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清陵高校の地下には優一郎の研究施設が存在する。北と南に分かれた大きな校舎と同じように地下のフロアを科学部とロボット研究会が二分しているのだ。優一郎はロボット研究会の部長を務める傍ら、地下施設の拡張を試みてきた。が、地下三階層まで施設を拡張した時点でそれ以上は広げられないことが判明した。この清陵という土地には強大な守護陣が敷かれているのだ。
守護の陣を敷いたのは地の王と呼ばれる木龍神だ。が、今はこの世に地の王は存在しない。なのに陣だけは頑強にこの地を守り続けているのだ。地下に施設を広げられないのなら横に拡張するより他はない。優一郎は一つにする予定だった施設を横に拡張し、ジャンルごとに施設を分けた。そして表向きは女子寮を装い、清陵中学校から大学までの広範囲に分布するヒューマノイドの受け入れ口を設えたのだ。
新しく配合した冷却水をタンクに注入し、要のテスト兼メンテナンスを終了する。いそいそと服を着込む要を横目に優一郎は実験データのまとめに入った。現状、要の戦闘能力は並みの龍神を上回っている。油断さえなければ多輝にも勝るほどだ。だがそれでもかつて八大と呼ばれた強大な龍神に勝つことはまだ難しいだろう。
そして地と天の王と呼ばれる二者に対しては、恐らく赤子同然の力にしかならない。どちらも現在この世界には不在だが、何度試算しても要が勝つ要素は見出せないのだ。
「そういえば優一郎様。進学はどうなさいますの?」
上品なデザインのスカーフを巻きながら要が言う。優一郎は画面から目を逸らし、要を見た。薄手の生地で出来たすっきりとした色合いのスーツを着た要は、実年齢よりずっと落ち着いて見える。
「清陵大学に籍を置く事になると思う。だけど、生徒としてではないけどね。要さんも、来年には院生にスキップしてるだろうし、丁度いいよね」
優一郎は腰を上げて要に寄り、胸元についていたブローチの歪みを直した。ありがとうございます、と要がにっこりと微笑む。だがそんな要の顔がすっと曇る。
「確かに優一郎様は心配には及びませんわよね。問題は……」
頬に手をあてがって要がため息をつく。優一郎は要と向き合ったまま、白衣のポケットに手を入れて同じようにため息をついた。優一郎と斎姫は進学については全く問題はない。一学年に今年から入った奈月と桜に関しても同じだ。問題ないという成績が出ている。
「……頭が悪いわけじゃないんだけどね。どうも、へんに天邪鬼というか……」
「わたくしが在校中に、試験の答えの記入欄を一つずつずらして記入していたことがありましたわ。ずれていなければ全問正解でしたのに」
そう言って要が困ったようにため息をつく。話題に上っている多輝の顔を思い浮かべて優一郎は肩を落とした。学力については問題は全くないのだ。が、多輝は変なところがひねくれているのだ。体育の授業では男性教諭に喧嘩を売るし、それ以外の授業態度についてもすこぶる悪いらしい。
「真っ正直過ぎるところがあるけど。それが多輝だから」
仕方ないよね……。そう呟くように告げた優一郎に要が顔をしかめてみせる。言いたいことは判っている。吉良瀬の姫と言われる多輝が今のまま学校生活を送っていくには問題がありすぎる。が、だからと言ってストレートに注意したところで直すような性格をしてはいないのだ。
ふと、要が優一郎の部屋の入り口を見る。優一郎も気配を悟ってそちらを向いた。噂をすればですわ、と要が小声で言う。その直後、優一郎の部屋のドアが小さく鳴った。ノックに応えると多輝がドアから顔を覗かせる。そこで優一郎は微かに眉を寄せた。いつの間にか多輝は男性体に変質している。
「よう。ちょっといいか?」
そう言って多輝は部屋の奥にいた優一郎と要を交互に見た。恐らく要が居ることには先に気付いていたのだろう。気を遣っているらしい。優一郎は多輝に笑みかけて頷いた。
「構わないよ。多輝」
すると多輝が少しだけ開けていたドアを引く。現れた多輝は今から出かけるのか、ジーンズの上下を身に着けている。手にしたヘルメットを見止めて優一郎は納得した。どうやらバイクで出るつもりらしい。
「伝言、頼まれてたの忘れてたんだ」
そう言って多輝はちらりと要を見た。だがすぐに興味をなくしたのだろう。優一郎に向き直る。
「一年の例の蘇芳って奴がお前によろしくだとさ」
その名を聞いて優一郎は軽く眉を寄せた。蘇芳克人。克人は木村系列の会社役員である蘇芳の養子に引き取られた生徒らしい。年齢は十五歳。だがその容姿はまるで子供のようだときく。優一郎は浮かんでいた表情をすぐに消し、にっこりと笑みを浮かべて返事した。
「わかった。ありがとう、多輝」
何でも、その生徒は直に優一郎に挨拶に行きたかったのだが無理だから、と多輝に伝言を頼んだという。ぶっきらぼうな多輝の説明に優一郎はなるほどと頷いた。斎姫は直に克人と会ったという。その説明を聞いてから優一郎は頷いた。
「多輝。それじゃ気をつけて」
「ああ。じゃあな」
片手を上げて多輝が踵を返す。隣でもの言いたそうな顔をする要を優一郎は目だけで制した。今の状態の多輝になにを言っても意味はない。それどころか下手に注意すれば更にへそを曲げかねない。多輝は男性と女性をまとうが、性癖については当り前に差があるのに、その意識に差異はないのだ。つまり、男性の時も女性の時も多輝は多輝でしかないということだ。
要のついでのように多輝がちょっと出てきました。
ほんの顔出しです。