私はバーゲスト、アモーレファミリーの晴の守護者だ。
今は街の平和を守るため、街の巡回を行っている。
強者たるもの、弱き民を守るのが務めだからな。
えっ?口調が違う?
ふっ、今の私は守護者、つまりは騎士だ。
メイドでは、街を守れん。
オンオフを切り替えてると言ってもいい。
ゆえに、私は今守護者として街を闊歩している。
私は街を歩く。
街を行き交う人々は笑顔で溢れている。
彼らがこうして平和に暮らしていられるのは、アモーレファミリーが守っているからだ。
私も、その一員として彼らを守っている。
最初こそ、私は自暴自棄になって彷徨っていたこともあって、彼らに恐れられていたが、誠心誠意を込めて彼らを他の組織から守り続けたことで、今や街を歩けば声を掛けられる程に、街を守る守護者として信頼されている。
とてもいい事だ。
「あっ!バーゲスト様!今日もお勤めご苦労様です!」
「ああ、お前達もご苦労。
何かあればいつでも頼ってくれて構わないからな」
「はい!ありがとうございます!」
行き交う人々の笑顔、それこそが我らの誉れ。
こんな日が、いつまでも続けばいいのに。
そんなことを思っていると、一人の住人が怯えた様子で私に駆け寄ってきた。
「バ、バーゲスト様っ!」
「む、どうした?
何かあったのか?」
「そ、それがこの街に、刀を持つ、鬼のような侍が近づいているのです!!」
「侍…?」
確か、この日本にかつて存在したという、日本刀という武器を携えた戦士のことだな。
それに確か、噂で聞いたことがある。
ある戦いで死に損なった侍の少女が、死に場所を求めて戦場や組織を渡り歩いていると。
しかもその力は鬼の如く強く、剣一本でその尽くを鏖殺したと。
そんな少女が、この街の近くに来ているということか。
「わかった。
ならその目撃した場所を教えろ。
私が対処する」
「は、はい」
住人から教えられた廃墟に来た。
見たところ誰もいない。
だがここで見掛けたと言うからには、そう遠くには行ってないだろう。
私は匣を開匣し、鎧を纏って聖剣を握り、周囲を警戒する。
するとそこへ。
「そこな武人」
と、フラフラと廃墟の奥から誰かが近付いてきた。
今どき珍しい、袴姿の少女だ。
長い髪をリボンで結び、どこか兎みたいな印象を受ける。
顔には大きな切り傷があり、それがより彼女を浮世離れさせている。
手には仰け反った刀が握られていた。
だが、少女の目は虚ろで、生きる希望すら抱けずにいる状態だ。
「貴様が、侍か?」
「左様、某は侍、女に非ず。
…貴殿を強き者と見受けました。
ぜひ、立ち会いたく候」
構えた刀は陽の光に煌めく。
それに対して少女の瞳は闇にいるかのように暗い。
「貴殿ならばこの首、斬り落としてくださるか?」
「っ!!」
とてつもない勢いで一瞬で距離を詰められた。
反射的に聖剣を構えて防御したが、重い一撃に吹き飛ばされそうになる。
くっ、何て強さだっ!!
そんな華奢な体から、一体どれほどの力を?
私はすぐに体勢を立て直し、少女に向かって剣を振るった。
だが少女は私の一撃を軽々と弾き、即座に反撃の斬撃が繰り出される。
速いっ!! 目で追うのがやっとだっ!!
「っ!くっ!!」
なんとか防ぎきるも、次々と攻撃が繰り出されてくる。
まるで暴風のように凄まじい乱撃だ。
負けじと反撃するも、紙一重で避けられてしまう。
鎧が刀で打ち込まれる度に軋む。
あと数発打ち込まれたら凹むか、あるいは砕かれるかもしれない。
幸い、私の体はどれだけ傷ついても再生する。
だが、このままでは埒が明かない!
動きを止め、私は集中する。
彼女の動きを止めるには、目で追うのがやっとな私ではこれしかない!
