あの件からエムラは夜にこっそりと、彼の部屋に来ることがなくなった。館に戻って数日。身体がだいぶ癒えたところで術法の勉強を再開した昼、新しい書を持って来てくれたリアザに聞いた。
「エムラはね、あなたに会わせる様な状態ではないの」
昼はただ何もせずぼうっとしてばかり。それから毎晩、妹の部屋からはうめき声が聞こえるようになった。
「うめき声? エムラお嬢様はどうしてそんな声を出されるのです?」
「多分、魔物の呪いのせいでしょうね。疲れ果てるまで好き勝手させたほうがいい、と治癒士は言ってたけど……」
その時はエムラの部屋に入るのを皆に禁じた。扉と窓の外で見張りをつけて、うめき声が収まるのを待つようにと主人は家来に命じた。
「リアザ様、その呪い、いつ収まるものなのでしょうか?」
「わからないわ。あなたが話していたとおり、エムラは魔光王の子を産むまで続くのかもしれないし、一生あのままかもしれない。でも、殺したり牢に閉じ込めることはできない」
呪いの症状は深刻。デリタはエムラの身を案じた。自涜だけで済んでくれるのならばまだいいが、それでも収まらないと暴力を起こすか性的な放埓に走るだろう。前世でも実の娘達が性欲を満足させられないとひどく機嫌を悪くしたり、周囲に当たり散らす様をいつも見て来た。そんな時は小姓や性欲がたくましい衛兵をあてがった。
(お嬢様も男をあてがえばいいと思うが……でもこの大陸にはそんな風習が無いからな。下々はそうでもなさそうだが、意外ときつい。)
リアザの姿を見て、自分の下半身を意識しながら思った。何も感じない。美人とは思えるのに欲情できない。まだその歳ではないからだろうが。
部屋からリアザが出てしばらくすると、何も合図をせずに扉が開いた。でも誰も入って来なかった。不思議に思って廊下を見ると、エムラの後ろ姿を見かけたので声をかけた。でも返事をしなかった。
(なんだ……?)
エムラは突き当りを右にいったところにある便所に入って行った。デリタはこっそりとその中に入って、便所のドアの前で声をささやいた。
「エムラお嬢様。用を済ませたら僕のところに来てください。一緒に術法の本を読みましょうよ」
デリタの呼びかけにエムラは返事をしなかった。彼の気配が扉の外から無くなると、首と腕を通すだけの簡素な服を脱いで素肌になり、ぽっかりと空いていた便所の穴にまたがってしゃがんだ。
彼女の前の部分はひどく濡れてぬめっていた。そこに指を滑らせて慰み始めた。
「うあっ。うあっ……」
荒い呼吸をしながら指先が与えてくれる快感を貪った。興奮が高まるとゆっくりとうごめく奥に指を挿れ、より深い悦楽を味わう。
「デリタ……からだがおかしいの……」
手で表面と奥とを慰める続けると、小さな体が大きく震えた。けれども収まらなかった。
「たすけて……デリタ……」
絶頂のせいで強い便意が起こり、後ろの穴が大きく開いた。どろりとした便を流れ出た。
「もうだめ……やだよ……いらいらするのがおさまらないよ……」
手は未だ会陰をこね、中をこねたままだった。これでも満足がいかない。彼女は便を出し切った肛門にもう一方の手で触り始めた。
「……んっ!」
欲望を満たす器官ではないそこは、女の秘所の一番敏感な一部にも近い感度になっていた。大便で汚れていたそれを指でいじくり、そして中指を挿れる。排便で緩んでいたそこはすんなりと受け入れた。
「はあっ。デリタぁ……うあっ。もどってきてよぅ……このままじゃいやだよ……おっ」
エムラは疲れ果てるまで便所に籠ったまま、指を汚し続けた。しかし声はデリタには聞こえなかったし、彼は様子を伺いに戻って来る事は無かった。
□ □ □ □ □
砦での戦いについて、彼は当主や姉妹たちには話さなかった。 城壁通路の賊と魔物の死体については知らぬ存ぜぬ。デリタは自分がやったと言いふらさなかった。
要らぬ期待をかけられない様に用心していたのと、養い子であるし、あの時のヘイジャの態度から考えても、それほど期待されていないと悟ったのだ。
自分がなれるのはせいぜい、戦士団のたくさんいる中の一人だろう。エムラの件は致し方なく本気を出してしまったが、必要に迫られてのことだ。しかしエムラは正気を失っていたから、デリタがやった事は覚えていなかった。
となれば今は力をつける時だろう。いくら前世の『蓄え』があるといってもまだ7歳だ。今は成長の時だ。ゆえに砦襲撃以降は鍛錬に徹した。口にも態度にも現わさなかったが、あの戦いで彼は自信をつけていたからそうすることにした。
(俺はやれる。だからこそ少なくとも、前世で死ぬ前までの魔力を得たい。それにこの身体は意外と頑強だ。鍛錬を激しくしてもそう疲れる事は無いからな。)
