三分割くらいが丁度よかったかも?
エロシーンはありません。
「何だか学校って不思議なところですね。みんな勉強していることには変わりないのに、場所とか違ったりして」
思ったことを上手く表現出来ず克人は言葉を濁した。すると順が軽く克人の頭を叩いて笑う。
「これから学校ってところはもっと自由に学べる場になると思うよ。そのために精力的に活動しているグループもあったりするしね」
そう話す順の目は不思議と柔らかい。克人もそうですね、とにっこりと笑った。学校というところがどんなところなのか、正直なところまだ判らない。が、あそこにいた生徒たちの顔は明るかった。きっと近い将来、あの中からこの国を背負って立つ者が出るのだろうか。そう、克人が思えるくらいには生徒たちは活気に満ち溢れていた。
だが彼らの表情が明るければ明るいほど、克人の心には寂しいものがこみあげる。彼らは恐らくあちこちで街が瓦礫と化していることを知らない。例え知っていたとしても、それは意図的に流された上っ面の情報だけだ。彼らがそんな暗い世界もあるのだとこれから知ることになるかも知れない、と考えると少し気鬱になる。
一緒におやつを食べた後、克人は順と共に出かけることになった。アイロンを買わなければならないのだと言ったら順が一緒に行こうと言い出したのだ。一人では不安だったこともあり、克人は順と出かけられることを素直に喜んだ。電車を乗り継いで順に案内された場所はたくさんの店舗の並ぶ賑やかな通りだった。
「こ、ここは」
地下鉄を降りて目の前の光景を見た克人は思わず絶句した。駅の混雑振りも相当なものだったが、ここは一体何なのだろう。賑やかな音楽がかかっているし、人々がたくさん歩いている。言葉をなくした克人に笑みかけて順が歩き出す。克人は慌てて順の後を追った。
「ここはショッピングモールだよ。ほら、色んな店が並んでるっしょ?」
「は、はあ」
目の回りそうな感覚を味わいつつも克人は何とか頷いた。ここでは傘をさす必要はない。克人は畳んだ傘の雫を静かに落として目を上げた。
「まずは手近な店にはいってみよっか」
「あっ! 順様! 待ってくださいよ!」
楽しそうに笑って足早に店に向かう順を慌てて追う。すると順は振り返って克人の手をさりげなく握った。仲のいい親子か兄弟のように手を繋いで人ごみの中を進む。克人は照れくささに赤くなりつつちらりと順を見上げた。順は迷う事なく一軒の店に向かう。そんな順を道行く人々が振り返る。そのことに気付いた克人は戸惑いつつ順に呼びかけた。
「あの、何だか目立ってる気がするんですけど」
「そりゃあねえ。こーんな美形があるってたら目立つってば。キミも自覚した方がいいよん」
へらへらと笑って言うと順は克人の手を引いて店に入った。見慣れないカラフルなものがたくさん並んでいる。置物なのだろうか。猫の形や犬の形をした愛らしい小さなものが幾つも置かれている。その下の値札を見て克人はほっと息を吐いた。小銭で買える程度のものだ。
「ファンシーショップ系はいつの時代もこんな感じだねえ」
どうやら店内でも順は目立っているらしい。店内にいた数名の女性客がしきりと順を見る。だが順自身は一切その視線を気にしていないらしく、楽しそうに店内を見て回っている。ある程度は視線を気にしていた克人も、やがて諦めて順にならって楽しむことに決めた。どのみち順の容姿は変わりはしない。龍神の桁外れの美しさは克人もよく知っている。
「これ、なんですか?」
小さな丸い輪に何かがぶら下がっている。それがゆっくりと回っているのだ。
「あー。それは時計だよ。観覧車だねえ」
「かんらんしゃ、ですか」
言われた意味も判らないまま克人はそう返した。うん、と笑って順が金属で出来た輪が設えられた台を指差す。そこに順の指が触れると台に光る文字が浮き出した。時間を示すその文字を見て克人は感心の声を上げた。
「観覧車、知らない?」
「はい」
克人は素直に頷いた。すると順が小さく笑って肩を竦める。克人は何となく視線を下げて繋いだ手を見つめた。自分の小さな手を順の手が包み込むように握っている。
「じゃ、今度遊園地にでもいこっか。観覧車に乗せてあげるよ」
「え、これ、乗物なんですか!? こんなに小さいのに!?」
出来るだけ抑えた声で克人は訊ねた。すると傍にいた年若い女性の二人組が揃って笑う。どうやら聞かれていたらしい。そのことに気付いて克人は真っ赤になった。
「これはミニチュアだよ。本物はもっと大きくてね。人が乗って楽しむものなんだよ」
解説しながら順がまた歩き出す。克人は戸惑いつつも順に従って歩き出した。
観覧車は久しく乗ってませんねー。