※この作品はR-18です。

輪廻   作:洗濯屋チャコちゃん

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 鍛錬は半年もすれば薪を叩き切るどころか、薄い鉄板に切り込みをいれるぐらいにまで進歩した。こうなれば術法もある程度まではこなせるだろう。パドナとリアザに磨丸の出し方を教えてもらうことにしよう。

 

 しかしすぐに無理だ。彼女達は父親と共に北西のほうに旅に出たからだ。遠くにあるオシタリアという国に、ベイオルブの協力者だという、魔物を連れた賊の集団が街を襲っていると聞いたから、そいつらを倒す助太刀に向かったのだ。

 

 それまでは当主の弟らとエムラと共にお留守番だった。彼等は自分達の仕事で手一杯らしく、なかなかデリタの教育をしてくれない。エムラははなから、才能が無いだろうとたかをくくっている。

 

(仕方が無いか。とりあえずは剣法も含めて自主勉強だな。)

 

 休憩時間、彼は棒切れを持って空き地に入った。棒を剣と思って構える。左手でだ。片手剣である。

 

 剣はこの世界の流派ではない。『前世』のものだ。身体は弱かったが一流の師匠が手取り足取り、みっちりと鍛え込んでくれた。それを今も覚えている。

 

 この世界の剣法はそれほど優れていそうにない。剣では家で一番才覚がある、当主の姪のシビラと、彼女と技を競っているパドナの稽古を見ても、心は動かされなかった。散々に斬りつける剣の舞いだった。まるでチャンバラだ。

 

(あれなら、隣の国の猪武者どものほうがまだ優れている、と言える出来だった。相手の態勢を崩して、急所を狙ってというわけではない。手早く切りつけてひるませる、という戦い方だ。)

 

 それを疑問に思って当主に尋ねると、この大陸では剣法はあまり発展していないそうだ。飛び道具がメインである。あと、デュライ家が術法の大家だから剣術をあまり重く見ていない。

 

(『魔法戦士』は魔法ばかりでなく、剣術も練るものだがな。)

 

 前世が恋しくなった。人々がではない。社会や文化の『層』をだ。あの魔法王国で修行をすれば、デュライの一家は大陸屈指の魔法戦士の一家となっただろう。残念でならなかった。凶猛な魔獣や悪辣な魔人も倒せる技量を得ただろう。

 

(とはいえ俺は、下等な淫魔ごときしか斬り殺せなかったがな。30年魔道を鍛え、剣を習ってもできたのはそれだけだ。本当にくだらん。自分自身というものがな。)

 

 ため息を付いた後、集中する。構えや振り方は体に染みついている。難敵を想像し絶対の窮地を想定しながら棒切れを振った。それから体力づくりのための素振りだ。

 

 しかし子供の身体だときついものがあった。棒切れが重いのだ。真剣の半分ぐらいの軽さのものを持ち出してみたが、振りがどうにも鈍く見えてしまう。

 

 しかもこれから発展していく身体と体力だ。これを繰り返して力を育てたい。今のところ想定以前のレベルだが、あの人生で習得したものはちゃんと、身にしみついてることはわかった。

 

(これが前世の記憶というものだな! やはり便利だ!)

 

 その鍛錬を1週間続け、2週間目からはもう少し重い練習用の小剣を振ることにした。シビラに話して興味をもってくれたのだ。しかも彼女が手ほどきをしたいと言ってきてくれた。

 

「……北方の構えに似ておりますね?」

 

 剣の構え方を見てシビラが言った。それではうちかかってきてください。才人と名高い彼女には手を抜かなかった。彼女も剣を持って舞う。

 

 敢闘はしたはずだ。けれども1本も得られなかった。生傷を負ってその場で倒れ込み、くやしがった。そのシビラは目を輝かせていた。

 

「……とんでもない才能をお持ちのようね。あなたは本当にあの集落の子だったの?」

「そうではありますけれど……前の人生の記憶があるのです。信じてくれないでしょうが」

 

 前世の記憶を持つ者。彼の前の生涯の世界では、『転生人』あるいは『転生者』と呼ばれた。この世界にもいるのだろうか。

 

