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「綺麗と言えば綺麗だけど。結局は人形ね。あなたのほうがもっとずっと綺麗よ」
鏡越しではなく直に多輝を見上げて由梨佳が言う。多輝はそんな由梨佳をちらりと見てから鏡に目を戻した。
「まあ、龍神ってのは造作が整ってるらしいからな」
自分を鏡で長々と見る趣味はない。多輝はそう呟いてから由梨佳からそっと手を離した。静かに鏡から離れる多輝を由梨佳が振り返る。多輝は近くのソファに腰掛けてテーブルの灰皿を引き寄せた。
「龍神……。私に植え込まれてるこの知識は嘘では無かったのね」
そう呟いて由梨佳が自分の胸に手をあてがう。多輝は眉を上げて煙草を抜こうとしていた手を止めた。
「何だ。龍神のデータは持ってるのか」
必要なヒューマノイドにはデータ化した龍神の情報をあらかじめ入れられている。要や斎姫と言った優一郎に近い位置にいるヒューマノイドは皆そうだ。
「私、ほんの少しだけ、覚えている事があるの」
それを聞いた多輝の心臓が跳ね上がる。慌てた多輝の手から煙草が滑り落ちる。多輝は目を見張って由梨佳を見た。由梨佳が多輝に向き直る。
「言葉で説明すれば、釣り合わないとか、身分違いとか、そういうイメージ? それに囚われていた記憶がうっすらと残っているの」
由梨佳がそっと目を伏せて微かに笑う。多輝は深い息を吐いて落とした煙草を拾い上げた。箱から一本抜いて唇に挟む。
「いいんだよ。由梨佳はそんなこと気にしなくて」
火を点けようとしたところで多輝は思い直して煙草を灰皿に乗せた。立ち上がって由梨佳の傍に行く。まだ目覚めたばかりの由梨佳には立ちっ放しは辛いだろう。そう思いながら多輝は由梨佳を軽々と抱え上げた。焦った声を上げる由梨佳を抱いたままベッドに移動する。由梨佳を下ろしてから多輝はベッドの足元に畳んであった毛布を広げた。
「少なくとも今の私は気にするつもりはないわ。以前の私はどうだったかはわからないけれど」
くすりと笑った由梨佳を見て多輝は眉を寄せた。横たわった由梨佳の服の裾がはだけて白い腿が大胆に覗いている。毛布を広げた格好で動きを止めたまま、多輝はじっと由梨佳の腿を見つめた。そんな多輝を由梨佳が不思議そうに見上げる。
「あの、多輝くん」
由梨佳はそう言ってから口を噤み、改めて告げた。
「あなたの事多輝くんって呼んでいいのかしら? 他にリクエストはある?」
「いや、それでいい」
押し倒したいという衝動を堪えて多輝は広げた毛布をそっと由梨佳にかけた。起動したばかりの由梨佳がどこまで動いていいものなのか判らない。多輝はそのままベッドの縁に腰掛けた。
「これは予測なんだけど、もしかして、多輝くんの傍にいるために、こうして人形になる事が必用だったの?」
って全然違ってたらごめんなさい。そう続けた由梨佳を多輝は振り返った。
「そう。おれはちょっとばっか他の奴より寿命が長いし、やたらと女を抱き壊す癖があるんだ」
肩を竦めて応えてから多輝は腕を伸ばして由梨佳の頭をそっと撫ぜた。
「龍神の精は人を狂わす……。私は壊れたのね?」
どうやら由梨佳は勘違いをしているらしい。だが逆に好都合だ。多輝はそう、と苦笑して由梨佳の髪を撫で続けた。くすぐったそうに首を竦めた由梨佳の頬がほんのりと桜色に染まる。
「だから、負い目を感じてたのね? でも、その必用はないわ。もう一つ覚えている事があるの……」
そう言った由梨佳の顔が真っ赤になる。何だよ、と笑って多輝は由梨佳の目を覗き込んだ。あんまり近くに寄ると強引に抱いてしまいそうだ。そんなことを考えながら多輝は出来るだけ性欲を抑え込んだ。
「その……壊れながら、凄く満ち足りた感覚が残ってるの。壊れる事が判ってて、私はあなたを受け入れたのよ」
口許まで毛布を引っ張り上げた由梨佳の顔はどことなく強張っている。それが怒りの現れだと気付いた多輝は目を細めて屈めていた身を起こした。指先だけでそっと由梨佳の髪を撫でる。
「満足してもらえたんなら嬉しいけど」
壊れながら抱いてくれとせがんだ由梨佳のことを思い出した多輝の顔は自然と曇った。だが例えあの時抱かなかったとしても、由梨佳の脳は限界に達していただろう。その説明も優一郎から受けている。だがそれでも、もしも自分の対応が違っていたらとどうしても考えてしまうのだ。
「我ながら、あまりにも無責任すぎるわ。残されるあなたの事を考えてなかったのは明白だもの。自分に自信がなかったんでしょうけど、自分の価値を軽んじすぎていたのではないかしら?」
眉を寄せて不快そうに由梨佳が言う。それを聞いた多輝は思わず苦笑した。指先で軽く由梨佳の額をつつく。
「んな、自分のことなんだからそこまで言わなくてもいいだろ。それにおれが悪いんだし」
由梨佳の勘違いに便乗している自覚はあったが、多輝は自戒の念をこめてそう告げた。結局のところ、立城に全てを読まれていた気がする。こうなることが判っていて、だから立城は由梨佳を仕掛けに残していったのではないだろうか。多輝がどこまでも親を追い求めて甘え縋ろうとしていることを見抜いていたのだろう。
あー、と呻いて多輝は頭をかいた。真面目なことを考えていても身体は全く別の反応をしてくれる。痛いくらいに勃起したペニスをジーンズ越しに恨みをこめて見つめてから多輝はため息を吐いた。
どうしても多輝だとラブコメちっくになりますね……(滝汗