股間がどーとかだけは出てきます。エロではないです。
「他の誰かに頼む訳にはいかないの? 無茶よ。幾らなんでも」
よろけた水輝を支えながら渚が小声で言う。だが優一郎の耳にはしっかりとそれが聞こえていた。
「水輝さん。僕が動きましょう。彼女の修理は僕でなくてもできますが、マスター登録はできませんから」
そう言って優一郎は立ち上がった。だが水輝が鋭い目で優一郎の動きを制する。
「あ、あたし……」
真っ青になった祐が呟く。優一郎はちらりとそちらを見てから水輝に目を戻した。
「お前には無理だ。属性が近すぎて巻き込まれる。それにこれはおれの仕事だ」
抑揚のない声で言ってから水輝は宝珠を握った手を強く振った。一閃した手の中で黒宝珠が大きな鎌に変質する。
「水輝さん、それでは」
「水輝さんがんばって来てね。あたし、大人しく待ってるから」
優一郎の声を遮って言った祐がにっこりと笑う。優一郎は慌てて祐を見た。それから急いで水輝に目を戻す。水輝は渚に何事かを耳打ちしてから祐に笑みかけた。長い鎌の柄を肩に乗せて言う。
「心配するな。すぐに片付けて戻る。マスター登録は修復後じゃないと出来ないんだろ?」
優一郎は自分に話が振られたことに気付いて慌てて頷いた。
「半日が限度で、痛っ!」
唐突に向こう脛に強い痛みを感じて優一郎は思わず屈みこんだ。素早く身体をずらした祐が優一郎の向こう脛を思い切り蹴飛ばしたのだ。水輝は少しの間、沈黙してから困ったような笑みを残してその場から消え失せた。
俯いた渚がソファに戻ってくる。
「だから言ったじゃない! あたしは罠だって! あたしは水輝さんの負担になんかなりたくないの!」
隣に腰掛けた渚に向かって祐が悲鳴のような声で言う。だがそれでも渚は俯いたままだ。違うわ、と呟いた渚に優一郎はどういうことなのかと訊ねた。
「水輝が向かったのは、立城さんの残した力のところよ」
それを聞いた優一郎はぴくりと眉を上げた。まだ痛みの残る脛を撫でてからソファに座り直す。
「奈月さんの異変は別口なのね?」
真剣な表情で祐が問い掛ける。渚はのろのろと顔を上げて小さく頷いた。泣きそうな顔をしてはいるが泣かないように堪えているのだろう。渚が鼻をすすって咳払いする。
「タイミングが良すぎるわ」
そう言ってから渚は奈月が紫を連れ去ったのだと説明した。どうやら奈月は紫が自分で水輝の許を離れたとは思わなかったらしい。
「そうね。あたしのことも含めて、あまりにもタイミングが良すぎるわ」
思案顔で言った祐が真っ直ぐに優一郎を見る。なにか知らないのか、という意味だろう。優一郎は口許に手をあてがってソファに寄りかかった。
「水輝さんに任せるしかない。確かに、今、僕はうかつには動けないから」
水輝の精を受けた二種の珠は辛うじて落ち着いてはいる。が、下手に行動すればすぐにまた器の中で珠は暴れ始めるだろう。優一郎は苦渋の滲んだ顔で呻いた。いま、しなければならないことは祐の修復だ。
「優一郎、あなた、あれはどこにやったの?」
ふと問われて優一郎は瞬きをした。祐に言われた意味が一瞬、理解出来なかったのだ。だがすぐに思い出す。
「ああ、あの多輝に仕込まれていた結晶のことかい? あれなら、ここに」
そう言いながら優一郎は白衣のポケットから美しい紫色をした珠を取り出した。その直後、優一郎の手から祐がそれをひったくる。
「これ、もらうわよ!」
そう宣言するなり祐は紫色の珠を握った手をスカートの中に突っ込んだ。何事かと目を見張った優一郎から身体を背け、祐が俯いて歯を食いしばる。それまで黙していた渚がそんな祐の背に優しく手をあてがう。
しばしの後、祐は深いため息をついて屈めていた身を起こした。はっきり見ていなくても判る。祐は人工膣にあの珠を挿入したのだ。
「壊れててちょうど良かったわ。それに」
下腹を押さえて祐が目を細める。祐の機体は淡い紫色の光に包まれていた。
「マスター登録前だったのも幸運だったわ」
機体を包む紫色の光が一際鮮やかになる。転移する気なのだ。どこに行くつもりなのかと優一郎が問うより早く、一気に溢れた金色の力が祐の放とうとしていた力を抑え込む。
「どこに行くつもり?」
力を押し返されて呻きを漏らした祐に渚が淡々と訊く。ソファにぐったりともたれていた祐は弾かれたように身体を起こした。
