※この作品はR-18です。

輪廻   作:洗濯屋チャコちゃん

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久しぶりの投稿となります。



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 その女は鎧をまとった2人の女護衛と共に、リアザの街で一番高い物見塔の螺旋階段を登っていた。

 

 その足取りはとても重い。急な階段を1歩あがるごとに、ぜえ、ぜえと荒い息もついた。階段を踏み込むたびに耳障りな足音が鳴った。

 

 そして顔から身体まで汗だくだ。海に面して蒸し暑いリアザの湿った空気がそうせるのか。はたまた、醜く膨れ上がってしまった己の身体のせいなのか。

 

「大丈夫ですか、元帥様」

「一度、休まれたほうがよろしいのでは?」

 

 護衛たちの声は彼女を慮って優しい響きをしていたが、その女は決して醜くない顔をゆがめてこう吐き捨てた。

 

「ステファニー、ドローネ。余計なことを言わないで!」

 

 女は手の甲で、異様に膨れている首筋にたまった汗をぬぐった。

 

「ここまで上がって来たのだから、てっぺんまで登りきるわ」

 

 そうする理由があった。将たるもの地形を熟知し、戦いを有利に進めなければならないからだ。この街にたどり着いてから、彼女は馬車を駆ってリアザの街とその周辺をくまなく回っていた。

 

 女は額に汗を垂らしながら1歩、1歩上がっていく。そうしてとうとう登りきると、リアザの街を一望し深いため息をついた。

 

「御覧なさい! 海も地平も隅々まで見えるわ!」

 

 この街の南に広がる大湿地帯も肉眼でうかがえる。もっと空気が澄んでいたら、その先の草原地帯も拝めるだろう。骨まで冷やす風が吹き、服で遮っても肌を焼き殺す赤光が照らすという魔境だと聞いている。

 

 女は肉がたっぷりとついた顎をたわませながら笑った。2人の護衛は首を傾げた。

 

「今回だけですよ。あまり無理をなさらないでくださいませ」

「そうですわ。まだヴァーリンデンの奴めに受けた傷が、治っておられぬと医師から聞いておりますよ、アルルーマ殿下?」

 

 太った女は忌々し気に2人を睨みつけた。まだ傷が癒えていないのは確かだ。服で隠れていたが、彼女の右肩から左の腰まで、深く焼き切った様な古傷が今も残っていた。

 

 傷をつけたのは聖者大公・ヴァーリンデンである。彼が持つ武器の1つ、炎の聖剣『燦然たる太陽の光刃《トウ=ヌル=ソル》』によって受けたものだった。

 

 あれを食らった時、彼女の自慢だった胸部の豊満は惨たらしく焼け焦げた。治癒魔法が間に合わず、結局は右の乳房を手術で切除せねばならなかった。左の胸もケロイドが残っていた。

 

「……私の前でその名前を二度と出すな」

 

 決して醜くない、いや、肥えて肉をつけてしまってもかつての麗しさが伺える美しい顔は、怒りに染まっていた。

 

「このルデア攻略と南大陸進出で、ダイスダックとザールバックをしのぐ戦功をあげてみせる。そして、魔光王様に褒めていただくの」

 

 かしこまる女護衛2人に、彼女は喝を入れた。

 

「あなた達、これからが正念場よ。寝ている時も常に戦場であることを心がけなさい!!」

 

 この太った女こそ、ベイオルブ王国の覇軍を率いる三元帥の内一人、アルルーマ=ルグリアその人である。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 アルルーマ=ルグリア。

 

 ベイオルブ王国の大貴族であるルグリア家の令嬢であり、王国軍の要たる『三元帥』の1人だ。

 

 まだ30手前の歳だが作戦遂行能力は王国一。魔光王の信任厚く、全海軍のうち四つの艦隊の権を任されていた。

 

 それから他大陸の上陸作戦に必ず彼女の姿があった。胸元豊かな美麗なる大元帥。だがそれはヴァーリンデンと戦う前までの話だ。彼に痛恨の一撃を喰らわされた後は、長く療養生活を続けていた。

 

 その治療の過程で彼女は急激に太ってしまった。かつての倍以上膨れ上がってしまった。早く傷が治るようにと無理にたくさん食べていたのと、治療に使っていた薬が身体の代謝に悪い影響を及ぼしたからだ。

 

 そして身体を動かすと傷が痛む為、ついつい鍛錬もおろそかになぅた。鎧を身にまとい、武器をとって振るうことはままならなかった。

 

 今でも戦場では具足をまとわず、貴族のドレスを身にまとっていた。そもそもが骨が細く、筋肉もあまりついていなかった身体だ。

 

