錦戸に触られたせいで、どうも興奮が収まらない。
さっきトイレで自慰して逝ったけど、物足りないのだ。
これは本当に男とやるしかないのか? と、そんな考えが頭を一瞬過る。とはいえ男に抱かれるなんて正直ごめんである。さっきは想像して興奮はしてしまったが、僕の気持ちとしての性別はまだ男のままなのだ。だから、男に抱かれたいなんと思わない。ただ、男とやればこのもやもやしている興奮の収まりきらない感情が収まるのではないかと考えているだけである。心は求めていないのに、身体が勝手に欲しがっている。そんな感じなのだ。
このもやもやした気持ちを抑える為に、男とやるといっても誰でもいいという訳では無い。男に触られるのは気持ちが悪い。いかにこの収まらない感情を抑える為だといっても、我慢が出来るものではないのだ。
そうなるとやっぱり、翔吾って事になる。翔吾なら気心が知れているし、彼女持ちであるから後に引ずる事もないだろう。抱かれた後に、本気になられても困るからだ。僕は男と付き合うつもりは毛頭ないからだ。なので、抱かれて気持ちが収まった後は、関係が簡単に切れる方がいいのだ。付き纏われたり、男の方から後々求められたりすると面倒なのだ。
休学中に席替えがあって、翔吾とは離れてしまっていた。翔吾の事がさっきからずっと頭を過ぎって、後ろの席から翔吾を眺めてみている。翔吾を見つめながら、翔吾とするところを想像してみる。本当に翔吾なら受け入れられるかのシミュレーションだ。翔吾の手が僕の胸と秘部に触れるところを想像する。ゆっくりと翔吾の指が僕の身体を這って、大事な部分に近づいて来る。そう想像するだけで全身がぼおっと熱くなってきた。後ろから抱き締められ、優しく愛撫される。そして乳首に触れ、捏ねくり回される。
「ふぅ」
と、つい口から熱い吐息が漏れる。そっと自分の手をスカートの上から秘部へ這わせて、翔吾の指が触っている様に想像して、クリトリスをいじる。
「ああっ」
少し大きめの声が出てしまって直ぐに我に返る。
周囲を伺い、誰にも聞かれてないか確認する。
特に誰かが聞いてたような素振りはなかったので、安心した。
危ない危ない。授業中に何やっているんだ僕は。ほんとになんとかしないとおかしくなってしまいそうだ。もう教室内で想像するのは止めておこう。危険過ぎる。誰かに見られたら大変だ。
でもこれではっきりした事がある。
あいつになら、僕は抱かれても平気だということだ。いや、まあ、想像の上でであるが、少なくともやってみてもいいかも? と思わせた。僕の初めてを上げてもいいかなと。
それに、翔吾以外に抱かれても良さそうな男は居なかった。
とはいえ、女として男の翔吾に抱かれたいという意味ではない。これはあくまでも、誰かに抱かれるなら翔吾しか居ないという選択肢の問題だ。翔吾が好きという事じゃないし、もちろん付き合ったり、その先の事を想ったりはしていない。とにかくこのもやもやを解消したいというだけだ。
昼からの授業中、ずっとそんな事考えて翔吾を見続け居たら、なんか少し落ち着いてきた。
錦戸に触られたショックも、時間とともに薄れてきたのか、心に渦巻いていたもやもやした興奮も収まってきていた。
危ないところだった。さっきのタイミングで翔吾に迫られでもしていたら、迷わずOKしていただろう。錦戸のせいで変なスイッチが入ったものだと思う。初めて男に触られたせいで、身体も心も動揺したんだ。きっとそれで変な気を起こしていたに違いないのだ。
これからは注意しよう。うん。安易にその場その場での自分の感情に流されたりしないようにしなければ。
放課後になり、さらにもう一つの関門が待っていた。
それは、クラブ活動だった。
僕は、バドミントン部に所属しており、その部長であった。
ひとまず、顧問の先生に合ってこれからの事を話さなければならなかった。顧問の先生には、休学することしか伝えておらず、僕の身体の事は直接言っていない。とはいえたぶん教員の間で話は伝わっていることと思うし、そうであって欲しいと思った。イチから説明するのはすごくめんどくさいからだ。
顧問の石田先生に会いに、体育館の体育教官室へ向かう。
教官室のドアを開けて入る。
「失礼しまーす」
その声に、教官室に居る先生が一斉に振り向いた。
普通の事ではあるが、やはり見られるのはまあ恥ずかしかった。
