バーフレアの意思はどうも、無理矢理にでも連れて行くという様だった。彼との会談の後、部屋にガルテナーハの長達が入って来てデリタを説得し始めた。
「デリタ、これはいい機会だ。バーフレア殿と共に中つ国に上陸し、魔光王を倒す手助けをしてやってくれ」
「デュライの当主とお前の妻にも便りを書いて出したばかりだ。栄光ある南の勇者の配下として、英雄になる道を選んだと一言添えてやったよ」
余計な真似を、とデリタは思った。今すぐそっちに戻ってくると手紙を出して、ここからすぐに出て行きたい。
だが、ここでようやくデリタは合点がいった。何故自分を殴ったのか、矢張り上に立つのは誰かを示すためだったのだろう。自分を部下にし、実の子かもしれないという疑惑をちらつかせることで、つなぎとめようとしているのだ。
(バーフレア。やはり糞だったか。魔光王を殺したら死ねばいい。そんな男に自分の息子だと思われるのはもっと腹が立つ。俺にも父親を選ばせろ。だが、どうして俺のことを知った? ガルテナーハの連中は、俺が女目当てで街に潜入したと思っている奴ばかりだったぞ?)
そう思ったところにモーニがやって来た。裸の上半身に、シビラとは違う女の汗のにおいを漂わせていた。
「シビラが今晩抱かれたがっている。訪れるから受け入れてやれ」
「だからモーニは、別の女と寝たのですね?」
「街娘が抱かれたがっているんだよ。広場で暴れまわったお前なら尚更求めて来るだろう。この館を出たら最後、二度と
ルデアの街から出られないと思っておけ」
デリタは街娘たちと楽しむ気にはなれなかった。寝ている間に、溜めたものを全部オベリアに吸い出されたのもあった。
オベリアはもう嫌だ、と彼は思った。あの小娘は御免だ。とかく男らしさは何かと言ってやかましい。価値観を押し付ける女は嫌いだ。
だが、今夜の相手がシビラだったら構わない。精を放ちすぎてたるんでいる股間と同じように、この時の彼は倫理観も緩んでいた。戦場が気を引き締めていたのだ。
「シビラのことは構いません。来てから考えます。でもモーニ。どうして僕がああもバーフレア様に求められているのでしょう?」
「知らないのか? 空賊のカシャ家はもとはと言えば、中つ国を治めていた王国の末裔だったんだぞ?」
カシャ家。
あのカシャのことだったかとデリタはつぶやいた。
『メテオティック=ブレイブ』がまだ神話では無く現実だった古い時代の、『中つ国』を統べていた王家の名だ。
「オベリア様はカシャ家の末裔。そのカシャは姫の1人を『メテオティック=ブレイブ』の1人だったベイオルブに与えたという話は知っているか?」
「ええ、まあ。そのベイオルブが今のベイオルブの祖だった、ということでしたよね?」
そうだ、とモーニは答えた。
姫を得て外戚となったラムダ=ベイオルブは、今のアルケイディアのあたりに領地を得た。その20代後の子孫のオリナス=ベイオルブが国を簒奪し、カシャ家を大陸の極東に押し込めた。
そしてそのベイオルブの当代・魔光王は、世界征服の戦いをを宣言した。それにまず抗戦の構えを見せたのが、当のカシャ家だ。
かの一族は新しく発明された空を飛ぶ乗り物を用い、新たな道を切り開こうとしていた。その矢先にかつての外戚・ベイオルブ家が暴挙に出た。今から30年前の話だ。
カシャ家はその反抗の中心となる『空賊』を作り上げ、数は劣勢ながら粘り強くベイオルブ軍と戦いを繰り広げ続けたのだった。
「だからオベリア様と呼べ、とバーフレア様はおっしゃったのですね」
「ほう。お前は英雄とお姫様の両方と会ったのか? 羨ましいな。俺にも会ってくれるよう話をつけてくれよ?」
モーニは去って行った。デリタはシビラが迫りに来ると聞き英気を養う為に眠る事にした。知らぬうちにオベリアに吸い取られていたせいか、すぐに眠りについた。
気づくと、自分を呼ぶ声がしたので目を覚ました。空は夕闇の頃になっていた。デリタはテーブルの上に置いた水さしを口につけ、獣油のランプに火を灯した後、入ってと告げた。
「ちょうどお目覚めでしたか、デリタ?」
その声はシビラだった。扉が開くと紅く染めた薄い生地でできた、艶っぽい姿がデリタの目に映った。
「そういう恰好の君は、とっても珍しいね?」
「この館にあったものをお借りしました。ゼム様のご側室の持ち物だったようです」
シビラが近づいてきた。もう一度湯に入って来たのか、彼女の身体には清潔な香料のにおいが漂っていた。
「さあ、天幕での約束を果たしていただきますよ?」
