※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。
殺伐としてる感じに見えるのですが、順は通常営業です。


とりあえずやることはやらないとね 2

「いいじゃん、別に。そーんな、むきになって考えるようなことでもないっしょ?」

 

 瞬き一つでいつものだらしない笑みを浮かべて順はさっさと元の場所に戻った。発展した町の中でこの部分だけは剥き出しの地面になっている。順は滑るようにしてすり鉢状の地面の底に下りた。そんな順の後を無表情な奈月とあくまでも冷静な様子を保っている桜がついていく。

 

「んじゃ、あんまやりたかないけどやってみますか」

 

 そう言って順は手にしていた鎌を地面の底に突き立てた。頼むね、と小声で呟いて鎌の柄を軽く手で叩く。地面だからー、と間延びした声で言った順の耳にふと聞き慣れない声が聞こえてくる。不思議に思って順は声のした方を見た。奈月と桜の耳にも届いていたのだろう。二人も順と同じ方角を見る。

 

「あ。オカマだ」

 

 順は思ったままを口にした。すると盛大な悲鳴を上げて地面の底に滑ってきた女性が肩を怒らせて順に詰め寄る。

 

「オカマとは何よ、失礼ね! アタシがオカマなら、アンタはヘンタイよぉぉぉ!」

 

 盛大な声で言った女性に順はまあまあ、と笑ってみせた。

 

「学さん!」

 

 声を上げた奈月が女性に駆けより、胸に抱きつく。まああ、と声を上げた女性がよしよしと奈月の背中を撫でる。どうやらこいつは学と言うらしい。そのことに頷いていた順はあれ、と呟いた。

 

「そいえば初めて? アンタと会うのって」

 

 へらへらと笑って言った順を学が厳しく睨む。

 

「アンタね! 奈月ちゃん泣かせてどぉすんのよ! こんなカワイイ女の子泣かせるなんて!」

 

 学は胸で泣きじゃくる奈月を懸命に宥めている。えー、と笑って順は肩を竦めてみせた。

 

「別にオレ、何もしてないしー」

 

 いつも泣かせるつもりはないんだけどねえ。そう小声で付け足してから順は頭をかいた。今日のことにしても本当なら奈月や桜に見せるつもりはなかったのだ。

 

 学はぱっと見には若い美人の女性に見える。が、学の本性は両性を巧みに操る淫魔の王だ。困ったなあ、と苦笑しつつ順はちらりと学の後方に目をやった。すり鉢状に掘られた穴の上に一人の少女が佇んでいる。どうやら怨嗟には巻き込まれなかったらしい。ヒューマノイドだな、と順は少女を冷静に観察した。

 

「よしよし。怖かったわね。もう大丈夫よ」

 

 優しい声音で言って学が奈月の頭を静かに撫でる。順はそんな学からふと目を離して先の少女を見つめた。少女は軽やかに地面を滑って瞬く間に学の傍に駆けてくる。

 

「地上の王の名代にして青龍姫さま、無責任に泣いてらっしゃる場合なのですか?」

 

 無表情に少女が告げる。順はじっとそんな少女を見つめてからおやあ、と笑った。どうやらこの少女は怒っているようだ。

 

「座位に伴う責任を果たすべきだと、僭越ながら諫言させていただきます」

 

 きっぱりと言った少女に順はにっこりと笑みかけた。

 

「こんちは。初めまして。オレは木村順でーす。キミは学チャンのお人形なのかな?」

 

 へらへらと笑って自己紹介した順の頭をいきなり学がげんこつで殴る。うわあん、とわざとらしい悲鳴を上げて順は打たれた頭を両手で押さえた。

 

「痛いよう!」

「アタシの文ちゃんに色目を使わないで頂戴! あああ、文ちゃん大丈夫? 犯されなかった?」

 

 聞きようによってはかなり酷い言い回しをしつつ学が心配顔で文を見つめる。するとそれまで無表情だった文の顔にごくごくささやかな笑みらしきものが浮かんだ。

 

「何か耳障りな音が聞こえたような気がしますが、問題ありません」

「ひでえ! オレ、無視かよ!」

 

 淡々とした文の言葉に順は声を張り上げた。だが文は完全に順を無視すると決めているらしい。知らん顔をしたままだ。

 

「とにかく! アタシがわざわざ運んであげたわよっ。例の紫のヒト!」

 

 学の言うことを聞いて順はぴたりと騒ぐのをやめた。真顔になった順に学が目で頷く。確かに今の状態の紫であれば、学なら探すのは容易いだろう。

 

「紫さん、ですか?」

 

 涙を拭いながら奈月が学の胸から顔を上げる。そこで文が無表情に奈月の肩に手をかけた。何をするのかと思っていたら、文はそのままぐい、と奈月を学の胸から引き剥がしてしまった。

 

「あ、あの……えっと。ごめんなさい」

 

 学の前に立った文に奈月が慌てたように詫びる。だが文は全く表情を動かさない。

 

「どうして謝罪されるのですか?」

 

 ため息混じりに文が言う。だが言葉に棘はない。どうやら文は奈月個人に対しては嫌悪や憎悪がある訳ではないらしい。ふうん、と呟いて順はちらりと学に目配せした。とりあえずこの場は放置して紫を真っ先に保護しなければならない。学が目で指した方向を確かめてから順は地面の底に突き立てた鎌を抜いた。鎌を担いだまま、宙に浮き上がる。順は学に後は頼む、と目配せしてから空に舞い上がった。

 

 学の示した方向を目指して飛ぶうちに、道路の脇に寄せて停められたタクシーが見えてくる。順は静かにタクシーの後方に舞い降りて鎌を消した。宝珠を手早く器の中に納めてタクシーの中を覗く。運転手はすっかり眠り込んでいる。どうやら学があらかじめ寝かせたらしい。その後部座席を見て順は目を細めた。殆ど裸同然の紫が身体を丸めて横たわっている。

 

「運ぶのですか?」

 

 唐突に背後から声をかけられて順は慌てて振り返った。いつの間にかついて来ていたらしい。桜が佇んでいる。見知った顔だったことにほっとしつつ順は頷いた。

 

「キミの姫君には後で来るように言っといて。学ちゃんが時間稼いでくれるとは思うけど」

「……時間稼ぎ、ですか」

 

 神妙な顔で桜が言う。順はあはは、と笑いながらタクシーの後部席のドアを開けた。ぐったりと脱力している紫を慎重に引っ張り出す。両腕に抱え上げたところで順は紫を見下ろした。

 

「学ちゃんはココまで。そう伝えといて」

「何故ですか? あの方に協力して頂いた方が速いかと」

 

 淡々と言った桜に順は苦笑を向けた。

 

「何があるか判んないし、ね。巻き込まれたらカワイソーでしょ?」

 

 オレやキミは慣れてるけどさ。そう付け足して順は天を仰いだ。何となく星の輝きを目で辿ってから顔を戻す。すると桜が言いようのない複雑な顔をしているのが見えた。

 

「姫様には説明なさらないのですか」

「しても仕方ないじゃん。何のためにさ。説明したら、オレの罪が軽くなる?」

 

 だらしない笑みを浮かべたまま順はあっさりと言い返した。すると桜が眉を寄せて黙り込む。そんな桜にじゃあね、と笑って順はその場から転移した。




珍しく桜が大人しい……w
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