石田先生の席に行き、先生に挨拶をすると、先生は最初戸惑っていたが、予め話を聞いていたようで、「ああ、そんなふうになったのか」と驚いて目を丸くしていた。
「あの、先生、見過ぎです」
石田先生は、全身を舐め回す様に見てきた。それはまるで視線が物理的に僕の身体を弄っている様に感じた。身体がそれに敏感に反応して震える。流石に堪えきれなくなったので両手で先生を制した。
「ああ、すまんすまん。ついな。びっくりしたもんで。その胸本物なのか?」
僕のブラウス越しに膨らんだ胸を指さして、そんな事まで遠慮なく言ってきた。
「先生。それセクハラですよ」
「あ、ああ、すまんすまん、悪気はない。その何だ。つまり本当に女の子になったって事でいいんだな?」
「はい。病院で調べてもらって、完全に女性の身体だそうです。子供も産めるみたいです」
「ほおお、それはびっくりだなあ」
女の身体になったせいで、どうも性的に見られている気がして何とも落ち着かない。
しかしよく考えてみたら、僕が男のときも、他の女子生徒を大概性的に見ていた気がするので、普通の事なのかも知れない。やっぱ胸とか膨らんでたら普通見るよね。可愛い顔してたら顔も見るし。普通の女子は、こんな感じの世界に生きているのかと感心した。そのうち僕も慣れていくのだろうか。慣れるなら早く慣れたいと思う。
「あ、それで先生、僕の扱いってどうなるんでしょう? えっとまず部長はそのままでしょうか?」
このバドミントン部は男女で別れておらず、男女で1つの部になっている。僕はその部長だった。
「部長はそのままでいいだろう。試合に関しては、女子の方に出る事になるかな」
「わかりました。あ、でも女子の方を取りまとめるのは、今まで通り潮見さんの方がいいと思います。僕がいきなり入って女子をまとめるのは無理ですし」
「そうだなぁ。そうするか」
女子の取りまとめとして潮見さんが今まで通りする事で納得してもらい、教官室を後にする。
そして更衣室に入った。体育の時間で一度ならず二度、女子更衣室に入ったので、気持ち的に抵抗なくすんなりと入れた。また体育の授業のときとは違い、僕の事を知っている人が少ないという面もあった。僕の事を女になった安城勝巳だと知っている人が居ない事が、僕に普通に女子として振る舞う事を可能にしていた。
とはいえ、着替え中の女子を近くで見るのはドキドキする。ただこれは男子として女子の着替えを覗いてドキドキする感覚とは異なっていた。これは、元男である僕が、女子の着替えを見ている事に対して、いやらしいと思われるのではないか。そして追い出されはしないかというドキドキだった。まあ多少、他の女子の胸の発育具合は気になったが。それも自分との比較との意味合いでだ。決して、変な意味ではない。女の子の身体になった事で、男性としての性欲は無くなってしまっていたのだ。
ふーっと深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、着替える。普通に着替え終えた事で、僕は傍目から見て完全に女子だと思われていると安心した。転校でもして、女子だと言い張っていれば、普通に女子として学校生活を送れていたに違いない。流石に両親に迷惑を掛けたくなかったので転校はお願いしなかった訳だが。
更衣室を出て、男子部員たちがたむろしているコートの脇へ向かう。嫌な事ではあるが、説明しなければいけない。僕が女になったという事を。
男子部員に近づくと尚更緊張してきた。
「よ、よぅ、安城だ」
実は女の子になって顔つきもかなり変わってしまっていて、僕だとわからくなっているので、自分から安城だと言わなければ誰にもわからないのだった。
声を掛けられた男子部員たちは、しばらく固まった後、「えええ!」っと皆騒ぎ始めた。
「お前、安城かよ? 女になったって聞いたけど、本当だったのかよ!」
「安城なのか? まじか? まじなのか?」
「え? 何? 安城、女になったの?」
「えええ? 安城先輩? まじ安城先輩なの?」
中には知らなかった奴もいたらしい。そりゃそうか。全校生徒に伝わっているわけはないか。
大騒ぎする男子部員たちを、両手で制しながら宥めるが、僕の横や後ろに回ってまじまじと眺める奴も出てきた。このままいかがわしい事をされる? そんな想像が頭を過ぎって、身体が熱くなる。実際にはこんな場所でそんな事、起きるはずがない。そう思ったが、少し興奮している自分を感じた。
「その胸本物? ちょっと触っていいか?」
