あ、ここはまだエロシーンはありません。
オレンジ色の酒をシェーカーからグラスに移してさくらんぼを飾る。用意した酒を受け取った水輝が機嫌よく礼を口にするのを順は苦笑しながら聞いた。
「それにしてもこんなに飲んでるのに何で酔わないんだ?」
少しずつグラスの中身を啜りながら水輝が不思議そうに言う。それを受けた順はああ、と頷いた。
「特製だからねえ、それ。すーぐに酔って倒れてもつまんないっしょ?」
バーボンのロックを煽りながら順は笑ってそう応えた。克人には未成年だから、と紅茶を出してある。アイスティを飲みながら克人は嬉しそうに話を続けた。どうやら学校の話を喋るのが克人は楽しくて仕方ないらしい。聞いている水輝も楽しいのだろう。克人の喋るのを遮らない。
克人が主に話しているのはクラスメイトたちの話だ。中でも奈月や桜の話には水輝も興味があるらしく、もっと教えろよと時折克人を促す。どうやら清陵高校では文化祭が近いらしく、その準備に色々と追われているようだ。その辺りの話を聞くと順も無性に懐かしさを覚えた。だが順の場合は学生時代に明るい思い出が殆どない。思い出すのはいつもたった一人の友達のことだけだ。
「あれ? もしかして料理、まだあった方がいいかなあ」
いつの間にか空になった皿を見つめて順はそう言った。どうやら飲みながら食べているうちに平らげてしまったらしい。サラダも煮付けも残っていない。
「あー、別にいいんじゃねえの? おれは気にしないけど」
「いや、あのね。水輝ちゃんはたらふく食べてるだろうけど」
苦笑しながら応えてから順は克人を見た。椅子の上に行儀良く正座している克人が慌てたように首を横に振る。
「ボ、ボクもたくさん頂きましたから」
克人がそう言ってから視線を彷徨わせる。薬を飲んでいないために龍神の気に当てられているのだろう。しかも今日は順だけではなく水輝もいるのだ。克人にとってはご馳走を目の前に出されてお預けを食らっているようなものだ。
「そいえばさあ。紫ちゃん、オレにちょうだいよ」
へらへらといつものように笑いながら順はそう言った。すると水輝が渋い顔をする。またかよ、と呟いてから水輝はグラスの中身を半分ほど飲んだ。酔い易い水輝にしてみればかなり乱暴な飲み方だ。
「だからな。何度言われても頷くわけ、ねえだろうが」
「ちぇーっ。ケチ」
唇を尖らせて言った順にざまあみろ、と水輝が舌を出す。そんな水輝に笑ってから順はちらりと壁の時計を見上げた。午後六時。時計の針を読んでから順はよいしょ、と腰を上げた。中身を干してグラスを流しに突っ込む。もう飲まないのか、という不思議そうな水輝の声に苦笑で応えて順は克人に顎をしゃくった。
「お風呂。入っといで」
「え?」
克人が目を丸くして順に声を返す。順はいいから、と笑って克人に手を振ってみせた。困惑した面持ちをしていた克人はだがすぐに椅子を降りた。差し出された紅茶の残ったグラスを受け取って順はキッチンを出て行く克人を見送った。
「もう寝るのか? 幾らなんでも早いだろ」
「んーにゃ。早くないよ。時間通りだもん」
そう言いながら順は腕の時計に目を落とした。デジタルの時計は水輝が酒を口にした時点でストップウォッチに切り換えている。正確に一時間を測ったところで順は水輝にのんびりと声をかけた。
「ちょっと水輝ちゃん。立ってごらんよ」
「は?」
「いいから」
促した順に怪訝な表情をしつつも水輝が立ち上がろうとする。テーブルに手をついて腰を上げた途端、水輝の身体がその場に沈む。慌てた声を上げた水輝を順は笑いながら見下ろした。
「あれ?」
キッチンの床に座り込んだ水輝が目を丸くしている。やっぱりね、と笑って順は水輝の手を取って引き起こした。
「足にきたんでしょ」
「うわ、酔ったつもりなかったのに」
照れたように言った水輝を横から抱えるように支えて順はゆっくりと歩き出した。悪い、と詫びて水輝が順に合わせて足を出そうとする。だが足に全く力が入らないらしい。体重を片足に乗せ変えようとした水輝が途端によろける。
「もう。無理しないようにね」
そう言ってから順は軽々と水輝の身体を両腕に抱え上げた。焦った声を上げて水輝が慌てて順の腕から降りようとする。だが殆ど力が身体に入っていないために抵抗にすらならない。
「おい! 降ろせよ!」
「だーめ」
笑いながら言って順はさっさと水輝を寝室に運んだ。もがいている水輝をそっとベッドに降ろす。横たわった水輝は低く呻いて額を手で覆った。順はドアの傍に戻って部屋の極力絞って部屋の明かりを灯した。部屋が橙色の柔らかな照明に満たされる。
「何でかな。頭ははっきりしてるんだけど」
そう言いながら額から手を下ろした水輝を順は人の悪い笑みを浮かべてみた。照明の色のせいだけではない。水輝の頬はほんのりと赤く染まっている。だが本人にその自覚はないらしい。
お姫様抱っこ。