エロシーンはありません。
「ヒューマノイドの集団を維持していくにはこれしか方法が」
「そうだよなあ。自分でやる方が手っ取り早いし、そのために集めてたしなあ……」
何かを思い出しているのか天井を見ながら水輝がぼそりと呟く。それを聞いて目を吊り上げた渚を余所に祐がふふん、とせせら笑う。
「まあ、ハーレムは男のロマンだし。あたしはお堅いことは言わないわよ」
今度は渚は笑った祐に詰め寄った。
「そんな、じゃああなたも彼の行為を許せるの!?」
そう叫んで渚がびしりと優一郎を指差す。行為って、と呟く水輝を余所に渚は続けて言った。
「だってそんな、好きとかそういう感情があって抱くわけではないのでしょう?」
「いちいちそんなもん、気にしてられるかよ。やりたいからやるし、食いたいから食うんだろ?」
少し機嫌悪く言ってから水輝がため息を吐く。するとまあまあ、と割って入った祐が真面目な顔で渚に言った。
「水輝さんは水輝さんの思うとおりに行動すべきよ。あたしなんかが口を出すことじゃないわ」
「じゃあ誰が水輝を叱るの」
渚も真剣な面持ちになって祐に言い返す。すると今度は祐が押し黙った。
「確かに水輝には力があるし、属性を考えたら不用意に止めるべきではないかも知れないわ。でも絶対に間違えないという保証はないのよ?」
あの時だって。そこまで続けてから渚が唇を引き結んで黙り込む。間近でやり取りしていた二人をうんざりした面持ちで見てから水輝は深々とため息を吐いた。
「今はおれに対する態度の話をしてる訳じゃないんだろ?」
話が大幅に逸れてるぞ、と吐き捨てるように言ってから水輝は大股でソファに近付いた。身軽にソファの背を飛び越えてから身を投げるようにして座る。優一郎は隣に腰掛けた水輝に茶の満たされたカップを押し出した。
祐が何かを渚に言いかけて口を開き、だが何も言わないままで唇を結ぶ。そんな祐をじっと見つめる渚も黙ったままだ。二人を振り返って見てから優一郎はそっとため息を吐いた。
しばしの後、祐は肩から力を抜いて苦笑した。
「そうね。あたしの維持をどうしていくか。なぜ、それが吉良瀬トータルソリューションを寄越せって話に繋がるか、それを説明していたのよね」
そう言いながら祐が二人の腰掛ける応接セットに近づく。渚もそんな祐に続いてソファに腰掛けた。水輝は完全にふて腐れてしまったのか、仏頂面で茶に息を吹きかけている。
「流石の優一郎も、ロボット研究会に加えて吉良瀬トータルソリューションに所属するヒューマノイドまで、管理するには限界を感じたのでしょうね。吉良瀬トータルソリューションに所属するヒューマノイドには特徴があるの」
優一郎からポットをさらって空のカップに紅茶を乱暴に注ぎ分けながら祐が言う。優一郎はどうぞ、と渚に紅茶の満たされたカップを押し出した。会釈をした渚がありがとうとそれを受け取る。
「特徴、ねえ」
さして興味もないのか平坦な声で水輝が言う。ほんの僅か、祐の目に傷ついたような光が宿ったが、瞬き一つでそれは消えた。
「吉良瀬トータルソリューションに所属するヒューマノイドには同性愛的性向を持つ者が選ばれているわ。大抵はバイセクシャルだけど、中には優一郎にさえ手を触れさせない真性の娘も居るそうね」
そう言って祐がにやりと笑って優一郎を見る。優一郎は少しだけ眉を寄せてからすぐに平静の顔に戻った。特に言われて困るようなことは何もしてはいない。その方が管理がより楽だったというだけの話だ。
「何だ。要するに祐は男の性器が欲しいって話なのか? だからそれを込みで優一郎に機体を修復しろって話か?」
漸く丁度いい温度になったのか水輝がそう言って慎重に紅茶を啜る。
「違うわ。あたしには渚さんみたいな趣味はないもの。吉良瀬トータルソリューションは優一郎の手を離れて、単独でも存在できるような構成になってるってことを言いたいの」
首を横に振ってからそう言った祐を渚が焦ったように見る。水輝はカップを唇に触れさせたまま上げた目をすぐに元通りに伏せた。そんな水輝の態度を見た優一郎はさすがに訝った。どうやら水輝は特に祐に冷たくしているつもりはないらしい。思惟は閉じていて伺いようがないが、全く別のことを気にしているのではないだろうか。
「ほーん。渚のことはまあこの際置いとくとしてだな。だからつまり何が言いたいんだ? 祐は」
大体、ここにはお前の機体を修復してもらいに来たんだろうが。低い声でそう付け足して水輝がカップをテーブルに戻す。その手で煙草を引き寄せてから水輝は指を鳴らした。唇に咥えた煙草の先に指を近づける。指先に灯っていた青白い小さな炎で煙草に火を点けてから水輝は美味そうに煙を吸い込んだ。
「この身体はもともと吉良瀬トータルソリューションの備品よ。ヒューマノイドの整備担当者が存在しているの。だから、わざわざ優一郎に身体を見てもらう必要はないわ」
きっぱりとそう言った祐をしばし無言で見つめてから水輝は天井を仰いだ。煙を細長く天井に向かって吐いてから唐突に立ち上がる。
「機体の修復が済んだら戻る。渚。後は頼んだ」
咥え煙草でソファから離れた水輝を優一郎は目で追った。渚がちょっと、と困惑した面持ちで水輝に声をかける。だが渚はすぐに納得したのかそれ以上は何も言わなかった。
「直るまでどのくらいかかる?」
「修理には半日とかからないでしょう。ですけど、早急なマスター登録が必要な状況には代わりありません。こんな口論をしている暇があるなら、有無を言わさず修理をしてマスター登録するべきでしたね」
顔をしかめて優一郎は応えた。水輝が反応をしているのはこことは違う場所の何かだ。それが何かははっきりとは判らないが、水輝はこれからそれを撃ちに行く気なのだろう。
戸惑う祐にちらりと目をやってから水輝が口許に薄い笑みを浮かべる。
「帰ったらたっぷり遊んでやるから、今は大人しく優一郎の言うことを聞け。それと渚。桜の手当てをして奈月を追わせろ」
すらすらと言ってから水輝は自分の左胸に手をあてがった。直に器に手を突っ込む気なのだ。慌てて立ち上がった渚が駆け寄る前に水輝が鋭い息を吐いて手を胸に突き入れる。ほどなく水輝が器から取り出したのは漆黒の宝珠だった。
ここでさくっと直していればややこしいことにならなかったと思う……。