「フリーレン様、起きてください。もう昼過ぎですよ」
「う、うん……」
フリーレン様の部屋に入った私が声をかけると、寝たままの体勢のフリーレン様はくぐもった声で返事をする。いつもの通り、つい今しがたまで夢の中だったのだろう。
フリーレン様との生活時間にズレがあるのは隠れて研究を行うにあたっては助かる話なのだが、とはいえ私が起こさないままでいるとそのまま夜まで寝続けたりする事さえある為、流石に心配になってしまう。いくら長い年月を生きる種族とはいえ、ここまで自堕落を極めたような暮らしを送り続けて大丈夫なものか。お節介に思われるかもしれないが、夜でもスーパーやコンビニが開いていた私の前世とこの世界は違う。生きていく上で人間社会との関わりは絶対に必要な時があるのだから、毎日キッチリと生活習慣を整えるとまではいかずとも、私が生きているうちに最低限は自分で自分を律する事ができるようになって欲しいと思っている。
「フェルン……も、もうしばらく待ってて……」
「ダメです。そう言っても、いつも二度寝しちゃうじゃないですか」
布団にくるまったままボソボソとした声で会話を続けるフリーレン様。今日はいつもより一段と随分とベッドが恋しい気分なようである。
自分の中に芽生えた罪悪感が、このままそっと寝かせてあげようと声を上げているが、フリーレン様とそれなりに長い時期を一緒にいる私は、ここで引いてしまっては彼女がいつまで経っても起きてくれない事を知っている。気の毒に思わない訳では無いが心を鬼にし、掛け布団を剥ぎ取ろうと手をかけたその時ーー
「あ、あぁー!!起きれる、起きれるからそれは待って!!!」
今起きたばかりにしてはやけに動きが俊敏な動きで、必死の形相になって自分の布団をがっしり掴み離そうとしないフリーレン様。布団を体の前で抱え込むような姿は子を守る親を連想させる程の気迫に満ちている。
フリーレン様は一体なぜ、こんなにも頑なに布団を守ろうとしているのだろうか。今日は別段寒い訳では無い。
旅が続けば、北へ向かっていくわけだから気候もだいぶ変わってくると思うが、今の地点ではまだまだの筈。考えても答えが出ない。
そこまで考えてふと、フリーレン様の顔が赤く染まっていることに気づく。さらによく見ると、珍しく随分と汗までかいており、今まで見たことの無いフリーレン様の姿に私は混乱する。
「やはり、体調が優れないのでしょうか……?」
私はフリーレン様に顔を近づけて、熱を測るためにおでこ同士をぴたりとくっつける。
「っっ!!フェルン何してっっ……」
「なにって、ただ体温を測っているのですが……どうやら特に熱は無いようですね」
額越し伝わってくる体温は、これといって異常はないように感じる。強いておかしな所を挙げるなら、やはりフリーレン様の顔がじっとりと汗ばんでいる事だろうか。私は不快感は別にありはしないのだが、やはり気になる。
一体何をフリーレン様はこれほどまでに焦っているのだろうか。普段はパーソナルスペースなんて全然気にしない人だし……
「ううぅ……」
私が顔を離した後、フリーレン様はすぐに布団を頭まで被って、すっかり縮こまってしまっていた。なんだかとても悪い事をしてしまった後の気分になる。
「さ、先に行っててよ。私は後から起きるから……」
「……本当ですか?そう言って、またぐっすり眠ってしまうのでは」
「本当。本当だから。ちゃんと行くから」
うーむ。私はどうすればいいのだろうか?
これまでの頑ななやり取りでこのまま話しても埒が明かないと思った私は、ひとまずはフリーレン様の言う通りにして、話は後で落ち着いてから聞いてみようと考える。この様子なら既に目も冴えていそうだし、また寝てしまうなんて事は無いと信じよう。
「わかりました。でも、しばらく経っても来なかったら、またここに見にきますから。ちゃんと来てくださいね」
そう言って私は、相変わらず布団に潜った姿勢フリーレン様の姿を最後にもう一瞥してから部屋を後にした。
この後は食事の用意をしながらフリーレン様が起きてくるのを待っていよう。用意といっても保存していたものが殆どのため、そこまで大層なする事はない。
「少し強引に迫りすぎたでしょうか……」
フリーレン様への私からの態度に問題があったから、あんな反応を示されてしまったのかもしれない。そうだとしたら反省しなくてはいけないな……
「ふぅ……やっと行ってくれたか」
そう呟いて、いそいそと布団から這い出して来るフリーレン。ようやく起きあがったもののしかし、中々部屋の外へと歩き出す様子はみせない。
「……うう、ダメだ……ようやく落ち着いてきたと思ったのに、あんなに顔を近づけてくるなんて」
彼女の気がかりは、自身の履き物を下から大きく持ち上げるもの。女性であるフリーレンの身体には存在しない筈の物体が、下腹部にて大き過ぎる存在感を放っていた。
「はぁっ……あっ♡ 今はダメだ、はやくフェルンの所に行かないと……ううっ♡」
歩くと同時に発生してしまう、布に擦れる刺激に思わず声を漏らしながら、フリーレンはおぼつかない足取りで部屋から出たのだった。
次回は多分フリーレン様視点です。