 ただ彼女は、剣を持って振るうよりも、魔法を駆使するほうが得意だった。本職の魔道使い程ではないが才はあった。複数の敵を包み焼く炎の魔法を扱える程だった。

 

 塔から降りた後、アルルーマは待たせていた将軍たちに尋ねた。敵軍はまだ索敵魔法に引っかからないのか。把握できた軍勢はいかほどか。

 

「おおよそ5000以上は集まっているようです」

「先発隊が制圧した南の河川地帯の村々を次々と奪っておりますが、まだルデアにたどり着くことは無い様子」

「……『術法』の使い手は、いかほどか?」

 

 アルルーマが問うと諸将は一斉に目を伏せて口をつぐんだ。どれだけの数が集まったか把握できていなかったからだ。

 

 術法の使い手はその軍勢にいるとは推測できている。何せ諜報がデュライ家ほか、幾多の術法使いが住む町や村からそれらしい使い手が加わったのかを調べさせたからだ。

 

 だが、正確な数と加わった者の実力まではわからなかった。何せその諜報たちは皆、たかだか2か月か3か月前に南の大陸に入った者ばかりだったからだ。

 

 この数年、くまなく調べたり破壊工作で暗躍した者たちは殆ど、アルルーマの手からは離れていた。

 

「どうやらあなた達の偵察は皆、魔力探知が苦手だったようね。この作戦で遠くへ飛ばせる魔道士を100人ぐらい集められれば良かったのに……」

 

 アルルーマは手に持った鞭で足元の小石をはじいた。ザルモールめ、と吐き捨てる。

 

 アルルーマ配下の魔道士団は大いに数を減らしていた。ヴァーリンデンとの戦いと南の勇者・バーフレアとの戦いで数多く討たれたのもあったが、もう1つの原因はザルモール=ルシアーダのせいだった。

 

 あの老人は次々とメテオティック=ブレイブの血を引く娘たちを拉致し、その血と交わる子を求む魔光王に献上することで寵愛を得た。

 

 各軍団から有能な魔道士たちを己の元に集めだし、王都に自分だけの軍団を作ろうとしている。都の郊外南北に魔法要塞なるものを建設し始め、権勢を取りつつあった。もう一人の元帥と諸将から呼ばれるようになっていた。

 

 ザルモールは、アルルーマのかつての部下だ。このいきなりの、軍功とは違う功績が戦場を巡る彼女の気分を害した。何よりも女を献上して出世したのが気に食わなかった。

 

(王国を鎮護するダイスダックがバーフレアと空賊にかかり切りなのをいいことに、ザルモールのやつは好き勝手してばかりいる。私の傷が完全に癒えたら、南の大陸を制圧する前にあの老いぼれを魔光王様のおひざ元から排せねば……。)

 

 こひゅう、こひゅうと息をしながらアルルーマは闘志を燃やす。瞳が光りその意気込みをまずはルデア奪還軍に向けようと思った時、急ぎの伝令がその場に飛び込んで来た。

 

「ご報告! 南に敷いておりました第一の防塁にて、お味方が交戦中!」

「なんですって!! 索敵は?!」

「いきなりです! どうやら叢をばれぬようにかき分け、我らの目をごまかしてすぐ側まで近づいていた模様!!」

 

 アルルーマは怒号を放った。蹴散らして追い返せ。はっ、と答えて伝令はすぐさま去って行った。

 

 声を荒げ、ぜえぜえと息をするアルルーマは、女護衛が持ってきた杯を手に取り、一息に飲み干した。太った顔がますます汗だくになると、間が抜けた顔で自分を見る将軍たちを睨みつけた。

 

「ぼやっと突っ立ったままなの? 持ち場につきなさい?」

「……いや、それが」

 

 その武将は、先ほどの斥候の顔立ちが気になったと告げた。

 

「あまり見ぬ顔だちだと思いまして……」

「どこでそう思った? 目鼻たちの良い、凛々しい若者とは思ったわ」

「顔がやけに黒く、中つ国の者とは思えぬ顔立ちでしたので……」

 

 アルルーマは首を傾げた。肌黒く彫りの深い顔立ちなら、南大陸と船を交わす港町によくある顔だ。ルグリア家はそうした港もいくつか領していた。

 

「杞憂に過ぎないわね。さあ、持ち場に戻りなさい」

 

 彼女が諸将らにもう一度呼びかけた時、その斥候は馬に乗って、一団から離れた坂道を駆け下りていた。

 

(あのデブ女がこの軍の総大将……顔は覚えた。)

 

 奇襲を告げ、にやりと笑ったその斥候はデリタだった。




今後は1年以上更新を止めない様にがんばります。
1か月に1回ぐらいの投稿になるかもしれませんが。。。
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