ガルテナーハの屋敷へと戻る道、太った脚でよちよちと歩き、ぜえぜえと荒く息をするアルルーマの顔は真っ青だった。
デリタに追い込まれたからではない。尻に負った傷も、ドローネの応急手当で深手に至っていなかった。
(こんなことに、こんなんことになるなんて……。)
顔面蒼白の様相を呈した理由は、己のふがいなさと油断と慢心のせいだ。奇襲に2度も遭った。こんな失態は三元帥でも自分だけだろう。誇りが汚された。栄光あるベイオルブの王国の名も。
だが、と彼女は考える。守りは万全だったはずのに。なぜすり抜けられたのだ?
(あの南大陸人、何者なのだ?)
随分若いと見えた。顔つきから少年だと見えた。ステファニーを一撃で葬ったのはあの若者の術法だろう。
だが、自分に襲い掛かる時の表情は、悪鬼そのものだった。濃厚な死の匂いと殺気とが漂っていた。まるで、100人以上の敵の首を挙げ、その怨霊たちにまとわりつかれる狂戦士の様だった。
(あの感じ、ザールバックによく似ていた。あれほどの凶風を吹かせる若者が、この大陸にいたのか!)
恐ろしい。だが、魔光王様であればきっと喜ぶかもしれない。あの御仁は光でも闇でも、強き者を称賛し、侍らせたがるからだ。
恐怖をこらえ、アルルーマは考えを巡らせる。戦意はまだ地の底に落ちてはいない。要塞と化したゼム=ガルテナーハの屋敷に戻り、返り討ちにする為の一計を案じよう。勢いは向こうが上だが、兵力は依然としてベイオルブ軍の方が上だ。
巻き返さねば。早く傷を癒して指揮を執らねば。アルルーマは焦った。その心理が喉から出る声となった。
「港にいる兵は何をやっている! 早く魔光王様に仇を為す輩どもを討ち果たせ!」
アルルーマは喘ぎながら何度も何度も同じことを叫ぶ。ドローネがたしなめた。
「みっともない真似です。おやめください」
けれどもアルルーマはやめなかった。諸将らは何をやっている。早く倒せ。私が綿密に計算して陸に揚げた武器や食料はふんだんにあるのだぞ。輜重は万全、ルデアは策源地として準備が整っているはずだ。なぜ戦いに専念しない?
アルルーマが歩きながらわめいているところに港からの早馬がやって来た。ご注進です。海側から、敵。
「そんな馬鹿な!」
「空賊どもです! 既に港は停泊する船を焼かれ、いたるところで大混戦となっております!」
挟み撃ちの恰好となってしまった。アルルーマはこれから先の備えを頭に思い浮かべた。ガルテナーハの館を中心に防御陣を布くべきか。いや、どちらかに兵を集中して痛撃を与えるべきか。
いや、彼女には考える時間を残されていなかった。
港の防衛網を突破し、市内のこのど真ん中にまで突破した空賊の一団が、アルルーマの姿を見つけ、矢を放ったのだ。
「敵襲ウゥーッ!!」
声を張って叫んだ兵士の口に、深々と矢が刺さった。アルルーマは臨戦態勢を取る。小さく呟くと頭上にいくつもの火球が生じた。
「焼き払え!」
火球は飛ばず、紅い球体から空賊たちの乗り物に目掛けて火の矢が針の様に放たれてぶつかるとそこから火の手があがった。空賊たちは泣き叫び、呪いの言葉を放ちながら次々と落ちていく。
アルルーマはしてやったり、という顔をしていた。これが彼女の得意魔法だった。これと同じ術を、反乱者たちに放つつもりだった。
だが、その得意な顔もすぐに凍り付いた。いつの間にか、この場に居て欲しくない男がいた。
鎧に身をまとった口ひげを蓄えた男だ。歳は30になるかならないかの若々しい顔立ちで、褐色の肌。
「お、お前は……!」
その男は幅広い漆黒の剣を手にしていた。刀身の真ん中には5つの目がついていて、そのうちの3つが見開いて、黒い瞳をアルルーマに向けていた。
「それが噂の『
男はゆっくりとうなずいた。この男こそが南の勇者、暗黒の剣に認められた男、バーフレアだ。
その口ひげがゆっくりと動きだした。
「この剣が起こす死神の風、耐えきれるか、アルルーマ!」
バーフレアは剣を振るった。黒い風が巻き起こり、それを浴びた者の目と口から血が流れ、それからばったりと斃れた。
アルルーマは茫然自失だった。自分の身体を支えてくれていたドローネの身体が崩れ落ちていた。彼女の顔から真っ赤な血が流れ、血だまりとなっていた。
「こ、これが、暗黒の剣の力なのか?」
「そうだ。だが、魔力の強い者は耐えられる。だからお前は生き残れた」
アルルーマは後ずさりながら詠唱する。炎の矢雨のを仕掛ける為に。対してバーフレアは、禍々しい漆黒の剣の先を彼女に向け、深く腰を落として身構えた。
「一撃で決める。死した後、惨たらしき
「死ぬのは貴様だッ、バーフレア!!」
バーフレアが動き、アルルーマの炎の矢が空を奔った。
