エピタイはラスティの心情を表してみました。
エロシーンはありません。
凄まじい音と共に何かが降って来る。ラスティは瞼を半分ほど閉じて落ちてきたものを見た。食事中のテーブルにいきなり降って落ちてきた者には見覚えがある。機嫌悪く目を細めながらラスティは顔に散ったシチューを手近にあった布で拭った。こちらはタイミングをしっかりと読んでいたのか、常磐はちゃっかりとシチューの器を片手に掲げている。ラスティは怒りに身を震わせながら落ちてきた二人を睨みつけた。勢いに任せてテーブルを真っ二つに割ってくれたのは優一郎と水輝だ。
「……何か言いたいことはあるか」
指を鳴らしながらラスティはゆらりと立ち上がった。何とか結界を張って受身は取っていたのだろう。優一郎が慌てたように身を起こす。
「ご迷惑をおかけしました」
慌てたように詫びて優一郎が頭を下げる。ラスティはじろりとその隣に倒れている水輝に目をやった。こちらはどうやら意識を失っているらしい。ぴくりとも動かない。頭にパンの入っていた籠を被ったまま身動きしない水輝をぎらりと睨んでから、ラスティはため息を吐いて椅子に座り直した。
「それで? 何しに来たんだ、一体」
壊れたテーブルと零れたシチューを魔法で元に戻しながらラスティはぼやくように訊ねた。倒れていた水輝が頭を強く振って身を起こす。その時にはもう、籠にはパンが元通りに納まってテーブルに乗っていた。倒れていた椅子をひょい、と足で起こしたところでラスティは優一郎を睨むように見た。
「こちらに、客人、が滞在されていらっしゃると思うのですが」
淡い翠色の魔法が終了してからラスティはふん、と鼻を鳴らした。にっこりと笑う優一郎を横目に見て、次に水輝に目をやる。水輝は憮然として優一郎の横に並んでいる。鋭い眼光や独特の雰囲気はいつもの通りだが、珍しく水輝からは憎まれ口は出てこない。
「約二名な。何だ。もしかして連れ戻しに来たのか? 相変わらず過保護なことで」
皮肉をこめて言ったラスティを水輝が怪訝そうに見る。そこで漸くラスティは水輝がいつもとはっきりと異なっていると理解した。眉を寄せてテーブルについている常磐を振り返る。だが常磐はのんびりと食事を続けていて質問に答えてくれそうにない。
「いえ、とりあえずお話だけさせていただければ。彼女は家の中にいらっしゃるようですが、お邪魔してもかまいませんか?」
「立会人がいてもいいならな。……お前らが不用意に落ちてきたおかげでこの辺りの気が乱れやがった」
しかめっ面で言いながらラスティは率先して家に向かった。ドアを足で蹴り開けてから振り返る。歩いてこようとしていた優一郎と水輝に指を突きつけてラスティは言った。
「これ以上の面倒を起こすな。いいか。ここはお前らの居るべきところじゃないんだぞ」
機嫌悪くそう忠告してからラスティは家の中に入った。キッチンを横切って奥の部屋に向かう。寝室に近づいたところでドアは内側から開いた。水輝の気配を察したのだろう。落ち着かない素振りで奈月が顔を覗かせる。ラスティは無言で手を伸ばして奈月を部屋に戻してからドアを大きく開いた。
寝室のベッドに横たわっている薄紫の髪を持つ女性を見つめてから振り返る。ラスティに続いて部屋に入ってきた優一郎と水輝がドアのところで足を止める。不安そうにしながら奈月はベッドに眠る女性と水輝とを見比べた。
水輝に何事かの異変があったのは確かだ。外傷などはないから、恐らく内面的な異変だろう。ラスティは厳しい目をしつつ壁に寄りかかった。
「水輝さん、紫さんはわたしが茜さんの下から連れ戻しました」
水輝に向き合った奈月が覚悟を決めた顔でそう告白する。だが水輝の反応はラスティの予想を裏切っていた。眉を寄せて額に手をあてがい、優一郎を振り返ってから奈月に目を戻す。
「えーと……奈月? この女が?」
そう言いながら水輝は奈月を指差した。それを聞いたラスティは目を見張って優一郎を見た。どうやら水輝は記憶をなくしてしまっているらしい。
「そうです。今、指差していらっしゃる女性が奈月さん。そしてベッドに寝てらっしゃる女性が紫さんです」
頷きながら優一郎がにっこりと笑う。水輝は顔をしかめたまま、奈月とベッドに眠る女性とを見比べた。どうやら女性の名は紫というらしい。それはいいが、とラスティは内心で呟いてから奈月をちらりと伺った。よほど驚いたのだろう。奈月は目を見張って水輝を凝視している。
「奈月……紫……駄目だ。わからねえ」
呻き混じりに告げて水輝が力なく首を横に振る。おいおい、と呟いてラスティは水輝を睨みつけた。水輝がこれまでずっと奈月を大事に守っていたことは、界を違えて生きていたラスティもよく知っている。
「水輝……さん?」
凍り付いたように身を強張らせていた奈月が掠れた声で水輝を呼ぶ。それを受けた水輝は何故か苦しむような顔をして小声でごめん、と奈月に詫びた。
「いえ。水輝さんが気に病まれる必要はありません。それよりも、紫さんを。紫さんは水輝さんの妻なんですから」
水輝の少し後ろに立っていた優一郎がにっこりと笑ってすらすらと言う。ラスティはうろんな眼差しで優一郎を見た。どうやら優一郎は水輝が記憶をなくしているのを知った上でここに来たらしい。ふうん、と口の中で呟いてからラスティは水輝に目を戻した。優一郎の言葉を受けた水輝がよろけるようにして奈月の傍を過ぎる。ベッドに近づいたところで水輝はぼんやりとした目を紫に向けた。
ふと水輝が左手を上げる。まじまじと自分の左手の指を眺めてから水輝はまた紫に目を戻した。どうやら同じ場所に指輪が嵌っていることを不思議に思っているらしい。
ラスティにしてみれば食事をいつも台なしにしてくれる連中です。