あ、でもエロシーンはギリ直前かも……。
「そうでもないんじゃないのかなあ」
順はベッドの傍に戻ってその場に屈みこんだ。ベッドの下に付いている引出しの一つを引っ張り出す。引出しが床を滑る音に驚いたのだろう。水輝が身を起こそうとする。だがどうやら全身に回っているようだ。仰向けになって肘をついたところで動けないでいる。そんな水輝を見やってから順は引出しから黒いアタッシュケースを取り上げた。
「ちょっと待て……まさかお前」
水輝が震える腕をベッドにつきながら剣呑な声を出す。順はあはは、と笑いながら腰を上げた。足で引出しを戻してからアタッシュケースをベッドに乗せる。
別に水輝に恨みがある訳ではない。これまでに敵対したこともあるが私怨はない。誰かにこれまでの水輝との関わりを話したら、きっと恨んでいるだろうと言われるかも知れないが、順にはそんな気持ちは少しもないのだ。
ずっと昔に死んだ風龍神も恐らく水輝を恨んではいなかったのだろう。火藍を好いていたために勘違いされがちだが、風龍神は恨みや憎しみを抱いて死んだのではない。例えあの頃の火藍が水輝しか見ていなくても、それでも風龍神は誰も恨んでなどいなかったのだ。
そんな風龍神の前に立ちはだかった水輝が言ったことを、順は最近になって漸く思い出すことが出来た。風龍神の死体から作られたためにか、多くの記憶を受け継ぐ羽目になった順にもそれだけが判らないままだったのだ。
お前はわたしではない。だからやり直しも利くだろう。魂を一時、冥界に預けるだけだ。
あの頃の水輝は女性体をとってはいたが、今の水輝に意識がかなり近かった。水輝は許せ、と風龍神に詫びた。刀に貫かれ、地面に倒れたまま風龍神には微かに笑った。お前が気にすることじゃないと言いたくて、でも口にする前に命が尽きたのだ。
よいしょ、と呟いて順はアタッシュケースの蓋を開いた。水輝が身体に懸命に力を入れようとしているのが見て取れる。だが震える手がシーツを滑っては僅かに浮いていた水輝の身体がベッドに沈む。無理しない方がいいよ、と苦笑して順はアタッシュケースの中を探った。プラスチックのケースを開いて中から50ccの注射器を取り上げる。順の手元を見ていたのだろう。水輝が焦った声を上げる。
「ちょ、ちょっと待て! 何する気だ!」
「はーい、水輝ちゃん。注射の時間でしゅよー」
おどけて言いながら順はアタッシュケースに並んだアンプルを一本取り出した。十字に薄い切れ目の入ったゴム栓に注射器の先を押し込む。針のない注射器にアンプルの中身を全部吸い込んだところで順は水輝に向き直った。空になったアンプルをアタッシュケースに戻し、ベッドに膝で乗る。
「待て!」
荒い声を上げて水輝がじりじりと逃げようとする。だがろくに身体が動かせないのだ。順は右手一本で簡単に水輝を捕まえることが出来た。水輝が歯軋りをして右手をゆらりと上げる。力の流れを感じ取った順は強引に自分の導いた力で水輝のそれを抑えこんだ。反動を食らった水輝が顔を歪めて苦しそうに呻く。
「っぶないなあ。そんな状態で力なんて撃たないでよ。調整もろくすっぽ出来ないんでしょ?」
しかめっ面で言いながら順は片手で手早く水輝のジーンズに巻きついていたベルトを外した。続いてジーンズのボタンを外してファスナーを降ろす。そこで順は訝りに眉を寄せた。半ばまで勃起した水輝のペニスが下着を押し上げてはいる。が、計算ではこの時点で水輝はかなり欲情している筈なのだ。
「あれ? もしかして水輝ちゃん、何か仕込んでる?」
疑いの眼差しで見ながら順は片手でするすると水輝の着ているものを解いていった。ジーンズを緩めた次にシャツのボタンを上から外していく。
「ばか! 止せ!」
変態か、てめえは。そう喚いた水輝に順はふふん、と笑ってみせた。
「今更なーに言ってんだか。オレが変態なんてわかりきってるっしょ」
見えにくいなあ、とぼやいて順は右手の指を額に押し付けた。硝子の砕けるような音と共に順の髪と瞳が紅に染まり変わる。力を解放した順の目に水輝の身体に残る傷痕がはっきりと見て取れる。さっきまでは傷一つなく見えた水輝の身体には無数の傷痕があった。順は水輝の首の根元から剥き出しになった腹までの傷を一つずつ確かめるように見つめた。その中で一箇所だけ不気味な闇色をしている部分がある。だがそこに傷らしいものはない。
「触るな!」
それまで苦しそうに呻いていた水輝が弾かれたように動く。順は急に水輝が動いたことに驚いて慌てて身体を引いた。水輝は順が触ろうとしていた左のわき腹を押さえて身体を丸めている。
「ははあん。それが原因かあ。確かにそれは邪魔するよねえ」
だって面白い筈ないもの。気軽に笑って順は水輝の顔を覗き込んだ。かたく身体を丸めていた水輝が鋭い目を順に向ける。だがそれが精一杯だったらしい。順が手を伸ばして再び水輝の身体を仰向けに動かしても、水輝自身は抵抗はしなかった。
短く浅い呼吸をしながら水輝がのろのろと手を上げようとする。もう、と呟いて順は水輝の足を膝で踏みつけた。水輝に跨って両手を膝で押さえてから改めて左手の指先で左のわき腹に触れる。
「まずは死に損ないに先に進呈しようかな。ちょっとむかついたし」
楽しく笑って順は右手に握った注射器の先を水輝のわき腹に押し付けた。相当苦しいのだろう。止せ、と声にならない声で水輝が呟く。器の中で乱暴に力が暴れているのだから無理はない。しかも暴れているのは自分の力ではない、他者の思念だ。左手の指先で水輝の器の構成を読みながら順は弾んだ声で告げた。
「これねえ。酒に盛った方とは違って、原液なんだよ」
水輝の器の表面の一部に力をかけて解く。指先に力をかけながら順は右手を押した。針のない注射器の先端が音もなく水輝の腹に潜る。その瞬間、水輝は目を見張って身体を硬直させた。その直後、水輝が絶叫する。順はじりじりと注射器のピストンを押していった。
説明が入るので読みづらかったらすみません(汗)