お昼休みになった。
男だった頃は、小学校からの友人、葛城翔吾と他女子2名(井上民と上田景の4人で机を合わせて弁当を食べていた。席が近かっただけが理由だが、それが4月以降も続いていたのだ。僕が休学する前の事である。
「お昼一緒に食べよ」
梅津さんからの誘いがあったときに正直迷った。このまま梅津さんと一緒に他の女子に混じって机を囲んでいる方が楽だと感じたからだ。でも、いままで一緒に食べていた仲間に何も言わずに、梅津さんたちのグループに入るのは躊躇われた。とはいえ、女の子になった僕を前の仲間が受け入れるかどうかわからなかった。そもそも僕が休学した結果、残りの3人がそのまま一緒に居るかどうかもわからなかった。それは、翔吾に何の連絡もしなかったからだ。あいつからの連絡はあったが、一度事情が話せないこと、いろいろ落ち着いたら話すとスマホにメッセージを送ったまま放置していた。実際、今日の登校の事も黙っていた。話していろいろと噂になっても面倒だったからだ。あいつは、僕の事を面白おかしく吹聴するような奴ではない。それは解っているが、どんな形にせよクラスに伝わるのが怖かったのだ。
いや、違う。あいつにさえ、僕は女の子になった事を伝えるのが怖かったのだ。一体どんな反応をされるのか、予想が付かなかったし、今まで通りという訳にはいかないだろうし。変に気を使われるのも辛かったし、恥ずかしかったのだ。本当は、誰も僕を知らない学校へ転校したかった。流石に両親に迷惑を掛けるし、そんな事は出来なかった。学校を辞めて引き篭もりたかったが、母親がそれを許さなかった。
翔吾と女の子2人のグループが解散していればそのまま何事も無かった事に出来るかもと思って期待していたが、休学の前と同様に席が変わっていても机を合わせて3人で固まっていた。
「梅津さん、ごめん、ちょっとあっちで食べてくる。あ、あの、前からあっちのグループで食べてたから」
翔吾たちに断られたらどうしようという気持ちはあったが、くどくどと梅津さんに状況を説明するのも面倒だったので、そう言った。
梅津さんは何とも言えない不安そうな表情を浮かべていたが、「そう」とだけ言って、自分たちのグループの中に入っていった。
その姿を見届けて、僕は意を決して翔吾たちのところへと向かった。
「あ、翔吾、その、今まで黙っててごめん」
「ん? ああ」
翔吾は、特に何とも無いような、感情の見えない反応をした。
「井上さんも、上田さんもなんかごめんね」
「いえ、別に私たちは」
「あ、うんうん。本当にびっくりしたよ」
井上さんは翔吾と同じ様な、何とも無い反応をし、上田さんは僕に気を使った様子の明るい感じで応対してきた。彼女たちとは体育でも一緒だったけど、僕の方から接触を避けてしまっていたし、彼女たちもそれを察してか近づこうとはしなかった。
「僕が休学中もそのまま一緒に食べてたんだ」
「そうよ。安城くんが帰ってくるのを待ってたんだからねー。さあさあ、座って」
上田さんが僕の躊躇いを察して、座って一緒に食べるように促してくれた。
しかし、翔吾と井上さんの反応は硬かった。
「ねえねえ、安城くん、性転換手術じゃないってどういう事? どうやって女の子になったの?」
上田さんが気遣ってか、僕にどんどん話題を振ってきた。上田さんと僕の間にはお昼を一緒に食べるぐらいの接点しかない。だから共通するような話題とかも特にはない。なのでどうしても話題は、僕のこの特殊な状況の事になる。
「え、あ、えっと、ね。なんか急に、いつの間にか女の子になってたんだよ」
「え? なにそれ? 徐々にとかじゃなくて?」
「そうそう。朝目が覚めたら今の身体に、女の子の身体に変わっていたんだ」
「ふえええ」
自分が女の子になりたかったという部分は隠しておいた。やっぱり人に知られると恥ずかしいと思ったからだ。
「お医者さんの言う事によると、子供も産める身体らしい」
「「「えええ?!」」」
それには三人とも驚いていた。やはり、性転換手術というイメージがあって、実際に子供が産める身体だとは思われていなかったようだった。まあ、実際こんな事例は始めてだろうし、驚くよね。
「え? それじゃあどうするの? 将来結婚して子供産んだりするの?」
始めて井上さんが喰い付いて来た。
「や、そんなのわかんないよ。実際、身体は女だけど、別に男が好きって訳じゃないし」
「そうなんだ。翔吾とかどうなの? 仲いいじゃん」
「翔吾は彼女いるじゃんか」
