、判別できなかった。

 

「だめだって、翔吾。彼女いるんだし」

 

 本気で拒絶しようとしたのに、出た言葉はむしろ誘うような声音になる。

 僕の意志を無視して身体がどんどん先へ進もうとしているようだ。

 そしてそれを押し留めようとする意志は次第に失われていった。

 

 唇に熱いものが当たる。

 すぐにそれは翔吾の唇だと理解する。

 

 とうとう僕は翔吾とキスをしてしまったのだ。

 彼女いるの仕方のない奴だな、翔吾は。

 そんな事を考えて自分自身をごまかそうとするが、キスを受け入れたと感じ取った翔吾は、さらに激しく舌を使って唇の中に侵入してきた。

 想定外だったのでびくりして思わず振り払おうとした。

 けれども、翔吾の身体は、びくともしなかった。

 僕が力いっぱい引き剥がそうとしたのに、ぴくりとも動かす事が出来なかった。

 こいつこんなに強かったのかと思ったが、よく考えると僕の力が弱くなったからだ。

 女の身体ってこんなに力ないんだなと、改めて感じた。

 

 僕の抵抗は、返って翔吾を興奮させてしまったようだった。

 翔吾はそのまま僕をベッドに押し倒した。

 

「ふぁぁん」

 

 我ながら、情けない声を上げる。

 翔吾は口づけを続けながら、制服の上から僕の胸を弄ってくる。

 

 僕はどうしていいかわからなくっていた。

 翔吾に抱かれたいのか? このまま進んでしまっていいのか? 翔吾の彼女はどうする?

 様々な考えが洪水のように訪れるが、翔吾に弄られる僕の身体の快感が僕の思考を遮り、何も考えられなくなる。

 

 自分の舌を翔吾の舌に絡め、腕を翔吾の背中に回す。

 僕はもう翔吾が欲しくなっていた。

 

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