というか、このエピタイじゃないと判らないので……(汗)
エロシーンはありません。
「木様は木様です。例えどのような力をこめられようと、代わりはありません」
きっぱりと言って桜は挑戦的に優一郎を見た。すると優一郎がにっこりと笑う。
「やっぱり、そういうことだったんだね。ありがとう」
「……どういう意味ですか」
桜は訝りに眉を寄せて優一郎に問うた。
「君がさっき言ったとおりの意味だよ」
「青龍王が何で出来ているかご存知ですか」
優一郎の言葉に桜はすぐさま切り返した。笑おうとしていたのだろう。表情を緩めかけていた優一郎がぴくりと眉を上げて桜を見つめる。桜は肩越しに振り返って奈月に大丈夫ですから、と笑みかけてから優一郎に向き直った。
「僕は知らない。正直な話、教えてもらえたらありがたい」
ストレートに告げた優一郎に桜はにっこりと笑みかけた。
「ではわたくしの持つその知識との取り引きをして頂けませんか?」
首を傾げて言いながら桜は両腕をそっと降ろした。
「知識の代価として、君は何を求める?」
「青龍王の所有権は誰にもありません。彼に対する所有権の一切の放棄、それがわたくしの要求です」
きっぱりと告げた瞬間、桜の精神に異様な負荷がかかった。圧力に耐え兼ねてその場によろけた桜を慌てたように奈月が支える。
「了解した。青龍王が戻った時、もし僕がなんらかの既得権を得ていたとしても、放棄することを約束するよ」
優一郎が静かに告げた途端に桜にかかっていた重圧が一気に消える。桜は頭を振ってぐらつく身体を支えてから深く息を吐いた。高次元からの圧力だと言うことは理解出来るが、これだけ正面から食らったのは初めてだ。
「青龍王は……単体ではありません。青龍王そのものは他者の目には単一に見えますが、様々な要素を含んだ複合体なのです」
かつて紫翠と呼ばれた龍神が一の使い魔である桜にだけ漏らした話だ。桜は慎重に言葉を選びながら話し始めた。
「青龍王がかつて夢魔、と呼ばれた時代を知っていますか? 彼はその特性を外から擦り合わされました。それ故に、青龍王は本来は持っていなかった特性を持つようになりました」
珠とは魂、珠は力のフィルターに過ぎない。世界から及ぼされる力は全て珠を通じて現象となり、世界に具現される。桜は痛む頭を押さえながら話を続けた。
「魂の複合体、それが青龍王の本来の特性です。他者の魂を自分のものと擦り合わせ、特性を増やし続けているのです」
水を呼び、嵐を起こし、罪を流す。それは水輝が本来持っていた特性ではない。それもやはり他者から受け入れた力に過ぎないのだ。
「なるほど。複合体であるがゆえに、逆に分離することも可能だったわけだ」
「本来……それを本来と呼ぶかどうかは定かではありませんが、ずっと昔の青龍王には特性らしいものは何もなかったそうです。あれは力を受け入れるためだけの器なのだと、木様は仰っておられましたから」
考え込むような顔で言った優一郎に桜はそう続けた。
「先の天輝と、青龍王の初期状態はほぼ同じだと考えていいのかな? もしかして」
伏せていた目を上げて優一郎が言う。桜は恐らく、と頷いてから何気なく傍らの奈月に目をやった。奈月は困惑した面持ちをして桜の腕につかまっている。その手が僅かに震えているのを知って桜は不思議に思って首を傾げた。
「あの、わたしは……わたしは何なのですか? 今、わたしの中に水輝さんが持っていたはずの力が溢れています。これはどういうことなんですか?」
桜の腕に縋りながら奈月が優一郎に訴えかける。涙に濡れた奈月の頬を桜はそっと指で拭った。
「分離された一部に大半の力を移譲するとは。誰だか知らないけど無茶な事をするね」
ため息混じりに言って優一郎がドアを見る。タイミングを測っていたかのようにドアが小さく鳴り、ドアの向こうから聞き慣れた水輝の声がする。桜は呼びかけに答える優一郎から目を離し、奈月の背をそっと撫でた。
「桜さん、ありがとう。有意義な話だったよ」
にっこりと笑って優一郎がドアを開ける。その場にへたり込んだ奈月に寄り添いながら桜はいいえ、と首を横に振った。
「今の世の……宵の時代の主が天でない事に多くの者が気付き始めているから、くれぐれも足元を掬われないように頼むよ」
「はい」
素直に頷いてから桜は優一郎に目礼した。優一郎が微笑みを残して部屋を去る。ドアの向こうに優一郎が消え、やがて水輝の気配と共に優一郎の気配がその場から消え失せる。それを確認してから桜は奈月に呼びかけた。
「姫様」
愕然と目を見張って床にへたり込んだ奈月を桜は少し強めに揺すった。
「わたし、わたしのせいで、水輝さんが……」
奈月が泣きながら顔を手で覆う。桜は注意深く周囲の気配を探ってから落とした声で告げた。ここは特殊な結界に包まれているために周囲に話を聞かれる心配はない。
「姫様、落ち着いて。大丈夫、彼は心配ありません」
そう言って桜は奈月に笑みかけた。のろのろと手を顔から離した奈月が鼻を啜る。桜は苦笑してハンカチで丁寧に奈月の顔を拭った。
「桜さん。あの水輝さんは水輝さんだけど、水輝さんじゃなかったわ」
「恐らく、今の青龍王には夢魔の特性が濃く出ているんです」
合わせて声を落とした奈月に桜は頷いてみせた。
桜もほぼ知らないのですよー……実は。
以前の記憶はあるのでちょっとは判るのですが。