「つまり……廻命者(かいめいしゃ)だったのですね。デリタさんは?」

 

 この世界ではその様に言い表すようだ。シビラは廻命者についての伝説を語った。

 

「この世界には太古、エイヌオと呼ばれる邪神が君臨していた、と言い伝えられております」

 

 エイヌオは世界に破滅への『秩序』を築き、生命の調和を乱す『混沌』を生み出し続け、あらゆる者すべてを完全なる『無』へ引きずり込む悪の神だった。

 

 それを倒すため、神は星の力を扱える88人の勇者『メティオック=ブレイブ』を選び戦わせたという。エイヌオと戦い、最後まで生き残った12名全員が廻命者だった。

 

「つまり、廻命者はそのような運命の元にあると言われているのです。デリタさまはメティオック=ブレイブの12人のような、輝かしい運命が待っているのでしょう」

 

 恥ずかしかった。そこまで期待しないでいただきたい。とはいえシビラは彼に期待をかけた。3日に1回、彼はシビラから剣の手ほどきを受けた。

 

 そして2ヶ月が経ったその日の朝、彼はエムラにたたき起こされた。

 

「大変よ! 大変なのよ!」

「……何がです、エムラお嬢様?」

 

 目が血走っている少女の知らせはこうだった。父親たちが戦いに負けて逃げ、オシタリアとこの国の国境にある砦に閉じ込められた。

 

 賊と言っていたがかなりの大所帯らしい。数千は超えるという。近隣の勇士をかき集めて、シビラが救援に向かうという。

 

「もしものことがあるからって、アタシとアンタは北の砦に連れて行かれるの」

 

 北の砦というのはデュライ家が持つ詰めの城のことだ。山深いところにある。険しい山々に囲まれているから、そう簡単に落とされる事はない。

 

「明日にでも出発よ。いい?」

「わかりました、お嬢様」

 

 本当はシビラと共に救援に向かい、腕を確かめたかったが自重すべきだと自分に言い聞かせた。出発は夜だった。肌を殺しにかかる強い陽の光を避ける為、真夜中のうちに出て向かうのだ。

 

 南の大陸は暑いと言われるが、夜は寒かった。冷たい風が吹きすさぶ。けれどもこの星空こそが、外を出歩くのに最も安全な時間であった。

 

 砦まで向かう道すがら、手綱を掴みながら眠たい目をこすった後、真上の星空を眺めながら、エムラはデリタに尋ねた。

 

「夜でも方向を間違えずに旅ができるのよ。どうしてだかわかる?」

「星が道しるべになっているからですよね?」

「つまんないやつね」

 

 春・夏・秋・冬と星の配置は変わる。けれどもどこにどんな星があるかを覚えていれば、道しるべの代わりにもなる。

 

「デュライ家はそもそも、そうした星読みの一族だったのよ」

「そうなんですね。初めて聞きましたよ」

「そのご先祖さまは、メティオック=ブレイブの生き残りの12名のうち1人なのよ」

 

 そして他の11名も世界各地に根付いた。そのうちの1家が聖者大公の家だという。そして、敵対する『魔光王』の先祖もまた、もとをたどればエイヌオを倒したメティオック=ブレイブなのだとか。

 

「そういう事だったのですね」

「だからアタシ達デュライの一族は、ベイオルブを倒さなくちゃならない。宿命なんだもの」

「その宿命、僕も手伝わせていただけませんか?」

「……馬鹿かしら!」

 

 エムラにまたも断られてしまった。2日後、北の砦に着いた。断崖絶壁に囲まれた堅城だった。そこでデュライのあるじが戻ってくるまで待つのだ。シビラが勇士を連れて出発の挨拶に来た。

 

「では、エムラ様。後のことはお頼みいたします」

「よろしくね、生きてここに戻ってきて!」

「もちろんです。賊など蹴散らしてご覧に入れます」

 

 そうしてシビラたちは去っていった。エムラお嬢様とお留守番か、とデリタは嘆いたが、敵は穏やかなままにはいさせてくれなかった。

 

 砦に着いた3日後の朝のことである。取り囲む山々の頂上から突如として、幾筋もの焔と煙が立ったのは。

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