そう、翔吾には中学時代から付き合っている彼女がいる。今は別の学校に行っているので離れ離れになっている。とはいえ、まだずっと継続している様子で、仲も良いようだった。
「そんなの関係ないじゃん。選ぶのは翔吾でしょ?」
「ん? 俺は別に彼女と別れる気はないぞ。ただし、お前を抱いていいなら抱くぞ」
なっ……こいつとんでもない事を言いやがる。元男の僕でもこいつは抱けるというのか? いや別に抱かれたい訳じゃない。そういう訳じゃないけど、何故か身体が熱くなって、顔も真っ赤になっているのが自分でも解った。顔だけじゃなく、その下腹部の方も何やら変に熱くなって反応し始めた。
「あれぇ、安城くんも満更じゃない感じぃ?」
井上さんが追い打ちを掛けてくる。
「ちょ、そんなんじゃないし! 突然だからびっくりしただけだし! しょ、、しょ、翔吾! お前、何言ってんだよ。彼女居るくせに! それに、僕がそんな、男に抱かれるとか無いわ!」
男に抱かれる。まったく想像していなかった。元男だと知って抱きたいと思う男は居ないだろう。いや、例え居たとしても少ないだろう。とはいえ、僕の事を知らない男から見れは、僕は普通に女の子だ。だから普通に抱きたいと思う男は居るかもしれない。自分で鏡を見ても、それなりに自分を可愛いと思う。顔が男のままでなくて本当に良かった。幸いにも、身体だけではなく顔も女らしく変化していたのだ。だから、翔吾が抱こうと思えば抱けない事はないのだろう。
それに翔吾は、女好きだ。その上、女にもモテる。今の彼女だって初めての彼女ではない。その前に付き合っていた女の子がいたし、それにエッチも経験済みだった。翔吾本人からその話を聞いて、羨ましくも思ったものだ。
僕の狼狽を見て、女子二人は良からぬ妄想を抱いたようだった。仲のよい男同士の片方が女性化してカップルになるような、ちょっとしたBLを思い描いているに違いない。まったく困ったものだ。BLと現実は違うんだ。
「いいか! そんな気は無いからな!」
恥ずかしさのあまり、食べかけの弁当の蓋を締め、急いで片付けて、席を立って逃げ出す。
教室を飛び出したは良いけど、行く宛は無かった。とにかく人気の無い場所をと屋上へ向かった。
屋上に出ると、狙い通り誰も居なかった。屋上は特に何も無い為、ここに来る生徒は少ない。周りの景色も周りを取り囲む林と、遠くに見える住宅街ぐらいしか見えない。
とにかく、その住宅街を無意味に見つめながら、気を鎮める。あのままあの場所に居続けたら、何を言われるか、そして僕が何を言い出すか怖かったから逃げたて来たのだ。
僕が男とエッチをする。
とてもじゃないが考えられない事だった。少なくとも、自分から求めてする事は断じてない。僕自身の思いとしては、はっきりとしている。しかし、しかしだ。僕の身体は反応してしまったのだ。
あのとき、翔吾とエッチをするという状態を想像したとき、僕の身体は、僕の女としての身体の部分は反応したのだ。下腹部が熱くなり、股間に違和感を覚えたのだ。まるでその想像によって秘部が嬲られたかのように感じてしまった。
今思い出しただけでも身体が反応してしまう。たぶんこれもまだ女の身体に慣れていないせいなんだと思った。女としての身体をまだ僕は僕自身で制御できていない。そう感じた。
心では男を求めていないが、身体は求めている。そんな表現が一番しっくり来る。
ぶんぶんと頭を振って雑念を払う。
流石にこんな事を梅津さんに相談なんか出来ないだろう。身体が勝手に反応してしまうんだけどどうしよう? とか聞けない。
徐々に慣らしていくしかないのだろう。さっきみたいなからかいは、たぶんこれからも沢山されるだろう。だからこそ、動じないように気持ちを整えておく必要がある。
大丈夫、大丈夫、受け流せ。まともに相手するな。ただ面白がって言ってるだけで、本気ではないんだから。翔吾だって、あれはいつものあいつの冗談だ。特に女の子に対していつも言っているような、ちょっとエッチな冗談なのだ。
よし、大丈夫。っと自分の心に言い聞かせて教室に戻ろうとしたとき、屋上に3人の男子生徒が入ってきた。
男のときなら、何も思わないところなんだけど、先程女である事を意識させられたせいで、ちょっとドキっとした。誰も居ない屋上に、女である僕が独りと、男が3人だけといった状況に、不安と恐怖を感じたのだ。まさか犯されたりするのだろうかと。
