※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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あけましておめでとうございます。
お正月からきな臭い話をアップします。
あ、エロシーンはありません。



プロローグ
狩りの終焉 プロローグ


 昨日まで降り続いていた雨が嘘のように去り、空は澄み切っていた。紺碧の空には雲一つない。そよ吹く風がどこからともなく甘い香りを運んでくる。克人はぼんやりと空を見つめていた目を少しだけ動かして、香りの流れてくる方を見た。

 

 元々、廃墟だった場所に作り上げた集落は壊滅状態になっている。コロニーと呼ばれる集団は既にこの集落を築いていた場所を捨て、散り散りに逃げてしまった。完全な廃墟に戻った場所の中央辺りに克人は一人、横たわっていた。まだくすぶって煙を上げているテントも多い。

 

 みんな逃げられたかな。そう呟いて克人は少しだけ笑った。表情を動かすとそれだけで顔が痛む。唐突に集落を襲ってきたモノを退治するために、ありったけの武器弾薬を使った結果、克人も全身に酷い怪我を負った。火炎放射器を用いた際に顔面の半分ほどを火傷してしまったのだ。

 

 コロニーと呼ばれる集落は各地に点在している。克人の属していたコロニーもまた、そういった数ある中の集落の一つだった。だが昨夜、唐突に現れた人ならぬモノのためにコロニーは大打撃を受けた。もう、元の形でここに集落を築くことは出来ないだろう。余りにもダメージが大きすぎる。それに残っている澱みが尋常ではない。

 

 ボクの命もここまでかな。ぼんやりと思いながら克人は空をもう一度見上げた。澄み切った青い空を見ていると、とある青年のことを思い出す。力なく横たわったまま克人は吸い込まれるようにしばし空を見つめていた。

 

 痛みも感じることが出来ないほどに克人の身体はダメージを受けていた。片足は骨が砕けて半ばで千切れている。腕は辛うじて両方残ってはいるが、どちらも骨から粉砕されているため、動かすことはかなわない。腹部と胸部に食らった打撃は大きく、呼吸をするのがやっとの有様だ。だがその代わりにコロニーを襲ったモノは撃退できた。恐らく克人に全てを任せていった者たちは無事に生きているだろう。

 

 最後の最後までコロニーの長は克人の案に反対していた。が、切迫した状況の中で克人の案以外に皆が生き残る術はないと判断したのだろう。結局、長の男性もこの集落を離れた。

 

 克人を始めとする、コロニーを構成する者たちは人ではない。人とよく似た形をしてはいるが、その習性が大きく異なるのだ。もちろん、人と同じように食事や睡眠をとることは出来るし、人に紛れて生活をすることも可能だ。が、その人ならぬ習性のために彼らは群れを作る。

 

 その習性とは龍宝珠と呼ばれるものを食らうということだ。人と同じ食事では決して満たされることのない飢餓感が彼らを群れさせる。そしてコロニーと呼ばれる集落を作り、日々、協力しあって生きているのだ。

 

 集団で狩りを行い、入手したものを集落の人々で分けて食う。それはずっと昔、人々が狩猟を行って弱者に糧を分け与えていた頃の生き方によく似ている。そしてコロニーはコロニーとして人々を生かしているのだ。

 

 そんな彼らは俗にハンターと呼ばれる。そして克人もハンターの一人だ。克人の所属していたコロニーは数あるコロニーの中でも指導者に恵まれており、よく統制のとれたところだった。だがそれでも唐突に現れたモノに対し、人々はほぼ無力だった。出来たことと言えば、老人や子供たちを庇いながら逃げることだけだった。

 

 龍宝珠という糧を持つ者との戦いのため、このコロニーには武器弾薬の類が多く置かれていた。そして克人はコロニーの者たちを逃がすため、それらの詰まった倉庫を爆破した。コロニーに襲い掛かってきたモノは一見すると幼虫にしか見えなかった。だがそのサイズが半端ではなく、しかも人々をいとも容易く食いちぎってしまう強力な顎を持っていた。特殊な溶解液を吐いて手当たり次第に建物を溶かすものもあった。

 

 克人の決死の攻撃により、それらは撃破できた。が、同時に克人の負ったダメージも大きかった。

 

 視界がぼやける。克人は目を細めて何とか動こうとしてみた。が、何度か挑戦した時と同様、身体はまるで動かせない。そっと息をついて克人は全身の力を抜いた。ここまでかな。そう思いながら克人は目を閉じようとした。

 

「このサイズのコロニーを壊滅させてくれるとは、なかなかヤツらも学習してるじゃないの」

 

