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この清陵高校は生徒たちのスケジュールの管理などを全て生徒会が取り仕切っている。克人がどのクラスに編入するのかを決めるのも生徒会の役目らしい。あらかじめ説明されていたことを思い出しながら克人は生徒会室を目指した。目的の部屋を見つけて扉をノックする。すると中から女性の声がどうぞと応えた。
「失礼します」
そう言いながら克人は生徒会室の扉を開けた。広々とした室内には長机が並び、その奥には大きな執務机が置かれている。長机についていた女子生徒のうちの一人は先日、克人の面接を執り行った生徒会副会長だ。克人は会釈をしてドアの前に立ったまま、部屋の奥を見つめた。
執務机についていた一人の女子生徒が立ち上がる。やけに整ったその顔立ちを見て克人は僅かに目を細めた。生徒会長、吉良瀬斎姫。学校案内の中にあった斎姫の写真を思い出しながら克人は改めて礼をした。
「蘇芳克人です。詳しい話はここで聞くようにと指示されたのですが」
そう言って克人はにっこりと笑った。物珍しそうに克人を見ていた女子生徒が慌てたように立ち上がる。
「ようこそ、清陵高校へ。面接の日は体調を崩していて、お会いできなくてごめんなさい」
涼やかな声で告げて斎姫が微笑む。いえ、と首を振って克人は女子生徒が勧めるままに生徒会室の奥に向かった。執務机の横にパイプ椅子を開いてからその女子生徒が部屋を後にする。残っていた書記の女子生徒が克人に一枚の光ディスクを差し出す。
「清陵高校で執り行われる一年間の行事予定表です。それと部活動等のデータも全てそこに入っていますので」
そう説明してから書記の生徒が頭を下げて元の席に戻る。それを見送ってから斎姫は席についた。克人は渡されたディスクを大事に鞄にしまいこんでから顔を上げた。
「吉良瀬斎姫会長ですね。おうわさはかねがね」
今や斎姫の名は清陵高校の者でなくてもよく知っている。あの吉良瀬の名を受け継ぐ三人の姫のうちの一人として世間でも有名なのだ。
「この学校も、妙に注目されるようになってしまって。今のこの国の情勢を考えれば仕方のないことなのかもしれませんけど」
そうですね、と合鎚を打ちながら克人はちらりと長机についた書記の生徒を見た。何食わぬ顔をして業務をしているように見えるが、恐らくもう一人の女子生徒と共に斎姫のボディガードも兼ねている。現に克人の動きを見逃さないようにか、身体はどことなく緊張気味だ。
やがて部屋を出ていた生徒が戻ってくる。斎姫と克人に茶を出してからその生徒は元の席についた。克人は出された茶をありがたく飲みながら目を上げた。
「その資料にあるように、あなたのクラスは二組よ。といっても、共通した授業はホームルームや体育や芸術に限られるのだけど。取得したい単位については端末から入力するようになっているわ」
説明を受けながら克人は頷いた。湯飲みを戻して鞄を開ける。言われていた通り、克人は大きな封筒を取り出した。
「詳しい内容についてはディスクを拝見すればわかりますね。……ええと、これが提出するように求められていた医師の診断書です」
そう言いながら克人は封筒を斎姫に差し出した。厚みのない封筒を斎姫が手早く開封する。中に納まっていた数枚の紙を見つめてから斎姫は書類を戻し、封筒ごと書記の生徒に差し出した。慌てて腰を上げた書記の生徒が封筒を受け取る。克人は何となくそれを横目に見つめながら小さく笑った。
「……その姿勢をとる場合は左足をもう少し引いた方が緊急時に対応し易いですよ」
前屈みになっていた書記の生徒に言ってから克人はにっこりと笑ってみせた。すると焦ったように書記の生徒が身体を起こす。のんびりと茶を啜りながら克人は人好きのする笑みを三人の女性に向けた。
「もし、何かあったらわたしのところにメールを送りなさい。わたしはあなたに害意が無いと思っているけど、そう思っていない者も居る事を忘れないで」
凛とした声で斎姫が告げる。克人は苦笑して肩を竦めた。制服のポケットを探ってピルケースを取り出す。何事かと身構えた二人の従者に目をやってから克人はのんびりと斎姫に訊ねた。
「すみませんが薬を飲んでもいいですか」
そう断りながら克人は指に挟んだピルケースを斎姫にかざしてみせた。銀色の何の変哲もないケースを斎姫がしばし見つめる。
「津野さん、湯冷ましをお願い」
斎姫がそう声を投げる。立とうとしていた女子生徒に制止の声をかけて克人はピルケースを開いた。赤と白のツートンカラーのカプセルを二つほど取り上げる。
「いいですよ。ボク、薬を飲むときに水は要らないんです」
そう言いながら克人は慣れた手つきでカプセルを二錠ほど口に放り込んだ。丸飲みしてからピルケースをポケットにしまいこむ。
「ボクが何故、ここに通わなければならないか、何となく判りました」
そう呟きながら克人は腰を上げた。パイプ椅子から飛び降りて生徒会室の入り口に向かう。
「この学校はとんでもない所なんですね。でもご安心ください。ボクは誰かに危害を加えようとは思っていません。自分の力量はよく判っていますからね。返り討ちなんてごめんです」
すらすらと言ってから克人は背伸びをしてドアノブを回した。振り返ると斎姫の傍でいつの間にか二人の女子生徒が身構えているのが見えた。その間に立った斎姫がため息を吐く。
「あなたにとってはそうかもしれないわね……。どうしても、向こうの関係者を敵視したりする者が出てくるのは仕方のないことだから」
「ご心配には及ばないと思いますよ」
ドアノブから手を離して克人はきっちり振り返った。ドアに背をもたせかけて鞄を胸に抱え込む。斎姫ににっこりと笑みかけながら克人は告げた。
「ボクの寿命はあと僅かです。あなた方が永遠に近い命を手に入れたように、ボクの寿命は最初から決まっている。だから」
心配しなくてももう少ししたら消えます。笑顔で言ってから克人はドアを開けた。ドアの外に立っていた一人の男子生徒に道を譲る。困惑した面持ちをした男子生徒は克人に会釈をして生徒会室に入っていった。克人は会釈を返し、静かに生徒会室の扉を閉めた。
言うのはタダですからね……w