「村の民に通達せよ! 平原に君臨せし三つ首のドラゴンを討ち果たした! もう、脅威に案ずることはない。勇者アレウスの名において、それを宣言する!」
剣を天高く掲げ、横たわるドラゴンに足を掛けながら高らかに宣言する。
戦いを見守っていた村の民が、心からの歓声を上げた。
武器を携えながらも、不安を隠し切れない面持ちで怯え切っていた彼らが喜びを見せている。勝利と同時にもたらされた安堵は希望となり、訪れた平穏に皆が歓喜の言葉を口にしてみせた。
中には“英雄”を崇めるように合掌する者の姿も見受けられる。
人々からの感謝と体現されし幸福の証は、自分の原動力となっていた。己が能力は世界に通用し、人類をはじめとした数多の種族に通ずる未来と繁栄に貢献することができている。
これこそが自分の生き甲斐だ。
勇者“アレウス・ブレイヴァリー”が授かりし、生まれ以ての大いなる使命。皆が笑顔で暮らせる世を作るため、自分は本日も一端の冒険者として世界中を放浪する。
酒場で開かれた祝宴を終え、自分はひとり宿屋に引き返した。
個室というプライベートの空間を設けてからというもの、誤魔化しつつあった1日の疲労が錘となって一気に圧し掛かる。
「……体を軽くほぐしてから眠りにつこう」
衣類を脱ぎ、ボクサーパンツのみの姿になってから鏡を眺め遣る。
日々の鍛錬で磨き上げた肉体美。我ながら美しく、勇者としての誇りとメンツを保つにあたって重要視している、一種のこだわりのようなもの。
浮き出た筋肉に手を添えて、彫りが深いそれを体感してから短時間の筋トレに取り掛かった。
酒場でご馳走していただいたカロリーを適度に燃やし始める。こうして自分自身と向かい合う、つまり自己との対話に費やすひと時を大切にしていく中で、不意にも個室の扉が鳴らされた。
コンコンコンッ。突然のノックに、自分は筋トレ中の姿勢を維持したまま「どうぞ」と呼び掛ける。
ガチャッと開かれた扉。共にして姿を現した茶髪の女性は、少し驚いたような顔で喋り出してきた。
「夜間にお訪ねしてしまって、申し訳ありません」
「お気遣いなく。酒場の看板娘さんですよね。先程の祝宴ではご馳走になりました」
「全ては村を救っていただいた勇者アレウス様のためでございますから。それで、改めてのお礼をと思いまして、個人的に訪問した次第です」
「今、飲み物をお出ししますよ。少々お待ちくださ……」
返答しながら立ち上がる、その動作の途中。下げた視線と共に自身がパンツ一丁の姿でいることにようやくと気付いて慌ててしまう。
「うわっ! そういえば完全にオフの姿だった! お目汚し失礼しました!」
「いいえ、お気になさらず。約束もなく訪問した私が不躾なだけですから」
「そんな、むしろ歓迎ですよ! 先程も酒場で盛大にもてなしていただいたので、少しばかりでも何かお礼をさせてください」
「お礼だなんて。こちらこそ、村を救っていただいた感謝を込めて、勇者アレウス様を酒場の祝宴にお招きしたものですから」
慌てるこちらの様子を見て、女性は上品に微笑んでみせる。彼女のそれに自分が気恥ずかしく振る舞っていると、次にも女性はその眼差しを若干細めながら、ジッとした湿っぽい視線で喋り出してきた。
「……それにしても、さすがは勇者アレウス様ですわ。猛り脈打つ、勇ましいお身体。世間でも度々と耳にする、勇者という称号に相応しき数多のご活躍と、それを証明付ける男らしい肉体美……これほどに美しいお身体を、私は初めて拝見いたしました」
「体が資本なので、特に気に掛けてはおります。勇者たるもの、鍛錬は欠かせません」
「さすがはアレウス様ですわ。これほどのお身体を拝見してしまうと、私も本能を掻き立てられてしまうものです」
ゆっくりと扉を閉めた女性。さり気無くカチャッと鍵をかけると、彼女は酒場の制服であるワンピースに羽織っていたローブを脱ぎながら、真っ直ぐとこちらへ歩き出してくる。
空気が変わり、濃密な湿度が漂い始めた空間に自分も頬を紅潮させる。
脱衣したローブはスルッと床に落ち、素足でひたひたと歩み寄る女性はこちらの肉体に軽く触れながら言葉を口にした。
「『恩人に対する最上級の返礼は慰労すること』。この世界に古くから言い伝えられるしきたりであり、それを重んじることこそが、恩人に対する敬意の表明になる」
「皆さんからの敬意なら、既に十分ちょうだいしました。俺も皆さんからの慰労に満足しております」