この生のこの身体であれば、自分は才と実力を発揮できるだろう。前世は虚弱が過ぎた。下半身こそ旺盛だったがあれは若死にする生命がなるべく子を残そうとして過剰に働いていただけだろう。しかしこの丈夫な身体であれば、生殖にそこまで執着する必要は無いと思った。
この世界の『術法』の書を読み、人が見ていない場所でいくつも試した。シビラが面倒を見てくれる武術の稽古に明け暮れた。そうして力を得れば、魔光王を倒す戦士になれるだろうと期待した。
それともう1つ、彼はやりたいことがあった。エムラのことだ。1カ月も経つと彼女はますますおかしくなったと聞く。まだ子供だが性的に満足させられる男の嫁にさせればいい、という声も聞いた。
だが、それだと彼女が不憫でならない。救ってやりたい。あのザルモールなら直す方法を知っているに違いない。あいつを見つけて問い詰め、おかしくなった彼女を救う方法を聞き出したかった。だから彼は修練に段々と苛烈さを加えた。
そうして3年が経った。世界の情勢は少しずつ変わっていた。北の大陸では若き聖者大公ヴァーリンデンが、魔光王との最初の決戦に破れて仲間共々、西の大陸へと逃げたという話がこちらにも流れて来た。
「負けと言ってもほんの少しの被害だったらしい。『
「一方、魔光王は北の大陸の沿岸部に領土を得たようじゃが、軍を指揮したアルルーマ直下の四大部将を皆討たれたそうじゃ」
アルルーマ自身も深手を負った。およそ1年以上は静養しないと完治しないそうだ。彼女を総大将として企図していた南の大陸の侵攻作戦も延期となった。それから新たな四大部将の選出に難航しているそうだ。
残るダイスダックとザールバックの2人は、中央大陸内に残る猛々しい敵対勢力に手を焼いていて動けない。骸兵団と空を駆る舟を飛ばす空賊という連中だ。その中には魔人やその末裔が多いという。
シビラと共に街の警備に加わったデリタは、北の情勢を聞いてもしかすれば、と考えた。
(これは奮起する時かもしれないな。)
彼はこう考えた。デュライ家の名代としてヴァーリンデンの麾下に入ることはできないだろうか。聖者大公の下には西の大陸からも続々と猛者が集まっている。各地の戦士団で随一の腕利きや暇を持て余した凄腕の冒険者などだ。南の大陸からも大公の名声を聞き、旅立った者が出ているという。
バーフレアが生存していることも聞きつけた。中央大陸で骸兵団や空賊に手を貸しているのがその本人だとか。となれば戦いは山場を迎えるだろう。決戦の時は、いよいよに違いない。魔光王ウルティーマがどれほどのものかはまだわからないが、末席でもいいから2人の英雄の配下となれば、自分は名をあげられるだろう。
(あの男も、俺と同じ歳だったらしいな。魔竜討伐の軍に参加したというのは……。)
前世の世界にいた、隣国の若き騎士のことだ。師から魔剣を譲られて使いこなせただけでなく、圧倒的な武才でもって数々の猛者を鎧袖一触で蹴散らした。それと魔道にも長けていたらしい。恐るべき魔法戦士でもあった。
あの男ができたのなら俺にもできるはず。デリタはこの時、見習いながらデュライの家の戦士団に入っていた。しかも一番の剣士であるシビラの側近だった。いくつかの試合で鋭い剣技を見せていたからの抜擢だった。
ようやくこの時が来た。そう思い当主に申し出た。デュライはうぬぼれ過ぎだ、と一喝してはねつけた。
「何故です……僕は中央大陸に渡って、エムラお嬢様を助ける方法を見つけたいのですが……」
「娘のことはどうでもよい。あの子はもうそろそろ嫁に行くからな」
その話か。デリタは心の奥に苛立ちを覚えた。エムラは自慰だけでは収まらなくなっていた。あろうことか下男を寝床に引き入れ、腹の奥の欲望を満たす相手にさせるようになっていた。それも毎日だ。
主人は娘の乱行を黙認した。誘いに乗った下男を罰さなかった。それとデュライの家の者は3年前からずっと、デリタはエムラに会わせなかった。
そしてエムラの婚約相手が決まった。術法の家としてはデュライ一族のライバルにあたる、ガルテナーハ一門だ。その中の庶流の人物がエムラの夫となる。
術法の使い手だけでなく、大商人で金持ちだ。20歳も年上で数多くの低い身分の娘に手を付け、子を産ませるのが趣味の好色極まりない道楽者だった。彼の妾の中には、エムラよりも年下の女の子がいたとも聞いたことがあった。
「しかしガルテナーハのあの人物は、あまり良い噂がございませんが?」
「子供のお前が気にすることではない。どうせエムラは死んだも同然なのだ。親としてはせいぜい、こうすることしか我が子にはしてやれない。だが、お前には期待しているのだ。エムラ以上にだ」
デリタを旅に出したくない理由。それがこの時、当主の口から直接聞かされることとなった。
「お前はな、リアザの婿の候補にあるのだよ。デリタ、リアザの夫として、デュライの家を盛り立ててくれないか?」