※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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エピタイ通りな感じです。
エロシーンはありません。


酒より飯が先のがいいでしょ 1

 戻った途端にこっぴどく渚に叱られて水輝はふて腐れてカウンターに入った。だがすぐに気分が復活する。穏やかな音楽の鳴る喫茶店で水輝は機嫌よく働いていた。今日の客の入りも悪くはない。

 

 昼の賄いを取って午後の仕事に入る。不思議なことにこの喫茶店の客の年齢層は高い。だがそれでも昼を過ぎて学校が終わる頃になると学生の声もちらほらと聞こえるようになる。今日は紫が不在だから、と珍しく渚がバイオリンの演奏を始める。渚が選択した演奏曲を耳にして水輝はカウンターの中で苦笑した。珍しいですね、とカウンターについていた客も音楽に耳を澄ます。

 

 感情的な旋律が響いた途端、喫茶店のフロアは静まり返った。リムスキー=コルサコフのシェラザードだ。

 

「うっわ、珍しい。シエラザードだ」

 

 こっそりと入り口から入ってきた順がそう言いながらカウンターの席につく。来やがったか、と苦い顔で呟いて水輝は順に言われた通りにコーヒーをいれ始めた。

 

「渚ちゃんって不思議な選曲するねえ。カノジョならもっと静かな曲が似合いそうなもんだけど」

 

 バイオリンの旋律を邪魔しないように順がこそこそと言う。それを聞いた水輝はため息混じりに告げた。

 

「おれの得意曲だからな、あれ」

 

 丁寧にいれたコーヒーを水輝はぞんざいに順の前に置いた。おお、と笑って順がコーヒーカップを持ち上げる。

 

「なに。水輝ちゃんって弦もやるの? まあ、何でもいけるだろけど」

 

 龍神という種は中でも特に音楽の才に秀でている者が多い。中には多輝のような音痴もいるが、それは本当に例外中の例外だ。

 

 演奏を終えた渚が立ち上がって客に礼をする。拍手されつつ渚は静かに店の奥に引っ込んだ。どうやらアンコールに応える気はさらさらないらしい。やれやれ、と苦笑して水輝は店内放送のボリュームを少しだけ上げた。柔らかなメロディが小さな店内に響く。

 

「それよりさあ。ほら、さっさと行こうよ。一緒に飲むって約束っしょ?」

 

 へらへらと笑いながら順に言われ、水輝はしかめっ面で壁にかかる時計を見上げた。まだ午後の四時を回ったところだ。

 

「まだ外は明るいだろ。もう飲むのか?」

 

 呆れて言った水輝に順が不服の声を上げる。だが約束は約束だ。水輝は仕方なくフロアに戻ってきた渚を呼びつけた。トレイを片手にした渚がカウンターに寄って来る。

 

「なに?」

「悪い。おれ、ちょっと出てくる」

 

 そう言いながら水輝はエプロンを外した。身体の空いていそうなアルバイトを一人呼びつけてエプロンを渡す。身軽にカウンターを飛び越えたところで渚が困ったような顔で言った。

 

「それは構わないけど……帰りは?」

「あっ。今日は帰らないからー」

 

 頼みもしないのに順が代わりに渚の質問に応えてくれる。やれやれとため息を吐いて水輝は渚に片手で拝むようにして詫びた。呆れたような顔をした渚が判ったわ、と返事する。

 

 てっきり車で移動するのかと思えば、順はいきなり吉良瀬の屋敷に向かって歩き出した。何事かと訊ねた水輝に順が笑う。

 

「地下鉄のが早いんだよねえ。なに、まさか歩くの嫌とかじゃないよね?」

「いや、それは構わないが」

 

 どっちかと言えば男と歩くのはどうもな。正直に言った水輝に順がへらへらと笑う。相変わらず何を考えているのかよく判らない。水輝は仕方なく順と共に屋敷の地下にある地下鉄のホームに向かった。

 

 専用の電車から通常路線の電車に乗り継いで十五分ほど行ったところで水輝は電車を降りるように言われた。

 

「……おっまえ、ここって」

 

 呆れた口調で言った水輝の先を歩いていた順が笑いながら振り返る。

 

「水輝ちゃん、おなか空いてるっしょ? 酒もいいけどメシも食わないとさ」

 

 清陵のど真ん中に位置する駅周辺の商店街に向かって順が颯爽と歩いていく。水輝は仕方なくそんな順について歩いた。どうやら順はわざわざ食材を買うためにここに来たらしい。もしも店で飲み食いするならここよりもう少し外れた歓楽街の方が利用しやすいのだ。

 

 水輝の思った通り、順は商店街で買い物を始めた。次々に買いつけるものを必然的に抱える羽目になり、水輝の機嫌は次第に悪くなっていった。

 

「もしかしてお前、おれに荷物持ちをさせようと」

「あっ。美味しそうな野菜発見!」

 

 賑やかに言って順が急にコースを変更する。水輝はおいおい、と呟いて仕方なく順の後を追った。店先に出ている野菜を順が嬉しそうに眺めている。その姿を見て水輝はふと苦笑した。いつだったか奈月と買い物に来た時も同じようなことがあった。その時は水輝も快く荷物持ちをしていたのだが、余りにも嬉しそうに奈月が買い物を繰り返したために、荷物が両手では持ちきれなくなってしまったのだ。

 

「おい。せめて持てるだけにしておけよ」

「判ってるってば。あっ! おじさーん。ここのキャベツとね。人参とね」

 

 心配から声をかけた水輝の声に軽く応えてから順が店主に話をし始める。それを横目に水輝は深々とため息を吐いた。

 

 両手いっぱいの荷物を抱えた水輝が案内されたのは、とあるマンションの部屋だった。

 

「何だよ。お前の屋敷じゃないのか」

「オレの家だとねえ。オレにメシを作らせてくんないのよ」

 

 あはは、と笑って順が部屋の鍵を開ける。ふうん、と何の気なしに返事をしてから水輝はぴくりと眉を上げた。開いたドアの内側から流れてきた気配に覚えがある。

 

「……克人?」

「あったりー。さすが水輝ちゃん。ココって克人に上げた部屋なんだよん」

 

 気楽に応えながら順がさっさと部屋に入る。水輝はため息を吐いて促されるままに部屋に入った。確かに順が気にかけているだけあって、克人の部屋にはきっちりと結界が敷かれている。それも内と外の両方に敷いてあるためにかなり強固なものになっているようだ。結界を読み取りながら水輝は順に言われるままにキッチンに向かった。




飯だけで済めばいいですね……w
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