それは考え過ぎだ。そう自分に言い聞かせる。さっきの件でちょっとナイーブになっているせいだ。そうそうそんな性的な事件があってたまるか。いままでこの学校で聞いたことはない。ただ、事件はあって伝わっていない可能性もある。被害にあった女の子の立場を考えると、大々的に発表などしないだろう。
緊張のあまり、ドアへ向かう足取りが覚束なくなっていた。すぐに足がもつれそうになって上手く歩けない。走ろうして全然走れないという夢を見ることがあるが、まるでそんな感じだった。
「おや? もしかして勝巳か?」
通り過ぎようとしたときに、声が掛かった。びっくりして振り返ると、去年のクラスメイト、錦戸だった。
「女になったって噂聞いたけど、本当だったんだな。すげー」
そう言って近づいてきて、僕の身体を舐め回すように見てきた。
「え、あ、うん。もう噂になってるんだ。あはは。びっくりだねえ」
去年のクラスメイトとはいえ、錦戸とは特に仲が良いわけでもなく、お互いに名前と顔を知っているぐらいだ。話した事も、何かのきっかけで数回ぐらいだし、何を話したかも覚えていないぐらいの間柄だった。
適当にあしらって屋上を後にしようとしたら、腕を掴まれた。
思った以上に強い力で驚いた。身体が華奢な女になったせいかもしれない。そのまま振り解こうとするも、掴まれた腕は、ぴくりとも動かせなかった。
「まあ待てよ。ちょっともっとよく見せてくれよ。女の身体を間近で見たこと無いからさあ」
必死に腕を振り払おうと抵抗するが、そのせいで錦戸は僕を引き寄せる為に、より強い力で僕の腕を引っ張った。
どんっと錦戸の胸に身体がぶつかる。
「きゃ」
と、声が漏れる。
「可愛い声悲鳴上げんじゃん。すっかり女だねえ」
錦戸という男の身体に接触した事で、僕の身体は全身が熱くなってしまった。頭がパニックを起こして何も考えられなくなっていた。一刻も早く逃げないと、やられる。そう頭の中はそれでいっぱいだった。
でも声が出せなくなっていた。あまりの恐怖に声の出し方を忘れてしまったようだった。
「へえ、胸、けっこうあんじゃん」
そういって無遠慮に触ってきた。反射的に、その手を払い除ける。
するといつの間にか後ろに居た他の二人が、屈んで両サイドから僕のスカートを捲り上げた。
「ひゃあああ」
「ちゃんと女物のパンティー履いてるんだ」
やばい、これはやばい。こいつらやる気だ。そう感じた。逃げなきゃ。
ドアへ向かって走ろうとするが、すぐに後ろから掴まれる。
「ちょっと見るだけじゃんかよ。いいだろう」
「何にもよくない! 見るだけじゃ済まないだろう!」
錦戸は後ろから僕の身体を抱き抱えながら、胸を遠慮なく弄ってきた。その手を掴んで外そうとしたけど、全く動かせなかった。あまりに女の身体は非力だった。
そして片方の手でスカートをたくし上げて、ショーツの上から僕の股間を弄り始めた。乱暴な指に圧迫されて強く擦られる。感じるかどうか以前に恐怖と恥ずかしさが上回っていた。
「ちょっと、ほんとに、やめて、やめてえ」
ブラウスの上から胸を弄っていた手が、ブラウスのボタンを外して中に侵入してきた。肌に直接触れた指は、ブラジャーの中に進み乳首触れた。
声が勝手に漏れて、身体がびっくんっと跳ねた。その快感が股間の方まで連動して広がっていく。
「いい声出すじゃないか。いいねえ」
耳元で錦戸はそんな事をつぶやき、僕の乳首をこね回した。
「ひぃ、あ、や、やめ、て」
裏返りそうな声を上げて必死に懇願するが、錦戸が止まる様子はない。それどころかむしろ段々と大胆になってきた。
ショーツを這っていた指が、ショーツを捲り、恥丘を越えてクリトリスを直に触れ始めた。
「あっつ!っっぅ!」
腰が激しく反応して動く。それと同時に快感が頭の方まで一気に貫いてきた。
だめだ。このままでは犯される。どうしよう。
すごく怖くなった。元男であるが、やはり女としての初めては大事にしたいとこのときになって初めて思った。どうせするならちゃんとした状態でしたかったし、ちゃんとした相手としたかった。
ふと翔吾の顔が浮かんだ。
なんでここで翔吾を思い浮かべるんだよ。別にあいつとそんな関係になりたいなんて思ったことなんかないのに。
でもやるとしたら、あいつぐらいしか居ない。もし今、僕の身体の初めてを捧げるとしたらあいつぐらいなんだ。決して、錦戸の奴じゃない!
爪を立てて股間の手と胸を揉んでいる手を一気に引っ掻く。遠慮せず、手加減なしに深々と引っ掻いてやった。
不意を突かれた錦戸は、悲鳴を上げて一瞬怯み、手を離した。
その隙に乗じて、駆け出し、ドアの向こうへと走った。