そっと伸びてきた手を身体を反らして反射的に躱す。興奮しているとはいえ、胸を触らせる気はさらさらない。元男だと思って簡単に触れると思いやがって。
しかし、後ろに下がり過ぎて、後方から僕を眺めていた奴にぶつかる。
「ちょちょちょっ」
ぶつかった時に、後ろ居た奴が僕の腰を掴んでそのまま転倒した。そいつの身体の上に仰向けに転んでしまった。胴に手を回されていてがっしり掴まれているので、逃げることができない。上から男たちの無数の手が伸びてくる。やられる! 身の危険を感じて恐怖し、手足を縮めて胸と股間をガードする。
「やめて」
震える声が反射的に出た。身体の反応と共に、自分が女である事を実感してしまった。男に求められる僕の身体。男に嬲られる恐怖と快感。そしてその事に対する身体の反応。これら全てが、僕自身に対して、僕が女であると認識させていた。
「大丈夫かー」
そう言って男子部員の西野が強引に手を掴んでくる。この西野という男とは同学年で一年の頃から一緒にバドミントン部をやって来た奴だ。仲は悪くはないし、時々プライベートでも一緒に遊んでいる仲だった。そういった事もあって、気兼ねなく手を掴んで来たんだろう。その手は非常に大きく強く感じた。それはたぶん、僕自身が小さくなったせいだろう。そして手を掴んだ際、自分の手を僕の胸にわざわざ触れさせて、僕を起こしてくる。西野は、どさくさに紛れて胸を触ってきた。西野以外の他の男子もわざわざ僕の背中や腰に触り、その必要も無いのに僕が起きるのを手伝ってきた。
「ありがとう」
と、一応礼を言っておく事にする。こいつらなんだかんだ言って、僕の身体に触りたいだけだ。でもここで糾弾して、さらに変な気になられたら困るし、これ以上、他の周りの男子を刺激するのが怖かった。さっき手を掴まれた時に感じた。力ではまったくこいつらに敵わないのだと。抵抗したところで、僕なんかあっさりと組み伏せられ、押し倒される。そう思うと、情けない話しだけど、こいつらの機嫌を取るしかなかった。
僕の周りを男子部員が取り囲んでいる。その状況に僕の身体がまた熱くなった。何も起きるはずがない。そう思いながら、何か起きるかもという不安もあった。周りの男子は、触りたそうにしながら機会を伺っているように見えた。
「えっと、とりあえず報告はOKね。石田先生曰く、部長は僕のままで行くらしいので、今まで通りでよろしく」
変な雰囲気を解消しようと話を逸らす。まあ、そもそもその報告の為に近づいたわけなんだが。
「そして女子は」
女子の事を話そうと思って女子が居ない事に気づいた。女子は少し離れたところに集団で固まっていた。これ幸いと、固まっている女子部員に声を掛ける。体よく男子の包囲網を突破して、女子たちの方へ向かう。危ないところだった。あのままだとほんとに何されたかわからないところだった。
女子部員たちの側に行き、僕が安城だと言うと、男子部員と同じ様に各々驚きや叫び声を上げて反応した。そしてさすが女子だ。同性故に遠慮なく身体に触ってきた。
とりあえず大人しく触られる事にする。何故なら、僕の身体が女子である事を納得してもらった方が彼女たちの警戒が解けると思ったからだ。それにさっきは更衣室で一緒に居ても気づかれなかったが、もうバレているので次からは警戒されないようにする必要があった。
だが、女子とはいえ、体中を弄らえるのは気持ちのいいものではない。いやある意味気持ちはいいのだけど、そういう事ではない。そのなんていうか、居心地のいいものではない。
「へえ、髪さらさら」
「むぅ、肌綺麗」
「胸ちゃんとあるね」
「わー、わりとおっきい」
などなど、髪や二の腕、胸などを触りながら感想を言ってくる。
切りがないので、言うべきことを言う事にした。潮見さんの姿を見て、彼女に呼びかける。そして皆が聞こえるように伝える。
「えっと、部長は僕のままだけど、女子のまとめ役は、潮見さんに今まで通りお願いします。僕は、男女合わせた統括の部長って事で」
潮見さんは、さほど興味を示さずに、当然そうだろうといった感じで頷いた。何やら値踏みするような目つきで此方を見ていたのは気になったが。
潮見さんとは仲が良いわけでも、悪い訳でもない。女子側の代表という事で、一緒に会議や試合のあれこれを取りまとめていたので、何度か会話はした事がある。まあ普通に話ができる相手であった。
「そろそろ始めない? もう時間過ぎてるよ」
