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「はい。お客様は座って座って」
嬉しそうに言いながら順が水輝の腕の荷物を取り上げる。水輝は渋い顔をしてため息を吐いた。
「お前、本当におれのことを客だと思ってるのか? 普通、客に荷物持ちはさせないだろ」
「細かいことは気にしなーい。ほら、座って。おやつあげるから」
てめえ、おれのこと子供だと思ってるだろう。そうぼやきつつも水輝は大人しくテーブルについた。たくさんのビニール袋から取り出した食材を順がテーブルに広げていく。その中からカップ入りのプリンを放られて水輝は片手でそれを受け止めた。続いてスプーンが飛んでくる。客の扱いじゃねえな、と苦笑しつつ水輝はそれも片手で器用に受け止めた。
あっという間にプリンを食べ終わって水輝はおかわりを要求した。シンク台に向かっていた順がえー、と困ったように笑いながら振り返る。
「もうちょっと待ってよ。すぐにサラダくらいは作るからさ」
そう言ってからまた順がシンク台に向かう。へえへえ、とやる気のない返事をしたところで水輝は腰を上げた。順も気配には気付いたのだろう。特に何も言わない。水輝はそのまま玄関に向かって内側からドアを開けた。鍵を開けようとしていたのだろう。玄関の向こうに立っていた克人が驚いたような顔をしている。
「おかえり。でもって邪魔してるぞ」
「さ、沙耶さん!? あっ。順様もいらっしゃるんですねっ」
嬉しそうに笑って克人が部屋に駆け込む。子供みたいだな、と苦笑しつつ水輝はキッチンに戻った。鞄を背負ったままの克人が嬉しそうに順に挨拶をしている。順はレタスをむきながら克人に笑顔で応えていた。
着替えを済ませた克人が懸命に順の手伝いをする。水輝はそんな二人の姿をぼんやりと後ろから眺めていた。どうやら克人は料理の経験があまりないらしく、事あるごとにささやかなことを面白がっている。そんな克人をまるであやすように順が受け答えする様を見て水輝は何気なく言った。
「何か、親子みたいだな」
するとシンク台に向かっていた二人が同時に振り返る。
「ある意味、そうなんじゃないのかなあ。いちお、克人ってばオレと都子のナニを合成してあるわけだし」
軽く応えた順を水輝は絶句して見つめた。それから慌てて克人に目をやる。克人はにこにこと嬉しそうに微笑みながら順の言葉に頷いている。
「都子……なのか」
「そ」
気楽に頷いた順が水輝の前に大きなサラダボウルを出す。綺麗に盛り付けられたサラダと順とを水輝は驚嘆の目で見比べた。
「だってお前、都子は」
そこまで言って水輝は口を噤んだ。不思議そうに見ている克人の視線に気付いたからだ。順は水輝の動揺に気付いているのかいないのか、いつもの調子でへらへらと笑っている。
都子と順はかつて風龍神の死体から人工的に作り出された存在だ。木村の血統の者が二人を残して全て絶えた時、順は自動的に当主になった。そして都子はそんな順の戦う人形となった。人の手で龍神として作り出された都子は、実際には龍神にはなれなかったのだ。都子は敵を蹴散らす力は有していたが、その力は自分の意志ではどうにも出来なかったのだ。
フェイクなのだとかつて立城は都子のことを言い表した。よく出来た模造品だ、と言われて水輝も納得した。確かに二流以下の龍神より都子は強大な力を持っていた。だがその力は結局のところ、暗示によってしか発動しない。都子は龍神を斬る道具にされたのだ。
順が自分や都子を用いて新しい何かを生み出していたことは知っている。だがまさか両者の力が合わさったものが存在するとは水輝も思わなかったのだ。
「そーんな難しく考えるようなことでもないっしょ。ほら、これドレッシングね」
考え込んでいた水輝の前に順が硝子の器を出す。水輝はああ、と呟くように応えて器を手に取った。そこではたと気付く。
「あれ? これ、作ったのか?」
ドレッシングの入った器をサラダボウルの上で傾けようとしていたところで水輝は手を止めた。すると順が苦笑して当り前でしょ、と言う。
「で、これもね。はい」
出されたグラスをしばし見つめてから水輝は顔を上げた。細身のグラスにはオレンジ色の飲み物が満たされている。アルコールの独特の香りをかぎつけた水輝は思わず顔をしかめた。
「酒か?」
「だーから、水輝ちゃんはメシだけ食いに来た訳じゃないっしょ?」
笑いながら言って順がさっさとシンク台に向き直る。水輝はしばしためらってからまずサラダを食べ始めた。添えてあったフォークで黙々とサラダを食べる間に順がまた振り返る。
「じゃーん。刺身に天ぷら!」
そう言いながら順が大きな皿を次々にテーブルに乗せる。そうしているうちに今度は克人がよいしょ、とテーブルに皿を乗せる。こちらは鯵の塩焼きだ。次々に並ぶ料理を見て水輝は思わず感嘆の声を上げた。
克人も帰ってきましたw
嫌な予感しかしませんw