「約束をした覚えは無いけれど……君がねだるなら仕方が無い。リアザには申し訳無いけどね」
「リアザ様は……きっとわかってくれるかと思います」
自分より背が高いシビラに抱き着かれ、デリタは彼女の身体が案外柔らかい事に気が付いた。それと大きな乳房だ。奥の方は硬かったが表面はふわりとしていた。
「さあ、思い残すこと無く悦びあいましょう……」
シビラはデリタをベッドに寝かしつけると、丁寧に服を剥がし始めた。素肌になるとまだ緩い、彼のそこに手を触れた。
「まだ、本気になられないのですか?」
「大丈夫だよ。くすぐられたらすぐに起き上がるよ?」
「では、高めて差し上げます……」
シビラの唇と舌が這いだした。慣れた愛で方にデリタは悩まされた。たちまち大きくなるとシビラがその上に乗りあがり、上に羽織った衣を脱いだ。紅い遮るものを失った乳房は、デリタのそれに血を集めさせた。
「さあ、いきますよ……?」
シビラと繋がった。半ば眠りながらのそれでは無く、意識がはっきりしている時でのぬめり具合と、締めぶりに、デリタは脳が焼けそうになった。
重い彼女に伸し掛かられながら彼は喜悦に溺れると、その最初の爆発が訪れた。
「……ごめん、散々オベリア様に吸い取られたはずなのに、早く出してしまった」
「男の子ですから、早いぐらいが良いのですよ?」
そう言ってシビラはデリタの身体にしがみついた。彼女の尻がうねるように動く。まだ残っているものを吸い出されながら、硬くなるように揉まれている様だった。
「……シビラ!」
デリタは彼女をきつく抱きしめた。寝転がり彼女の上になった。両脚を後ろに倒させて激しく突く。シビラの腰も動きなわせてうねった。
「デリタ、いいです。それでこそ、デュライの婿にふさわしい……!」
シビラが励ますとますます腰が狂った。溢れの快感が奔ったが、硬いままだった。シビラの皮膚と粘膜を擦りながら、振り動かし続けた。
終わった頃にはすっかりくたくただった。デリタはシビラの強い汗のにおいを嗅ぎながら、こんなに激しく求めたのは久しぶりだと思った。
「デリタ、これで約束は果たしましたね?」
「……うん。君とこんなことになるなんて、思ってもみなかったよ」
モーニがはまるのもよくわかる。彼女に言い寄る男達も。デリタはそう思いながらシビラの腕に頭を乗せると、彼女は彼の股間に触れた。
「まだ、し足りないようですね?」
「でもくたくただよ。シビラ、明日にしてくれないか?」
彼女はデリタの腕と頭からすり抜けると、再び彼の身体の上に乗りだした。
「思いは、明日に持ち越さずに今日できる限り解き放つのが良いのですよ?」
シビラが股を強く押し付けた。生暖かく濡れ切った、我慢できない快楽がまた始まった。
□ □ □ □ □
翌日にやっと館の外に出ることとなった。言い寄る女に思いを遂げさせてやろうかという魂胆もあったが、敗北したベイオルブ軍はどうなったのかをこの目で確かめたかったのだ。
シビラとアラズルムと一緒に回ろうとしたのだが。館の入り口でオベリアに出くわした。彼女はデリタの手を取った。
「ワタシも連れて行きなさいね?」
「君、お姫様なんだろ? だったら大人しく屋敷にいたほうがいい」
「いざとなったらワタシを守りなさい。それが男というものでしょ?」
オベリアはデリタにしがみついた。モーニがにやにやと笑うとシビラが彼の脇をひじで小突いた。見てはならぬものを見た、という顔をしていたアラズルムに、シビラはこうささやいた。
「デリタは女泣かせのものをぶら下げておいでですからね? それと、オベリア姫様は淫魔の血を継いでおいでですから」
「嫌だな。義弟のそういう話、あまり聞きたくなかったけどね」
でもアラズルムもこの戦勝で、やることをやっていた。デリタを批難できなかった。
街は戦勝に湧く住民たちがお祭りを催していた。食べ物の屋台が並び、ベイオルブの船に積まれていた食料が調理されて売られていた。
若い娘たちはデリタを見ると手を振った。彼の姿と名前は広場で囲まれた蜂起者たちによって伝えられ、すっかり知られていたのだ。
彼の腕にぶら下がっていたオベリアが、
「デリタ、これは命令よ! 滞在中はあの娘たちにアナタの子を与えなさい!」
「断らせてもらうよ。妻がいる身なんだ。そろそろ身を慎むよ」
「男らしくない! 強い男というのは、できるだけ多くの女に子を産ませるものなのよ、デリタ!!」」
(……聞いてられん。今の俺は下賤の身だぞ?)