だがその矢雨は何かにぶち当ったかのじょうに反れ、あらぬ方向に刺さって炎を起こした。
そして、『
□ □ □ □ □
自分の身体の上で、それは揺れていた。
真っ白い肌。揺らすたびに大きく弾む乳房。なびく長い髪は黒いが、蒼にも見える。
「ううう、ううううう!!」
それはさっきから呻いていた。口が利けなかったのは猿轡をかまされたからだ。目隠しもされていた。そのせいで整っていて愛嬌がある顔が隠されてしまっていた。それを外せば、丸顔だが愛くるしさでいっぱいの美人の顔がそこにあったはずだ。
しかし『彼』はそれを望まなかった。口を開けば痛罵を放ち、目は恨みと殺意が籠っているからだ。それを鑑賞しながら楽しむのが普段の行いだったが、この日はやけに疲れていたから、目を隠し言葉を出せぬようにした。
彼の男根は今、これの腹の奥に収められ、激しく行き来していた。腰の動きにあわせて動くベッドに寝転がり、天井からぶら下がっている鎖で身体を固定されたこれを楽しんでいた。
そしてこれの無毛の恥丘が覆っていた粘膜の洞は、まごうこと無き『名器』であった。児をひねり出すのでは無く、陰茎を甘く責め尽くし、精をどっぷりと吸い取る為に造られた天然のものだ。
しかしこれを若い娘、と言うには歳が若すぎた。まだ14になったばかりだった。しかし既に1人の子を産んでいる。彼との娘だ。そのふっくらとし、触れるとふんわりとして滑りが良さそうな腹の中には、新たな赤ん坊がはぐくまれ、眠りについていた。
「うううんんんっ!!」
それがまた激しく呻いた。彼のことを激しく嫌っていたが、その身体はあまりにも性の悦びに浸りやすかったからだ。例え底無しの憎悪を抱いても、性感の虜になる体質だった。
この娘の先祖が淫魔で、彼女がその因子を濃く継いでいたせいだ。
呻きたいのはこっちだ、と思いながら彼の奥で激しい衝撃が起こった。陰茎が我慢しきれずに精を放ったのだ。
(これで今夜は3度目だ……しかし、まだ陰茎が欲をかいているな?)
彼はその娘をまじまじと見る。細い身体だが、大きな乳房と尻。その臀部の触れ具合がたまらない。ひたすら触り続けたくなるような感触だった。
だが、首と胴体だけのいびつな身体だった。四肢欠損。両厳密に言えば腕は二の腕のあたりで、両脚は膝が無かった。腿のあたりで終わっていた。
そういう姿にした張本人は彼だった。さる国の王子だった彼は、自分と母国を古代王国の末裔の1人であるそれを危険視し、籠の鳥にして二度と祖先の無念を晴らさぬ様にせしめる為、そうしたのだ。
だが、この娘の身体にどっぷりと溺れこんでしまった。薄暗い影に潜む秘密の部下たちの慰みものとして使おうと思っていたのに、これの魅力にのめり込んでしまった。
「まったく……お前の様な『自慰道具』に、貴重な精力を浪費する俺に謝罪の言葉をかけてみろ、便所女が!」
そう叫んで硬く膨張したものを力強く突きあげた。
「ううう!」
猿轡から唾液がこぼれた。それが右の乳房にかかり乳首に伝った。性欲のにおいを漂わせた汚らしくぬめったものが、桜色のきれいな尖りから糸を引いて彼の腹に落ちていくと、怒りを覚えてその尻をひっぱたいた。
「ううっ!」
「よだれを垂らすな! 恐れ多くも王子なのだからな!」
「うううっ!」
彼はその身体にしがみつきながら上体をあげた。それから口ひげをよだれがついた右の乳首に寄せ、ふんわりとしたものを咥えて舌で転がしながら、それの股を打ちつけた。
中の吸引力が急に高まっていた。こらえきれず、またも射精すると彼は豊かで柔らかいものに頬を押し付けた。
「ねえ、デリタ?」
どうして、と思った。何故はっきりとした声で呼びかけられるのだ。しかも、現世の自分の名でだ。
気が付くとその豊かさはいくらか薄くなっていた。肌は浅黒く、それでいて乳房は年相応の少女のものだった。
「こっちを向いてよ、デリタ?」
抱きかかえる身体はさっきのよりも軽かった。細くきれいな腕と脚が指先まであった。
「ほら、おっぱいばかり見ないで。恥ずかしいからやめて。こっちを見てよ、顔だけ見て、デリタ?」
彼は見上げた。さっきの少女とはまるで違う顔だ。少し気が強そうだがもう少し幼く見え、それでいて、誰かを信じきっている朗らかでのびやかな表情がそこにあった。
「エムラお嬢様……」
記憶には無い、成長したエムラの顔がそこにあった。彼は抱きしめて、
「お嬢様。さあ、これから一緒に、みんなの元に帰りましょう」
エムラははにかみながら、少しだけうなずいた。
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