 不意に懐かしい声が聞こえてくる。克人ははっと目を見張って声のした方を見た。いつの間にか克人の視界の隅に見覚えのある青年の姿が引っかかっていた。のんびりとした足取りで青年が克人の方へと歩いてくる。克人は呼びかけようとしたが、声は声にならず、喉を熱い息が通っただけだった。

 

 大きな漆黒の鎌を担いだ青年が気軽に笑いながら寄って来る。克人は唇だけで青年の名を呼んだ。青年の名は木村順という。事実上、この国を二分していると言われている木村財閥の当主だ。順は克人の傍にしゃがみ込み、肩に鎌の柄を乗せた。初夏の風に順のアロハシャツの裾がなびく。

 

「でもまあ、群れのヤツらは生きてるんしょ? お疲れさん」

 

 唇に煙草を咥えながら順が克人の頭を指先だけで撫でる。克人は無意識にこめていた全身の力を抜いた。

 

 順の容姿は驚くほど整っている。その面立ちも、だらしない笑みを浮かべていなければ綺麗と表現した方がいいのだろう。人間離れした異様な美しさは文字通り、人でない者に備わる特別なものだ。だが順の場合はそれを人懐こい表情で隠している風がある。

 

 ハンターたちの頂点に立つ存在。それが木村財閥当主である順の別の顔だ。コロニーに所属するハンターたちは全て順に管理されていると言ってもいい。中にはほぼ放置されているコロニーもある。が、それは順が意図的に放置しているに過ぎない。彼らはデータを取られた後、順に生かすか殺すかを決められる。順にとって彼らはケージに入った動物実験と変わりない。克人の所属していたコロニーのように自由の利く集落は限られているのだ。尤も、順に飼われているとも言える彼ら自身はそのことには気付いていないケースが殆どだ。

 

 ハンター達は飢えを凌ぐために龍神と呼ばれるモノを狩る。龍神の持つ龍宝珠だけが飢えを満たす唯一の糧となるからだ。だが例え群れていてもハンターの力は龍神に比べればとてもささやかで、頻繁に糧を得る事はかなわない。

 

 そんなハンターたちがどうして龍神を狩ることが出来るか。それは独自に開発された武器弾薬を使用したり、龍神の油断を誘ったり、そして龍神自身の力が弱まったりといった要因が重なるチャンスを見逃さないからだ。目端の利くハンターを抱えたコロニーはそれ故に糧を得易く、逆に無軌道にただ群れるだけのコロニーでは狩りは行えない。ハンターたちの中でも強い者が生き残り、弱い者は取り残されるといった淘汰が起こっているのだ。

 

 それを意図的に調整し、ハンターの中でもより優れた能力を有するものを見極めようとしているのが順なのだ。克人は傍にしゃがみ込んだ順を静かに見上げた。順はだらしない笑みを浮かべて煙草をくゆらせている。

 

「ココがダメでも、ヤツらなら他で生きることはできるっしょ。割といいコロニーだったんだしさ」

 

 だからだいじょぶだよ。気軽に言って笑う順に克人は頷こうとした。が、首が動かせないことに気付いて克人は小さく息をついた。すると順が克人の思いを読んだかのように苦笑する。

 

「ああ、キミの役目はとりあえずはココで終わり」

 

 言われた克人はほんの僅かだけ目を見張った。だがすぐに頬の筋肉が引きつれて表情が歪む。反射的に手で顔を押さえようとした克人は衝撃にも似た痛みに思わず呻いた。そこで気付く。どうやらまだ自分は痛みを感じることが出来るらしい。

 

 せめて感謝の言葉を口にしようとして克人は喉の奥で呻いた。どうやっても声が言葉になってくれない。もしかしたら声帯が使い物にならなくなったのだろうか。懸命に言葉を紡ごうとしていた克人に順が困ったように笑いかける。

 

「違うってば。とりあえずって言ったでしょ? コロニーを守るってキミの役目はオワリってことだよ。もー、早とちりだなあ」

 

 役目を終えて後は死ぬだけだと思っていた克人は順の言葉に息を飲んだ。その拍子に喉の奥が熱くなり、咳の衝動がこみ上げる。横を向いて咳き込む克人の口からは鮮血が飛び散った。順はそれを避けるでもなくのんびりと構えている。

 

「オレが目をそんなに簡単に手放すはず、ないっしょ?」

 

 克人は咳の衝動が治まった後、安堵の息を吐いた。よしよし、と笑って順が頭を撫でる。ぐらつく視界を瞼で遮り、克人は安心して意識を手放した。




色んな話の続きみたいな感じなので、冒頭でも説明がほぼありません。
内容がさっぱり判らない方はホントすみません……。
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