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教えられたままに食堂に向かった克人は思わず息を飲んだ。教室というところも凄い人だと思ったが、ここはもっと人数がいる。克人は雰囲気に飲まれつつも人の波に紛れて食堂に入った。小さな克人を見止めた生徒たちがぎょっとしたような顔をする。だが克人はそれを無視して食堂の奥に進んだ。
この時間ならきっと食堂だよ。そう教えてくれたのは二年の女子生徒だった。ええと、と呟きながら克人は周囲を見回した。恐らく予想通りの存在なら、生徒たちは遠巻きにしているだろう。克人のそんな予想通り、食堂の奥にテーブルに一人きりでついている女子生徒が居た。遠目にもはっきりと判るほど、とんでもない美少女だ。
……あれ? その女子生徒を見止めた克人はふと足を止めた。一人で黙々と食事をしているその女子生徒の顔がどことなくかつて知り合った青年に似ている気がしたのだ。
「あの、すみません。吉良瀬多輝さん、ですか?」
遠巻きにしている生徒たちを余所に克人はそのテーブルに近付いた。すると食事の手を止めてその女子生徒が顔を上げる。
「そうだけど? なに?」
明らかに不機嫌な顔で多輝が告げる。だが次の瞬間、多輝は目いっぱいに顔をしかめて克人を頭からつま先まで眺め回した。何となく居心地の悪いものを感じて克人は思わず少しだけ多輝から離れた。すると多輝が無造作に手を伸ばし、克人の腕をつかむ。何をされるのかと思ったら、多輝は箸を口に咥えたまま、隣の椅子を引いて片手にぶら下げた克人をその上に下ろした。
「あ、あの?」
教室内のものより柔らかな素材で出来た椅子の上に正座し、克人は目を丸くして多輝を見た。憮然とした顔でアルミのやかんから茶碗に茶を注ぎ、多輝がもごもごと口の中で言う。
「目の前に立たれるとうぜえんだよ」
お前みたいな細かいのでもな。小声で言ってから多輝が食事を続ける。克人は訝りに眉を寄せて何となく周囲を見た。そこで多輝の言った意味を正確に理解する。背の低いことも手伝って、この場所なら克人は多輝の影に隠れて周囲の生徒に見えないのだ。
柄の悪い喋り方とは裏腹に多輝の食事する手つきはとても洗練されている。がさつに見えるのに食事の際に下手な音をまるで立てていないのだ。へえ、と感心しながら克人は多輝を見上げた。
「綺麗に食べる人なんですね」
「小さい頃に叩き込まれたからな。それよか、何の用だ」
また小声でぼそぼそと答えて多輝が横目に克人を見る。あ、と口を押さえて克人は頭を下げた。
「蘇芳克人と言います。今日からこの学校に通うことになりました。転入の際にはあなた方にご挨拶に伺うように主に申し付かっておりますので」
だが斎姫は生徒会長だったため、そして奈月は同じクラスだったために命令遵守の手間はかなり省けた。ふーん、と気のない返事をして多輝が茶を啜る。克人は何となく多輝の前に置かれたトレイを見て絶句した。それぞれの皿には半分以上は料理が残っていた筈なのに、いつの間にか食器が全て空になっている。
「んじゃ、次はこっちの番だな」
そう言って多輝がテーブルの隅に伏せて詰まれていた湯のみを一個取り、やかんから茶を注ぐ。出されたそれをありがたく受け取り、克人はポケットからピルケースを出した。
「お前、何者だ?」
「ボクはハンターですよ」
遠巻きにされているため、会話は他の生徒には聞こえない。だがそれでも克人は一応は気をつけて声を潜めて答えた。ケースからつまみあげたカプセルを二個、口に放り込んで飲み下す。喉を異物感が落ちたことを確かめてから、改めて克人は茶を啜った。
「ハンター……って、龍宝珠を食うとかいう、あれか」
「もしかして詳しくないんですか?」
こうして見ていてもはっきりと判る。多輝は生粋の龍神だ。だが多輝はきっぱりと頷いて知らない、と告げた。克人は困ったように笑ってそうですか、と答えた。確かにこの辺りに暮らしているハンターはほぼ皆無だ。だがかつて繰り返された龍神とハンターの抗争を知らないというのも珍しい気がする。
ひょっとしたらもう、ハンターは必要ないのかも知れないな。克人は心の底でそう呟きながら椅子を降りた。おい、と声を上げる多輝に深々と一礼する。
「ご馳走様でした。それでは」
「おい、待てって!」
慌てて言って多輝が立ち上がる。その場を離れようとしていた克人は不思議に思いながら足を止めた。
「何ですか?」
「あー……えっと」
そう言ってから多輝が慌ただしく周囲を見回す。ちょっと待ってろ、と小声で言ってから多輝はテーブルに乗っていたトレイの上に湯のみも乗せ、それを手に食器返却口に向かっていった。しばしの後、多輝が早足で克人のところに戻る。どうするのだろう、と思っていると多輝はいきなり克人の手をつかみ、歩き出した。
「あの、ちょっと、どこに行くんですか?」
殆ど引きずられるようにして歩きながら克人は多輝に訊ねた。が、多輝は無言を通して歩き続ける。克人は何度か多輝に話し掛けてから仕方なく諦めた。多輝は校舎の階段を黙って昇り続けている。克人は駆け足気味にそんな多輝について歩いた。
校舎の最上階にたどり着いたところで多輝が金属製の扉を開けようとする。が、どうやら鍵がかけられているらしい。屋上に続くドアのノブが空しい音を立てる。多輝がドアノブを何度か捻るのを傍で見ていた克人はため息を吐いた。
「跳んでも問題ないんじゃないですか? ここなら」
誰も見ている者はない。その意味をこめて克人が告げると多輝が嫌そうに眉間にしわを寄せる。
克人もそこそこは強いはずなのですが、この時点では多輝の方が上です。