エロシーンはありません。
「まだまだあるからねー。楽しみにしててよ」
かぼちゃの面取りをしながら順がにやにやと笑う。水輝はその手元とテーブルを見比べて素直に頷いた。そんな水輝の前に克人が割り箸を置く。水輝は代わりに克人に空になったサラダボウルとドレッシングの器を重ねて差し出した。すると克人が慌てた声を上げる。
「えっ! 沙耶さん、もう食べちゃったんですか!?」
「うわっ。マジで!?」
今度は順が慌てた声を上げて振り返る。水輝は早速、割り箸を手に取って刺身の皿を引っ張り寄せた。
「悪いか?」
「はやっ!」
楽しそうに笑う順に水輝はふん、と鼻で笑ってみせた。ここまで来て遠慮する気はないぞ、と答えて水輝はさっさと刺身を食べ始めた。綺麗に盛り付けられた刺身を次々に食べながら何となく左手にグラスを取る。何気なくグラスの中身に口をつけたところで水輝はぴたりと手を止めた。
何故か懐かしい気のする不思議な香りがする。あれ、と呟いて水輝はまじまじとグラスの中を覗きこんだ。オレンジベースの酒はジュースのように甘い。どうやって作っているのかは判らないが、まるでかき氷のような触感がある。
「なあ、これってオレンジジュースなのか?」
中身を少しだけ舐めるようにして口にした水輝は順の背中にそう声をかけた。包丁を握ったままで順が振り返る。危ないな、とぼやいてから水輝はグラスの中をもう一度見た。
「あれ? 気に入らない? 甘くて飲みやすいかと思って作ったんだけど」
順が不思議そうに首を傾げて言う。順の言う通り、確かに飲みやすい。水輝はふうん、と呟いてもう一度グラスに唇をつけた。細かい氷状のそれは口に入ってすぐに溶けてしまう。
「かき氷みたいで美味いけど……」
これってオレンジというよりは何かの花じゃないのか。そう呟くように訊ねて水輝はまた刺身を食べ始めた。ある程度冷めたところで今度は天ぷらに手を伸ばす。どうやら天つゆも順の手製らしい。添えられた大根おろしを乗せてなすの天ぷらにかぶりついたところで水輝は慌てて口を押さえた。意外な熱さに焦ってグラスを取る。
「うわっ。もしかして水輝ちゃんって酷い猫舌?」
よほど慌てた水輝に驚いたのか、順が真顔で問う。グラスの中身を一気に空けてから水輝はほっと息を吐いた。かき氷のような触感で助かったかも知れない。
「くそう。油断した」
しかめっ面で水輝は箸に残っていたなすの天ぷらを注意深く食べた。唇をすぼめて細い息を天ぷらに吹きかける水輝に苦笑し、順が空になったグラスに新しく酒を注ぐ。順がシェーカーから直にグラスに注いでいるのを見て水輝は納得した。どうやら酒に弱い自分のために順がわざわざアルコール度数の軽いものを作ってくれているようだ。道理で一気に飲んでも酒が回らないはずだ。
それから水輝は出されるままにひたすら食事を続けた。途中で克人が水輝の隣に座り、最後に調理を終えた順が水輝の正面に腰掛ける。
「いやあ、豪快に食ってくれたもんだね。冷蔵庫がすっからかんだよ」
順がそう言って笑いながらグラスを傾ける。テーブルの上に残っているのは鶏肉のから揚げとかぼちゃの煮付け、スパゲティの入ったサラダ、つまみ用らしいチーズやハムの乗ったクラッカーだ。水輝は手を伸ばしてクラッカーを一枚取り上げながら憮然と答えた。
「食えって言ったろ」
三杯目の酒をちびちびと飲みながらクラッカーを口に放りこむ。そこで水輝は視線に気付いて隣に座る克人を見た。克人はまじまじと水輝を見ている。
「あの、どこに入ってるんですか?」
どうやら水輝の食べた量が目の当たりにしても信じられないらしい。恐る恐るで訊ねた克人に水輝は苦笑した。克人と一緒のコロニーにいた頃、水輝は正体を隠すために人並みの食事しかとったことがないのだ。
「別に人と同じように食ってる訳じゃないしな」
久しぶりに腹が満たされたこともあって水輝は機嫌よく克人に説明した。龍神は人と同じように食事を摂ることが出来る。だが摂り方が人とは異なるのだ。
「食い物ってのは人の手に狩られた瞬間に要するに死んでしまうだろ? でも命を狩られた瞬間にその生き物の持つ生体エネルギーってのは完全に消えてしまう訳じゃない。じわじわと抜けて行くんだ」
だから自分達は食物に残っているエネルギーを摂取しているのだ、と水輝は説明を続けた。もちろん味覚もあるから不味いのはおれも嫌だが、と付け足してみる。克人が納得顔で頷きながらグラスに入った紅茶を飲む。
「まあ、水輝ちゃんは特に顕著だよねえ。オレはそこまで腹減らないもん」
へらへらと笑いながら言った順に水輝はまあなと答えた。力の摂取の仕方は龍神によってもやはり個体差がある。それに本来であればわざわざ外部から摂取しなくてもいい筈なのだ。
おれの場合は過剰に力を放出してるからなんだけどな。水輝は心の中でだけそう付け足した。
食い意地が張ってるとも言いますね!