※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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ここから九章です。

この話を書く時に、章立てしかせずに書いたので……。
ハーメルンだと長々と下に続く感じになってるかと思います。
読みづらかったらごめんなさい(汗)

エロシーンはありません。


九章
リスタートは龍宝珠界から 1


 風呂に入ってさっぱりしたところでタイミングよく常磐が戻ってくる。いつものように昼食を作ってもらいながらラスティは薪割りをした。野外に設えられたテーブルについて不服そうな顔で茶を飲んでいるのは奈月だ。

 

「どうしても、わたしと仕合う気はないと?」

 

 不満顔で言った奈月にラスティはちらりとだけ目をやった。だがすぐに薪割りを再開する。小気味のいい音を立てて薪を二つに割ってから、更にそれをもう半分に割る。

 

「別に戦えって言われれば戦ってもいいんだけどな。俺は女に全力は出さない主義なんでな」

 

 当人が勝手に決めたルールだとは言ってもわざわざそれを侵す気にはならない。ラスティはそう説明しながら薪割りを続けた。奈月が連れて来た女性は今はベッドで休んでいる。紫という名のその女性はどうやら水輝の結婚相手らしい。その辺りの話を聞きながらラスティは作業をしているのだ。

 

「残念ながらわたしは性別を変える事ができない。この宿体は特別だからな」

「いや、男になられても。そもそも俺は奈月さんと戦う気はないぞ?」

 

 性格が今は違うとは言っても奈月は奈月だ。ラスティはさらりとそう返してから屈めていた腰を伸ばした。どうやら今日はシチューらしい。家から漂ってきたいい香りをかいでからラスティは改めて奈月を見た。

 

 前に会った時に奇妙に感じていたものの正体がこれでやっと理解出来た。奈月は本来の形をいつもは全て出している訳ではないのだ。恐らく水輝を抑制するためなのだろう。いつも表面に出ている奈月はあちこちが欠けた状態なのだ。

 

「では、手加減するならそれでも構わない。いくぞ」

 

 そう言って奈月がいきなり飛び掛ってくる。ラスティはそれを見越してひらりと身をかわした。ラスティ目掛けて走ってきた奈月がたたらを踏んで振り返る。うーん、と呻いてラスティは頭をかいた。地面を蹴った奈月が再びラスティに迫る。ラスティは身をかわしてひょいと足を出した。すると奈月がものの見事にラスティの足につまづいて転んでしまう。

 

「あのな。とりあえずスカートで暴れるのはよせ」

 

 柔らかな下草に倒れこんだ奈月にラスティは呆れた口調で言った。そもそも奈月の格好は戦うのに向いているとは思えない。

 

「んっ、ラスティさん? わたし、どうして……?」

 

 むくりと身を起こした奈月の髪が一気に染まり変わる。暗い群青色から冴えた青色に変わった奈月の髪を見つめ、ラスティは深々とため息を吐いた。

 

「久しぶりだな、奈月さん。元気だったか?」

 

 状況が理解出来ないらしい奈月にとりあえずラスティは挨拶した。下草の上にぺたんと座り込んだ奈月に手を差し伸べる。

 

「あっ、はい。わたしは元気です。ですけど……」

 

 ラスティの手につかまって立ち上がりながら奈月が元気のない声で応える。ラスティは苦笑しながら奈月に座るように告げた。素直に奈月がテーブルにつく。薪割りを再開しながらラスティは何気なく訊ねた。

 

「あいつ、また面倒なことになってるんだろ?」

 

 広い森の中に薪を割る音が響く。ラスティは割った薪を斧で退けて新しい薪を台に置いた。

 

「わたしがいるから、だめなんです。だから」

「はあ?」

 

 目を潤ませる奈月に素っ頓狂な声を返してラスティは事情を説明しろと言った。奈月が頷いてこれまでのことをまとめて話してくれる。それを聞いているうちにラスティはいたたまれないものを感じた。

 

「それは別に奈月さんのせいじゃねえような」

 

 顔をしかめてラスティが言ったところで家のドアが開く。木の器とシチューの鍋を手にした常磐がテーブルに寄ってくる。ラスティは器を受け取ってテーブルに並べた。その間に常磐がテーブルの横の台に鍋を乗せる。鉄板で出来た枠の中に薪を放り込んでラスティは手早くそれに火を点けた。大きな鍋の下に赤い火が灯る。

 

「あの、それで、お願いがあるんです!」

「厄介事じゃねえだろな」

 

 冗談混じりに言いながらラスティは常磐に差し出されたさじを受け取った。大きな木のさじでシチューの入った鍋をかき混ぜる。一度、家の中に引っ込んだ常磐が今度はパンの入った籠を抱えてくる。

 

「厄介だと思います。わたし、攫われた紫さんを助けたいんです!」

 

 奈月の叫びにも似た言葉を聞いてラスティはぴくりと眉を上げた。籠をテーブルに置いた常磐と顔を見合わせる。常磐に顎をしゃくられてラスティは手にしていたさじを差し出した。鍋をかき混ぜる役を交替してからテーブルにつく。

 

「あの、な? 奈月さんの話を客観的に判断するとだな。どーも、その紫さんって……さらわれたんじゃないんじゃねえの?」

 

 呻くように言いながらラスティは常磐が出した手に空の器を乗せた。常磐がシチューをよそった器をテーブルに乗せる。三人分の器にシチューをよそってから常磐も一緒にテーブルにつく。

 

「いいえ。紫さんは水輝さんを愛しています。自分から茜さんの下に行くなんて思えません」

 

 きっぱりと言って奈月が常磐に会釈をする。差し出された器を自分の前に置いて奈月が真っ直ぐにラスティを見る。正面からためらいなく見つめられてラスティは頭をかいた。

 

「愛とかどうとかについてはコメントしないけど……そのさ。格差って判るよな? 魔法使ってるんだしよ」

 

 龍神には明確に順列がある。座位とも呼ぶその格の差は龍神自身にもどうにもならないことなのだ。

 

「あの、水輝さんや、そして、紫さんを攫った茜さんが凄いってことはわかりますけど……」

 

 不思議そうな顔をして奈月が首を傾げる。ラスティはまあ食え、と奈月に食事を勧めてから自分もシチューを食べ始めた。口を挟むつもりは最初からないのか、常磐はだんまりを決め込んでいる。黙々と食事をしている常磐をちらりと見てからラスティは言った。

 

「俺がみた限りの話だが、あの紫さんってのはさほど力がねえだろう? あいつと結婚してるってこと自体、変じゃないか?」

 

 パンを籠から取り上げて千切ってシチューに落とす。野菜や肉を煮込んだシチューはとてもいい味になっている。ラスティはさじでパンごとシチューをすくって口に運んだ。

 

「力が全てなら、わたしなんかが水輝さんの傍に居る事がどうして許されているんですか?」

 

 シチューをすくったところで手を止めて言った奈月にラスティは即答した。

 

「あんたがあいつの一部だからだ」

 

 そう告げた瞬間、めいっぱい後頭部を何かに叩かれる。いてえな、と喚いたラスティは隣に腰掛ける常磐を睨みつけた。

 

「一部……?」

 

 きょとんとして奈月がそう呟く。ラスティはくそったれ、と常磐に吐き捨ててから奈月に向き直った。どうやら言い方がまずかったらしい。




書いてる作者自身不思議なのが、奈月の存在です。
実は未だに把握していません……。
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