「この結晶が向かいたいと思っている場所よ」
くすりと笑って祐が挑戦的に渚を見る。渚はため息を吐いていきなり立ち上がった。慌てた声を上げる祐をソファに押し倒す。
「あなたはその身体を修理してもらうのが先ではないの?」
言うが早いか、渚は祐の股間に手を突っ込んだ。喚き返そうとしていた祐がびくん、と背を反らす。幾ら壊れているとは言っても、全く何も感じないという訳ではないのだろう。
「わたさないわ!」
喚いた祐の機体を包む光が強くなる。渚も祐が力を強引に放とうとしていることに気付いたのだろう。いきなり祐の腹に手を伸ばすとへそに指を押し込んだ。強制的に電源を落とされた祐ががくん、と脱力する。意識をなくした祐の股間から渚は静かに先ほどの珠を取り出した。
「渚さん、ありがとう、ございました」
力ない声で言いながら優一郎は腹に手をあてがった。痛みに思わず呻く。そんな優一郎をじっと見つめて渚は手にしていた珠をハンカチで綺麗に拭った。小さなその珠を優一郎の前に置く。
「最初からこうすれば良かったのよね。水輝も甘いんだから」
まるで不服のように言いつつも渚の目はとても穏やかだ。優一郎は苦笑しつつテーブルの珠を取り上げた。力が発動した分、珠は輝きを帯びている。
「彼女の意識が刷り込まれてしまったようですね」
ため息を吐いて優一郎は手の中の珠を見つめた。優一郎の内部に埋め込まれた珠と反応して手の中の珠が光の脈を打ち始める。渚は深々とため息を吐いて脱力して横たわる祐を見た。
「多少ならば問題はないのではないかしら。それにそれはほんの一部、欠片に過ぎないわ」
今さら彼女を消す訳にもいかないのよ。そう呟いて渚が優一郎に目を戻す。優一郎は漸く痛みの治まった腹から手を離して屈めていた身を起こした。
「とりあえず。修理してしまいましょう。渚さん、もうしわけありませんが、開脚台の上に彼女をセッティングしてもらえませんか?」
そう言いながら優一郎は立ち上がった。渚が頷いて祐を両腕に抱え上げる。部屋の奥のメンテナンス台に祐を据えたところで渚は優一郎を見た。顔に苦痛の色が浮いている。渚にとってこの台は生き恥を晒した場所なのだろう。
「さっきの珠、早いうちに斎姫さんに預かって貰う方がいいと思うわ。あなたに二つ目は辛いでしょう?」
祐の足を開きながら渚が声のトーンを落とす。優一郎は早速、デスクについて椅子を回して祐に向き直った。検査用のスティックを祐の膣内に挿入する。デスクに乗ったディスプレイに映し出されたデータを見て優一郎は蒼白になった。
「渚さん。三十分以内に、水輝さんは戻ってこれると思いますか?」
真剣な面持ちをした優一郎を見て何事かあったと察したのだろう。渚が厳しい表情で問う。
「……どうしたの」
だが渚には画面を見たところで意味が判らなかったらしい。眉を強く寄せるだけだ。優一郎は検査用のスティックを抜いて呟くように言った。
「先ほどの行為で、魂魄にダメージが加わったようです。三十分以内にマスター登録の後水輝さんに適切な処置を施してもらわなければ……」
あんな無茶をしなければそんなことにはならなかったのに。優一郎は苦しさに顔を歪めて祐を見た。祐は電源が切れたまま、まるで眠るように台に横たわっている。
不意に目の前に何かが差し出される。優一郎は驚いて渚を見上げた。渚も真っ青になっている。差し出されているのは携帯電話だ。どうやらこれで水輝に直に連絡をとれという意味らしい。
「私は桜さんを起こさなければならないから」
それがあの人の命令ですもの。そう呟いて渚が唐突にその場から消え失せる。残された優一郎は急いで二つ折りの携帯電話を開いた。水輝の番号を表示させて通話ボタンを押す。コール一回で水輝が電話に出た。
『……何だ』
雑音の混ざった音声を聞き取って優一郎は慌ただしく祐の状態を説明した。よほど電波の届きにくい場所にいるのか、耳には絶え間なく雑音が聞こえてくる。何かを擦るような不快な音に眉を寄せ、優一郎は水輝の応えを待った。
『三十分だな。判った』
それだけ言って水輝が一方的に電話を切る。優一郎は耳から離した携帯電話を祈るような気持ちで握りしめた。
時間制限がつきましたw
タイムアタックでしょうか。