転移した瞬間に走り出した水輝は迫ってきた金色の光の矢を鎌で叩き落した。瓦礫を飛び越えて一気に矢を放った本体へと走る。
「やかましく人の意識を叩きやがって!」
憎まれ口を利きながら水輝は壊れたセメントを蹴って飛んだ。宙に舞い上がった水輝を追いかけるように金色の矢が大量に空を切る。夜の闇を切り裂くように飛んできた矢を水輝は鎌を揮って次々に叩き落した。
先の事件の折、立城は金龍神の力を引き出して禍々しい生き物を作った。その殆どは水輝が討ったが、辛うじて地中で生きていたモノがいたのだろう。それは時間を経て力を増し、こうして地上に現れたのだ。水輝は滑るように空を駆け下りて闇の中に不気味に光る大きな花に向かって走った。
巨大な花は金色の光で出来ていた。だがその色には澱みが含まれている。金と黒のまだら模様の花に向かって水輝はひたすら進んだ。走る水輝に向かって大量の矢が一斉に飛んでくる。水輝はぴたりと足を止めて怒号を上げて鎌を揮った。大きな鎌から飛んだ漆黒の雷が次々に矢を撃ち落していく。だが雷は花に届く前に弾かれて空に向かって飛んでしまう。どうやら本体であるあの花の周囲には強固な結界が敷かれているらしい。
瓦礫に囲まれたこの街は既に人が放棄した場所だ。多少、暴れたところで誰にも迷惑はかからない。花の周囲をうねる金色の蔦を睨みつけながら水輝は鋭く舌打ちした。金色の矢はあの蔦の所々についた小さな花が生み出しているのだ。
「本体が結界、蔦が攻撃ってとこか」
口の中で呟きながら水輝は瓦礫ばかりの街全体に結界を張った。水輝を中心に広がった深い青の結界が街全体を包み込む。続いて水輝は補強の意味もこめて更に二枚の結界を足した。
浄化の術は使えない。化け物じみたこの花の大元になっているのが金龍神の力だからだ。かと言って立城の力を叩きつける訳にもいかない。水輝は懸命に考えを巡らせながらちらりと花の根元を見た。
美しい京紫の輝きが見て取れる。恐らくあれを根源にして花は力を増しているのだ。飛んできた矢を悉く撃ち落しながら水輝は歯を食いしばった。矢を落とすのは出来なくはないが、このまま続けていても進展はない。
仕方ない、と呟いて水輝は地面を蹴った。飛んできた矢をかいくぐって一気に花に迫る。だがあと五メートルほどという所で水輝は花の結界に弾き飛ばされた。くるりと宙返りした水輝を大量の矢が襲う。反射的に結界でそれを防いで水輝は花から飛び離れた。
わき腹にこめられた傷がやけに痛む。水輝は目を細めて花との間合いを計りながらじりじりと横に移動した。
不意に花を取り巻いていた蔦が消える。何事かと目を見張った水輝はほんの一瞬、反応が遅れた。慌ててその場から離れようとしていた水輝の足を地面から生えた蔦が捉える。両足を取られて歯軋りした水輝は両手に鎌を逆さまに握り直した。鋭い鎌の刃で蔦を断ち切る。だが次々に蔦は地面から生えてくる。
足首に巻き付いた蔦がじりじりと足を這い上がってくる。切っても切っても生えてくる蔦に苛々しながら水輝は何気なく花に目を向けた。結界を維持する役目なのか、花には一向に変化はない。そのことにほっとしつつ水輝は足元に鋭い目を向けた。
「燃やすのが早いか」
そう呟いて水輝は炎を呼んだ。真っ赤な炎が水輝の足元から燃え上がり、蔦を焼き払う。だが同時に炎は水輝の足を焼いた。痛みを堪えて水輝は蔦から逃れた瞬間に地面を蹴った。消し炭になった蔦が地面に力なく落ちる。
だが炎に焼かれたところで蔦は減らないらしい。再び花の周囲に無数の蔦が生まれるのを見て水輝は舌打ちをした。
「どうしても魔法を撃たせたいらしいな」
殆ど声にならない声で呟いてから水輝は手の中の鎌を消した。器に宝珠を素早く戻してから顔を上げる。まるで挑発するように蔦が蠢き、地面を這って水輝の元に近付いてくる。
花の周囲に施された結界は懐かしい気配を孕んでいる。完全に同一とは言えないまでも、それは立城の気配にとてもよく似ているのだ。くそ、と呟いて水輝は呪文を口に乗せようとした。
唐突にわき腹に激しい痛みが生まれる。水輝は目を見張って左のわき腹を押さえてその場によろけた。辛うじて踏ん張った足が無意識のうちに震える。大人しくしろ、と苛立ちをこめて叱りつけてから水輝は伏せていた目を上げた。
こんなに隙だらけなのに攻撃してこないってのは、やっぱり誘ってるんだろうな。花と蠢く蔦を見つめて水輝はそう呟いた。魔や一部の歪みと比べるとこの花は妙なのだ。気配や力だけがやたらと大きいのに、攻撃パターンが極度に限られている。先の矢といい、蔦といい、水輝が十全なら大した攻撃ではない。しかも本体らしい花は全く動かない。結界維持に力を割かなければならないのかも知れないが、それにしても全く動かないというのは妙な話だ。
歪んでいるのは見て取れる。本来ならあるべきではない金色の力と、何がしかの不気味な闇の力が混ざり合っている。そして花の形をしたそれが立城の力を吸っているのだ。正直なところ、水輝にとってそれだけでも気分は良くなかった。怒り狂っている時ならその事実だけで問答無用の魔法を叩き込んでいたかも知れない。
魔法の定義は物語によって違いますよねー。
私的には人様の作品はそこが面白かったりします。
ですが自分で書いてる分については楽しむ余裕がありませんww