でもエロシーンはありません。
「紫龍、紫が、青龍王との誓約に基づく義務を果たさず、その意志さえ持たないにも関わらず、一方的に誓約に基づく権利のみ求める事を認む」
そこまで言って優一郎は深く息を吸った。愕然とした顔をする紫を真っ直ぐに見つめて続ける。
「誓約の管理者として宣ずる。青龍王と紫龍、紫の間において結ばれた婚姻契約は、紫龍、紫の義務履行違反により、ただ今より無効となる。以上」
「嫌!」
優一郎が言い終わると同時に紫がそう叫んで立ち上がる。俯いて左手を右手でしっかりと握り締めた紫は悲鳴じみた声で叫んだ。
「絶対に嫌! 水輝はわたしのものなんだから!」
そう言った瞬間に紫の手の中に明るい紫色の光が生まれる。慌てたように紫が左手を見下ろす。光を放っているのは紫の左の薬指に嵌った指輪だ。嘘、と呟いて紫が嫌がるように首を横に振る。だが指輪に嵌った小さな石はあっという間に砕け散ってしまった。
「どこまでも、自分勝手な人ですね。あなたは自分だけを見て、水輝さんを見ようとしなかった」
力なくソファに舞い戻った紫に優一郎は冷ややかに告げた。砕けて散った宝石が力の形に戻って空を漂っている。優一郎は片手をそっと差し伸べて手の中にその力を集めた。美しい京紫の光が静かに優一郎の手の中に集まってくる。
返して、と掠れた声で呟いて紫がその優一郎の手に腕を伸ばす。だが届く寸前に紫の手は見えない壁に弾かれてしまう。宝石を象っていた力が紫に触れられることを拒否したのだ。
「水輝さんは誰のものでもありませんよ」
手の中に集まった光に目を落としながら優一郎は小さく呟いた。俯いていた紫が勢いよく顔を上げて憎々しそうに優一郎を睨む。殺意にも近いものを叩きつけられていることを感じながら優一郎は顔を上げた。視線で人が殺せるなら、きっと紫は自分を殺せていただろう。それほど強く殺意に満ちた視線に静かな眼差しで応えて優一郎は右手を軽く捻った。
手の上に集まっていた紫色の光が一気に集束する。そしてその光は優一郎の身体に飛び込んだ。特に取り込もうと優一郎が考えていた訳ではない。力が勝手に移動したのだ。
「それでは、強制執行に移らせていただきます」
そう言って優一郎は立ち上がった。宝石を象っていたのは水輝の力だ。言葉で聞くよりもはっきりとしている。水輝は誓約によって紫を護っていたのだろう。だが守護の力が消えた今、紫は本人が思っている以上に無防備だ。
「なっ、何をするの。どうしてわたしの邪魔をするの!」
そう叫んで紫が立ち上がって駆け出そうとする。その直前に優一郎は紫の腕を捕まえた。
「身体を改めさせてもらいましょう」
冷ややかに言って優一郎はその場に紫を乱暴に押し倒した。嫌がる紫の両腕を床に押さえつけ、馬乗りになる。嫌がって悲鳴を上げた紫の服を優一郎は力を使って一気に切り裂いた。露になった紫の左の乳房には漆黒の紋様がある。それを目に留めた優一郎は目を見張った。次いで怒りに目を吊り上げる。
「やはり罠か」
水輝は巧妙に隠しているが、左のわき腹に呪いがこめられていることを優一郎は知っていた。恐らく紫は不用意にそれに触れてしまったのだ。水輝に呪いの傷を残したのは紫翠の残留思念だ。
「嫌! 離して!」
紫が悲鳴を上げて懸命にもがく。優一郎は舌打ちをして素早く力を編んだ。力の差は歴然としているが、こうも暴れられてはろくに観察することも出来ない。優一郎は手っ取り早く力で作った縄で紫の腕を拘束した。不可視の縄の存在に気付かなかったのだろう。胴に腕をくくりつけられたところで紫が真っ青になる。
「では、局部を見せていただきましょうか?」
嗤いを浮かべて言ってから優一郎は紫の身体から降りた。嫌がって身を捩る紫の足を両手に強くつかむ。強引に左右に足を開かせてから優一郎は紫の股間を覗きこんだ。
「やめて! 離して! 嫌だったら!」
叫ぶ紫をちらりと見てから優一郎は改めて目を落とした。剥き出しになった紫の陰部を覗きこんで顔をしかめる。
「水輝さんの精を貪り、自らの糧としたのか」
水輝さんが今どんな状況にあるのか知っているだろうに。そう続けて優一郎は眉を寄せた。思っていた以上に水輝の状況は悪くなっているのかも知れない。龍神が性交によって力を分け与えるのはよくある話だ。が、どうやら紫は一方的に水輝を啜っていたらしい。しかもそれなのに胎の魂は一つも成長してはいない。胎に与えるべき水輝の精を紫が根こそぎ横取りしているからだ。
「やだってば! 離してって言ってるでしょ!」
叫んで紫が身を捩る。優一郎は苛立ちに歯軋りして紫の腕をくくりつけている不可視の縄を伸ばした。ついでに紫の足も拘束する。膝を折り曲げて足を開かせた格好でくくりつけたところで優一郎はゆっくりと顔を上げた。
「母上。このような状況を見逃していた責任は僕にもあるでしょう。しかし」
だからと言って母上の罪が消えるわけではありませんよ。凄惨な嗤いを浮かべて優一郎はそう続けた。その途端に紫が驚いたように息を飲む。だがすぐに紫は叫びを返した。
「罪ってなに!? わたしが何をしたというの!」
夫婦なんだから交わるのは当然でしょ。そう叫んでから紫が薄い笑みを浮かべる。それを見止めた優一郎は片方の眉を上げた。
「頼ってくださいって言ったじゃない。息子なんだから、助けてくれるって言ったでしょ? なのにどうしてこんなことするの」
そう言った紫の顔には薄い笑みが浮かんでいる。優一郎はじっとその笑みを見つめてから小さく笑った。喉の奥からこみ上げてきた笑いの衝動が徐々に大きくなる。優一郎の笑い声が大きくなるに従って紫の顔から笑みが消えた。
「何度、忠告しましたか? あなたは全く聞き入れなかった。自分のことだけを考えて、水輝さんを理解しようとしなかった」
しばらく笑った後、優一郎はそう紫に告げた。紫が呆然と優一郎を見上げている。どうやら驚いているらしい。それに気付いた優一郎はふと自分の髪に目をやって小さく笑った。長く美しい髪の色がいつの間にか染まり変わっている。茶を帯びていた優一郎の黒髪は無意識のうちに濃い紫色に変じていた。
ここでは紫はなかなか悪あがきをします。