※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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呉羽の裏事情のコーナー。
あ、エロシーンはありません。


順の気まぐれと病院にGo! 5

「でも今は電話もしてないっしょ?」

「『呉羽さんには婚約相手がいる』なんて噂、一度でも流されてみなさいよ! ここってのは閉鎖社会なんだからねっ。しかも相手が木村当主なんて言われてみなさい! びびって誰も手なんて出しゃしないわよっ」

 

 半ばヒステリックに叫んで呉羽が髪をかき乱す。呉羽は年齢の割にとても若く見える。容姿もそれなりに整っているし、その気になれば男の一人や二人は簡単に作れそうだ。だが呉羽はその容姿を活かすことも出来ないままでいるらしい。ふうん、と笑って順は腕組みをして呉羽を眺めた。

 

「ほーん。じゃ、処女膜再生されてるかもねえ」

 

 にやにやと笑いながら言った順を呉羽がもの凄い顔で睨む。怒りに満ちた表情を見止めて順は怖い怖いと肩を竦めた。

 

「でもさあ。呉羽ちゃんってショタコンっしょ? んな、わざわざ結婚しなくても、患者に手を出すとか……って、ちょい待った! メスは止めろ!」

 

 慌てて制止した順の声を無視して呉羽が素早く手を振る。呉羽の指の間に握られたメスが次々に順を目掛けて飛ぶ。

 

「もう、乱暴なんだから」

 

 仕方なさそうに呟いて順は飛んできたメスを全て指で挟み取った。肩を怒らせて立ち上がった呉羽が第二撃とばかりに鋭いメスを構える。もう、と困ったように笑ってから順は素早く床を蹴った。駆け寄って大きな執務机に飛び乗る。一瞬で間近に迫ったことに驚いたのか、呉羽の手からメスが落ちる。

 

「なっ、なっ、なっ」

 

 後じさりしながら呉羽が引っくり返った声で言う。まあまあ、と笑って順は机から飛び降りた。乗った拍子に乱してしまった机の上を手早く整えてから呉羽に向き直る。数本のメスをまとめてから順は呉羽にそれを差し出した。

 

「商売道具、投げちゃダメっしょ」

 

 軽くたしなめて順は出そうとしない呉羽の手を強引に取った。手の中にメスを押し付ける。するとそこでようやく呉羽が反応した。

 

「……どうも」

 

 仏頂面で言って呉羽が机の引出しにメスを束にして放り込む。ついでに落ちていた分も拾って呉羽は乱暴に引き出しにしまいこんだ。完全に膨れてしまった呉羽をのんびりと眺めながら順は胸ポケットを探った。

 

「まあねー。呉羽ちゃん一番のお気に入りの優一郎くんはもう高校生だもんねえ。射程外だよねえ、そうなると」

 

 へらへらと笑いながら煙草を咥えた順の顔の傍を何かが勢い良く過ぎる。ライターで煙草に火を点けようとしていた順は引きつって手を止めた。咥えていた煙草がものの見事に分断されている。呉羽が放ったメスが切り離した煙草が床に音もなく落ちる。

 

「あぶなっ! 顔にあたったらどーすんの!」

「心配しなくてもあんたみたいな男は少々じゃ死にゃしないわよ」

 

 ふん、と鼻で笑って呉羽が胸を張る。やれやれとため息を吐きながら順はフィルターから数ミリのところで分断された煙草をつまんだ。呉羽の机にあった灰皿にそれを落とし、新しいものを咥える。

 

「なに。図星指されたから怒ってんの?」

 

 呆れた気分で順はそう訊ねた。すると呉羽が嫌そうに顔をしかめて手にしていたメスを引き出しに放り込む。一体、何本持ってるんだか。そう順が苦笑しながら言うと呉羽が煩い、と呟くように返す。

 

「特別、少年を愛でる趣味はないつもりなんだけどね、私は」

「ああ、ショタコン? さっきのはかまかけただけよん。ヤだなあ、呉羽ちゃん。本気にしちゃった?」

 

 笑いながら告げた順を今度は呉羽の方が呆れたように見る。やがて呉羽は諦めたようなため息を吐いて椅子に力なく座った。机に寄りかかって煙草をふかしながら順はそんな呉羽を横目に見た。

 

 周囲の者は恐らく不思議なのではないだろうか。呉羽は年の割にかなり若く見える。その様は若作りなどと言い表せるレベルを超えているのだ。

 

「あんたときたら、忘れた頃にふらっと来てはどうでもいいことばっかり喋くって」

 

 疲れた息を吐いて呉羽が呟く。肘杖をついて俯いてしまった呉羽に順はあはは、と笑ってみせた。

 

「折角いいことを報せてあげよと思ったのに。なに、その態度は」

「え?」

 

 慌てたように呉羽が顔を上げる。ひらひらと手を振りながら順は机から少し離れた。咥えていた煙草を灰皿にねじ込む。

 

「でもなー。呉羽ちゃんがそういう態度じゃあなあ……つまんないからやーめた」

「ちょっ、ちょっと待ちなさい! 言いかけてやめるなんて卑怯よ!」

 

 ドアに向かって歩き出した順を呉羽が慌ただしく追う。腕をつかまれて引き止められた順は人の悪い笑みを浮かべて振り返った。それまでしっかりと順の腕をつかんでいた呉羽が慌てたように手を離す。そんな呉羽の反応を面白く思いながら順は言った。

 

「呉羽ちゃん、近頃ちょっとフラストレーション溜まってるっしょ」

 

 順はするりと呉羽に近付き、耳元に唇を寄せた。

 

「解剖できるオンナノコの数、減ってるもんねえ」

 

 順がそう告げた瞬間、呉羽の顔が凍りついた。呉羽の甥である優一郎はヒューマノイドを日々、研究している。そして優一郎はヒューマノイドの作成のために呉羽のところに若い女性を運び込んでいるのだ。呉羽が彼女達の頭蓋を開いてヒューマノイドの作成のために必要な部分を取り出し、そしてそれは極秘に優一郎の元に送られる。その後、残った女性の身体を呉羽は解剖しているのだ。

 

 呉羽の若さの秘密はそこにある。呉羽は解剖した人間の臓器等を用いて若さを維持する秘薬を作り出してしまっていたのだ。だがそれは決して誰かに分け与えられるほど多くはない。材料そのものが一体の人間から極々少量しか取れないからだ。




呉羽もボランティアで優一郎に関わってる訳ではないのです。
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