「だからこの先は、酒場の看板娘である私が個人的に勇者アレウス様へ敬意を表したいと考えております」
「一応お訊ねしますが、本当に俺でいいのですか……?」
「田舎娘の分際で、アレウス様のような素晴らしい御仁を満たせるか、正直なところ自信がございません。しかし、それでも、どうかこの私にアレウス様の慰労を許していただけますか……?」
「相手にとって不足ありません。今日の戦闘で疲弊した俺の体を、あなたの敬意で存分に労わってあげてください」
「あぁ、アレウス様……っ」
立ち込めるフェロモン。室温が増した空間の中、自分は女性を優しく抱き寄せる。
腰に両手を回し、ゆっくりと密着した。女性はこちらの下腹部へと手を伸ばして、ボクサーパンツに浮き彫りとなった“モノ”を撫で掛ける。
場数を踏もうとも、一切と慣れることのない喜びの緊張感。心臓は高鳴り鼓動を急かし、脈打つ血管の一本一本を認識できる程度の繊細な神経が全身に通い出す。
右手で彼女の背を支え、見つめ合ったまま緩やかに抱き寄せるその流れで口付けを交わした。
口先まで伝う体温を感じ取り、唾液が音を立てながら絡まり合う。そして疲労した体が一層もの本能を剥き出しにすると、自ら相手のテリトリーに踏み入った据え膳を無意識に抱き上げ、煩悩に操られるが如く背後のベッドへと直行した。
剣と魔法の異世界が織り成す大自然や生態系。未だ解明されていない大発見が膨大に眠る可能性の世界において、人類をはじめとした多くの種族がこのロマンに魅力を見出していた。
彼らは世界を巡る『冒険者』となり、旅路に就く。その目的は、討伐、採取、追究、発見、解明など多岐に渡るだろう。中でも人助けや社会貢献といった“正義や善行の遂行を目的”とした冒険者は『勇者』と呼ばれており、自由を追い求めるがあまりに粗暴で自己中心的なイメージが付きまとう冒険者という職においては、異彩とも言えるであろう圧倒的な好印象を有する世界きっての人気職となっていた。
主人公であるアレウス・ブレイヴァリーも、冒険者の類で世界を旅する『勇者』の1人だ。言うなれば、各地を放浪するフリーランスの
最低限の生活費を確保できるだけの実力は持ち合わせており、今回も辺境の小さな村を存亡の危機から救い出してみせた。
そして彼は感謝の表明として差し出された“報酬”を受け取り、今に至る。
宿屋の個室に反響する、肉を打ち付ける生々しい音。ベッドが軋み、液体が擦れ、女性の嬌声が一定の間隔で聞こえてくる空間の中、勇者アレウスはたくましい体で猛獣のような本能を爆発させていたものだ。
床に落ちた衣類の光景。制服のワンピースや白色のキャミソール、縦にシミがついた白色でシルクのショーツに、同じく滲むようなシミをつけたボクサーパンツが息をひそめていく。
横では今も、“行為”に打ち込む2人の男女が一心不乱に欲求を解消していた。男性の体格で彼女に覆い被さり、両手を繋ぎ合わせながら熱烈なキスを交える姿。女性は辱められるように両脚をおっぴろげ、勇者の彼が携える“聖剣”の進入を快く許している。
本能を全面に出しながらも、加減を忘れない紳士の心掛け。自分の快楽よりも相手のオーガズムを優先した配慮ある運動は、女性に至福のひと時を提供していたことが想像するに容易い。
自由を謳歌するさすらいの冒険者。誰よりも正義と善行に尽くし、戦闘面では申し分のない実力を発揮することで『希望』を体現する。
その上、生命の営みにまで優れていた。
分泌される脳内麻薬で悦に浸る女性。彼女の意識は次第と遠のき、快楽と幸福感で満たされた絶頂に包まれながら深い眠りについていく。
彼女がこの日最後に見た彼の姿は、とても勇ましく、たくましく、男気に溢れ、魅惑的だった。爽やかな青年という印象を与える美形の顔立ちと、かえって不釣り合いである鍛え上げられし肉体美に、女性は夢を見ているかのような気分さえ覚えていたかもしれない。
抜かれた“聖剣”と、自身の神秘から流れ出る生命の源。終始ずっと密着していた体温は陽だまりのように温かく、もたらされた安らぎと共に女性は再会を約束した。
だが、その事実を覚えているだけで、当時に交わした会話の内容は記憶していない。何度も迎えた絶頂で間隔麻痺した全身は魂が抜けたかのように静止して、呼吸も忘れるくらいに意識を奥深くの奈落へ落としてから、瞼の隙間に映った彼の無邪気な微笑みに見送られたものであった。
これは、勇者の性事情に焦点を当てた物語。
冒険者アレウスの活躍と日常を追う、“聖剣伝説譚”である。