血統を重んじる王族や貴族に言うなら理解できるが、庶民にまで求めるのは男らしさを求めてでは無く、乱世だからだとデリタは思った。
あろうことかオベリアは、娘たちを手招きし、逢引きの予約の受付をし始めた。
デリタの頬をつねりながら、この男は欲深い陰嚢を持っているくせに気障男の様に品良く気取っている。男の一番の悦びとは何なのか、アナタ達が身をもって示してやれとけしかけた。
(やれやれ……少し名が売れただけで種馬扱いか。)
結局明日と明後日の予定が決まってしまった。デリタに憧れる5人の娘に、猛者の私生児を産むという夢を見せなければならなくなった。
「だいぶ体が元気になったのに、また館に籠るなんて嫌だよ?」」
「だったら、彼女たちの家にお邪魔すればいいのよ。デリタは有名人よ。みんな歓迎してくれるわ?」
オベリアはまたデリタの腕に抱き着いた。彼女のぐいぐいと引き込んでくる態度と人懐っこさを思うと、なぜか懐かしく思えてしまった。
(エムラお嬢様も、こうだったな……。)
流石に腕を引っ張って抱き着いて来ることは無かったが、彼女も人と距離を取っていなかった。
「ところで、ベイオルブの捕虜たちは?」
にこにこしていたオベリアの顔が急に曇った。
「街の外よ。でも、行かない方がいいわ」
「でもどうなっているのかを見てみたいんだ。連れて行ってくれるかい?」
「どうしても?」
デリタはうなずいた。南の大陸の者たちは、捕らえた侵略者をどう扱うのだろう。
□ □ □ □ □
街の外では凄まじい流血沙汰が起こっていた。身に着けているものをすべて外され、裸にひん剥かれたベイオルブの兵士や戦士たちが縄で縛られて数珠繋ぎになり、処刑の時を待っていた・
その死を迎える場所では今も、外来種の滅殺が続いていた。
術法士たちの標的にされたり、生きた人間の肉を斬る経験を積むために若い兵士たちが槍で突きさしたり、段平で首を刎ねたりを続けていた。
ベイオルブ軍だが、女がいた。兵士や騎士もそうだが、衛生兵や看護士といった者たちはみんな女だ。皆がまだ若かった。これからたくさん子供が産めそうな歳の者ばかりだった。
ベイオルブ軍の女たちは、命だけは助けられた。だが、野原で遠慮なくさかった兵士たちに輪姦された。
わめいてたりしても誰も助けに来てはくれない。ただただ、男を喜ばすための穴を提供し、終わった後はすすり泣くだけだった。
それから心が折れ、抵抗する気になれなくなった者から戦利品として兵士たちに分け与えられた。見目の良い者は族長や隊長らのものとなった。彼女たちはこの先ずっとその生涯を終えるまで、異郷の地でルデアの街の女たちがやられたことをやり返されるのだ。
「これは、あんまりだ……」
敗北者たちへの執行の現場を見たデリタは、思わずため息をついた。だが、もし負ければ南の大陸の町や村で、ベイオルブ軍が人々に対してこのようなことをやっていたかもしれないのだ。あまり感傷的になれなかった・
屋敷に戻るとバーフレアが待っていた。幼い子を数名伴ってだ。子供たちは肌が黒かったり、金髪碧眼と様々だった。中には子守りの若い女に抱かれた赤ん坊もいた。
「全員が俺の子どもたちだ。ほら、みんな、挨拶しろ」
「バーフレア様。この子供たちをルデアに呼び寄せたのですか?」
「ガルテナーハに面倒を見てもらうつもりでな。俺もいつ死ぬかわからねえし」
空賊も同じ様に、小さい子供たちは中つ国から出て、親から離れて育てるのだという。東の大陸や北の大陸に、まだ幼い子供たちが集められている拠点があるそうだ。
「それほど『中つ国』の戦線は激しいのですか?」
「一時期はそうだった、という話だ。今は割と穏やかなほうではあるが、デリタ」
バーフレアは手を伸ばして言った。これから4日したら俺と共にここを出ろ。
「嫌だ、と言ったらどうなさいます?」
「お前は断れないだろう。何せ、俺の息子なのかもしれないんだからな?」
だから子供たちに挨拶をさせたのか。気が早い、とデリタは思った。
「信ぴょう性の無い話を持ち出すのはよしてください……でも」
気にかかることを晴らせるのなら、このまま進んでもいい。デリタはそう思って南の勇者に持ちかけた。
「エムラ=デュライが中つ国にいるのなら、その行方をご存じなら、僕は海を渡りますよ」
バーフレアはにやりと笑った。
「なら、お前は俺と一緒に行くしか選択肢は無いな?」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。