※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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このエピソードで一章は終わりです。
細切れになりますが章分けすることにしました。
エロシーンはありません。


転入したけど凄い席になってしまった 3

「うわあ……ボク、こういうのを食べるの、初めてです」

 

 しばし感動をこめて指の間に挟んだクッキーを見つめて克人はそう呟いた。人の食事をしたことがない訳ではない。が、克人の所属していたコロニーに関わらず、ハンターの群は大抵、貧しいのだ。それ故、口に出来るものもごく限られていた。

 

 恐る恐る克人はクッキーを一口かじった。口に入れた途端にクッキーがほろりと溶けていく。ほんのりとした甘味に克人は愕然と目を見張った。

 

「あ、甘い」

 

 てっきり塩味がするものだと思っていた克人は目を丸くした。

 

「甘味は控えめにしたつもりだったんですけど、甘かったですか?」

 

 不安そうに克人の顔を覗き込みながら奈月が言う。克人は瞬きを何度かしてからにっこりと笑った。

 

「クッキーが甘いって知らなかったんです。凄く美味しいです」

 

 笑顔で応えて克人はかじりかけのクッキーを口に入れた。大事に味わってから飲み込む。

 

「気に入っていただけたなら良かったです。良かったらもっと召し上がってください」

 

 にこにこと微笑みながら奈月が言う。ありがとうございます、と返事してから克人はもう一枚、ハンカチの上からクッキーを取り上げようとした。するとその手をいきなり叩き落とされる。驚きに目を見張った克人の前に桜が自分の持っていた包みを突き出していた。

 

「あなたに姫様のお料理はもったいないです。食べるならわたくしのをどうぞ」

「あの……」

 

 困惑して克人は桜と奈月を見比べた。

 

「桜さん。そのような言い方は失礼ですよ」

 

 奈月がそう桜をたしなめてから克人に笑みを向ける。

 

「蘇芳さん、良かったら桜さんのクッキーも召し上がってみてください」

 

 笑みかけられて克人は首を傾げた。桜はさっさと奈月のクッキーをハンカチに包みなおし、代わりに自分の作ったらしいクッキーを克人の机に乗せる。克人は戸惑いながら桜の乗せた包みの結び目を解いた。

 

 現れたものをしばし見つめ、克人は呟くように言った。

 

「あの……これ、さっきのクッキーと同じ……?」

 

 奈月のくれたクッキーは淡い黄金色をしていたのに対し、いま克人の目の前にあるのは茶色の丸いものだ。克人が恐る恐るそれを指差して訊ねると桜がもの凄い目で克人を睨みつけた。

 

「何か言いたいことでも?」

 

 冷たい声で言って桜がさあ、と克人を促す。克人は恐る恐る茶色のそれを一枚だけ取り上げた。桜に睨まれながらクッキーを噛んだところで克人はぴたりと動きを止めた。

 

 かたい。一体これは何で出来ているのだろう。克人はぼんやりと考えながら、目で二人に断ってその場にしゃがみ込んだ。決して噛み切れそうにないそれを口からだしてみる。茶色のそれにはきっちりと克人の歯型が残っていた。

 

「す、すみません。噛み切れないんですけど」

 

 恐る恐る言いながら克人は立ち上がった。すると桜がもの凄い剣幕で怒鳴る。

 

「男なら丸飲みなさい!」

「む、無理言わないでください!」

 

 薬程度のサイズのものならともかく、このクッキーと呼ぶべきかどうか判別し難い茶色のものは、直径が三センチほどもあるのだ。とても丸飲みなど出来る代物ではない。

 

「桜さん。わたしもひとつ頂いていいですか?」

 

 そう言いながら奈月が茶色のものに手を伸ばす。すると桜は克人が止めるより早く、奈月にまったく別の包みを差し出した。

 

「姫様にはこちらを」

「何で二種類あるんですか!」

 

 克人は思わず声を荒らげて桜を睨みつけた。すると桜がふっ、と不敵な笑みを浮かべて横目に克人を見る。侮蔑のこもったその視線を受けた克人は思わずぐっと詰まった。

 

「あなたのような下賎な者にはそれで十分ですっ」

「桜さん!」

 

 桜が勝ち誇って言った直後、奈月が声を張る。すると桜が困ったように口を噤んだ。なるほど、嫌われていることは判ってはいたがここまでとは。克人はやれやれとため息を吐いて茶色のそれをハンカチで包み直した。ついでに歯型のついたものをティッシュで包んでポケットに突っ込む。

 

「いいんです、吉良瀬さん。……ええと、神崎さん? でしたっけ。彼女の反応は当然ですから」

 

 そう言って笑みを浮かべて克人はハンカチの包みを桜に差し出した。すると桜が無言でそれを取る。

 

「どうしてですか?」

 

 真剣な顔で奈月が問う。克人はちらりと周囲を見てから肩を竦めた。どうも別の意味で注目を集めてしまっているらしい。男子生徒の恨みのこもった眼差しを受けつつ、克人は机に戻った。

 

「ボクがハンターだからです」

 

 出来るだけ小さな声で克人は告げた。奈月がじっと克人を見つめる。それだけじゃないんですけどね、と笑って克人は桜に同意を求めた。すると桜がふい、とそっぽを向く。

 

「逢坂さんに気配が似てるとおもったら、やっぱりそうだったんですね!」

 

 嬉しそうに笑って奈月が自分の席につく。克人は奈月の言った逢坂と呼ばれる老人のことを思い出して苦笑した。確かに逢坂というのはハンターとして順の傍に居た。が、ある日を境にして逢坂は姿を消した。一部ではストレンジャーに墜ちたのだとも言われているが、真相は違う。逢坂は元々はハンターではなかったのだ。そして本来の目的を終え、逢坂はあるべき場所に戻って行った。

 

「でもボクは彼とは違いますから」

 

 呟くように言って克人は机の中から授業用の端末を引っ張り出した。余り大声で話をすると周辺の生徒に聞かれてしまう。

 

「ごめんなさい。蘇芳さんは蘇芳さんですよね」

 

 消沈した面持ちで奈月が言う。克人は始業のチャイムを聞きながらその話はまたいつか、と微笑を浮かべて奈月に告げた。




桜作クッキーが酷い。
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