「ふぅ──……」
素早く重い攻撃を受けながら集中する。
全身に晴の炎を巡らせ、より強く活性を促す。
そして、私の胴体を斬り裂かんとする彼女の刀を弾き飛ばした。
「ぐっ!?」
私は即座に少女の腕を掴み、彼女を地面に叩き付けた。
「ふっ!!」
「っ!?」
そのまま彼女の鳩尾に拳を入れる。
すると少女の目から光が消えるのを確認出来た。
彼女が完全に意識を失ったことを確認すると、私は彼女を担ぎ上げ、アジトへ戻る事にしたのだった。
私の部屋に連れていき、ベッドに寝かしつけ、しばらく目が覚めるのを待った。
「…んっ?」
彼女は目を開けムクリと体を起こした。
「ここは?某はどうして」
「気が付いたか」
「き、貴殿はっ」
私の声に反応し、彼女は腰に手を伸ばすが、刀がないことに気付く。
「済まないが武器はこちらで預からせてもらった。
心配せずとも、私は貴様と戦う気はない。
とりあえず水を飲め」
「…かたじけない」
コップに入れた水を差し出せば、彼女は素直に受け取り、ちびちびと飲み始める。
私は彼女の向かいの椅子に座り、話しかけた。
「改めて、貴様は侍だな?」
「……いかにも」
「どうしてこの街の近くに来た?
いや、それよりも今までどこで何をしていた?」
「某は戦場で死に損ない申して候……故に某が満足できるような戦場を求めて彷徨っておりました」
「……」
なるほど、では数多の組織や戦場を駆け抜け、刀一本で鏖殺したという噂は本当なのだろう。
「某は今の時代では珍しく見られる武家の出身。
名を月鍔ギンコと申す。
この度は、武人としての誉れを求め、貴殿に手合わせを願った次第」
「そうであったか。
私はバーゲスト。
アモーレファミリーの晴の守護者だ」
「アモーレファミリー……?」
「ああ、私の所属している組織の名だ」
「では貴殿に聞こう。
なぜ某を殺さなかった。
某は、貴殿と戦い、貴殿を殺そうとし、そして某もまた、貴殿の刃にて死することもまた本望であった。
それなのに何故」
「…貴様の刃は、確かに凄かった。
だが、命のやり取りとは言え、何も殺すことはないと思ったまでだ」
「……左様か」
ギンコはどこか不服そうに顔を逸らした。
私は咳払いをして話題を変えることにした。
「ではギンコ、貴様はこれからどうする?」
「どうするも何も……某は戦場でしか生きられぬ身。
どこにも行く宛などあり申さん」
「……なら、ここにいても構わない」
「なんと……?」
驚いたように私を見るギンコに私は頷いた。
「私には仕えるべきボスがいるが……彼は寛大なお方だ。
きっと貴様の力になってくれるだろう」
私がそう言うと、ギンコはきょとんとした顔をした。
「どうした?」
「貴殿は、某を……このような鬼を傍に置きたいと申されるのか?」
「ああ、そうだが?
その腕前と、戦場に死に場所を求めていたという貴様の生き様、気に入った。
それに貴様はこの街の近くに来ただけで、街に被害を出していない。
私からもあのお方に推薦し、その腕を街を守るために使ってはくれないか?
貴様なら、強い守護者になれるかもしれんのだ」
私がそう言うと、ギンコはじっと私を見た後、小さな声で呟いた。
「某は……侍です。
たとえ戦場に生きられぬ身になろうとも」
「確かに貴様は侍なのだろうな。だが私も騎士なのだ」
私は椅子から立ち上がり、彼女に向かって手を差し伸べた。
「ギンコよ、我らの力になってくれないか?」
「……承知した」
ギンコはおずおずと私の手をとった。
そして私は彼女のことを旦那様に話し、守護者にしてもらうことにし、ギンコもそれに賛同してくれた。
「ギンコ、よろしく頼むぞ」
「はっ」
こうして、アモーレファミリーに新たな仲間が加わったのだった。