このエピソードで七章は終わりです。
深い眠りから意識を浮上させ、薄く目を開ける。祐はしばらく薄目を開けたままじっとしていた。ぼんやりとした頭で何がどうなったのかを考えてみる。隣に柔らかな温もりを感じ取ったところで祐ははっと目を開いた。祐の隣で穏やかな寝息を立てているのは渚だ。
水輝を想いながら自慰をしていたところに渚が来たのは覚えている。渚は祐の意識が入り込んでいたヒューマノイドの機体に力を注いだ。だが交わるうちに二人とも夢中になってしまい、一緒に眠ってしまったらしい。祐はそれだけのことを思い出して小さく息を吐いた。
「あーあ。消えられなかったのね」
そう呟いて祐は静かに身を起こした。よほど疲れたのだろう。渚は多少、ベッドが揺れても起きる気配はない。
「誰が消えるだ。誰が」
不意に背後から声が聞こえてきて祐はびくりと身を竦めた。慌てて振り返った祐の視線の先には水輝と優一郎が立っている。
「み、水輝さんっ?」
祐は真っ赤になって慌ただしく部屋を見回した。どうやら二人は空間を跳んで直にこの部屋に入ってきたらしい。ドアは閉まったままだ。そのことを確認してから祐は改めて自分が凄い格好をしていたことに気がついた。ブラウスは引き裂かれているし、スカートも無残に破れている。その上、ブラジャーはどうしようもなくずれて胸は露なままだ。
「まあ落ち着け。とりあえず」
皮肉な笑みを浮かべて水輝が言う。それから水輝はふと気付いたように優一郎を見た。何故か優一郎が腕に服を抱えている。水輝は断りなくそれを優一郎から奪って祐に差し出した。
「あ、ありがと。って優一郎、あなたは関係ないでしょ? さっさと出て行ってよ!」
祐は動揺してそうまくし立ててから慌てて胸を腕で隠した。すると優一郎が肩を竦める。
「確かにお邪魔虫のようですから」
そう言って優一郎がさっさと部屋を出て行ってしまう。それを見届けてから祐は慌てて言った。
「水輝さんっ! こっそり渚さんを観察しない!」
そう指摘しつつ祐は水輝が捲り上げていた渚のスカートをきっちり戻した。え、と残念そうな声を上げた水輝を睨んでから、祐はベッドの足元に畳んで置かれていた毛布を引っ張った。静かに渚の身体にそれをかけてから漸く一息つく。
「もう、本当に油断も隙も無いんだから」
「いや。お前の方は丸出しだがな」
きっぱりと指摘されて祐は慌てて胸を覆い隠した。だがすぐに思い直して手を下ろす。別に優一郎がいないなら特に隠す必要はないのだ。
「水輝さんになら、見られてもかまわないし」
真っ赤になりながら祐は何気なく自分の胸に目を落とした。そこで慌てて乳房をつかむ。手で感触を確かめてから祐は悲壮な声を上げた。
「って胸、小さくなってる!」
「いや。お前の胸は最初からそんなもんだったろ」
またきっぱりと指摘した水輝を祐は拗ねた顔で見た。水輝はベッドの傍に立ったままのんびりと煙草をくゆらせている。
「しっかり、きっちり定着してしまったみたいね」
後ろめたいものを感じつつ複雑な表情になった祐に水輝が苦笑した。煙草を挟んだ手で渚を指し示してから水輝が言う。
「龍神の童貞を切るってのは滅多にないチャンスだぞ。渚に感謝しろよ」
まあ、渚も楽しかったらしいから問題ないだろうが。そう付け足した水輝を凝視してから祐は慌てて隣に眠る渚を見た。渚はまるでこちらのことが判っていないのか、眠ったままだ。
「渚さんの、見たのね!」
祐は怒りに目を吊り上げてそう叫んだ。すると水輝が途端に慌てはじめる。
「い、いや、まあ、見たって言うか……あの、おれも男なんだから、少々あんなもん見たところで別に」
動揺の色を露にしながら言った水輝を祐は鋭く睨んだ。
「ほんとに助平なんだから」
祐はふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。水輝がそんな祐に困ったような顔で笑う。
「まあ、否定はしないが」
でも女の方のは見えなかったぞ。ついでのように付け足した水輝を祐はまた睨みつけた。しばし睨んでから祐はふと真顔になった。
「水輝さん。それであたしをどうする気? 水輝さんを嵌めて、紫さんを木村に売ったのはあたしよ」
「そうだなあ。どうするかな」
のんびりと言って水輝がその場にしゃがみ込む。ベッドの縁に腰を下ろしていた祐の正面にしゃがんだ水輝が手を伸ばす。両手を取られたところで祐は緊張に身を強張らせた。
「あたしは水輝さんの妻だった紫さんに嫉妬してたの、ヤな女でしょう? 生かしておいたらろくな事にならないわよ!」
「そうでもないんじゃないか?」
まくし立てるように言った祐に水輝がさらりと返す。祐はかたく閉じていた目を開けて慌てて水輝を見た。水輝の顔には柔らかな表情が浮かんでいる。
「感情は力になる。激情は特に強い力と化す。だがだからと言って全ての感情が悪って訳でもないだろう? まあ、祐が嫉妬してたってのを信じれば、おれはそう言い返すかな」
苦笑混じりに言われて祐は唇を噛んで俯いた。そんな祐の手を大事そうに水輝が両手に包む。
「あたしだったら、水輝さんにヘンな負担をかける真似はしない。あたしだったら、吉良瀬の当主としてもっと上手くたちまわれる。あたしのほうが水輝さんのことをずっと理解してる。そんなことばかり考えていたわ」
これが嫉妬じゃなかったらなんなのよ? 祐は泣きそうな顔でそう続けた。水輝がそうだなあ、と呟いて天井を仰いでから改めて祐を見る。唇の端に煙草をぶら下げたまま、水輝は苦笑した。
祐もなかなか強情というかw