でもエピタイ通りの内容です。
エロシーンはありません。
説明からスタートです
梅雨に入ったという発表がされた日からずっと雨は続いている。風がさほどないために傘をさしていても頭から濡れることはないが、やはりどうしても空気は湿り気を帯びて肌にべったりと張り付く感じはある。気温もそれほど高くないのに汗がにじみ出てしまうのは、湿気のためだろう。自然を浮いた汗を袖で行儀悪く拭ってから順は目を上げた。
木村財閥の抱える研究施設の一つ、生体実験場も備えた建物のエントランスホールは嫌に静まり返っている。受け付けのためのカウンターには職員の姿はない。今日は休日なのだ。
濡れた傘を傘立てに放り込んで順は受付の奥に進んだ。白を基調に作られたホールは大きな硝子窓で覆われている。ホールの隅には歓談するためのテーブルセットも設えてあり、全体的に落ち着いた雰囲気をしている。が、ここに客が訪れることは滅多にない。来るのは大抵、関係者ばかりだ。
財閥の経営は事実上、順とは別の人物が握っている。今現在、順は表向きに当主として立ってはいるが、企業等を動かしているのはその別の誰かなのだ。その人物の名前は戸籍上は木村透という。順の長男として戸籍には登録されているが、厳密に言えば透は順が女性との間に直接的に為した子供ではない。遺伝的には間違いなく順の血を継いでいるのだが、透は人工的に二者の血を掛け合わせて作られた者なのだ。だが透自身はそのことを知ってはいるが、気にした様子は一切ない。そして順もまた生まれた訳については特に疑問も覚えてはいない。……そう。透は順の知らないところで勝手にその血を別の誰かに掛け合わされて作られた存在なのだ。
血を掛け合わせる。人のそれと彼らのそれでは意味が大きく異なる。龍神という種に分類される透を形作った核と呼ぶべきものは、血という物質そのもので出来ている訳ではない。複数の力を強引に混ぜ合わせて作られたものなのだ。そして透を形作る元となった力は二種。一方はかつて龍神たちの長を務めていた火龍神火藍の力。そしてもう一方が順の力なのだ。
ある意味でこの二者は同一の存在意義を持っていた。それ故に本来の属性が異なっていても混ぜることが可能だったのだろう。龍神の長い歴史の中で初めて、透を始めとする四種の龍神は人工的に作り出されることになったのだ。
革命とも言うべきそれを起こしたのは今はなき、吉良瀬財閥当主、吉良瀬立城だ。潰えた筈の火藍の力を隠し持っていた時点で油断ならない存在だったのだが、この四人の龍神を作り出したことにより、立城はある意味で世界を震撼させたのだ。そしてそれこそが立城の持つ使命……即ち、世界を揺るがせることそのものが立城の存在意義だった。
結果的に立城という存在はこの世から消えた。立城だったものは今は別の名を持って存在する。記憶という名のデータを持つそれは今は紫と呼ばれている。だが例え器は同一でも、座が異なるために紫は立城の座っていた地上の王、木龍神を受け継ぐことは出来なかった。
新たに生み出された四種の龍神の一人、透は氷を司る。氷龍神は全てのものを凍てつかせ、物事の進行を止める、または遅らせる役割を持つ。座から言えば数多の水龍神と同格とされる。が、今現在、氷龍神として存在するのは透ただ一人だ。火龍の力を受け継ぐ筈の透が、相反する力を有したことはもしかしたら世界の皮肉だったのかも知れない。
研究員が一般的に利用する二基のエレベーターの横にある、少し小さ目のエレベーターのボタンを押す。間もなく開いたエレベーターの扉を順は静かに通り抜けた。専用のこのエレベーターは個体識別をクリアして初めて利用できる。順がこの施設に来た時から既に見えない角度から識別は行われていたのだ。
「まあ、この程度の警戒の仕方なんて、役に立たないんだけどねえ」
エレベーターの壁に寄りかかりながら順はぼやくように呟いた。実際、エレベーターの中にも防犯用のカメラは二基設置されている。だが龍神がひとたび本気になれば、この程度の設備など易々と破壊することが出来る。いや、それでなくとも龍神は設備などを完全に無視して空間を自在に渡ることが可能なのだ。この程度の防犯設備は気休めにもならない。だがそれでも対象が人間であればそれなりに効果は発揮する。先日もこの防犯設備に引っかかった間抜けな泥棒が一人、捕まった。大して利用価値のない人間だったために警察に引取りを依頼した。今ごろは檻の中で後悔くらいはしているだろうか。
静かにエレベーターが下りていく。地下四階を示す文字盤が点灯してエレベーターの扉は開いた。五人も乗れば満員になってしまう狭いエレベーターを降り、順は静かな白い廊下をゆっくりと進んだ。時折、天井に埋まったカメラの形をした個体識別用の装置がレンズを光らせる。ごくごく僅かな光は歩いている順の形を正確に捉え、施設内部のメインコンピュータで個体照合しているのだ。当然、網膜パターン等も同時に識別する。わざわざ鍵を持ったり、識別されるまでの時間を待つ必要はない。普通に歩いていれば機械が勝手に個体をチェックして、自動的に鍵を開けてくれるという寸法なのだ。
そろそろ登場人物紹介みたいな物を入れないといけないかも、と思ってます……。
もし出来たら後で入れます。すみません。