※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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エピタイは作者のもの!
エロシーンはありません。


かき氷が美味しい季節ですよね

 漆黒の大きな鎌の柄を肩に担いだところで順はのんびりと背後を振り返った。蒼白な顔をして震えている奈月と、あくまでも冷静さを保っている桜とを見比べてみる。

 

 三人は清陵の町が一望できる小高い丘にいた。斜面をぐるりと巡っているのは最近流行のドライブコースらしい。ここから見る夜景は綺麗なのだろう。日頃はドライバーも行き来しているようだ。が、今日に限っては完全に交通規制が敷かれており、登って来る者も降りる者もいない。

 

「まあね。時間稼ぎ程度にもならないとは思うけどね」

 

 順はそう言って頭をかいて笑った。清陵に放ったのは数多くの冥界の怨嗟だ。通常、生きる人間には何ら影響のないこの怨嗟も、ことヒューマノイドに限っては最大限の力を発揮する。

 

「あの蟲さんを持ち込んだのはあなただったのですね?」

 

 震えつつも気丈に奈月が言う。順は苦笑して肩を竦めてみせた。

 

「克人に向けたモノに関してならイエス。でも他はノー。……ま、信じてくれなんて思いませんが」

 

 そう言って順はガードレールに身軽に飛び乗った。目の上に手をかざして気配を読む。どうやら怨嗟は見事にヒューマノイドの機能を停止させたようだ。かつての自分の魂に止められるのだから、ヒューマノイドとしてもいい気分ではないだろうが、仕方がない。

 

「水輝さん! どうして!」

 

 ガードレールに駆け寄った奈月が悲鳴混じりに叫ぶ。順はそれを見下ろしてから前方に目を向けた。暗い夜の闇の中に一際輝く気配がある。どうやら優一郎は思っていた以上に水輝の夢に溺れているらしい。

 

「急ぎたいのは山々だけど、こればっかりはね。オレも下手なバクチうちたくないし」

 

 独り言のように呟いて順は担いでいた鎌を消した。清陵の町は多少、パニックに襲われているかも知れないが、それも短期間だ。我慢してもらうより他はない。このまま放置して広がる波紋のことを考えれば代価としては安いだろう。

 

「翠サンが不在なのは痛いねえ。巻き戻しは不可、一回勝負だよ」

 

 ぼやくように言いながら順は軽々とガードレールを飛び降りた。手にした闇色の宝珠を戻しつつポケットから電話を引っ張り出す。約束の九時は近い。が、打診したところまだ紫は発見出来ていないようだ。鋭い舌打ちをして順はさっさと電話を切った。

 

「転移したのはわかりました。ですけど、行き先がわかりません」

 

 泣きながら律儀に報告してくれた奈月に順はだいじょぶよん、と気軽に笑ってみせた。最初から龍神にあの気配が追えるとは思っていない。そんな順の言わなかった気持ちを察したのか、桜がそうですね、と合鎚を打つ。

 

「さーてと。翠サン不在、んでもパニックままにしとく訳にもいかないのでー」

 

 あはは、といつものように気楽に笑ってから順は天を仰いだ。口許に両手をあてがって深く息を吸う。何事かと身構えた二人に笑ってから順は声を張った。

 

「透ちゃあん! パパがピンチよー! 助けてー!」

 

 星の輝く空に向かって順は声を張り上げた。次の瞬間、間近の空気が揺れて白衣を着た透が現れる。今日の透は手にビーカーを持ったままだ。

 

「あの、えっとはじめまして。わたしは吉良瀬奈月と申します。茜さんの息子さん……ですか?」

 

 慌てたように頭を下げた奈月がそう挨拶する。嫌そうな顔をした透の代わりに順はにこにこと笑って頷いてみせた。面識のある桜が透に会釈をする。

 

「で、オヤジ、何の用だよ」

 

 オヤジ、の部分に妙に力をこめて透が言う。どうやら厭味のつもりらしい。あはは、と笑って順は透の背中を軽く叩いた。片手で眼下に広がる清陵の町を指差す。

 

「悪いんだけどさあ。あの町全体に時間制限つけた氷、はってくんない? 出来れば中のヒト殺さない程度のやつ」

 

 すらすらと言った順を透がもの凄く嫌そうに睨む。だが順はその視線に気付かない振りをして鼻歌を歌いだした。

 

「結界ならそいつに張ってもらえばいいだろ。つーか、おまえなんでそんな手の込んだ女装してるんだよ。気持ち悪い」

 

 そう言って透がしかめっ面で奈月を見る。どうやら透には奈月が奈月には見えていないらしい。ああ、と手を打って順は違うよと笑ってみせた。

 

「カノジョ、水輝ちゃんじゃないよぉ。奈月ちゃんってゆうの。さっきの自己紹介、聞いてなかった?」

 

 楽しそうに笑いながら順は透の頭を指でこつこつと叩いてみせた。するとうっとうしそうに透が順の手を払う。

 

「俺の結界粉微塵に粉砕できるような奴が二人も三人も居るかよ!」

 

 怒りをこめた言葉に順はコワイコワイ、とわざとらしく怯えてみせた。憤慨の面持ちで透がそっぽを向く。そんな透に苦笑してから順は肩を竦めた。

 

「だーから、水輝ちゃんじゃないけど水輝ちゃんでね、こないだのは奈月ちゃんじゃないけど奈月ちゃんなんだよん」

 

 言っている本人も意味不明な説明をしつつ、順は気軽に透の肩を叩いた。

 

「わかったよ。依頼はやってやる。こんな気持ち悪いもん長く見て居たくねーからな」

 

 しかしおやじといいこいつといいどうして力のつえー奴はすべからくヘンタイなんだよ。しっかりと付け足されていた言葉を聞いて順は笑い声を上げた。相当、困惑しているのか奈月はおろおろとしているし、桜に至っては知らん顔をしている。

 

「ヤだなあ。ヘンタイヘンタイってヒトのコト……オレまだキミには手を出してないじゃん」

 

 変態の基本は近親相姦よ。さらりとそう付け足した順を透が嫌そうに睨む。だが透はコメントする気にはならなかったのだろう。そっぽを向いて町の方に手を伸ばす。

 

「あ、結界じゃないからね。頼んでるのは。氷で時間を仮止めするから、全部凍らせてね」

 

 すらすらと言った順を凄まじい目で睨んでから透は無言で頷いた。照射された薄青の光が町全体を包み込む。いつ見ても手際がいい。そんなことに感心しながら順は清陵の町が凍りついていくのをのんびりと眺めていた。

 

「これでいいだろ? じゃあな」

 

 町が全て凍りついた後、透はそう吐き捨ててさっさと消え去った。あらら、と苦笑した順の目の先で奈月が呆然となっている。その後、奈月はいきなり泣き出してしまった。




エピソードが長いので切りました。
順や奈月が登場です。
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