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水輝と暴れる祐とを見比べて優一郎は深々とため息を吐いた。祐は水輝に羽交い絞めにされてもがいている。困ったような顔をする水輝の横には申し訳なさそうな顔で渚が佇んでいる。部屋のドアを叩いて現れた三人を優一郎は仕方なく部屋に迎え入れた。
聞けばヒューマノイド用の専用ベッドも破壊されてしまったらしい。どうやったら壊せるのだろう、と考えていた優一郎に渚がしおらしい声でごめんなさいと詫びる。
「いやよ! 水輝さんならともかく、優一郎なんかに!」
優一郎の私室に入ってもまだ祐は暴れている。そんな祐を羽交い絞めにした水輝が呆れ顔で言った。
「だからおれは機械は苦手なんだって言っただろう。他に誰にみてもらえるんだよ」
それを聞いた優一郎はこっそりとため息を吐いた。そういえばずっと昔、由梨佳が愚痴を零していたことがある。何度も残業を強いられて大変だったのだという由梨佳の話を優一郎は今さらながらに思い出した。恐らく当時の由梨佳は水輝が壊す奈月の修理に追われていたのだろう。
「優一郎はヘンタイなんだから! あたしが動けない間にヘンなことするに決まってるわ!」
唾を飛ばす勢いで祐が喚く。そんな祐と優一郎とを交互に見つめて渚がごめんなさい、ともう一度詫びる。水輝は困り果てているのか助けを求めるように優一郎に視線を向ける。三人をとりあえず部屋の奥に促しながら優一郎は祐を振り返った。
「実作業は斎姫にさせることにする。僕だってきみの身体を弄るのは気が進まないんだ」
呆れた顔で言ってから優一郎は部屋の奥に設えられたメンテナンス台を顎でしゃくった。デスクと並べて置かれた台の上に乗っていた斎姫がするりと降りる。手早く服を身に着けたところで斎姫は三人に丁寧にお辞儀をした。
「斎姫さんの体験したことは、すべて優一郎に筒抜けじゃないの? 優一郎、あなたに提案があるの。悪い話じゃないと思うわ」
最初は疑いをこめて、次に口調を明るいものに変えて祐がまくし立てる。優一郎はしげしげと祐を見つめてから斎姫に軽く手を振ってみせた。すると斎姫が深々と一礼して部屋から出て行く。
「吉良瀬トータルソリューションに所属するヒューマノイドのマスター権限をあたしに寄越しなさい」
きっぱりと言った祐を訝りの目で見ながら水輝が唸るように言う。
「それとこれとどう関係するんだ?」
そう言ってから水輝は眉を寄せたまま渚と目を合わせた。渚も首を傾げている。優一郎は腕組みをして祐に向き直った。
「確かに、それはいいアイデアかもしれませんね」
そう優一郎が同意すると祐がぱっと明るい表情になって水輝を見上げる。もう祐に暴れる気がないと判ったのだろう。水輝は顔をしかめて祐から手を離した。
「水輝さん。ヒューマノイドの総人数は既に百人を超えているわ。それを優一郎ひとりで維持できると思う?」
腰に片手を当て、もう片方の手の指を水輝に突きつけながら祐がしたり顔で説明をし始める。うろたえる水輝と祐を余所に優一郎はにこやかに渚をソファに促した。いつもは優一郎に噛み付くばかりの渚も相当反省しているのだろう。大人しく優一郎に従って応接セットに歩み寄る。
「い、いや、出来るか出来ないかって訊かれてもおれはよく判らないし」
困ったような顔で言って水輝がちらりと優一郎を見る。その視線にこめられた助けてくれという意味を理解してはいたが、優一郎はあえてそれを無視した。メイドの梨恵に四人分の茶を準備するように通信を入れてから渚の隣に腰掛ける。
「優一郎はヒューマノイドを序列化し、命令系統をシステム化することで対応したの」
説明を受けた水輝がぎこちなく天井を仰ぐ。だがすぐに水輝はぽん、と手を叩いて顔を戻した。
「要するに使い魔みたいなもんか?」
どうも水輝の頭の中には機械やそれにまつわるシステムの話がストレートに入らないらしい。そのことを理解して優一郎は苦笑した。渚がはらはらとそんな優一郎と水輝とを見比べる。
「何に近いかと言えば……そうね。後宮とかハーレムとかわかるかしら?」
「ああ。ハーレムは判る」
悪戯っぽく笑んだ祐に水輝がさらりと答える。そこで渚の顔がぴきりと強張った。うろんな眼差しで水輝を見る渚が肘あてを握る。爪が食い込んで嫌な音を立てたその部分を優一郎はのんびりと眺めた。
「ハーレムで言えば后の役割を果たしている者とか、女官長にあたる役割を果たしている者とかいるわけ」
「あー、なるほど」
優一郎は平然と答える水輝の思惟を垣間見て思わず吹き出しそうになった。道理で渚が鋭い目で水輝を睨んでいる訳だ。水輝はかつて立城に買い与えられたマンションの部屋にそれらしいものを作っていたらしい。配下の水龍神をこき使って処女を溜め込んだのだ。そして処女血を食った女は追い出してまた新しい処女をどこかから調達する。水輝の脳裏に無意識に浮かんだその光景を渚も垣間見ているのだ。
「使い魔が主に逆らえないように、ヒューマノイドもマスターに逆らえないわ。ヒューマノイドの九割以上が優一郎のお手つきよ」
「へえ」
祐の言葉を受けた水輝が優一郎を見る。優一郎は水輝の視線に応えて肩を竦めてみせた。その横で渚が我慢出来なかったらしく勢いよく立ち上がる。ノックに応えた優一郎の許に梨恵が茶を運んでくる。テーブルにティセットを置く手伝いをしつつ優一郎は渚を目で見送った。
「ちょっと待ちなさい! 何であなたがそういうものを理解出来るの!」
凄まじい剣幕で渚が水輝に詰め寄る。頭を下げた梨恵に目配せしてから優一郎は四人分の茶をポットからカップに注ぎ分けた。渚に寄られた水輝がのんびりと頭をかく。
「そりゃ、おれだってそういうのの一つ二つは抱えてたし」
そこまで言ってから水輝がなあ、と優一郎に話を振る。渚のおかげで矛先が逸れたとばかり思っていた優一郎は慌ててポットをテーブルに戻した。
多分、これ、祐は裸の状態な気が……w