潮見さんは不機嫌そうに部活の開始を促した。
体育館に添えつけられている時計を見ると、10分ほど開始時間が過ぎていた。
「それじゃ、始めますか。よーし全員集合ぅ! 準備体操するから円になってー」
集合を掛けると、部員たちがどよめいた。たぶん、僕の声が女の声だったからだろう。こんな形で注目されると恥ずかしくて死んでしまいたくなる。まあ、しばらくは仕方がない。みんなが慣れるまでの辛抱だ。
バドミントンは1年のときからやっているので慣れている。慣れているが故に、違和感が顕著に出る。体育の授業でも感じていた、自分の思っている身体の動きと現実の身体の動きのギャップである。僕は、男子部員の中で1、2番を争う実力だったけど、今は女子部員の中でも、三番目以降ぐらいの実力しか出せなかった。
そしてそれはただ単に身体のギャップだけが原因ではなかった。バドミントンは激しく動く。そう、動く度に胸も大きく揺れた。Cカップとはいえ、揺れると邪魔になる。ブラで抑えているとはいえ、揺れるものは揺れるのだ。さらには揺れる事が身体の動きの邪魔だけでなく、コートの外で見ている男子部員の視線を集める事が気になって集中できなかったのだ。揺れを感じる度に、見られているかとチラチラと男子部員の方を見てしまう。それでは集中など出来るはずはなかった。
こればっかりは仕方がない。実は男だったとき、コートの中で胸を揺らしながら動いている女子部員を熱い目で見つめていたからだ。自分が見つめられる側になるとは思っていなかった。女子は、こういうのに慣れているんだろうか。見られている事に気づいていないはずはない。やっぱりこれは僕の女としての経験不足のせいなのだろう。
そしてさらに汗でびっしょりと濡れた体操着の上は、薄っすらと白いブラが透けて見えていた。見られていると思うと、やはり恥ずかしい。それが更に気になってまともに動けなかった。まあこれも文句は言えない。これも男だったときの僕は、女子のそういう姿を見て喜んでいたのだから。
元男だから尚更解ってしまう。女の子の胸や股間、脚の付け根とかそういった女性をアピールするような部分は、どうしても男の目を引くものだという事を。
それはそれとして、正直、女子部員の間では負けないと思っていただけにショックだった。感覚を取り戻したら何とかなることを期待しつつ、今はこの屈辱に耐えよう。それに休学していた一ヶ月の間、運動らしい運動はまったくしていなかったので、身体も相当に鈍っていたのだ。しばらく練習やトレーニングを繰り返せば、ある程度実力は戻るのではないか? そう期待する事にした。
トレーニングメニューをリハビリ用に減らせばよかったんだけど、何となく言い出せなくて、通常メニューで一緒にやった為、身体が悲鳴を上げていた。皆が平気でやっているところを独りフラフラでやっているのは何とも情けなかった。
部活の時間が終わり、ふらふらになりながら更衣室で着替える。女子部員と一緒に入るのは一瞬戸惑いを感じたが、とはいえ皆が終わるまで待っていたらいつになるかもわからないし、毎日そんな事をしている訳にもいかないので、怒られたらその時だという気持ちで、堂々と入る。
とりあえず女子部員たちを刺激しないようになるべく離れた場所に移動して、そこで着替えを始めた。ひそひそと話している声が、僕の事を言っている様に感じて凄く居心地が悪かった。今の僕に出来る事は、出来るだけ早く着替えを済ませて出ていく事だった。
慌ただしく着替えを済ませ、脱いだ体操着を体操着入れに突っ込んで更衣室を急いで出る。
帰ろう。気分を切り替えて自転車置場へと向かう。
男の時ならば、他の男子部員と一緒に話しながら更衣室で着替え、そして一緒に帰っていた。でも、女になった今は僕は独りだった。
それもそうだ。女になった今では、男子と仲良くすると何されるかわからない。変に親密度を上げるとあわよくばエッチな事が出来るかも? とそう考えていたりするはずだ。僕ならそう考える。一般的な男子の考えかどうかわからないけど、たぶんほとんどがそうだろう。そして、そんな気が僕には毛頭ないのだから、男子と仲良くなるべきではない。とはいえ、じゃあ女子と仲良く出来るかといえば、女子にとって僕は元男子だ。僕がいかがわしい事を考えているかも知れないと警戒するに違いない。そう思うと、仲良くなれる気がしなかった。
その結果として、独りにならざるを得ないのだ。